門田基志の欧州クロスカントリーマラソン遠征記<1>凸凹師弟コンビのヨーロッパ珍道中がスタート レース試走がなかなか進まない理由とは

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 マウンテンバイク・クロスカントリーの門田基志選手(チームジャイアント)が今年6~7月、自転車の本場・ヨーロッパへ3週間の遠征を、まな弟子の西山靖晃選手(焼鳥山鳥レーシング)とともに行いました。クロスカントリーマラソン(XCM)の、UCIシリーズ2戦とXCM世界選手権という、長距離レース3連戦。凸凹師弟コンビの珍道中、門田選手によるレポートを全6回でお届けします。

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3週間のクロスカントリー・マラソン欧州遠征を行った門田基志選手(左)と、門田選手のプライベートチームに所属する西山靖晃選手 Photo: Motoshi KADOTA3週間のクロスカントリー・マラソン欧州遠征を行った門田基志選手(左)と、門田選手のプライベートチームに所属する西山靖晃選手 Photo: Motoshi KADOTA

ノリと勢いの欧州2人旅に出発

膨大な荷物とともに遠征に出発 Photo: Motoshi KADOTA膨大な荷物とともに遠征に出発 Photo: Motoshi KADOTA

 毎年恒例のヨーロッパ遠征が始まった。カナダ帰りの弟子、西山を軽いノリで誘ってみると、何も考えてないのか勢いが良いのか、即答イエスの返事。ノリと勢いだけは負けない2人で、ヨーロッパ3週間の旅が始まる。

 海外遠征といえばまず飛行機移動での荷物との格闘となる。2人でバイク3台、100リットル超のスーツケース3個で合計100kg以上の荷物は、ANAの全面的な協力により無事にドイツ・フランクフルトに到着した…までは良かったが、空港内を移動するのが一苦労だった。

 レンタカーも何も考えず普通サイズを予約していて、空港のレンタカー会社のスタッフに「車種を変えた方が良いよ!」と言われてしまう。ちょうど良い車があって即変更。無事に空港から出発できた。

 ここから始まるのは総移動距離3000km、色気の無い男2人ヨーロッパ車の旅だ。遠征第1戦のUCIシリーズ戦に向け最初の目的地は、世界自然遺産ドロミテのセルヴァ・ディ・ヴァル・ガルデーナという町。今年ジロ・デ・イタリア第15ステージに登場したセラ峠とポルドイ峠に繋がる町で、700kmほどの移動となる。朝9時ごろに出発してアウトバーンをぶっ飛ばし、北イタリアの山岳を突破して目的地に到着したのは夜8時ごろだった。

容量たっぷりのバンのレンタカー。西山の初海外運転はアウトバーンに Photo: Motoshi KADOTA容量たっぷりのバンのレンタカー。西山の初海外運転はアウトバーンに Photo: Motoshi KADOTA
ドロミテのおすすめ宿、ホテル・コンドール Photo: Motoshi KADOTAドロミテのおすすめ宿、ホテル・コンドール Photo: Motoshi KADOTA

 ホテルは昨年のXCM世界選手権でお世話になったホテル・コンドール。オーナーもマウンテンバイクに乗り、サイクリストの気持ちをよく理解してくれる。電子ロック付きの保管庫があり、工具やメンテナンススタンドも充実していて、バイクの組み立てもすぐ完了した。サイクリストに優しいお勧め宿だ。ちなみに奥さんはスーパーモデル級のスタイルで超絶美人だ!

 食事もイタリアらしい食事が、毎晩日替わりで出されて嬉しい。男2人が快適に暮らせるように部屋の模様替え(ベッドの配置変更)をして、翌朝からの世界自然遺産を堪能する試走に備えた。

ホテルの電子ロック付き倉庫でバイクを組み立て Photo: Yasuaki NISHIYAMAホテルの電子ロック付き倉庫でバイクを組み立て Photo: Yasuaki NISHIYAMA
ホテルのオーナー夫妻と Photo: Motoshi KADOTAホテルのオーナー夫妻と Photo: Motoshi KADOTA

絶景、絶景、また絶景

ついつい記念写真タイムが… Photo: Motoshi KADOTAついつい記念写真タイムが… Photo: Motoshi KADOTA

 翌日のコース試走は、距離86km・獲得標高4500mを一気に走り切るつもりでスタートするも、絶景に負けた西山が写真撮影を始めてなかなか進まない。自分もこの景色には抗えず撮影タイムになってしまう。時間もあるので、この景色を日本に伝えるためにも…と言い訳をしつつ、絶景の中を時折止まりながら駆け抜ける。ダウンヒルしている時にも、視界に飛び込む景色は絶景で見とれてしまい、たびたびコースアウトしそうになり危険だ。

最初の頂上の絶景ポイントを駆け抜ける Photo: Motoshi KADOTA最初の頂上の絶景ポイントを駆け抜ける Photo: Motoshi KADOTA
絶景ダウンヒルはよそ見注意! Photo: Motoshi KADOTA絶景ダウンヒルはよそ見注意! Photo: Motoshi KADOTA

 このコースはスタートの町から山岳を越えて次の町に下るという事を繰り返し、4つの町を越え、いくつもの峠を乗り越えて最初の町に帰ってくる設定で、多くの町が協力しあって成り立っている。

 コース上の絶景スポットには、カフェやレストランが点在している。2つ目のピーク、カンポロンゴ峠へ向かう途中の絶景カフェに吸い込まれ、カプチーノを注文し更に試走時間ロスを余儀なくされるが仕方ない。お昼時には田舎町アラッバでイタリアンを食べた。これもヨーロッパ遠征の醍醐味なので外せない。

絶景カフェでカプチーノ Photo: Motoshi KADOTA絶景カフェでカプチーノ Photo: Motoshi KADOTA
アラッバでの昼食 Photo: Yasuaki NISHIYAMAアラッバでの昼食 Photo: Yasuaki NISHIYAMA

 昼食後、ポルドイ峠より更に標高の高い2351m地点のソウラサスを経由してポルドイに向かう。そこへ続く道は勾配20%を遥かに越える角度で、フロント24T・リア40Tでも思わず押しが入る程だ。

 その先は森林限界を越え、雪が残り空気が薄い事を体感出来る2000m超え。道草をくってた僕らに追い打ちを掛けるのは雨!?と思ってたらバチバチとヘルメットに当たる音は…ミゾレ! この時期にミゾレが降り、景色も酸素的にも別世界の洗礼を浴び寒さに凍える。山を舐めてたら命に関わると心底思った瞬間でもあった。

20%超の激坂に押しが入る Photo: Motoshi KADOTA20%超の激坂に押しが入る Photo: Motoshi KADOTA
ポルドイ峠のさらに上の雪山を進んだ Photo: Motoshi KADOTAポルドイ峠のさらに上の雪山を進んだ Photo: Motoshi KADOTA

 銀世界からジロ・デ・イタリアで名勝負を繰り広げたポルドイの舗装路を見下ろしながら、テクニカルなトレイルを下り、ポルドイ峠に到着した時には、先に進めない程のミゾレまじりの雨が降り出した。辺りは一気に真っ暗になったが、楽観的な師弟は丁度良いから峠のレストランで温かいものでも飲もうと、またもや吸い込まれ呑気にティラミスなんて注文したりしている。

 食べながら窓の外を見て地図を確認し現状を把握すると、僕らの置かれた状態は甘いものではないという事を理解した。残り距離とホテルまでのルートを模索すると、最短で帰ってもポルドイから一度下り、2000m級のセラ峠を突破しないと帰れない。意を決して外に出る。

ぐったり… Photo: Motoshi KADOTAぐったり… Photo: Motoshi KADOTA

 風とミゾレで凍えながらも先に進み、普段の師弟の会話も無く淡々とセラ峠の登坂へ進む。激坂に意気消沈させられるも、何とか乗り越えてホテルに帰った。オーナーが「長い一日だったね!」と入り口で出迎えてくれたのは嬉しかった。

 高地での運動の鉄則は徐々に慣らす!だ。鉄則破りの2人は一気にやり過ぎて、美味しいはずの夕食が喉を通らず、過酷な試走1日目は終了した。

試走2日目・木曜日

 昨夜のダウン気味の体調は一夜明けるとそうでもなくて、朝食をとったあと、昨日の帰り道で悲壮感漂って下った舗装路をセラ峠へ向けて出発した。天気は生憎の曇り空だが、見える景色が絶景なのは変わりない。

 途中、ロードやマウンテンバイクで峠を上るサイクリストと多くすれ違い、チャオ、ボンジョルノ、ハーイ、ハロー、と何処の国なのか分からなくなるほど、多国籍の挨拶を繰り返し峠に到着した。ここで驚いたのはEバイク(電動アシストスポーツバイク)の多さ。ある程度の年齢以上の人や夫婦で乗る人が多いようだ。

多言語の挨拶をかわしつつ峠を目指す Photo: Motoshi KADOTA多言語の挨拶をかわしつつ峠を目指す Photo: Motoshi KADOTA
途中で出会ったEバイク。ダウンチューブと一体化した大容量バッテリーを搭載 Photo: Motoshi KADOTA途中で出会ったEバイク。ダウンチューブと一体化した大容量バッテリーを搭載 Photo: Motoshi KADOTA

 セラ峠では寒さに凍えるサイクリストや登山を楽しむハイカーが混在するなか、やはり景色のいい所にはカフェがある。迷わず朝のカプチーノを飲むために入ってみたら、入り口にケーキが! これから距離乗るしなぁ〜なんて言いながら迷わず2人で注文してしまう。自転車乗りは甘党が多い。

セラ峠に到着! Photo: Motoshi KADOTAセラ峠に到着! Photo: Motoshi KADOTA
セラ峠で食べたケーキ Photo: Motoshi KADOTAセラ峠で食べたケーキ Photo: Motoshi KADOTA

 セラ峠から昨日引き返した分岐までの下りを一気に下ると、下の町では晴れ間が時折見えるようになってきて、やはり撮影タイムとなる。アングルや光をイチイチ気にすると先に進めないが、あの岩山が全部見えるようにならないと!とか言って楽しみながら試走は進む。

 昨年の微かな記憶によると、この先のセクションは古いヨーロッパの家の敷地内を走るようなコースで、良い感じだった事を思い出して一気にテンションが上がる。住んでいる人たちも自転車に慣れているようで、「チャオ」とすれ違う人殆どが声をかけてくれるのは本当に嬉しい。僕の地元しまなみ海道もココ数年、自転車の聖地と呼ばれるようになって「おはよう〜」とか「こんにちは〜」とか「頑張れ〜」と声を掛けてくれるようになったのと重なる光景だった。聖地とは景色やハード面は勿論、あわせて重要なのは地域の人々も一体なのだと強く思った。

趣のある石畳の敷地内 Photo: Motoshi KADOTA趣のある石畳の敷地内 Photo: Motoshi KADOTA
出会う人も皆優しく声をかけてくれる Photo: Motoshi KADOTA出会う人も皆優しく声をかけてくれる Photo: Motoshi KADOTA

 その後、微かな記憶では平坦基調のハイスピード区間と思ってたが、記憶から抜け落ちていた林道の激坂セクションに突入した。この林道は左右は木々に覆われ景色はさほど見えない、見えないからキツさだけが強調されてしまう。インナーロー、禁断のギヤを使って言葉少なめに林道区間を突破すると、左右を岩山に挟まれた谷を走る絶景の平坦区間に出た。

これまた絶景! Photo: Motoshi KADOTAこれまた絶景! Photo: Motoshi KADOTA

 ここまで来るとやはり腹が減る。腹が減っては走れないと思ってたら、やはり絶景スポットにはレストランが。2人とも迷わずレストランのドアの前にバイクを置いた。

にぎやかなレストラン Photo: Motoshi KADOTAにぎやかなレストラン Photo: Motoshi KADOTA

 メニューを見て、確かこれはイタリアの伝統的な…トウモロコシのすりつぶした物にチーズを掛けたやつだと注文すると、店員さんが「これ何か分かってるの?」と尋ねてくる。知ってるけどうろ覚えだし聞いてみると、やはり想像していたものだったが、イタリア人は凄く交流を持とうとしてくれて親切で嬉しい。

 食事をとっていたら10人程度のマウンテンバイカーが後から入ってきて店は賑わい始める。サイクリストに慣れているようで楽しげにイタリア語で話していた。何を言っているのかほとんど理解できないが陽気で楽しんでるのはよく分かった。

 腹を満たしたら走るのはサイクリストの掟、食ったら走る! 渓谷美を楽しみながら食後という事でテンションも高いが、酸素が筋肉に上手く回ってない感覚で、重い体で無理矢理ペダルを回していると、牛の群れに遭遇した。

 渓谷に牛という映画のような世界によそ見をしていると、糞を踏んでタイヤにひっついたのが飛び散ると言うトラップに引っかかった。タイヤを雪解け水で洗い流し再スタートを切り、残雪の残る岩山を眺めながら、牧草地の間の道を上って行く。

絶景に囲まれながら、雪解け水でタイヤを洗う Photo: Motoshi KADOTA絶景に囲まれながら、雪解け水でタイヤを洗う Photo: Motoshi KADOTA

 さらに途中、いななきと共に親子の馬が横を駆け抜けて行った! こちらのシマウマ(ゼブラ柄のウェアを着る西山)が本気で踏んでも馬の方が遥かに速い感じなのを見て、笑いながら心の中ではマウンテンバイクから馬に乗り換えたいと思った。

 牧草地を一気に下るジープロードは超高速で、スピードが時速60kmを超える高速セクションだ。時折現れる大きな丸パイプの1m幅の橋が滑ってかなり怖い。

 最後の大きな上りに入る頃には疲れていたが、レースの為に刺激を入れるため数本のインターバルトレーニングを行った。筋負荷を大きく掛けて、心拍も上がり呼吸も荒いが、数回繰り返すと平地の3倍はキツい事を理解する…やはりココは間違い無く高地なのだ。

ここからハイスピードの下りになる Photo: Motoshi KADOTAここからハイスピードの下りになる Photo: Motoshi KADOTA

 日本では有り得ないような牧草地と渓谷の真ん中に、教会とレストランが並んで立っている。レースでは最後の給水場所になる地点を過ぎて、林道でドロミテの山々を遠くに見ながら下り基調のハイスピードセクションを気持ちよく走り、小刻みなアップダウンを繰り返すと見慣れた町の景色が見えてきてやっと試走が1周完了した。

 初日よりは短い時間で帰ってきたが、長距離である事は変わりなく2000m級の山岳を2つ越えているので、まあ疲れはしている。ホテルに帰ってユックリ過ごし、翌日金曜と土曜を回復にあてる予定で過ごした。

衝撃のドロミテカット、そして衝撃の事実

 最初から金曜はオフ日と決めていた。

 そして2人で日本にいるときから数週間の長期で進めてきた計画を実行する時がきたのだ。それは散髪! ドロミテの町で「ドロミテカット」にしてもらうために、本来なら散髪する時期に行かず伸ばし続けてきた2人は、町で散髪屋を見つけて勇気を出して突入した。

 中には年配のお爺ちゃんが1人。イタリア語しか話さない…マズい空気が流れるが5分待てと時計を見せながらジェスチャー。ジェスチャー会話は得意なので待ってたら、もう1人カット担当のスタッフがEバイクに乗って現れ散髪がスタートした。

まな板の上の西山 Photo: Motoshi KADOTAまな板の上の西山 Photo: Motoshi KADOTA
ドロミテカットが完成! Photo: Motoshi KADOTAドロミテカットが完成! Photo: Motoshi KADOTA

 最初にシャンプーをするとき、髪の毛に触ったお爺ちゃんは物凄く驚いて無意識なのだろう「◯△%+*」と聞き取れない何か言って驚いた顔をした。そのとき僕ら2人の髪型、いやヨーロッパ3週間の旅を左右する髪型が失敗する事が容易に想像できた。散髪はハサミで容赦なくジョキン!ジョキン!ジョキジョキ…その後バリカンでビィィぃ〜んと。

カットを担当してくれたスタッフと Photo: Motoshi KADOTAカットを担当してくれたスタッフと Photo: Motoshi KADOTA

 最後大量のジェルで固めた硬い散切り頭は太陽光が少し反射して、それはドロミテの残雪の残る岩山のように硬く神々しく見えた。神業のドロミテカットだった。すぐに西山と意見が一致した。

 「帰国してすぐに行くべき所は散髪屋だ」

 ちなみに、この散髪屋のカット担当のスタッフもレースのEバイククラスに出場するらしい。ちょっとだけ彼のバイクを借りて乗ってみたが、ビール腹の彼に勝てる気がしない。Eバイクの性能に度肝を抜かれた。

 その後、ドロミテカットの2人は町で昼食をとるために、一番人気と言われるレストランで、回復のために肉を注文。料理を待っている間に町の情報誌を見ていると、衝撃の事実をこのとき知った。

 「レースが明日土曜日だ!」と。

(続く)

→<2>ドロミテで“ヒーロー”になった日 レース後はEバイク体験

門田 基志門田 基志(かどた・もとし)

1976年、愛媛県今治市生まれ。世界最大の自転車メーカー、ジャイアント所属のMTBプロライダー。選手として国内外のレースに参戦する一方、レース以外のサイクリングツアーも展開。石鎚山ヒルクライム、サイクリングしまなみなど数多くの自転車イベントを提案し、安全教室の講師やアドバイザーも務めるなど、自転車文化の発展に奔走している。

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