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福光俊介の「週刊サイクルワールド」<174>最終週を迎えるブエルタ 命運分ける個人TTと山岳ステージ

by 福光俊介 / Syunsuke FUKUMITSU
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 2016年最後のグランツール、ブエルタ・ア・エスパーニャは泣いても笑っても残すは5ステージ。近年にも増してビッグネームがそろい、期待に違わない好勝負が展開されてきたが、いよいよ戦いの終わりが見えてきた。今回も、ここまでのレースを振り返りつつ、最終週の展望をお届けしたい。

ブエルタ・ア・エスパーニャ2016で総合争いを繰り広げるナイロアレクサンデル・キンタナ(左)とクリストファー・フルーム =ブエルタ・ア・エスパーニャ2016第14ステージ、2016年9月3日 Photo: Yuzuru SUNADAブエルタ・ア・エスパーニャ2016で総合争いを繰り広げるナイロアレクサンデル・キンタナ(左)とクリストファー・フルーム =ブエルタ・ア・エスパーニャ2016第14ステージ、2016年9月3日 Photo: Yuzuru SUNADA

エースとチームの勢いを反映した「奇襲作戦」

 今大会第2週のハイライトは、ピレネー山脈で見られた有力チームの奇襲戦法にあるだろう。超級山岳オービスク峠を目指したクイーンステージの第14ステージでは、オリカ・バイクエクスチェンジが第2エースのサイモン・イェーツ(イギリス)の引き上げに成功。続く第15ステージでは、大きな逃げに加わったマイヨロホのナイロアレクサンデル・キンタナ(コロンビア、モビスター チーム)と、アルベルト・コンタドール(スペイン、ティンコフ)率いる両チームによる先行逃げ切り。いずれも、苦しい立場に置かれてしまったのは、クリストファー・フルーム(イギリス)擁するチーム スカイだった。

マイヨロホのナイロアレクサンデル・キンタナは、ブエルタ第15ステージで逃げに乗り、今後の戦いを優位なものとした =2016年9月4日 Photo: Yuzuru SUNADAマイヨロホのナイロアレクサンデル・キンタナは、ブエルタ第15ステージで逃げに乗り、今後の戦いを優位なものとした =2016年9月4日 Photo: Yuzuru SUNADA

 結果的に、エースとチームの勢いが反映された形と言えそうだ。現時点でリーダーチームであるモビスター チームは、第2エースだったアレハンドロ・バルベルデ(スペイン)が第14ステージで突然の不調に陥る「バッドデイ」に当たったことにより、完全にアシストへシフト。かえってこれが奏功し、翌日の第15ステージではキンタナらを逃がし、自らはメイン集団の抑え役として貢献。開幕前から随一のチーム力といわれた9人の働きが噛み合っていることも大きい。

 ティンコフは、開幕当初の不調や落車による負傷で苦しんだコンタドールが徐々に復調。すでに総合優勝という目標から、上位進出やステージ優勝との狙いに切り替えつつあるが、絶対エースが持つターゲットに沿うべく、アシストも堅実な働きを見せている。

総合3位のヨアンエステバン・チャベスと同5位のサイモン・イェーツ(写真)が引っ張るオリカ・バイクエクスチェンジも、第14ステージで作戦を成功させた =2016年9月3日 Photo: Yuzuru SUNADA総合3位のヨアンエステバン・チャベスと同5位のサイモン・イェーツ(写真)が引っ張るオリカ・バイクエクスチェンジも、第14ステージで作戦を成功させた =2016年9月3日 Photo: Yuzuru SUNADA

 ここまで総合3位につけるヨアンエステバン・チャベス(コロンビア)と同5位のイェーツが引っ張るオリカ・バイクエクスチェンジは、クライマー揃いとはいえないアシスト戦力だが、序盤からの逃げに選手を送り込み、レース後半に追いついてきたエースを支える「前待ち戦法」で対処。第14ステージでは、イェーツを迎えるタイミングがぴったりと合い、チーム全体として大成功となった。

 第15ステージでは、キンタナやコンタドールらの動きに合わせられなかったものの、遅れを最小限にとどめ、両者とも上位進出へは高い可能性を残している。

総合2位のクリストファー・フルームは、第14・15ステージでライバルの動きに乗り遅れ、苦しい展開に =2016年9月4日 Photo: Yuzuru SUNADA総合2位のクリストファー・フルームは、第14・15ステージでライバルの動きに乗り遅れ、苦しい展開に =2016年9月4日 Photo: Yuzuru SUNADA

 一方で、難しい展開となってしまったのが、チーム スカイ。ピレネーでの2日間は、いずれも後手に回ってしまった。すでに1人リタイアしてはいるものの、戦力的にはライバルチームと比較しても劣っておらず、むしろ充実のメンバー構成。だが、他チームの不意をつく動きに対して遅れを喫するのは、エースのフルームが現状総合2位につけていることや、チーム力などから追わなければいけない立場にあるからだと見ることができる。

 その結果、アシストが消耗し、第15ステージのようにフルームが早々に単騎になってしまう。フルームやチーム スカイが追わなければいけない展開であれば、同様に乗り遅れたチームとしてもまずは彼らに任せたうえで、次の一手を講じるのが得策だ。

 何より、フルームがツール・ド・フランス、リオデジャネイロ五輪、そしてブエルタと連戦となり、ツールのときほどの勢いがないことは確か。過去にはツールで同様にライバルたちの奇襲を最終的に力でケアしたことがあると考えると、現時点ではいまひとつ流れをつかみきれていない。それでも、第2週を終えて総合2位につけるあたりはさすがではあるが。

 どのステージも最終局面はエース同士の勝負となるが、全体を見通せば、チーム間の思惑と駆け引きが現れた第2週の戦いだった。

マイヨロホのカギとなる37km個人タイムトライアル

 残すところ5ステージのブエルタ。各ステージの概要は後述するとして、最終日にマドリードで総合優勝の証であるマイヨロホに誰が袖を通すのか占っていきたい。

 トップに立つキンタナは、総合優勝するうえで必要なポイントとして、第19ステージまでにフルームに対し3分のリードを得ておくことと述べていた。このステージは37kmの個人タイムトライアル。TTの走りに改善が見られるキンタナとは言えど、長距離個人TTを得意とするフルーム相手では大差で敗れる可能性も否定はできない。そこで、キンタナ自身が安全圏として3分をノルマとした。

 そして、第15ステージの快走により必要なリードを確保。フルームとの差は3分37秒だ。タイム差だけでいえば、ここまで狙い通りであり、チーム全体でパーフェクトな展開を構築した。同時に、第3週のスタートとなる第17ステージ、続く第18ステージでタイムを失わないよう慎重に走ることが求められる。

 総合2位のフルームは、「最後まで総合優勝は諦めない」と宣言。ツールとの「ダブルツール」達成に向けて、キンタナとの差をどう縮めていくかが重要だ。

総合ジャンプアップの可能性が残されているヨアンエステバン・チャベス =ブエルタ・ア・エスパーニャ2016第15ステージ、2016年9月4日 Photo: Yuzuru SUNADA総合ジャンプアップの可能性が残されているヨアンエステバン・チャベス =ブエルタ・ア・エスパーニャ2016第15ステージ、2016年9月4日 Photo: Yuzuru SUNADA

 第3週のステージ構成は、第18、21ステージが平坦。総合争いは実質残り3ステージということになる。第17ステージは1級山岳頂上フィニッシュではあるものの、最後の登板がラスト3.8kmと短い。同じく山岳の第20ステージは、超級アイタナ山の頂上フィニッシュだが、これが21kmの上り。ターゲットとなるキンタナのコンディションからすると、1つのステージでいまあるタイム差を逆転することは難しい。

 3つのステージをトータルで形勢をひっくり返すことが現実的ではある。こんなことは考えるべきではないが、キンタナにバッドデイが訪れない限り、差を縮める、さらには逆転するのは容易ではない。いずれにせよ、得意のタイムトライアルでどこまで迫ることができるかにかかっている。

復調傾向にあるアルベルト・コンタドール。個人タイムトライアルでの挽回なるか =ブエルタ・ア・エスパーニャ第14ステージ、2016年9月3日 Photo: Yuzuru SUNADA復調傾向にあるアルベルト・コンタドール。個人タイムトライアルでの挽回なるか =ブエルタ・ア・エスパーニャ第14ステージ、2016年9月3日 Photo: Yuzuru SUNADA

 もちろん、総合争いの行方はキンタナとフルームに限られたものではない。第2週を終えた段階で、フルームから総合3位チャベスまでが20秒、さらに5秒差で4位コンタドールと、総合表彰台争いも熾烈だ。好調のイェーツもコンタドールから1分5秒差で総合5位と、レース展開によっては彼らが一気にシャッフルすることも考えられる。

 チャベスとイェーツのオリカコンビがそろって攻勢に出るか、コンタドールの回復具合、そして本来得意とする個人タイムトライアルでの走りがいかなるものか、まだまだ楽しみは尽きない。

 その他個人賞では、ポイント賞のプントスでバルベルデが首位。2位にキンタナが続き、ファビオ・フェッリーネ(イタリア、トレック・セガフレード)がバルベルデと17ポイント差の3位。

 山岳賞のモンターニャでは、ケニー・エリッソンド(フランス、エフデジ)が首位に立つが、同賞2連覇を目指すオマール・フライレ(スペイン、ディメンションデータ)が8ポイント差で追う。山岳ステージでの勝利も狙えるだけの登板力を持つエリッソンドと、レース巧者のフライレとの勝負は、今後のステージでも楽しめるはずだ。

ブエルタ第17~21ステージの見どころ

●9月7日(水) 第17ステージ カステリョン~ルセーナ.カミンス・デル・ペニャゴロサ 177.5km

ブエルタ・ア・エスパーニャ2016第17ステージコースプロフィール © Unipbulicブエルタ・ア・エスパーニャ2016第17ステージコースプロフィール © Unipbulic

 華やかなブエルタの戦いは、最終週を迎える。前半から中盤にかけて2級山岳2つ、3級山岳1つを超えるが、何よりも最後に待ち構える1級山岳カミンス・デル・ペニャゴロサがこの1日のすべてとなるはずだ。フィニッシュ前3.8kmで平均勾配12.5%の上り。ラスト1kmを切って最大勾配21%の激坂が控えるほか、20%前後の区間が数多くあることは、休息日明けの選手たちで思いがけずリズムを崩してしまう選手が現れるかもしれない。

●9月8日(木) 第18ステージ レケナ~ガンディア 200.6km

ブエルタ・ア・エスパーニャ2016第18ステージコースプロフィール © Unipbulicブエルタ・ア・エスパーニャ2016第18ステージコースプロフィール © Unipbulic

 最終日の第21ステージを除くと、これが最後の平坦ステージ。前半の2級山岳は、スプリンターにとって大きな問題ではないだろう。まずは、逃げを行かせすぎず、フィニッシュ手前までに確実にキャッチできるよう準備を整えておかねばならない。そして、総合系ライダーたちにとっては恵みの1日。翌日に控える個人TTに向けて、無難にこの日を終わらせておきたい。

●9月9日(金) 第19ステージ サビア~カルプ 37km個人タイムトライアル

ブエルタ・ア・エスパーニャ2016第19ステージコースプロフィール © Unipbulicブエルタ・ア・エスパーニャ2016第19ステージコースプロフィール © Unipbulic

 長距離個人TTは、グランツールにおいて総合争いの行方を左右するのが常。もちろん、今大会も同様だ。幾分アップダウンがあるものの、おおむね平坦と見てよいだろう。TTスペシャリストの見せ場ともなりそうだ。そして、このステージでマイヨロホを手にする選手が、残るステージを優位に戦えるはず。

●9月10日(土) 第20ステージ ベニドルム~アルト・デ・アイタナ.エスカドロン・エヘルシト・デル・アイレ 193.2km

ブエルタ・ア・エスパーニャ2016第20ステージコースプロフィール © Unipbulicブエルタ・ア・エスパーニャ2016第20ステージコースプロフィール © Unipbulic

 事実上、総合争いはこのステージで最後となる。目指すは、スペイン南部・バレンシア州のシンボルの1つであるアルト・デ・アイタナ。主催者は最後の最後に超級山岳を選手たちに課した。頂上のフィニッシュまでは21kmと長いが、平均勾配5.9%とクライマーにとっては極端に難易度が高いわけではない。したがって、レースを動かしたい選手にとっては、序盤から続く4つの2級山岳でアシストとともにアクションを起こさなければならない。また、山岳ポイントを多く稼げるステージとあって、モンターニャ争いも見もの。そして、このステージを終えた時点で情熱の赤いマイヨロホに袖を通した選手が、今年のブエルタ総合優勝に王手をかける。

●9月11日(日) 第21ステージ ラス・ロサス~マドリード 104.8km

ブエルタ・ア・エスパーニャ2016第21ステージコースプロフィール © Unipbulicブエルタ・ア・エスパーニャ2016第21ステージコースプロフィール © Unipbulic

 8月20日に幕を開けたブエルタ2016は、ついにこの日最終日となる。スペイン北部と東部を中心に、一時フランスへも入国しながら進んだプロトンは、いよいよ首都マドリードへと帰還する。マドリードまでは、ほぼパレード走行状態で進行し、マドリード市街地に入ってからレースが本格化する。市街地のサーキットは9周回。一見平坦のように思えるが、意外とアップダウンの繰り返しだというのが選手評。恒例のスプリント勝負とはいえ、一筋縄ではいかない。そして、フィニッシュと同時に今大会の各賞が決定。総合優勝のマイヨロホをはじめ、受賞者はポディウムで栄光に浸ることとなる。

●女子レース「マドリードチャレンジ・バイ・ラ・ブエルタ」 9月11日 87km

2015年に初開催された女子レース「マドリードチャレンジ・バイ・ラ・ブエルタ」 © A.S.O.2015年に初開催された女子レース「マドリードチャレンジ・バイ・ラ・ブエルタ」 © A.S.O.

 「もう1つのブエルタ」として押さえておきたいのが、ブエルタ第21ステージのマドリード市街地コースを使って行われる女子レース。その名も「マドリードチャレンジ・バイ・ラ・ブエルタ」。1周5.8kmを15周回する87kmで争われる。ツール最終ステージと同日に行う女子レース「ラ・クルス・バイ・ル・ツール・ド・フランス」と同様に、将来的な女子グランツールの開催を目指す、試験的な意味合いを持つレースでもある。今シーズンのUCIウィメンズワールドツアーの1つとされ、スプリント勝負となることが予想される。なお、昨年はシェリー・オールズ(アメリカ、現サイランスプロサイクリング)が優勝し、初代女王に輝いた。

今週の爆走ライダー-ジャンルーカ・ブランビッラ(イタリア、エティックス・クイックステップ)

「爆走ライダー」とは…

1週間のレースの中から、印象的な走りを見せた選手を「爆走ライダー」として大々的に紹介! 優勝した選手以外にも、アシスト や逃げなどでインパクトを残した選手を積極的に選んでいきたい。

 今シーズン2つ目となるグランツール参戦となるブエルタ。注目が集まった第15ステージでは、最後にキンタナをかわしてステージ優勝。5月のジロ・デ・イタリアでも1勝を挙げており、今年出場したグランツールではいずれも勝利を収めたことになる。

ブエルタ第15ステージで勝利を挙げたジャンルーカ・ブランビッラ。ジロでのステージ優勝と合わせ、今シーズンはグランツールで2勝している =2016年9月4日 Photo: Yuzuru SUNADAブエルタ第15ステージで勝利を挙げたジャンルーカ・ブランビッラ。ジロでのステージ優勝と合わせ、今シーズンはグランツールで2勝している =2016年9月4日 Photo: Yuzuru SUNADA

 イタリアの名門アマチュアチーム「ザルフ」時代からタイトルを総なめにし、大きな期待を背負ってプロ入りしたのが2010年。プロコンチネンタルチームのコルナゴ・CSFイノックス(現バルディアーニ・CSF)時代から結果を残し続け、2012年のジロでは総合13位。このときは、ドメニコ・ポッツォヴィーヴォ(イタリア、現アージェードゥーゼール ラモンディアル)へのアシストぶりが光った。

 トップチーム入りが秒読みと言われた中で選んだ現チームは、2013年シーズンから。しばらくはアシストとして走ってきたが、昨年のブエルタ総合13位、イル・ロンバルディア10位を境に、結果を求めて走るチャンスが増えてきた。今年のジロではマリアローザ着用2日、そして若きエースのボブ・ユンゲルス(ルクセンブルク)を総合6位に送り込むアシストぶり。その後のイタリア選手権でもロードレース2位と好走を続けてきた。

ブエルタ第10ステージで力走するジャンルーカ・ブランビッラ。山岳アシストとしても真価を発揮する =2016年9月29日 Photo: Yuzuru SUNADAブエルタ第10ステージで力走するジャンルーカ・ブランビッラ。山岳アシストとしても真価を発揮する =2016年9月29日 Photo: Yuzuru SUNADA

 彼のことを語るとき、どうしても出てくるのが2014年のブエルタ第16ステージで起こした、イヴァン・ロヴニー(ロシア、ティンコフ)とのレース中の乱闘事件。思わぬ形で名を売ってしまったわけだが、着実に力をつけて実力でその存在が認められるまでに至っている。もう怒ったりせずとも、プロトン内でのリスペクトは得られていてもよさそうだ。

 今大会は自身の結果も残して充実しているところだが、残すミッションは総合9位につけるダビ・デラクルス(スペイン)を総合上位へと送り込むこと。勝利した第15ステージでは、デラクルスのアシストが大きかったと述べるだけに、今度はそのお返しをしておきたい。クライマーとしての真価を発揮する場は、もう少し残されている。

福光俊介福光俊介(ふくみつ・しゅんすけ)

サイクルジャーナリスト。自転車ロードレース界の“トップスター”を追い続けて十数年、気がつけばテレビやインターネットを介して観戦できるロード、トラック、シクロクロス、MTBをすべてチェックするレースマニアに。現在は国内外のレース取材、データ分析を行う。自転車情報のFacebookページ「suke’scycling world」も充実。UCIコンチネンタルチーム「キナンサイクリングチーム」メディアオフィサー。

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