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福光俊介の「週刊サイクルワールド」<180>ロード世界選手権男子エリートロードレースを検証 勝敗を分けたポイントとは

by 福光俊介 / Syunsuke FUKUMITSU
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 カタールの首都・ドーハで開催された、今年のUCI(国際自転車競技連合)世界選手権。大会の最後を飾った、10月16日の男子エリートロードレースは、この地特有の自然環境も大きな要素となり、見ごたえのある戦いとなった。今回、筆者は全日程を現地取材。そこで、このレースで勝敗を分けた要素を検証。現地で見たこと、関係者やジャーナリストとの情報交換の中から見えてきた点をお伝えしたい。

横風や追い風を利用した分断を得意とするベルギー勢やイギリス勢が集団を率いた。先頭左はベルギーのジャスパー・ストゥイヴェン、先頭右はイギリスのアダム・ブライス Photo: Yuzuru SUNADA横風や追い風を利用した分断を得意とするベルギー勢やイギリス勢が集団を率いた。先頭左はベルギーのジャスパー・ストゥイヴェン、先頭右はイギリスのアダム・ブライス Photo: Yuzuru SUNADA

“カタールマイスター”たちの競演に

 ペテル・サガン(スロバキア、ティンコフ)の世界選手権2連覇で幕を閉じた、男子エリートロードレース。最後こそ力勝負となり、今をときめくサガンに軍配が上がったが、そこに至るまでの過程にいくつかのポイントが挙げられる。

ペテル・サガンが2連覇したUCIロード世界選手権・男子エリートロードレース。カタールのレースならではの要素が詰まった戦いだった Photo: Yuzuru SUNADAペテル・サガンが2連覇したUCIロード世界選手権・男子エリートロードレース。カタールのレースならではの要素が詰まった戦いだった Photo: Yuzuru SUNADA

 まずは何といっても、カタールの風。これは例年2月のツアー・オブ・カタールでもおなじみのように、横風や追い風を利用した動きによって集団がいくつにも分断され、後方に取り残されてしまうと集団への復帰すら難しい状況となってしまう。

 風の抵抗を最小限にとどめるべくエシュロンを組んで先頭交代を繰り返すわけだが、道路幅が関係してくるため、隊列に入れないとその後が厳しい。世界選手権では、こうした展開に長けるベルギー勢やイギリス勢がスタートから70kmを過ぎたあたりでレースを動かした。

3位に終わり表彰台で悔しそうな表情のトム・ボーネン。カタールでの戦いを最も熟知していた選手でもある Photo: Yuzuru SUNADA3位に終わり表彰台で悔しそうな表情のトム・ボーネン。カタールでの戦いを最も熟知していた選手でもある Photo: Yuzuru SUNADA

 走力と合わせて、独特のレースで生き残るためのテクニックを持っていた選手が、先頭集団で最後の周回コースへと入ることができている。今回のメダリストだけを見ても、優勝したサガンはツアー・オブ・カタールに過去2回出場し、最高位が総合6位。2位のマーク・カヴェンディッシュ(イギリス、ディメンションデータ)は今年の同大会で優勝。3位のトム・ボーネン(ベルギー、エティックス・クイックステップ)においては、過去4度の総合優勝を誇る、いわば“カタールマイスター”たちである。

 その意味では、レース展開こそ衝撃的なものとなったが、リザルトそのものは現在の実力をおおむね反映したものだと捉えてもよさそうだ。

エースを1人に絞る勇気があったか

 コースレイアウトだけを見ればほぼフラットだったこともあり、どの国もスプリント勝負を頭に置いてベストメンバーをセレクトしている。ただ、国と国との威信をかけた戦いにあって、エースを一本化すべきか、BプランやCプランの準備が必要であるかは、多くの有力国が頭を悩ませたことだろう。

表彰台で銀メダルをかけられたマーク・カヴェンディッシュ(左)。イギリスはカヴェンディッシュでの勝負で一本化していた Photo: Yuzuru SUNADA表彰台で銀メダルをかけられたマーク・カヴェンディッシュ(左)。イギリスはカヴェンディッシュでの勝負で一本化していた Photo: Yuzuru SUNADA

 結果からいえば、「絶対的エース」を擁したチームが上位に並んだ。出場枠を3つしか確保していなかったスロバキアは、名実ともにサガンが絶対的な存在。イギリスはカヴェンディッシュを、ベルギーはボーネンでのスプリント勝負にこだわり、適材適所のアシストを配備した。

 一方で、アンドレ・グライペル(ロット・ソウダル)、マルセル・キッテル(エティックス・クイックステップ)、ジョン・デゲンコルプ(チーム ジャイアント・アルペシン)が名を連ねたドイツ、ジャコモ・ニッツォーロ(トレック・セガフレード)とエリア・ヴィヴィアーニ(チーム スカイ)のイタリア、かねてから因縁の関係といわれるナセル・ブアニ(コフィディス ソリュシオンクレディ)とアルノー・デマール(エフデジ)のフランス。

 これらの国は、いずれも苦戦を強いられた。イタリアはニッツォーロが5位、フランスはウィリアム・ボネ(エフデジ)が8位と意地を見せたが、決して望んだ結果ではなかった。

ドイツは、ジョン・デゲンコルプ(先頭)、マルセル・キッテル(先頭から3人目)らエースクラスをそろえたが、展開にフィットしなかった Photo: Yuzuru SUNADAドイツは、ジョン・デゲンコルプ(先頭)、マルセル・キッテル(先頭から3人目)らエースクラスをそろえたが、展開にフィットしなかった Photo: Yuzuru SUNADA

 「絶対的エース」を誰にするかのチョイスが必ずしも正解だったかどうかは別として、やはり最後にスプリントへ送り出すチームリーダーは1人である方が、アシストの層を厚くでき、ねらいを絞りやすい傾向にあったのではないかと考えられる。これは現地でも話題になっていたことで、“エース待遇”をされるべき選手が複数人いるチームは、かえって戦いにくいのではないかとの声が多くあった。

 それは戦術面しかり、チームワークしかり。まとまりに欠けていては、上がるはずのモチベーションも上がらない、そんなことだって大いにあっただろう。

エドヴァルド・ボアッソンハーゲン(左から3人目)、アレクサンドル・クリストフ(同4人目)を擁したノルウェーも、最後の最後にまとまりを欠いた Photo: Yuzuru SUNADAエドヴァルド・ボアッソンハーゲン(左から3人目)、アレクサンドル・クリストフ(同4人目)を擁したノルウェーも、最後の最後にまとまりを欠いた Photo: Yuzuru SUNADA

 エドヴァルド・ボアッソンハーゲン(ディメンションデータ)、アレクサンドル・クリストフ(チーム カチューシャ)をそれぞれ6位、7位に送り込んだノルウェーに至っては、レース後にクリストフがボアッソンハーゲンに対し激怒。当初の予定ではボアッソンハーゲンが発射台となり、クリストフで勝負する予定だったそうだが、ふたを開けてみるとボアッソンハーゲンが自らスプリントし、連携が図られなかったという。

 世界的には無名のトゥルリスエンゲン・コルサエス(チーム ヨーケル・ビグトルゲ)がアシストとして大健闘したにもかかわらず、エース同士が最後の最後にぶつかり合ってしまう、なんとも残念な幕切れである。

 とはいえ、こうした傾向はドーハで行われたからこそであり、来年のノルウェー・ベルゲン大会や、2018年のオーストリア・インスブルック大会でも同じかというと、決してそんなことはない。コース特性や、それに見合う戦術、そして選手の選考。その年その年で異なるからこそ、あらゆる思惑が都度見られる。それこそが世界選手権なのである。

 ちなみに、来年のベルゲン大会はメインコースとなるサーキットに厳しい上りが控える。ただ、フィニッシュライン目がけて下ってゆく設定なので、上りに強いスプリンターやクラシックハンター向けのコースというイメージだ。

今週の爆走ライダー-トム・レーゼル(オランダ、チーム ロットNL・ユンボ)

「爆走ライダー」とは…

1週間のレースの中から、印象的な走りを見せた選手を「爆走ライダー」として大々的に紹介! 優勝した選手以外にも、アシスト や逃げなどでインパクトを残した選手を積極的に選んでいきたい。

 完璧なタイミングだった。フィニッシュまで残り2.7km。チームメートのニキ・テルプストラ(エティックス・クイックステップ)がアタックに失敗し、一瞬の間があったメイン集団。ぽっかりと空いた走行ラインは、カウンターアタックにはうってつけだった。

渾身のアタックも、ラスト1kmを切って集団に捕まってしまった。トム・レーゼルはあと一歩で大金星を逃した Photo: Yuzuru SUNADA渾身のアタックも、ラスト1kmを切って集団に捕まってしまった。トム・レーゼルはあと一歩で大金星を逃した Photo: Yuzuru SUNADA

 マイヨアルカンシエルに手が届きかけた。ラスト1kmのフラムルージュを過ぎても、集団との差は十分にあった。だが、ベルギートレインの加速に屈し、ほんのわずかの差で勝利を収めることができなかった。「そんなに差が開いているとは思っていなかった。すべてを賭けてのアタックは一か八かの勝負だった」と振り返った。

 2008年からプロで走る30歳にとって、2013年のツール・ド・ランカウイ(マレーシア)第6ステージの勝利がプロ唯一の勝ち星。これまで堅実なアシストとしてチームに貢献してきたが、その分自らのために走ることは決して多くはなかった。

 ロード世界選手権ではスプリンターが風による分断で後方へと取り残され、先頭集団で走っていたのは自身とテルプストラの2人だけ。スプリンターではない両者にとって、早めの仕掛けで勝機を見出す以外に手立てがなかった。そしてやってきた、大金星のチャンス。だが、勝利の女神が微笑むことはなかった。

 それでも前を向く。「何もせずに10位で終わってしまうようなレースはしないと、ニキと話していたんだ」。できる限りのことはやったと胸を張る。彼の走りは、世界に大きなインパクトを与えたことは事実。敗れはしたが、この走りが報われる日はきっと近いうちにやってくるに違いない。

惜しくも敗れたが、「やるだけのことはやった」と胸を張ったトム・レーゼル Photo: Yuzuru SUNADA惜しくも敗れたが、「やるだけのことはやった」と胸を張ったトム・レーゼル Photo: Yuzuru SUNADA
福光俊介福光俊介(ふくみつ・しゅんすけ)

サイクルジャーナリスト。自転車ロードレース界の“トップスター”を追い続けて十数年、気がつけばテレビやインターネットを介して観戦できるロード、トラック、シクロクロス、MTBをすべてチェックするレースマニアに。現在は国内外のレース取材、データ分析を行う。自転車情報のFacebookページ「suke’scycling world」も充実。UCIコンチネンタルチーム「キナンサイクリングチーム」メディアオフィサー。

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