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福光俊介の「週刊サイクルワールド」<179>ロード世界選手権男女エリートプレビュー 現地情報を交えてお届け

by 福光俊介 / Syunsuke FUKUMITSU
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 10月9日に競技が開始された、今年のUCI(国際自転車競技連合)世界選手権。カタールの首都・ドーハで開催されている今回は、過去に類を見ないオールフラットなコースレイアウトで、スピードマンが圧倒的優位となる。注目すべきレース展開や選手について、現地情報を交えてお届けする。

昨年のUCIロード世界選手権はペテル・サガンの衝撃的な勝利に沸いた。今年はどんな戦いが待ち受けているだろうか =UCIロード世界選手権2015男子エリートロードレース、2015年9月27日 Photo: Yuzuru SUNADA昨年のUCIロード世界選手権はペテル・サガンの衝撃的な勝利に沸いた。今年はどんな戦いが待ち受けているだろうか =UCIロード世界選手権2015男子エリートロードレース、2015年9月27日 Photo: Yuzuru SUNADA

新王者誕生なるか 男子エリート個人タイムトライアル

男子エリート個人タイムトライアルコースマップ © DOHA 2016男子エリート個人タイムトライアルコースマップ © DOHA 2016

 今大会のタイムトライアル種目の最後を飾る、男子エリート個人タイムトライアル。コースは9日に行われた男女チームタイムトライアルと同じで、40kmで争われる。近年は50km前後の長距離TTによって争われてきたが、それと比べると今回は短めの距離設定となっている。

 また、ほとんどアップダウンがないため、上りに強い選手にとっては登板力をまったく生かすことができない。したがって、平地でハイスピードの牽引を得意とする選手が圧倒的有利な戦いとなる。序盤と終盤には、直角コーナーやシケインが連続して現れる。すでに終了している男女ジュニアや男子アンダー23(23歳未満)といったカテゴリーでは、コーナー突入を誤り落車する選手も出ており、コーナーリングのテクニックやバランスも勝負を分ける大きなポイントとなるだろう。

 現地、ドーハの昼間の気温は37~38℃。午前10時から昼過ぎにかけてがもっとも暑く、午後2時以降は徐々に涼しくなる傾向にある。したがって、スタート時間によって選手のパフォーマンスに変化が現れる可能性も押さえておきたい。有力選手が控える後半グループのスタートは、気温が下がるタイミングにある。なお、この地特有の風は、いまのところ穏やかだ。

チームTTを制し喜ぶトニー・マルティン(左)。今度は個人TT勝利でこの笑顔が見られるか =2016年10月9日 Photo: Syunsuke FUKUMITSUチームTTを制し喜ぶトニー・マルティン(左)。今度は個人TT勝利でこの笑顔が見られるか =2016年10月9日 Photo: Syunsuke FUKUMITSU

 優勝争いは、これまでのTTの実績を見る限り、3年ぶりの王座奪還を目指すトニー・マルティン(ドイツ、エティックス・クイックステップ)、初優勝を狙うトム・デュムラン(オランダ、チーム ジャイアント・アルペシン)が中心か。特にマルティンはチームTTで激走し、優勝に大きく貢献。個人での頂点も視野に入れているはずだ。また、前回王者のヴァシル・キリエンカ(ベラルーシ、チーム スカイ)も黙ってはいないだろう。

ここへきて俄然注目が増しているローハン・デニス。大躍進はあるか =リオデジャネイロ五輪個人タイムトライアル、2016年8月10日 Photo: Yuzuru SUNADAここへきて俄然注目が増しているローハン・デニス。大躍進はあるか =リオデジャネイロ五輪個人タイムトライアル、2016年8月10日 Photo: Yuzuru SUNADA

 エントリーした選手のうち、優勝経験があるのはマルティンとキリエンカの2人。デュムランを含め、新王者誕生への期待も膨らむ。現地で取材する各国のジャーナリストの間で、ここへきて注目度が増しているのはローハン・デニス(オーストラリア、BMCレーシングチーム)。この種目で5位に入ったリオ五輪以降、9月に出場したツアー・オブ・ブリテン(イギリス、UCI2.HC)で総合2位、エネコ・ツアー(オランダ・ベルギー、UCIワールドツアー)では個人TTを制し4日間リーダージャージを着用するなど、このところ絶好調だ。

 そのほか、ホナタン・カストロビエホ(スペイン、モビスター チーム)、マチェイ・ボドナル(ポーランド、ティンコフ)、テイラー・フィニー(アメリカ、BMCレーシングチーム)なども有力だ。

イギリス、オランダが軸 女子エリートロードレース

 15日に行われる女子エリートロードレースは、134.1kmで争われる。ドーハ近郊のカタール・ファンデーションをスタートし28km走った後、メイン会場である人工島「ザ・パール・カタール」を7周回(1周15.2km)する。

女子ロードで2連覇を狙うエリザベス・デイグナン(左)。アンナ・ファンデルブレッヘン(右)らオランダ勢も強力メンバーをそろえる =UCIロード世界選手権2015、2015年9月25日 Photo: Yuzuru SUNADA女子ロードで2連覇を狙うエリザベス・デイグナン(左)。アンナ・ファンデルブレッヘン(右)らオランダ勢も強力メンバーをそろえる =UCIロード世界選手権2015、2015年9月25日 Photo: Yuzuru SUNADA

 勝負はスプリントになることが予想される。前回覇者のエリザベス・デイグナン(旧姓アーミステッド、ボエルス・ドルマンスサイクリングチーム)を擁するイギリスは、ルーシー・ガーナー、ダニエーレ・キング(ともにウィグル・ハイファイブ)など強力布陣。

 リオデジャネイロ五輪ではロードレースで金メダルを獲得した、アンナ・ファンデルブレッヘン(ラボ・リヴ ウィメンズサイクリングチーム)が中心となるオランダも戦力では負けていない。11日に行われた個人タイムトライアルでは、エレン・ファンダイク(ボエルス・ドルマンスサイクリングチーム)が2位、アンネミーク・ファンフルーテン(オリカ・AIS)が5位となっている。そして忘れてはならないのが、かつての女王であるマリアンヌ・フォス(ラボ・リヴ ウィメンズサイクリングチーム)の存在。あらゆる展開に対応できる選手をそろえてくるはずだ。

 イタリアは、こちらも優勝経験のあるジョルジャ・ブロンツィーニ(ウィグル・ハイファイブ)を立ててくるだろう。そのほか、普段はブロンツィーニらとチームメートのエマ・ヨハンソン(スウェーデン)、ヨリエン・ドーレ(ベルギー)も有力だ。

10月11日の個人タイムトライアルでは21位だった與那嶺恵理。体調を整えてロードレースでの結果を求める Photo: Yuzuru SUNADA10月11日の個人タイムトライアルでは21位だった與那嶺恵理。体調を整えてロードレースでの結果を求める Photo: Yuzuru SUNADA

 日本からは、與那嶺恵理(ポワトゥー-シャラント・フュテュホスコープ・86)、吉川美穂(Live GARDEN BICI STELLE)、梶原悠未(筑波大学)の3選手が出場。個人タイムトライアルでは体調不良もあり不本意な結果となった與那嶺だが、どこまで立て直してくるか。スプリント力のある吉川、昨年はジュニアで4位に入った梶原が加わり世界へ挑むこととなる。

スプリントか集団分断か 男子エリートロードレース

 大会最終日の16日は、いよいよ男子エリートロードレースだ。ドーハ市内をスタートし、砂漠地帯を一旦北上。折り返すようにして海岸近くを南下してザ・パール・カタールを目指す。ここまでで151kmを走行。さらに、ザ・パール・カタールのサーキットを7周回。総距離257.3kmで今年の世界王者を決める。

6選手で臨むドイツは、アンドレ・グライペルがエースを務める =ツール・ド・フランス2016第21ステージ、2016年7月24日 Photo: Yuzuru SUNADA6選手で臨むドイツは、アンドレ・グライペルがエースを務める =ツール・ド・フランス2016第21ステージ、2016年7月24日 Photo: Yuzuru SUNADA

 こちらもスプリント決着になる可能性が高いものの、砂漠を見ながら進む前半から中盤にかけて、何らかのアクションを起こしたいと考えているチームもあるようだ。例年2月に行われるツアー・オブ・カタールでは、砂漠地帯で吹き荒れる強風によって集団が分断し、それが結果を左右するケースも数多い。今回もこのようなシチュエーションに持ち込むチームが出てくるだろうか。

 有力国はいずれもスプリンターをメインに、集団牽引やトレイン統率を得意とする平地系ライダーをそろえる。スプリンターの層が厚いのは、アンドレ・グライペル(ロット・ソウダル)とマルセル・キッテル(エティックス・クイックステップ)、ジョン・デゲンコルプ(チーム ジャイアント・アルペシン)が名を連ねるドイツ。今シーズンのUCI国別ランキングにより、6選手でのチーム編成ではあるが、最終局面での総力戦で勝機をうかがう。エースを務めるのはグライペルの予定だ。

5年ぶりの世界王者を狙うマーク・カヴェンディッシュは、このところの体調不良から回復しつつある Photo: Yuzuru SUNADA5年ぶりの世界王者を狙うマーク・カヴェンディッシュは、このところの体調不良から回復しつつある Photo: Yuzuru SUNADA

 スプリンターが主役だった2011年大会を制しているマーク・カヴェンディッシュ(イギリス、ディメンションデータ)は、先ごろ腸炎を患い調子を落としていたが、10月8日のパリ~ツール(フランス、UCI1.HC)で6位と復調の兆し。展開次第では、ベン・スイフト(チーム スカイ)やアダム・ブライス(ティンコフ)が代役を務める。

フェルナンド・ガヴィリアは、スプリントでコロンビアにマイヨアルカンシエルをもたらすことができるか =ティレーノ~アドリアティコ2016第3ステージ、2016年3月11日 Photo: Yuzuru SUNADAフェルナンド・ガヴィリアは、スプリントでコロンビアにマイヨアルカンシエルをもたらすことができるか =ティレーノ~アドリアティコ2016第3ステージ、2016年3月11日 Photo: Yuzuru SUNADA

 そのパリ~ツールを制したのは、若手有望株のフェルナンド・ガヴィリア(コロンビア、エティックス・クイックステップ)。ラスト500mからのロングスプリントでライバルを一蹴。ピュアスプリンター並みのスピードに加え、人数が絞られた集団に潜り込むことも得意としているだけに、さまざまなレース展開に対応ができるはずだ。

 同様にヤングスプリンターでは、カレブ・イーウェン(オーストラリア、オリカ・バイクエクスチェンジ)、ディラン・フルーネウェーヘン(オランダ、チーム ロットNL・ユンボ)の名も挙がる。また、サム・ベネット(アイルランド、ボーラ・アルゴン18)は9月下旬から10月上旬にかけて2勝を挙げ、ここへきて評価が高まっている。

 ダブルエース態勢を敷くのは、アルノー・デマール(エフデジ)とナセル・ブアニ(コフィディス ソリュシオンクレディ)のフランスと、ジャコモ・ニッツォーロ(トレック・セガフレード)とエリア・ヴィヴィアーニ(チーム スカイ)のイタリア。特に、フランスの2人はかつてのチームメートで、その頃からエースの座を争ってきた因縁の相手。互いを意識するあまり、本来の狙いを見失わなければよいが・・・。

かつてツアー・オブ・カタールで勝利をほしいままにしてきたトム・ボーネン。思い出の地で再び輝きたい =ツアー・オブ・カタール2012、2012年2月8日 Photo: Yuzuru SUNADAかつてツアー・オブ・カタールで勝利をほしいままにしてきたトム・ボーネン。思い出の地で再び輝きたい =ツアー・オブ・カタール2012、2012年2月8日 Photo: Yuzuru SUNADA

 ベルギーは、何度もツアー・オブ・カタールを制したトム・ボーネン(エティックス・クイックステップ)を中心に、もつれた展開となればリオ五輪金メダリストのフレッヒ・ヴァンアーヴルマート(BMCレーシングチーム)に出番が回ってくる。

 ペテル・サガン(スロバキア、ティンコフ)は2連覇がかかるが、フル回転だった今シーズンの疲れもあり、9月のエネコ・ツアー以降レースから遠ざかっている。今大会への出場そのものが不透明だとしていたが、スタートラインにつけばしっかりと優勝争いに加わってくるはずだ。

 そして、われらが日本は別府史之(トレック・セガフレード)、新城幸也(ランプレ・メリダ)がカタールへと乗り込む。最大9人がエントリー可能な国に対し、数的不利は否めない。また、完全なスプリント勝負になると厳しい。それだけに、ベテランらしく経験と展開の読みでチャンスをつかみたいところだ。

日本が世界に誇る、別府史之(左)と新城幸也の2人。数的不利を跳ね返して上位進出を狙う Photo: Yuzuru SUNADA日本が世界に誇る、別府史之(左)と新城幸也の2人。数的不利を跳ね返して上位進出を狙う Photo: Yuzuru SUNADA

エディ・メルクス氏はボーネンに期待

 最後に、エディ・メルクス氏のインタビューをお届けしたい。メルクス氏は大会開幕日の8日、オープニングセレモニーに出席。その後、筆者の取材に応じてくれた。

オープニングセレモニー後、各国記者団の取材に応じたエディ・メルクス氏。筆者にはトム・ボーネンへの期待を口にした Photo: Syunsuke FUKUMITSUオープニングセレモニー後、各国記者団の取材に応じたエディ・メルクス氏。筆者にはトム・ボーネンへの期待を口にした Photo: Syunsuke FUKUMITSU

 ツアー・オブ・カタールとツアー・オブ・オマーンでは、大会アンバサダーとして運営に携わっていることもあり、思い入れの強い地での世界選手権開催に感慨もひとしおのよう。「自転車界はこれまで、カタール、オマーン、さらにはドバイ、アブダビといった中東の都市でレースを成功させてきた。そして、カタールでの世界選手権開催に感激している」と述べる。

 注目選手については「こればかりは難しいし、スプリンター以外にもチャンスはある」としながらも、カヴェンディッシュ、キッテル、ボーネン、ヴァンアーヴルマート、サガンの名を挙げた。特に、自身の後継者として活躍を見守り続けたボーネンが来年のパリ~ルーベで引退することに触れ、「最後の世界選手権に向け、彼は必ず調子を合わせてくるだろう」と期待を寄せた。

今週の爆走ライダー-ルーク・ダルブリッジ(オーストラリア、オリカ・バイクエクスチェンジ)

「爆走ライダー」とは…

1週間のレースの中から、印象的な走りを見せた選手を「爆走ライダー」として大々的に紹介! 優勝した選手以外にも、アシスト や逃げなどでインパクトを残した選手を積極的に選んでいきたい。

 リオ五輪明けであることや、シーズン最終盤に差し掛かっているといった理由もあり、有力選手の参戦がまばらな今回のロード世界選手権。そんな中にあって、個人TTの優勝争いに名乗りを挙げるのが、2年連続でのオーストラリア代表入りを果たした25歳のダルブリッジである。

2011年にアンダー23カテゴリーで個人タイムトライアルを制しているルーク・ダルブリッジ。今年はエリートでの頂点をうかがう =UCIロード世界選手権2015男子エリート個人タイムトライアル、2015年9月23日 Photo: Yuzuru SUNADA2011年にアンダー23カテゴリーで個人タイムトライアルを制しているルーク・ダルブリッジ。今年はエリートでの頂点をうかがう =UCIロード世界選手権2015男子エリート個人タイムトライアル、2015年9月23日 Photo: Yuzuru SUNADA

 2011年にはアンダー23カテゴリーで世界王者となって以降、プロの土俵でも堂々たる走りを見せる。2013年のオーストラリア選手権では、ロード・TTともに圧勝するなど、ときにその走りは関係者やライバルをも驚かせてきた。

 今シーズンは得意のTTで勝利を狙うより、チームのアシストとしての働きを重視。その甲斐あって、このほどチームと2年の契約延長に合意。スポーツディレクターのマット・ホワイト氏して「チームの歯車を動かすキーとなるライダーなんだ」と走りを絶賛する。そして、「長期育成の成功により、彼の時代がついに到来したんだ」とも。

 それを証明すべく、ドーハではエリートでの個人TT初優勝を狙う。数多くのTTスペシャリストが時代の主役となったが、次にその席に座ることはできるだろうか。いよいよ、自らの勝利のために走るときがやってくる。

このほど、チームとは2年の契約延長に合意。タイムトライアルでの強さのほかに、アシストとしても信頼される =パリ~ルーベ2016、2016年4月10日 Photo: Yuzuru SUNADAこのほど、チームとは2年の契約延長に合意。タイムトライアルでの強さのほかに、アシストとしても信頼される =パリ~ルーベ2016、2016年4月10日 Photo: Yuzuru SUNADA
福光俊介福光俊介(ふくみつ・しゅんすけ)

サイクルジャーナリスト。自転車ロードレース界の“トップスター”を追い続けて十数年、気がつけばテレビやインターネットを介して観戦できるロード、トラック、シクロクロス、MTBをすべてチェックするレースマニアに。現在は国内外のレース取材、データ分析を行う。自転車情報のFacebookページ「suke’scycling world」も充実。UCIコンチネンタルチーム「キナンサイクリングチーム」メディアオフィサー。

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