門田基志の欧州クロスカントリーマラソン遠征記<4>クロスカントリーマラソン世界選手権を激走 世界との差を昨年の「半分」に縮める

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 マウンテンバイク(MTB)のクロスカントリーマラソン(XCM)世界選手権出場のため、3週間のヨーロッパ遠征を行った門田基志選手(チームジャイアント)。ナショナルチームとしてともに参戦する池田祐樹選手(トピークエルゴンレーシングチームUSA)と合流し、いよいよ南フランス・レサックでのXCM世界選手権のレースがスタートします。

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←<3>ベネチア、ピサ、ジェノバに立ち寄りつつ…

世界選手権のスタートゴールゲート前でナショナルチーム記念撮影(左が筆者) Photo: Sayako IKEDA世界選手権のスタートゴールゲート前でナショナルチーム記念撮影(左が筆者) Photo: Sayako IKEDA

世界との差を埋めるチャレンジ

 レース前日の食事は室内でとった。やはりヨーロッパの夜は日本人には寒い。すると同じテーブルで食器類が4つセットされている。大皿料理を2組で食べるようで、どんな人が来るのかと思っていたら、なんとヨランダ・ネフ! 今回の世界選手権女子1位だった選手だ。

レース時に使うお気に入りの補給、メイタンサイクルチャージ、電解質パウダー、superMEDALIST9000、ボンクブレーカー Photo: Motoshi KADOTAレース時に使うお気に入りの補給、メイタンサイクルチャージ、電解質パウダー、superMEDALIST9000、ボンクブレーカー Photo: Motoshi KADOTA

 夕食後は補給を作った。ボトルは「スーパーメダリスト9000と電解質パウダーを混ぜたもの」「メイタンサイクルチャージを水で薄めてドリンクにしたもの」、さらに「サイクルチャージをミニボトルに入れたもの」「ボンクブレーカー(固形)」を準備して、フィードゾーンで貰うボトルにサイクルチャージのミニボトルをテープでとめて、一度に受け取れるように工夫をした。スタッフのいないヨーロッパ遠征では、本当にレース前日は作業が多い。

 そしてレース当日。会場までは車で25分程度という事で、ある程度早めに準備してホテルを出る予定だったが、ボケていて少し遅れてしまった。だが実はスタート時間を少し間違っていたようで、会場に到着したら、ちょうど良い時間だった。

 今日はいつものGIANTの看板を背負った戦いではなく、日の丸を背負って戦う世界一を決める大一番である…が、日本の現状は世界一を決めるレースに参加するとは言えない状態で、世界との差をどこまで埋める事ができるのかを毎年チャレンジするレースと言えるだろう。

 スタートはボックス式で、ランキング順で数個のボックスに分かれて招集される。

 僕が招集されるボックスは、マラソンポイントを持っている選手の中では最後とXCO(クロスカントリーオリンピック)ポイント上位の選手。前年まではマラソンポイントが無く最後尾のボックスだったから、世界へ1歩近づいたと言えるだろう。そして僕のボックスにはXCOのW杯上位陣も一緒という事が意外で驚いた。XCO世界選手権3位の選手もマラソンポイントが優先されるので、僕と同じボックスに位置して真横にいた。

 スタートラインに並ぶと後ろに数十人の選手がいるのがいつもの年とは違うところだが、凄い密集度でスタートできるのか?と思える程、バイクとバイクが重なりあう。

集団密集の序盤戦

スタート前のBoxは緊張感でいっぱい! 周りにはXCOの強豪選手が沢山! そしてBoxにはアジア人は自分1人 Photo: Sayako IKEDAスタート前のボックスは緊張感でいっぱい! 周りにはXCOの強豪選手が沢山! そしてボックスにはアジア人は自分1人 Photo: Sayako IKEDA

 そしてスタートの合図と共に…ではなく(笑)、後方なので少しタイミング遅れてスタートを切った。一気にフルパワーでペダルを回すと第1コーナーで前の方が急ブレーキ&数人が落車。この密度でも集団内は世界屈指のテクニックを持っているので、わりと奇麗に避けて行く。

 僕も上手く切り抜けて会場を出て、最初の砂利が浮いた舗装路のコーナーを抜けると、市街地を一気に駆け抜けた。途中下り基調ではフロントギヤ34Tで足りず、脚が回り切りながらも集団内なので遅れず走る事ができる。あちこちで選手同士のタイヤが当たる音が聞こえるが、少しバランスを崩す位で誰も落車しない。肩や腰、体がバンバン当たりながら前に!前に!最初のシングルトラックの泥の上りでも前に!1人でも前に!と全選手がアタックしていく。集団内は土埃で路面や前が見え難く、舞い上がる土埃で息が苦しい。

 そのままあまり順位を落とさず、登坂から舗装路、そしてシングルトラックに突入すると、前の前の…ずっと前の選手の誰かが足を着いたのだろう、長蛇の列で押している! だらだらやってたら、どんどん割り込まれる。自分の位置は気迫で確保しないと、集団内での居場所が無くなってしまう。

 先頭が見えない長い集団が、山中の道を一列に伸びる生き物のように進んで行く。長い長い列のあちこちで、中切れしたりアタックして前に上がったりを繰り返し、徐々に集団は細分化され何となく足の合う集団ができてくる。

 ハイスピードの集団が走る路面は、硬く引き締まった土に岩が顔を出し、割れた岩や石が点在し草木も生い茂る。ラインを外すと岩に乗り上げ、落車やパンクや中切れの原因になってしまうので、物凄い集中力が必要な走行になる。どこの誰なのか全く分からない、ウェアで国籍だけは分かるかなという前を走る選手を信頼して、ロードの集団のような車間距離で林道を突き進む。

スタート直後の舗装路 Photo: Sayako IKEDAスタート直後の舗装路 Photo: Sayako IKEDA

 この集団もペースが合わない選手はドンドン脱落していき、前からも落ちて来る選手を吸収していく。いっぽう速い選手は後ろから来て少し集団で息を整えてから、キツ目の登坂で前の集団を追うべく一気に抜いて行く。

 小刻みなアップダウンを10人程度で進むが、やはりロードと同じセオリーが働く。集団は前方の方が楽なのだが、テクニカルなセクションの前では得体の知れないアジア人を、ヨーロッパ人が中心のトレイン前方には上がらせてくれない。

 前の選手のタイヤやラインしか見ていない。試走で覚えた「あみだくじ」の轍の登坂も前に合わせ、気付いたら覚えたライン上だった。

ガマンの中盤戦

 最初の補給地点では、ここでも別の位置取り合戦が勃発しているのを、冷静に集団内から見る事ができた。補給担当の「はらぺこサイクルキッチンさん」こと池田妻がボトルを構えている前に、大柄な別チームのスタッフが割り込んできたのだが、少しペースを落として取りに行こうとした瞬間、彼女は邪魔をしていたスタッフを押しのけてスペースを確保し、完璧なタイミングで補給を渡してくれたのだ。目の前で繰り広げられた一瞬のできごとに驚き、彼女も一緒にレースを戦っているのだと再確認した。

 補給を取り、しばらくの間は集団後方に位置して集中して走るが、このままではダメだと思い途中で上がれるタイミングでは集団の前を引いたり、先頭付近でペースを作り下りでもスムーズに走る事を繰り返した。するとジープロードからタイトなコーナーでの位置取りや、シングルトラック直前で無理に前に入ろうとされることが無くなり、格段に走りやすくなった。これが自分の居場所を作るという事なのだろう。

灼熱の太陽が照りつける、バフバフで固く締まった林道は暑さで過酷さが増す Photo: Motoshi KADOTA灼熱の太陽が照りつける、バフバフで固く締まった林道は暑さで過酷さが増す Photo: Motoshi KADOTA

 メーターを見て1時間、1時間10分…20分と苦しいながらも集団内で走り続ける。2時間までは何が何でも切れない!2時間10分までは切れない!と自分に言い聞かせる。

 そしてこの集団で自分の位置を理解した。テクニカルな下りならアンセムの走破性を生かして集団内でトップレベル。平坦や緩い上りなら真ん中程度。激坂は遅いということ。激坂では我慢したり最後は切れても下りで挽回したりと、大きなレースの中で小さなレースが存在するような感じで、人との勝負になって楽しくテンションは上がる。

 しかし、暑い…補給は重要で、落ち着いた路面でシッカリ飲めるタイミングでは飲む! サイクルチャージを補給できるタイミングではとる! スピードも速く集中力が切れる前に補給だけは怠らない! 補給をミスすると長丁場の後半に必ず足が止まるのは経験上明らかだ。そうなると速いレースでは致命的なタイムロスを生む。

 何度目かの補給を貰いしっかり飲むが、暑さから脱水気味になってきたのか、小刻みなアップダウンで一気に踏むので筋負荷が高いからなのか、脚のあちこちに違和感とハムが攣りそうな感覚が出てきた。それでも騙し騙し筋肉を使って集団内に居れるように走った。

順位を聞いてガックリも最後まで攻める

 中盤以降、集団は前に行ったり脱落したりでドイツ人中心の4〜5人になっていて、そこに前から落ちてきた選手が時折合流する形で進んだ。この人数だと、平坦は俺が行くから下りはお前が行ってペース作れ的な役割が出来て、シングルトラックの入り口で重なると譲ってくれるようになっていが、僕以外の選手はハードテールが多く多分コースも覚えきれていないので、出たとこ勝負になる。ここではアンセムのマエストロリンクの走破性で他の選手より僕には余力があるので、下りを気持ちよく抜け平坦に入り少ししたら綺麗に先頭を後退していた。

広陵地帯を見渡しながらのジープロードからテクニカルなシングルトラックへ一気に駆け下りる入り口は先頭争いが頻繁に起きる Photo: Motoshi KADOTA広陵地帯を見渡しながらのジープロードからテクニカルなシングルトラックへ一気に駆け下りる入り口は先頭争いが頻繁に起きる Photo: Motoshi KADOTA

 途中スペインの選手が多く前から落ちてきて吸収したが、下りで前に入りペースが遅い…テクニカルな下りで普通に行けるドロップオフでも止まりそうな勢いまで減速する。集団内では下りで先に行かせないようにする動きになったりと、協力できる所は協力してタイムを短縮するように走る。

 後半になる頃に順位を聞いたが、90位前後という事でガックリ。集団でもう少し上で走れていると思っていたが、甘くないのが世界ということだろう。

 レースも後半になると、集団は崩壊し1〜3人パックになる事が多い。追い付いて来る選手、落ちて来る選手が入り乱れて、さっきまでペース良く走っていた選手も電池切れのように急に足が止まる。

 その中で一つの目標としていた事がある。去年はトップとのタイム差が1時間30分程度あった。このタイム差をどこまで縮める事ができるのか? 順位もそうだがトップとのタイム差が重要だと思うので、どんな状況でもペダリングを緩めず前にバイクを進ませる。

 泥の下りでも限界まで攻めた結果、落車してしまう。だが少しでも速く走る事を目的として、攻める姿勢は変えない。後半は集中力との勝負となった。

世界との差は「約半分」に

 この限界の状態で草原の激上りに突入。長い草原の坂道には、先を行く選手が小さく見え、太陽は容赦なく照りつける。消耗した体力を更に消耗させるが、ペダリングだけは今できる最大から緩めない。

 数人だが選手をパスすると、中盤に一緒になったスペイン人とパックになった。先にシングルトラックに入られそうになるが、驚いた事に下りに入る前にペースを緩めて先に行かせてくれた。一言お礼を言って先にシングルトラックに入ると、テクニカルなセクションで更に泥。スペイン人選手は後方へ消えて行き、単独走行をしていると見覚えのある町が見えてきた。やっとゴールだ!

うぉ〜キツかったぁ〜地味なキツさが長時間続くクロスカントリーマラソンはゴール後、芯から疲れるけど達成感も大きい Photo: Sayako IKEDAうぉ〜キツかったぁ〜地味なキツさが長時間続くクロスカントリーマラソンはゴール後、芯から疲れるけど達成感も大きい Photo: Sayako IKEDA

 市街地の舗装路を進む直線では前を走る選手が見えない、逆に直線を抜ける頃に振り返ると、後ろからオーストリアの選手が思いっきり踏んでいるのが見えた。

 最後の力を振り絞って、踏める力を全てペダルにぶつけてバイクを進める! 出来る事は全てやる! アンセムのリヤユニットをロックに切り替え、少しでも舗装路有利な設定に切り替えて踏んでいくが、もう体力が限界で思うようにペースは上がらない。

 それでも前を見て踏み続けて、抜かれること無く92位でゴールを切った。

 ゴール後10分少々後に、同じくナショナルチームとして参加している池田選手がゴールするのを出迎えた。ナショナルチーム全員が完走できて良かった。

ゴール後に固い握手で来年の世界選手権も共に戦うことを約束した Photo: Sayako IKEDAゴール後に固い握手で来年の世界選手権も共に戦うことを約束した Photo: Sayako IKEDA
リアルタイムに順位が出る電光掲示板はレースメインエリアに置かれていて、観客も随時チェックしてレースを楽しんでいる Photo: Motoshi KADOTAリアルタイムに順位が出る電光掲示板はレースメインエリアに置かれていて、観客も随時チェックしてレースを楽しんでいる Photo: Motoshi KADOTA
ゴール後に地元の子供達にサインを求められる。子供達にとっては世界選手権を走る自転車選手は皆ヒーローなのだろう Photo: Sayako IKEDAゴール後に地元の子供達にサインを求められる。子供達にとっては世界選手権を走る自転車選手は皆ヒーローなのだろう Photo: Sayako IKEDA
共に戦い、完璧なサポートをしてくれた池田清子さんも入れてナショナルチームのゴール後写真 Photo: Motoshi KADOTA共に戦い、完璧なサポートをしてくれた池田清子さんも入れてナショナルチームのゴール後写真 Photo: Motoshi KADOTA

 あと忘れてはいけない弟子の西山は、ローカルレースで序盤からトップ争いをしていたが、2回のパンクでチューブが無くなり、応援のおじさんにチューブを貰い、コースで声援してくれていた子供からグミやチョコを貰い、追い上げて6位でゴールとなった。パンク2回とチューブを探すタイムロスを入れても、世界選手権で後方ではあるが十分完走できるタイム。若い西山にとっても世界との差を確認する良い経験になったと思う。

泥と汗で汚れたバイクとウエア、パンクが悔しい弟子のゴール直後 Photo: Motoshi KADOTA泥と汗で汚れたバイクとウエア、パンクが悔しい弟子のゴール直後 Photo: Motoshi KADOTA
 Photo: Motoshi KADOTA Photo: Motoshi KADOTA
筆者のシューズもドロドロ Photo: Motoshi KADOTA筆者のシューズもドロドロ Photo: Motoshi KADOTA

 今回92位は良い成績とは言えない…が、去年のイタリア大会からトップとのタイム差を、約半分の45分に縮める事ができたのは大きな一歩だと思える。一足飛びには行かない世界との壁だが、今年半分に縮める事ができたのなら、来年は更に縮める事ができるはず。UCIマラソンシリーズにも参戦して、スタート位置の確保から進めていきたいと思う。

 まずは翌週のフランス、モンブランの麓で開催される、世界で一番過酷なUCIマラソンシリーズ「MBレース」でUCIポイントを確実に獲得する事が、世界と勝負するためのスタート位置だ。連戦の疲労もあるが何とか回復させる事に専念だ。まだ先は長い!

世界選が終わっても…まだあと1戦!

レース後、食事に行ったロデズの町の大きな教会 Photo: Motoshi KADOTAレース後、食事に行ったロデズの町の大きな教会 Photo: Motoshi KADOTA

 …とゴール後に決意新たにして、ボロボロの体に食べ物を!とホテルに帰ってレースの片付けをしいると、本来の夕食時間の少し前に、ホテルのフランス語しか話さないオバちゃんの伝言で息子が、「ママは今日、今から友達と食事会になったので夕食は作れない」と言ってきた。

 日曜ってレストランどころか色々な店も開いてないのに、レース後の夕方でボロボロの僕らにそうきたか!(笑) もう笑うしかないというか、これもフランス!フランス万歳! 困った時のGoogle先生で検索して、近くの町のレストランが開いていたので、遅くはなったが夜ご飯にありつけた。

 僕は羊の肉の料理を注文してみた。食べた事の無いものを食べるのも遠征の醍醐味! 出てきたのは想像より遥かに大きな骨付きの肉の塊だった! 漫画の原始時代の骨付き肉のような、絵に描いたような肉を食べてタンパク質補給をした。

ロデズの教会前のレストランでサーモンを食べた Photo: Motoshi KADOTAロデズの教会前のレストランでサーモンを食べた Photo: Motoshi KADOTA
羊の肉という事だけ理解して、注文したら出てきた骨付き肉 Photo: Motoshi KADOTA羊の肉という事だけ理解して、注文したら出てきた骨付き肉 Photo: Motoshi KADOTA
レストランから見られたロデズの綺麗な夕陽 Photo: Motoshi KADOTAレストランから見られたロデズの綺麗な夕陽 Photo: Motoshi KADOTA

 そして翌朝またフランスの洗礼を浴びる。朝食をとっていると娘さんが精算の話をしてくるので、いつしようかと聞くと、「仕事に行くから今お願いできますか?」って事で朝食後に清算を済ませると「ホテルには誰も居なくなるけど、あとから友達のおばさんが来るので、適当に出発してくださいね」だって(笑)。やはりココはフランスだ。

 出発の準備を済ませて、その知り合いのおばさんと会話して見送られて、疲労した体に気合いを入れて世界選手権の地を後に、メジェーヴで開催される世界一過酷なレースに向けて移動を始めた。

(続く)

→<5>世界一過酷なマラソンレースは試走も困難

門田 基志門田 基志(かどた・もとし)

1976年、愛媛県今治市生まれ。世界最大の自転車メーカー、ジャイアント所属のMTBプロライダー。選手として国内外のレースに参戦する一方、レース以外のサイクリングツアーも展開。石鎚山ヒルクライム、サイクリングしまなみなど数多くの自転車イベントを提案し、安全教室の講師やアドバイザーも務めるなど、自転車文化の発展に奔走している。

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