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福光俊介の「週刊サイクルワールド」<173>ブエルタ第1週終了 来るピレネーに向けて勝負のポイントを押さえる

by 福光俊介 / Syunsuke FUKUMITSU
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 盛り上がりを見せるブエルタ・ア・エスパーニャは第10ステージまでが終了。実質第1週を終えたことになる。「山岳のブエルタ」らしく、大会前半から総合争いを意識した有力選手たちの走りが見られた。そして迎えるは、ピレネー山脈が舞台となる第2週。いよいよマイヨロホの行方が見えてくるであろう、勝負のポイントを押さえていこう。

ブエルタ第10ステージ、超級山岳コバドンガで圧倒的な走りを見せたナイロアレクサンデル・キンタナ。第1週を終えて大きなリードを築いた =2016年8月29日 Photo: Yuzuru SUNADAブエルタ第10ステージ、超級山岳コバドンガで圧倒的な走りを見せたナイロアレクサンデル・キンタナ。第1週を終えて大きなリードを築いた =2016年8月29日 Photo: Yuzuru SUNADA

早くもキンタナの圧勝ムード? 当の本人は・・・

 ブエルタ第1週を終えて、総合首位に立つのはナイロアレクサンデル・キンタナ(コロンビア、モビスター チーム)。大きなミスなくステージを進めていき、第8ステージで今大会1回目のマイヨロホ獲得。一度はジャージを手放すが、2日後の第10ステージで改めてその座を確たるものとした。このステージでの頂上フィニッシュとなったコバドンガで見せた圧倒的な走りは、メイン集団からほぼ同時に仕掛けたアルベルト・コンタドール(スペイン、ティンコフ)との共闘を持ちかける(ように見えた)余裕を見せつつも、結果的にライバルを圧倒する走りとなった。

 大会の開幕からレースを追っている方であれば、総合優勝候補の中でもキンタナの状態が現時点でもっとも優れていることが分かったであろう。期待されたツール・ド・フランスではアレルギー反応により、力を発揮できずに敗戦。失意から心身ともに立ち直り、このブエルタに向けて短期間で再び戦える態勢にもってきたのはさすがだ。

ブエルタ第10ステージ終盤に独走するナイロアレクサンデル・キンタナ。大会第1週から見せる攻撃的な走りがライバルとの差を生んでいる =2016年8月29日 Photo: Yuzuru SUNADAブエルタ第10ステージ終盤に独走するナイロアレクサンデル・キンタナ。大会第1週から見せる攻撃的な走りがライバルとの差を生んでいる =2016年8月29日 Photo: Yuzuru SUNADA

 キンタナの戦い方におけるいくつかのポイントを挙げてみたい。1つ目は、第1週から攻撃的な走りに終始している点。かつては「第3週の男」のごとく、大会終盤に調子を上げ、ライバルとの差を広げる、またはライバルを追い上げる走りにインパクトが大きかったが、今大会はアシスト陣のお膳立てもあり早くも優位な状況を作り出した。これは、第1週でミスから遅れを喫し、大会終盤に追い上げたものの総合優勝には届かなかった過去の戦い方から課題を見出したのかもしれない。

 2つ目は、マークすべき選手を絞っている点。総合上位陣でも実力差が表れていたり、好不調の波が大きな選手がいることも関係しているかもしれないが、このあたりの勘の冴えは好調時のキンタナならではとも言えそうだ。キンタナ自身、「もっともマークすべき選手はクリストファー・フルーム(イギリス、チーム スカイ)だ」と明言。コバドンガではフルームが一時遅れたことで、チェックすべき相手をコンタドールにシフトするなど、厳しい山岳にあって冷静な走りも光る。

 何より、前述したアシスト陣の強力さもキンタナを支える要因ともなっている。すでに多くのステージでプロトンの主導権を握り、重要な山岳ではルーベン・フェルナンデス(スペイン)らクライマーがほぼ完璧な仕事ぶり。最終アシストには、自らも総合を狙うアレハンドロ・バルベルデ(スペイン)が控える。第1ステージのチームタイムトライアルでトップと同タイムの2位と、ライバルからアドバンテージを得たことも関係しているとはいえ、第1週を終えてキンタナとバルベルデが総合ワン・ツーに立つのは、個の力とあわせ、チーム状態のよさも示している。

ブエルタ第10ステージを終えてマイヨロホを手にしたナイロアレクサンデル・キンタナ。個人タイムトライアルで争われる第19ステージまでに3分のリードを得たいと考える =2016年8月29日 Photo: Yuzuru SUNADAブエルタ第10ステージを終えてマイヨロホを手にしたナイロアレクサンデル・キンタナ。個人タイムトライアルで争われる第19ステージまでに3分のリードを得たいと考える =2016年8月29日 Photo: Yuzuru SUNADA

 一見キンタナの圧勝ムードに思えてしまう展開だが、当の本人からは気の緩みはみられない。むしろ、フルームとの総合タイム差58秒を警戒しているほどだ。視線はすでに第3週へと向けていて、第19ステージを重要局面と見据える。なぜなら、この日は37kmの個人タイムトライアル。長距離TTはフルームの得意とするところであり、TTの改善が見られるキンタナとはいえど、ここでリードを守るためには前日までに3分差はほしいと述べる。ピレネー山岳の難関コースが主たる舞台となる第2週(後述)は、「3分差」を築くための足場作りとなる。

コバドンガで見えた有力選手たちのコンディション

 キンタナを追う選手たちも、このまま黙ってその差を広げられるわけにはいかない。

キンタナのアシストとして力を発揮するアレハンドロ・バルベルデ(右)。クリストファー・フルーム(中央)と同様に、連戦の疲れが気がかり =ブエルタ・ア・エスパーニャ2016第9ステージ、2016年8月28日 Photo: Yuzuru SUNADAキンタナのアシストとして力を発揮するアレハンドロ・バルベルデ(右)。クリストファー・フルーム(中央)と同様に、連戦の疲れが気がかり =ブエルタ・ア・エスパーニャ2016第9ステージ、2016年8月28日 Photo: Yuzuru SUNADA

 総合タイム差57秒で2位につけるバルベルデは、絶対的エースであるキンタナのためにサポートに徹する。もちろん、万に一つのケースでは“プランB”として発動する。また、ステージ争いがもつれる展開では、得意のスプリントで自ら勝利を狙う可能性もある。

 動向が注目されるのは、やはりフルームだ。キンタナを追う一番手であり、マイヨロホから直々のライバル指名も受けた。コバドンガでの脅威の追い上げをどう捉えるかは難しいところだが、一発ハマればその強さはキンタナやバルベルデといえど対応が難しくなる。

 一方で、2連覇したツール時ほどの調子にはないことは確か。今大会の第1週に限っては、ライバルを振り切るところまでは至らず、苦しみながらも遅れを最小限にとどめることに徹していた印象だ。

 バルベルデもフルームも、心配されるのは連戦による疲れ。ツール、リオデジャネイロ五輪と走り、そのままの流れでブエルタに臨んでいる。バルベルデに関しては5月のジロ・デ・イタリアも走っている。好不調の波がほとんどなく、現在も「大きなレースが続いていることはまったく問題ない」と述べるが、今後大崩れしないかは不安材料だ。

早くも総合表彰台最後の1枠争いが焦点に。総合4位につけるヨアンエステバン・チャベス(右)は上位進出をうかがう1人 =ブエルタ・ア・エスパーニャ2016第10ステージ、2016年8月29日 Photo: Yuzuru SUNADA早くも総合表彰台最後の1枠争いが焦点に。総合4位につけるヨアンエステバン・チャベス(右)は上位進出をうかがう1人 =ブエルタ・ア・エスパーニャ2016第10ステージ、2016年8月29日 Photo: Yuzuru SUNADA

 また、マイヨロホ争いとは別に、「3位争い」が焦点になりつつあるのも事実。キンタナとフルームの力が傑出している一方で、キンタナをアシストするバルベルデが今後タイムを落とす可能性があるとして、総合表彰台の残る1枠が誰になるのかといったもの。第1週を終えた時点で、総合4位のヨアンエステバン・チャベス(コロンビア、オリカ・バイクエクスチェンジ)がトップから2分9秒差。5位コンタドールが2分54秒差、6位レオポルド・ケニッグ(チェコ、チーム スカイ)が2分57秒差と、ここから好調のキンタナを逆転するのは非現実的だとの見方だ。とはいえ、総合3位とはいわず、さらに上位を狙うべく、後半ステージでは総合4位以下の選手たちの奮起にも期待したいところだ。

ブエルタ第11~16ステージの見どころ

●8月31日(水) 第11ステージ コルンガ.ジュラシックミュージアム~ペーニャ・カバルガ 168.6km

ブエルタ・ア・エスパーニャ2016第11ステージコースプロフィール © Unipbulicブエルタ・ア・エスパーニャ2016第11ステージコースプロフィール © Unipbulic

 第2週のスタート。ピレネーを目指し東へと針路をとる。今大会の第8ステージ同様、主催者が平坦ステージにカテゴライズしているが、ラスト5.6kmが平均勾配9.8%、最大勾配18%の1級山岳ペーニャ・カバルガとあって、総合争いに重要な1日となりそうだ。2011年には、この年総合優勝するファンホセ・コーボ(スペイン)とフルームが死闘を繰り広げた。

●9月1日(木) 第12ステージ ロス・コラレス・デ・ブエルナ~ビルバオ 193.2km

ブエルタ・ア・エスパーニャ2016第12ステージコースプロフィール © Unipbulicブエルタ・ア・エスパーニャ2016第12ステージコースプロフィール © Unipbulic

 プロトンはバスク自治州へ。ブエルタではおなじみのビルバオ周回コースは、2回通過する2級山岳アルト・エル・ヴィヴェロに注目。熱狂的なバスクの自転車ファンがコースをふさぐほどの勢いで押し寄せる。それに影響されて、ステージ優勝争い・総合争いともに熱い戦いとなるだろう。

●9月2日(金) 第13ステージ ビルバオ~ウルダクス-ダンチャリネア 213.4km

ブエルタ・ア・エスパーニャ2016第13ステージコースプロフィール © Unipbulicブエルタ・ア・エスパーニャ2016第13ステージコースプロフィール © Unipbulic

 この日最後となる4つ目の3級山岳を境に、フランスへと入国。フィニッシュ地点近く2周回したのち、スペインへと戻りフィニッシュする。上級山岳がなく、レース終盤の急坂通過もないため、展開次第で上れるスプリンターへのチャンスが膨らむ。

●9月3日(土) 第14ステージ ウルダクス-ダンチャリネア~オービスク-グレット 196.1km

ブエルタ・ア・エスパーニャ2016第14ステージコースプロフィール © Unipbulicブエルタ・ア・エスパーニャ2016第14ステージコースプロフィール © Unipbulic

 いよいよピレネーでの勝負が始まる。今大会のクイーンステージとの呼び声も高い1日は、スタート直後にフランスに入国。いずれも最大勾配10%を超える1級山岳を3つ通過し、最後に待ち受けるのがツール・ド・フランスでもおなじみのオービスク峠。登板距離16.5km、平均勾配7.1%、最大勾配15%の上りは、総合争いを大きく動かすには十分なスケール。有力選手間でも大差がつく可能性があり、このステージをものにした選手がマイヨロホ争いにおいて優位に立つだろう。

●9月4日(日) 第15ステージ サビニャニゴ~サジェント・デ・ガジェゴ.アラモン・フォルミガル 118.5km

ブエルタ・ア・エスパーニャ2016第15ステージコースプロフィール © Unipbulicブエルタ・ア・エスパーニャ2016第15ステージコースプロフィール © Unipbulic

 スペインに戻り、さらなる戦いへと進む。1級山岳頂上フィニッシュがポイントとなる。ラスト14.5kmからの上りは、平均勾配4.6%とあって総合上位陣にとってはそう難しくはないはず。したがって、勝負よりは脱落しないように注意が必要となりそうだ。また、レース距離が短く、スピードに富んだ展開となる可能性も高い。

●9月5日(月) 第16ステージ アルカニス~ペニスコラ 156.4km

ブエルタ・ア・エスパーニャ2016第16ステージコースプロフィール © Unipbulicブエルタ・ア・エスパーニャ2016第16ステージコースプロフィール © Unipbulic

 ピレネーに別れを告げ、地中海を目指す。レース後半の約65kmは下り基調。地中海沿いに出てからは完全にフラットと、コースレイアウト的にスプリンターが主役となりそうだ。2回目の休息日を前に、スプリンター以外の選手たちは静かに1日を終えたいところ。

今週の爆走ライダー-ダビ・デラクルス(スペイン、エティックス・クイックステップ)

「爆走ライダー」とは…

1週間のレースの中から、印象的な走りを見せた選手を「爆走ライダー」として大々的に紹介! 優勝した選手以外にも、アシスト や逃げなどでインパクトを残した選手を積極的に選んでいきたい。

 思いがけずめぐってきたマイヨロホ獲得のチャンス。総合でのジャンプアップを狙える位置でスタートしたブエルタ第9ステージだったが、実際は無欲で逃げグループに入ったとか。ステージ優勝とマイヨロホ獲得を意識し始めたのはレース中からだったが、メイン集団とのタイム差がそう大きくなかったことから、半信半疑でフィニッシュを目指していた。

ブエルタ第9ステージで勝利した瞬間のダビ・デラクルス。思いがけず舞い込んできた勝利だった =2016年8月28日 Photo: Yuzuru SUNADAブエルタ第9ステージで勝利した瞬間のダビ・デラクルス。思いがけず舞い込んできた勝利だった =2016年8月28日 Photo: Yuzuru SUNADA

 フィニッシュラインを通過するまでしっかりと踏み続け、手にした勝利とマイヨロホ。結果的に1日で手放すことになってしまったが、「決して簡単ではないが、ベストは尽くすつもりだ」と述べたとおり、第10ステージではアシスト陣がメイン集団をコントロールし、最後の山岳であるコバドンガでも粘りの走り。リーダージャージを着る者としての責任は果たした。

 元々は陸上競技の選手。けががきっかけで自転車競技に転向し、アマチュアレースで勝利を重ねた。プロ転向は2011年。華々しい成績を多数残してきたわけではないが、所属してきたチームではクライマーとして着実に自らの地位を築いてきた。

 地元のレースで栄光のリーダージャージに袖を通したばかりか、今大会ステージ3勝と好調のチームにも貢献。年齢も27歳と、これからのキャリアに期待がかかるが、「今後もチームメートのために働き続けるだろうね」と本人は至って冷静だ。

 そして、「まぁツイッターのフォロワー数が増える可能性がある以外は、僕は何も変わらないよ」と冗談めかしつつも謙虚さを失わないところが、マイペースなデラクルスらしさといえそうだ。

地元開催のグランツールでリーダージャージに袖を通したダビ・デラクルス。それでも、「僕は何も変わらない」と謙虚さを見せる =ブエルタ・ア・エスパーニャ2016第9ステージ、2016年8月28日 Photo: Yuzuru SUNADA地元開催のグランツールでリーダージャージに袖を通したダビ・デラクルス。それでも、「僕は何も変わらない」と謙虚さを見せる =ブエルタ・ア・エスパーニャ2016第9ステージ、2016年8月28日 Photo: Yuzuru SUNADA
福光俊介福光俊介(ふくみつ・しゅんすけ)

サイクルジャーナリスト。自転車ロードレース界の“トップスター”を追い続けて十数年、気がつけばテレビやインターネットを介して観戦できるロード、トラック、シクロクロス、MTBをすべてチェックするレースマニアに。現在は国内外のレース取材、データ分析を行う。自転車情報のFacebookページ「suke’scycling world」も充実。UCIコンチネンタルチーム「キナンサイクリングチーム」メディアオフィサー。

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