パワーとテクニックのせめぎ合い初代「キング・オブ・ビルマウンテン」は‟非”ヒルクライマー 白熱の「ダイバーシティ東京・ビルクライム」

by 後藤恭子 / Kyoko GOTO
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 「ダイバーシティ東京プラザ」(東京・港区)の立体駐車場を舞台とする東京臨海副都心スポーツフェスティバル「ダイバーシティ東京・ビルクライム」が10月21日に開催された。通常のヒルクライムとは異なり、スピードとパワーが必要となる同レースで注目された順位争い。エリートの部を制し、「キング・オブ・ビルマウンテン」(KOB)の座に輝いたのはマウンテンバイク(MTB)の高校生ダウンヒラー、宇津孝太郎さん(18)。一般の部では「パワー系レースが得意」というスプリンターの佐藤智也さん(30)がKOBを獲得する結果となった。

東京の台場で開催された「ダイバーシティ東京・ビルクライム」 Photo: Yazuka Wada ©ダイバーシティ東京・ビルクライム東京の台場で開催された「ダイバーシティ東京・ビルクライム」 Photo: Yazuka Wada ©ダイバーシティ東京・ビルクライム

北海道から駆けつけた参加者も

舞台となった「ダイバーシティ東京プラザ駐車場特設コース」外観 ©ダイバーシティ東京・ビルクライム舞台となった「ダイバーシティ東京プラザ駐車場特設コース」外観 ©ダイバーシティ東京・ビルクライム

 都心にいながらにして上りのスピードを競うレースが体験できる「ヒルクライム」ならぬ「“ビル”クライム」。立体駐車場に作られた特設コース(坂)を走るレースイベントで、1階スタートゲートから地上7階ゴールまで、高低差約35m・走行距離約400m、平均斜度8%の坂を舞台に各カテゴリーごとにタイムを競い合う。

 出場カテゴリーは「キッズA(小学生・低学年)」「キッズB(小学生・高学年)」「一般(E-BIKE=電動アシスト自転車)」と、「一般(ロード)」「エリート(ロード)」の全5カテゴリーで、後2カテゴリーは、2本の登坂タイムの合計で順位を決定。ただし、2本目(決勝)に出走できるのは1本目(予選)上位15人までとなる。

舞台となった「ダイバーシティ東京」の立体駐車場Photo: Yazuka Wada ©ダイバーシティ東京・ビルクライム舞台となった「ダイバーシティ東京」の立体駐車場Photo: Yazuka Wada ©ダイバーシティ東京・ビルクライム
平均斜度8%の坂が立ちはだかる Photo: Yazuka Wada ©ダイバーシティ東京・ビルクライム平均斜度8%の坂が立ちはだかる Photo: Yazuka Wada ©ダイバーシティ東京・ビルクライム

 平日夜という日程にも関わらず、会場には総勢207人の参加者が集まった。参加者は最年少8歳~62歳までの男女。東京近郊からの参加者が大半を占めるなか、北海道をはじめ大阪や京都からの参加者もおり、注目の高さが伺えた。

スタート地点へと向かう参加者たち Photo: Kyoko GOTOスタート地点へと向かう参加者たち Photo: Kyoko GOTO

 集まったサイクリストたちはレベルもジャンルもさまざま。「とにかく坂が好き」という生粋のヒルクライマーはもちろん、短距離を得意とするスプリンター、軽い身のこなしを得意とするMTBライダー、そして「電動アシストバイクで坂を走ってみたかった」というサイクリストが集結。ただ、共通していたのは立体駐車場を走れることへの好奇心。いつもは車の往来しかない駐車場が、非日常空間を楽しむサイクリストたちの熱気で華やかなイベント会場と化していた。

「坂が好き」という蓮見優太さん。最近やっとクロスから念願のロードに買い替えた。速いのにフラットペダルというスタイルが物議を呼んでいた Photo: Kyoko GOTO「坂が好き」という蓮見優太さん。最近やっとクロスから念願のロードに買い替えた。速いのにフラットペダルというスタイルが物議を呼んでいた Photo: Kyoko GOTO
この日のために茨城からやってきたという佐山広晃さん(左)。「ツイッターで情報が飛んできて、面白そうだからエントリーしました」とフットワークも軽い Photo: Kyoko GOTOこの日のために茨城からやってきたという佐山広晃さん(左)。「ツイッターで情報が飛んできて、面白そうだからエントリーしました」とフットワークも軽い Photo: Kyoko GOTO

 会場に設けられたライブ中継用のパブリックビューイングには、ポイントに設けられたカメラやドローンによる空撮映像を見ることができ、集まった観戦者もビールや軽食を片手に、参加者たちの息遣いを手に汗を握りながら見守っていた。

会場のパブリックビューもレースを盛り上げる Photo: Kyoko GOTO会場のパブリックビューもレースを盛り上げる Photo: Kyoko GOTO
昇降用に分かれているルートがレース用と観戦用のコースに Photo: Yazuka Wada ©ダイバーシティ東京・ビルクライム昇降用に分かれているルートがレース用と観戦用のコースに Photo: Yazuka Wada ©ダイバーシティ東京・ビルクライム

宮澤崇史さん「ポイントは5階以降の走り」

 コースプロファイルは1階スタートゲートから2階地点で折り返し、地上5階まで駐車場外にある長い坂を一気に駆け上がる。その後、駐車場内に入り細かいアップを繰り返して7階ゴールまで上り詰める。間隔を空けて2人ずつ出走し、決勝時には1人ずつスタートを切った。

台場の夜景を背に坂を駆け上がるサイクリスト Photo: Yazuka Wada ©ダイバーシティ東京・ビルクライム台場の夜景を背に坂を駆け上がるサイクリスト Photo: Yazuka Wada ©ダイバーシティ東京・ビルクライム
コーナリングのテクニックが勝敗の分け目 Photo: Yazuka Wada ©ダイバーシティ東京・ビルクライムコーナリングのテクニックが勝敗の分け目 Photo: Yazuka Wada ©ダイバーシティ東京・ビルクライム

 ゲストライダーの元プロライダー・宮澤崇史さんによると、ポイントは走りのリズムが変わる5階以降。上るパワーだけでなく、こまかいカーブをこなし、きつい斜度をスピードを極力落とさずに上るテクニックと瞬発力が求められる。そこがヒルクライマーだけでなく、スプリンターも強味を発揮できるポイントとなるという。

大人顔負けの走りを見せたキッズたち Photo: Yazuka Wada ©ダイバーシティ東京・ビルクライム大人顔負けの走りを見せたキッズたち Photo: Yazuka Wada ©ダイバーシティ東京・ビルクライム
電動アシストがついたE-バイクのカテゴリーも Photo: Kyoko GOTO電動アシストがついたE-バイクのカテゴリーも Photo: Kyoko GOTO
参加者のレベルの高さに思わずローラーで準備を始めるゲストライダーの石橋学・小林海両選手(いずれもNIPPO・ヴィーニファンティーニ) Photo: Kyoko GOTO参加者のレベルの高さに思わずローラーで準備を始めるゲストライダーの石橋学・小林海両選手(いずれもNIPPO・ヴィーニファンティーニ) Photo: Kyoko GOTO

 レースがヒートアップするなか、ロード一般の部で51秒台というタイムをたたき出す強者も現れ始め、ゲストライダーたちの表情にも徐々に真剣な色が表れ始めた。NIPPO・ヴィーニファンティーニの石橋学選手と小林海選手もローラーを使ってウォームアップを開始。石橋選手は、「皆さんすごいですね。こうなったら僕も50秒切りを目指します」と参加者の走りに触発された様子だった。一方、小林選手は戦略について「曲がりくねったコースで踏めないので、とにかく最初から全力で行く」と語り、意気込みを見せた。

トップ勢は51秒 ハイレベルな争い

 一般、エリートともに予選の走りを終えた段階で予選突破の関門は53秒台に絞られ、決勝は51秒台で競い合う熾烈な戦いとなった。

最後の上りを懸命に踏む Photo: Kyoko GOTO最後の上りを懸命に踏む Photo: Kyoko GOTO
声をあげながら力を振り絞ってゴール Photo: Kyoko GOTO声をあげながら力を振り絞ってゴール Photo: Kyoko GOTO
脚は乳酸でパンパンに Photo: Kyoko GOTO脚は乳酸でパンパンに Photo: Kyoko GOTO
コスプレを楽しむ参加者も。でもタイムは51秒台! Photo: Kyoko GOTOコスプレを楽しむ参加者も。でもタイムは51秒台! Photo: Kyoko GOTO
NIPPO・ヴィーニファンティーニのチームバイクに乗る姿を初披露した小林海選手 Photo: Kyoko GOTONIPPO・ヴィーニファンティーニのチームバイクに乗る姿を初披露した小林海選手 Photo: Kyoko GOTO

 そんななか、1本目から49秒という唯一40秒台タイムをたたき出していたのが宮澤さん。リオ五輪トラック競技日本代表の塚越さくら選手(シエル ブルー 鹿屋)もゲストライダーとして参加し、女性ながら55秒というさすがの好タイムを出した。一方、石橋・小林両選手は53秒台。MCを務める白戸太朗さんに「一般のトップに負けてますが」とつっこまれた石橋選手は「バイクにモーター入ってませんか?」とジョークを放ち、会場を沸かせていた。

走り終えてタイムに思わず苦笑いする石橋学選手 Photo: Kyoko GOTO走り終えてタイムに思わず苦笑いする石橋学選手 Photo: Kyoko GOTO
「思っていたよりも良いタイムが出せた」と塚越さくら選手。カメラに向かってこの表情 Photo: Kyoko GOTO「思っていたよりも良いタイムが出せた」と塚越さくら選手。カメラに向かってこの表情 Photo: Kyoko GOTO
ゲストライダーとして臨んだ宮澤崇史さん。さすがの走りで最速タイムをたたき出す Photo: Yazuka Wada ©ダイバーシティ東京・ビルクライムゲストライダーとして臨んだ宮澤崇史さん。さすがの走りで最速タイムをたたき出す Photo: Yazuka Wada ©ダイバーシティ東京・ビルクライム

友人から借りたバイクで見事優勝

 エリートの部を制したのは、高校生の宇津孝太郎さん。合計タイムは1分43秒47という結果だった。意外なことにヒルクライムはおろか、ロードバイクにもあまり乗ったことがないというMTBライダー。この日のロードバイクも友人からの借り物で、ペダルも普段使い慣れている自分のMTB用のビンディングペダルをつけていた。

エリート ロード表彰式。上位2人がMTBライダーという結果に Photo: Kyoko GOTOエリート ロード表彰式。上位2人がMTBライダーという結果に Photo: Kyoko GOTO

 勝因について宇津さんは、「MTBライダー特有の瞬発力、加速力でしょうか。コーナリングは普段から慣れているのでスピードを落とさずに曲がれたことが勝因かな。でも、400mだったからぎりぎりいけた。持久力が求められたら無理だったと思います」と答えた。高校卒業後は、MTBのダウンヒラーとしてプロを目指すという宇津さん。「楽しかった。また開催されたら出場したい」と語った。

エリート ロードで優勝した宇津孝太郎さん。MTBのプロライダーを目指す高校生で、実はロードバイクはほぼ初めて Photo: Kyoko GOTOエリート ロードで優勝した宇津孝太郎さん。MTBのプロライダーを目指す高校生で、実はロードバイクはほぼ初めて Photo: Kyoko GOTO
友人に借りたロードバイクでペダルは使い慣れたMTBのビンディングペダル Photo: Kyoko GOTO友人に借りたロードバイクでペダルは使い慣れたMTBのビンディングペダル Photo: Kyoko GOTO

 最速タイムを記録したのは一般の部に出場した佐藤智也さん。いずれも51秒台で、合計1分43秒40というエリートをわずかに上回る結果を出した。普段はクリテリウムなどパワー系のレースを得意とするが、「今回のレースもスプリンター向きだと思ったから出場した」という。

ロード 一般(男性、女性)の表彰式 Photo: Kyoko GOTOロード 一般(男性、女性)の表彰式 Photo: Kyoko GOTO
一般ロードで優勝した佐藤智也さん。普段はクリテリウムに出場するスプリンター Photo: Kyoko GOTO一般ロードで優勝した佐藤智也さん。普段はクリテリウムに出場するスプリンター Photo: Kyoko GOTO

 ウインドブレーカーを着用し、サドルバッグを付けたままで走るというスタイルでMC陣が歯ぎしりするほどの強さを見せつけた佐藤さん。でもその下には先週転倒してやぶけたというウェアがのぞき、「普段からコーナリングの練習もしていてケガも多いんですけど、こういう場面で強味が発揮できてうれしい」と笑顔を見せた。

白戸太朗さん「自転車はもっと盛り上がる可能性を秘めている」

キッズA(小学生低学年)の部に出場した佐竹清亮くん(左)と村木奏太くん Photo: Kyoko GOTOキッズA(小学生低学年)の部に出場した佐竹清亮くん(左)と村木奏太くん Photo: Kyoko GOTO

 キッズBの部に出場し、1分16秒9という大人顔負けのタイムで優勝した村林丈くん(12)は、「信じられないくらいうれしい」と喜びを爆発させた。3年前から自転車に乗り始めたという村林くんは「坂は達成感があるから大好き」といい、「このコースもきつかったけど楽しかった。また出たいです」と意欲を示していた。

 準優勝の室伏碧透(あおと)くんは漫画『弱虫ペダル』のキャラクター金城真護に憧れて半年前に自転車を始め、今回が初出場のレース。本人の走りの採点は「70点」となかなか厳しかったが、「楽しかった」と嬉しそうに語っていた。

キッズBで優勝した村林丈くん(12)とお父さん。「信じられないくらいうれしい!」と満面の笑顔 Photo: Kyoko GOTOキッズBで優勝した村林丈くん(12)とお父さん。「信じられないくらいうれしい!」と満面の笑顔 Photo: Kyoko GOTO
漫画『弱虫ペダル』の金城真護に憧れてロードバイクを始めたという室伏碧透くん(9) Photo: Kyoko GOTO漫画『弱虫ペダル』の金城真護に憧れてロードバイクを始めたという室伏碧透くん(9) Photo: Kyoko GOTO
E-バイクのカテゴリーの入賞者の皆さん Photo: Kyoko GOTOE-バイクのカテゴリーの入賞者の皆さん Photo: Kyoko GOTO
フジテレビ『めざましテレビ』キャスターの岡副麻希さんもE-バイクで出走。「坂を間近で見たときは少し怖かったけれど終わってみるとすがすがしい。これははやりそう!」とコメント Photo: Kyoko GOTOフジテレビ『めざましテレビ』キャスターの岡副麻希さんもE-バイクで出走。「坂を間近で見たときは少し怖かったけれど終わってみるとすがすがしい。これははやりそう!」とコメント Photo: Kyoko GOTO

 2本目のタイムが伸び悩んだ石橋選手は、「いやー、疲れました。でももっと長い距離だったら良い記録が出せたかも」と苦笑いを浮かべながら、「タイムはいまいちだったけど、すべてが初めての体験で楽しかった」と感想を語った。

レースを終えたゲストライダーの皆さん。「立体駐車場を見る目が変わりそう」と語った小林海選手 Photo: Kyoko GOTOレースを終えたゲストライダーの皆さん。「立体駐車場を見る目が変わりそう」と語った小林海選手 Photo: Kyoko GOTO

 一方、1本目からタイムを1秒縮めた小林選手は「ほっとした。これから車で立体駐車場を走るときもコーナリングを意識しそう」とコメントし、会場の笑いを誘った。塚越選手は、「最初は思ったより良いタイムでいけるかなと思ったけど、2本目はなかなか脚がリカバーできなかった」と悔しさをにじませるも、「パワーとクライミングがせめぎ合うちょうどよい距離とコース。とてもおもしろいレースでした」と感想を語った。

 2本目も49秒をたたき出し、ゲストライダーながら初代最高記録保持者となった宮澤さんは、「色々な層、ジャンルの人の走りが見れてとても楽しかった。この記録が塗り替えられないよう、また次回も参加したい」と早くも次の挑戦に受けて立つ構えを見せた。

「記録を抜かれないように次回また参加したい」と語るゲストライダーの宮澤崇史さん Photo: Kyoko GOTO「記録を抜かれないように次回また参加したい」と語るゲストライダーの宮澤崇史さん Photo: Kyoko GOTO
MCを務めた白戸太朗さん。「エンターテイメントとしての自転車の新たな側面を見ることができた」 Photo: Kyoko GOTOMCを務めた白戸太朗さん。「エンターテイメントとしての自転車の新たな側面を見ることができた」 Photo: Kyoko GOTO

 イベント後、白戸太朗さんは「立体駐車場を使った都市型イベントで、初の試みだったが自転車のエンターテイメントとしての新たな魅力を引き出せたと思う。今回は初開催で手探りな部分もあったが、こういったイベントが今後さらに広がっていってほしい。自転車はもっと盛り上がる可能性を秘めている」と語った。

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