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つれづれイタリア~ノ<79>レーパンのパッドは鹿の皮だった! 素材に見るサイクルウェアの進化と歴史

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 今シーズン最後のグランツール、ブエルタ・ア・エスパーニャが終了し、もうすぐロード世界選手権が開催されます。そして日本では国内最大級のサイクリングイベント、「ツール・ド・フランス さいたまクリテリウム」と「ジャパンカップサイクルロードレース」も近づいてきました。自転車ファンにとってはワクワクする時期です。今年も手伝うことになりましたので、みなさんに面白い情報を届けるためにがんばります。

「2015ジャパンカップクリテリウム」で‟スカイボーイ”を囲むチーム スカイのメンバー Photo: Ikki YONEYAMA「2015ジャパンカップクリテリウム」でチームジャージをまとった‟スカイボーイ”を囲むチーム スカイのメンバー Photo: Ikki YONEYAMA

 レースなどのイベントでいつも感心することがあります。どの国へ行ってもプロが参加するレース会場では、多くのファンが思い思いのジャージを着用し、選手たちの応援に駆け付けます。実は私が小さい頃はこのような光景はなく、私の記憶では観客はみんな普段着でした。昔の写真を確認してみると、やはりジーンズにワイシャツ、またはジャケットにネクタイ姿。チームジャージを着て応援することは割と最近の出来事のようです。

 このことについて気になったのでもう少し調べてみたところ、「なるほど」と思う結果が見えてきました。ということで、今回のテーマはジャージの歴史についてお話しします。

「スポーツウェア=ウール製品」の1920~1970年

1930年代のジャージ。ロゴがなく2色の縞模様が特徴的 (TreEmme提供)1930年代のジャージ。ロゴがなく2色の縞模様が特徴的 (TreEmme提供)

 スポーツウェアらしいウェアが誕生したのが、1920年代です。きっかけは当時のオリンピックでした。

 化学繊維を作れなかった当時は、軽くて丈夫で発汗性のよい素材といえば、ウールしかありませんでした。唯一の難点は素材として非常にかゆいということです。

 実はジャージを作るイタリアの多くの会社の社名には「maglieria」(マリエリア)または「maglificio」(マリフィーチョ)という名前がついています。これは「ニット屋」という意味で、社歴が古い会社ほど、まだその名残が残っています。

イタリアの主な自転車ウエアメーカー(古い順から)

カステリ:Maglificio Vittorio Castelli (1876年創業、元:ヴィットーレ・ジャンニ・マリエーリア)
デマルキ:Maglieria deMarchi (1946年創業)
スポルトフル:Sportful (1946年創業、元:マニファットゥーレ・ヴィチルスモン)
サンティーニ:Santini Maglificio Sportivo(1965年創業)
ナリニ(モア・スポルト):Nalini-Moa Sport(1969年創業)
ビエッメ:Biemme (1978年創業)
ピッセイ:Pissei (1979年創業、元:エッレジ・スポルト)
ジョルダーナ:Giordana Sport(1979年創業)
GSG:GSG(1984年創業)
ノースウエーブ:Northwave (1993年創業)
ゼロRH+:Zero RH+(2000年創業)など※
 
※イタリア国内でおそらく50を超えるサイクルウェアメーカーがあるとみられます。

 1950年代までジャージはウール100%でしたが、1960年代に入りますとウールにアクリルが加わります。デザイン的に限界があったため、チーム名のほか、縦または横のラインだけというとてもシンプルなものでした。襟がついたワイシャツ風にデザインされ、後ろポケットにはボタンというスタイル。サンティー二社の資料によれば、一日で4、5着のジャージしか作れなかったそうです。とても時間と労力のかかる仕事でした。

1940年代のレースの様子 (TreEmme提供)1940年代のレースの様子 (TreEmme提供)

 ビブショーツもウールでしたので、とても衛生的とは言えませんでした。かゆみのほか、独特な強い匂いがレース会場に漂っていました。さらにパット部分がシャモワ(鹿の皮)でできていました。自転車に乗るときに使用されている「シャモワクリーム」の名前の由来はここからきていて、本来は硬い鹿の皮を柔らかくするために使われていました。

ファスナーと新素材が誕生した1970~1980年代

1970年代のジャージのレプリカ。ロゴとデザインが豊かになる (Santini SMS提供)1970年代のジャージのレプリカ。ロゴとデザインが豊かになる (Santini SMS提供)

 70年代に入りますと、三酢酸セルロース(トリアセテート)の開発でスポーツウェアはずいぶん変わりました。

 三酢酸セルロースの手触りがシルクに似ていて、通気性に優れたためウールに変わり広く使われるようになりました。洗いやすく虫食いの心配もいらない、スポーツマンにとって夢の生地でした。そしてファスナーも登場し、ポケットの後ろボタンも消えました。

 そして1980年代に革命が起こりました。いや、革命を起こさないと自転車競技が大きな打撃を受ける事件が起きたのです。乱獲のため鹿が急激に数を減らし、ついに捕獲が禁止となったのです。鹿の皮に変わる素材の開発が急務で、多くのメーカーが人工素材の開発に乗り出しました。

 ここで生まれたのが、現在使われている人工繊維で作られたビブパットの祖先です。パット部分がまだ薄く、スポンジを入れるなり、様々な工夫がなされました。そしてやっと「ライクラ」(Lycra)という新素材が登場。体にフィットし、洗いやすい。瞬く間にスポーツウェア界の王様となりました。

1980年代のジャージ。ライクラの登場でビブパンツも快適に (Giordana提供)1980年代のジャージ。ライクラの登場でビブパンツも快適に (Giordana提供)

 デザインにおいても、刺繍に頼っていた加工過程がフロッキング加工技術(※)が開発され、生産がスピードアップ。刺繍を施さずに直接生地にスポンサー名、チームロゴなどを入れることができるようになったためです。ロゴが浮き出るというなかなか画期的な技術でしたが、洗う度にロゴが少しずつ消えるという弱点もありました。
(※フロッキング加工:生地にノリをつけ、その上にナイロンやシルクの繊維を付着させる技術。ロゴが浮き出て見える特徴がある)

ポリエステル、そしてカーボン繊維へ

 サンティー二社がポリエステルという素材に注目し、繊維にした結果、ジャージに無限の可能性が広がりました。無地のポリエステル素材を高温にすると色彩が簡単に付着し、どんなデザインも可能になりました。まさに‟色の革命”です。そしてカッティングも自由自在。値段も安く、まさに良いことづくめです。

ジロ・デ・イタリア2000の第19ステージを疾走するマルコ・パンターニ =2000年6月2日 Photo: Yuzuru SUNADAジロ・デ・イタリア2000の第19ステージを疾走するマルコ・パンターニ =2000年6月2日 Photo: Yuzuru SUNADA

 1990年の代表的なジャージは故マルコ・パンターニが着用した「メルカトーネ・ウノ」、そして「ドイチェ・テレコム」のジャージなどが印象深いです。ビブパットも進化し、ジェルも登場。サイクリストたちの誰もが経験する股ずれという悩みが、かなり軽減されるようになりました。この時代からチームジャージが安い価格で購入できるようになり、ファン向けにチームジャージのレプリカの販売がスタートしました。

カーボン繊維入りのサイクルウエア (Nalini提供)カーボン繊維入りのサイクルウエア (Nalini提供)

 現在、新素材が次から次へ開発され、毎年サイクルジャージが進化を遂げています。最先端の技術はカーボン繊維。過酷なシーンが多いスポーツだけあって、より軽く、より空気抵抗の少ないもの、より清潔なジャージを求めるのも自転車競技の特徴です。

温故知新のウール回帰

ヴィンテージバイクイベントの増加に伴う再登場したウールジャージ(Santini SMS提供)ヴィンテージバイクイベントの増加に伴う再登場したウールジャージ(Santini SMS提供)

 最近ブームとなっているヴィンテージバイクを対象としたサイクリングイベントやツイードライドの影響で、ウールジャージが再び注目を集めています。カラフルなポリエステル素材のジャージと比べてデザインには制約があるものの、逆に温かみのある色合いとそのシンプルさで人気を集めています。日本国内でも見かけるようになりました。

 さて、3カ月後には恒例となった新チームジャージの「ファッションチェック」の季節がやってきます。その前にレース会場でどのような素敵なジャージに出会うか楽しみです。

マルコ・ファヴァロMarco FAVARO(マルコ・ファヴァロ)

東京都在住のサイクリスト。イタリア外務省のサポートの下、イタリアの言語や文化を世界に普及するダンテ・アリギエーリ協会や一般社団法人国際自転車交流協会の理事を務め、サイクルウエアブランド「カペルミュール」のモデルや、欧州プロチームの来日時は通訳も行う。日本国内でのサイクリングイベントも企画している。ウェブサイト「チクリスタインジャッポーネ

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