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福光俊介の「週刊サイクルワールド」<175>ブエルタ2016総括 冴え渡ったキンタナの勝負勘と次のステージへ向かうフルーム

by 福光俊介 / Syunsuke FUKUMITSU
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 情熱の国・スペインを舞台とするブエルタ・ア・エスパーニャは、9月11日に2016年大会が終了。多くのビッグネーム、さらにはわれらが別府史之(トレック・セガフレード)、新城幸也(ランプレ・メリダ)の出場もあり、いつもに増して注目度の高かった今大会。ここでは、いま一度総合争いに目を向け、王者の証・マイヨロホに袖を通したナイロアレクサンデル・キンタナ(コロンビア、モビスター チーム)らの戦いぶりを振り返っていきたい。

総合表彰台で健闘を称えあうナイロアレクサンデル・キンタナ(中央)とクリストファー・フルーム(左)。右はヨアンエステバン・チャベス =ブエルタ・ア・エスパーニャ2016第21ステージ、2016年9月11日 Photo: Yuzuru SUNADA総合表彰台で健闘を称えあうナイロアレクサンデル・キンタナ(中央)とクリストファー・フルーム(左)。右はヨアンエステバン・チャベス =ブエルタ・ア・エスパーニャ2016第21ステージ、2016年9月11日 Photo: Yuzuru SUNADA

追うべきライバルを読みきったキンタナ

 総合優勝のキンタナ。体調不良で力を発揮しきれず終わったツール・ド・フランスからの短期間での立て直しに成功し、本来の実力を見せたのはさすがだ。プロトンのトップに立つ選手でも、その多くがグランツール連戦でのコンディション調整の難しさや疲労に苦しめられるが、不調ながらも総合3位とまとめたツール以上の成果をブエルタで残した点は、賞賛に値する。

要所でタイムを稼いだナイロアレクサンデル・キンタナ。第10ステージではコバドンガの上りを制覇した =2016年8月29日 Photo: Yuzuru SUNADA要所でタイムを稼いだナイロアレクサンデル・キンタナ。第10ステージではコバドンガの上りを制覇した =2016年8月29日 Photo: Yuzuru SUNADA

 キンタナ個人で見ると、要所でタイムを稼いだことが勝因だといえる。大会前からクリストファー・フルーム(イギリス、チーム スカイ)を最大のライバルだと公言し、チェックを徹底。激坂カンペローナ峠の第8ステージでは、フルームとの直接対決を制して33秒のリードを確保。

 ブエルタの象徴ともいえる上り、コバドンガで勝負となった第10ステージでは優勝し、マイヨロホを磐石なものとした。上り始めで出遅れたフルームを置き去りにし、ライバルの1人であるアルベルト・コンタドール(スペイン、ティンコフ)とフィニッシュ手前まで協調。このステージに限らず、他選手の力を上手く利用しながら戦うクレバーさも光る。

 そうした走りから流れを完全につかんだのが、フォルミガルを目指した第15ステージ。コンタドールの動きが発端となったティンコフとモビスター チームの奇襲作戦。展開を読み、真っ先に乗じたキンタナにとっては、最終的な勝利が見えてきた瞬間だったかもしれない。ここでフルームに2分40秒差をつけ、総合で3分37秒差としたことは、最終週に控えた個人タイムトライアル(TT)の走りを楽なものとした。

第15ステージで先頭グループを走るナイロアレクサンデル・キンタナ。奇襲作戦が奏功し、大きくタイムを稼いだ =2016年9月4日 Photo: Yuzuru SUNADA第15ステージで先頭グループを走るナイロアレクサンデル・キンタナ。奇襲作戦が奏功し、大きくタイムを稼いだ =2016年9月4日 Photo: Yuzuru SUNADA

 第14ステージまでのキンタナとフルームの総合タイム差は54秒。37km個人TTで争われた第19ステージでは、圧勝したフルームがキンタナとの差を1分21秒に縮めている。これだけですべての判断はできないが、数字上では第15ステージが最終結果を左右したこととなる。

ブエルタ終了後、モビスター チームと2019年までの契約延長に合意したナイロアレクサンデル・キンタナ(右端)。なお、チームもテレフォニカ社と2019年までのスポンサー契約延長に至った Photo: Movistar Teamブエルタ終了後、モビスター チームと2019年までの契約延長に合意したナイロアレクサンデル・キンタナ(右端)。なお、チームもテレフォニカ社と2019年までのスポンサー契約延長に至った Photo: Movistar Team

 そして、キンタナを勝利に導いたチームの力を見過ごすわけにもいかない。スペイン唯一のトップカテゴリーチームとして、地元レースに臨むうえでの責任を果たすべく現状でのベストメンバーを配備。キンタナが攻撃を成功させたステージにおいては、山岳アシスト陣が態勢を整え、大会終盤まで自らも総合上位につけていたアレハンドロ・バルベルデ(スペイン)がライバルの抑え役を買って出るなど、各選手が役割をまっとうした。

 ちなみに、キンタナは今大会終了後、チームとの2019年までの契約延長に合意。2017年までの契約は結んでいたが、さらに2年チームとともに歩むことが決まった。長年チームを支えてきたバルベルデが36歳と大ベテランの域に達している現状にあって、キンタナが次なるチームのシンボルとなることは確実だ。

負けてなお強し フルームの新たな野望

 キンタナに敗れたフルームは、ブエルタ5回目の出場で3度目の総合2位。今回も総合優勝にはあと一歩、手が届かなかった。要所でことごとく攻撃を成功させたキンタナに対し、重要な局面で出遅れるケースもあったフルーム。それでも、第1ステージのチームTTを含めてステージ3勝を挙げたインパクトと、総合2位とまとめた走りはプロトン随一のオールラウンダーあってのものだ。

総合優勝こそならなかったが、すがすがしい表情のクリストファー・フルーム(左)。ダブル・ツールという新たな野望が生まれた =ブエルタ・ア・エスパーニャ2016第21ステージ、2016年9月11日 Photo: Yuzuru SUNADA総合優勝こそならなかったが、すがすがしい表情のクリストファー・フルーム(左)。ダブル・ツールという新たな野望が生まれた =ブエルタ・ア・エスパーニャ2016第21ステージ、2016年9月11日 Photo: Yuzuru SUNADA

 前回触れた点として、フルームが大会を通じて終始キンタナを追う状況にあったことや、アシストを含めたチーム力から、ライバルたちの不意をつく動きに対して追撃を試みなければならないなど、勝負をするうえで全体的に後手に回ってしまった点は否めない。それもあって、最後の山岳を前にアシスト数人が力尽きてしまったケースもあった。アシストを利用しながら力をため、重要局面で爆発的なアタックでレースを決めてきたフルームにとっては、勝ちパターンに持ち込むことが難しかった。

 とはいえ、敗れてなお強しの印象は強い。フルームもこの結果には悲観してはいないようだ。何より、タフな戦いにも対応できる手ごたえをつかんだ様子。同年にツール、ブエルタを制覇する「ダブル・ツール」を現実的な目標に定めたいとし、2017年シーズンのターゲットに据える構えだ。もっとも今シーズン、ツール総合優勝、リオ五輪個人TT銅メダル、そしてブエルタ総合2位と、ビッグレースの連戦で結果を残したことで自信をつけたようだ。

個人TTの改善が課題のチャベスとイェーツ

 第20ステージ、残り45kmからのアタックを成功させて総合表彰台の一角をゲットしたヨアンエステバン・チャベス(コロンビア、オリカ・バイクエクスチェンジ)。ステージ優勝こそなかったが、総合3位とまとめたことにより、同2位と躍進したジロ・デ・イタリアに続く、年間2つ目のグランツール表彰台となった。

ジロ・デ・イタリアに続くグランツール表彰台のヨアンエステバン・チャベス。課題は個人タイムトライアルでの走りだ =ブエルタ・ア・エスパーニャ第19ステージ、2016年9月9日 Photo: Yuzuru SUNADAジロ・デ・イタリアに続くグランツール表彰台のヨアンエステバン・チャベス。課題は個人タイムトライアルでの走りだ =ブエルタ・ア・エスパーニャ第19ステージ、2016年9月9日 Photo: Yuzuru SUNADA

 今大会はジロで見せたほどのインパクトはなかったが、ピュアクライマーらしく山岳で力を発揮。キンタナやフルームからはたびたび遅れを喫したが、難関山岳ではハイアベレージの走りだったことは確か。

 ここ最近の走りを見る限り、グランツール総合優勝はいつでも狙えるだろう。課題となるのはTTでの走りとなる。第19ステージでは優勝したフルームから3分13秒遅れ。キンタナとも1分近い差を空けられており、同国であり同い年の友人との差を縮めるには、個人TTの大幅改善が求められる。なお、今年のジロ第9ステージ(40.4km個人TT)でも、雨の中とはいえトップから3分48秒もの大差をつけられていた。

 かねてからのスプリントやクラシックでの強さに加え、総合系チームとしての色も濃くなっているオリカ・バイクエクスチェンジだが、TTの改善は、今大会で総合6位に入ったサイモン・イェーツ(イギリス)にも当てはまる。第14ステージでは、逃げグループで前待ちをしたアシスト陣と息を合わせて奇襲作戦を成功させたが、今後は山岳とTT両面で力を発揮できるとグランツールでも脅威の存在となるはずだ。

今週の爆走ライダー-オマール・フライレ(スペイン、ディメンションデータ)

「爆走ライダー」とは…

1週間のレースの中から、印象的な走りを見せた選手を「爆走ライダー」として大々的に紹介! 優勝した選手以外にも、アシスト や逃げなどでインパクトを残した選手を積極的に選んでいきたい。

 得意とする山岳逃げは、今年のブエルタでも健在だった。

 大会の序盤は意図的にメイン集団から遅れ、総合争いとは関係ないポジションに位置。その後のステージで逃げを容認してもらえるよう、準備を整えた。山岳賞のモンターニャ獲得に向けて本格的に動き出したのは、大会中盤から。ポイントが多く稼げるステージを定めて、逃げグループへと潜り込んだ。その嗅覚たるや、誰にも真似ができない。

山岳賞ジャージを着用するオマール・フライレ。大会中盤から山岳ポイントを稼ぎ続けた =ブエルタ・ア・エスパーニャ第11ステージ、2016年8月31日 Photo: Yuzuru SUNADA山岳賞ジャージを着用するオマール・フライレ。大会中盤から山岳ポイントを稼ぎ続けた =ブエルタ・ア・エスパーニャ第11ステージ、2016年8月31日 Photo: Yuzuru SUNADA

 見事に決めた2年連続のブエルタ山岳賞。元々は独走力に定評があり、アンダー23(23歳未満)カテゴリー時代は、個人TTでスペイン代表にも選出されたことがある。とはいえ、スペイン国内でもそれほど有名な選手ではなかった。それが一躍名を売ったのが、昨年のブエルタでの山岳賞獲得だった。山岳賞ジャージで姿を現すと、スペインのファンが大歓声。本人は突然の人気上昇に驚きつつも、素直に喜び、力へと変えた。

 山岳賞スペシャリストの趣きが強くなった彼だが、それでも今年のモンターニャ獲得は昨年とは違った感慨があるようだ。現チームへと移籍した今シーズン、思うように実力が発揮できず苦しんだからだ。出場するレースではリタイア続き。ジロも第5ステージでバイクを降りていた。苦悩した前半戦を乗り越えてつかんだ勲章だけに、「やっとチームの一員になった気がする」と目を輝かせた。

 筆者が昨年のブエルタを取材した際、山岳賞争いでトップに立っていた彼に取材を求めたのだけれど、英語が話せないとのことで一言二言のやりとりで終わってしまった経緯がある。だから、英語圏の選手が多いディメンションデータに移籍すると聞いたときに、コミュニケーション面で大丈夫かと心配したのだが、今回の活躍を見る限り杞憂だったよう。もっとも、勉強して英語をマスターしているのかもしれない。

 「チームの一員になった」実感を得たことで、今後は活躍の場も広がりそうだ。持ち前の独走力と登坂力でどこまでチームを引き上げられるか、注目しておこう。

マドリードの総合表彰台で祝福を受けるオマール・フライレ。不調を乗り越えての活躍に「やっとチームの一員になれた」と感激もひとしおだ =ブエルタ・ア・エスパーニャ2016第21ステージ、2016年9月11日 Photo: Yuzuru SUNADAマドリードの総合表彰台で祝福を受けるオマール・フライレ。不調を乗り越えての活躍に「やっとチームの一員になれた」と感激もひとしおだ =ブエルタ・ア・エスパーニャ2016第21ステージ、2016年9月11日 Photo: Yuzuru SUNADA
福光俊介福光俊介(ふくみつ・しゅんすけ)

サイクルジャーナリスト。自転車ロードレース界の“トップスター”を追い続けて十数年、気がつけばテレビやインターネットを介して観戦できるロード、トラック、シクロクロス、MTBをすべてチェックするレースマニアに。現在は国内外のレース取材、データ分析を行う。自転車情報のFacebookページ「suke’scycling world」も充実。UCIコンチネンタルチーム「キナンサイクリングチーム」メディアオフィサー。

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