フォトグラファー砂田弓弦さんのリオ五輪現地レポート自転車競技の勢力図の中心はイギリスへ 東京五輪に向け日本は課題山積

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 ロードレースが終わり、競技は個人タイムトライアルとなりました。朝、3時半に起床し、近くのホテルからオリンピック・パークに向けて出発するバスを待ちました。

 オリンピック・パークは大会の施設が数多く入っているほか、24時間ずっと開いているメディアセンターもこの中に作られていて、いつでも仕事できるようになっています。また、各競技会場等へのバスもここから出ます。

タイムトライアルの表彰式。バスが来なくて、ヒッチハイクで2台のクルマを乗り継ぎ、間一髪で間に合った Photo: Yuzuru SUNADAタイムトライアルの表彰式。バスが来なくて、ヒッチハイクで2台のクルマを乗り継ぎ、間一髪で間に合った Photo: Yuzuru SUNADA

バスが来ない!

 でも、時間になってもバスが来ません。しびれを切らして電車で移動しました。おまけに強い雨も降り出しました。

 次に、オリンピック・パークでタイムトライアルのスタートに行くバスを待ちましたが、やはり定刻になっても出ません。フォトグラファーのブリーフィングは朝6時半からなのですが、時間がどんどん迫ってきます。

 こうしたとき、僕の周りにいるラテン系の同業者はまったく気にせず、立ち話をして時間をつぶしています。

 一方、日本人の僕はイライラし、係員に「どうにかしてくれ」と2度も懇願しました。みんなの要望を代弁した部分もあるのですが、ようやく別のバスを回してくれることになりました。

 さて、世界選手権も同じなのですが、タイムトライアルはスタート前にバスでフォトグラファーをコース上の希望する場所に運んで降ろし、最後の走者の後ろについて再び拾い上げていくというシステムです。

 ところが、コースを全部回らないまま途中で引き返すことになり、あまり気に入った場所ではないところで写真を撮る羽目になりました。

 さらにきわめつけは最終走者の後ろから随行するはずのバスが1台もなく、コース上で撮っている者はゴールに戻ることができなくなりました。僕は数人の仲間と一緒に別の大型バスをヒッチハイクし、さらに途中でチームのクルマに乗り換えてゴールにたどり着きました。着いた時にちょうど表彰式が始まったので、間一髪間に合いましたが、撮れなかった人も出ました。

 これがもし世界選手権ならばUCIのプレス担当に抗議するところですが、いかんせん五輪は素人が一時的に担当しているため、抗議したところでどうにもならないのです。

 実際、シドニー五輪やロンドン五輪のときもひどかったと聞いています。

土台となる体制の強化が必須

 かわってトラック競技になると、競技場自体がオリンピック・パーク内にあって移動がほとんどないため、ようやくスムーズな取材ができました。

 トラックは完成が遅れていたことで世界的なニュースになった施設でしたが、実際、現地入りして下見に行った時にはまだ工事している箇所もありました。また、プレスルームが非常に寒いのには驚きました。トラックは半袖でもときには汗が出るのに、プレスルームに入ると長袖2枚が必要でした。

 レースはイギリスの独壇場で、メダルを大量に獲得しました。トラックにおける他の強豪国、たとえばフランス、ドイツ、オランダ、オーストラリアなどのレベルが極端に下がったは思えませんが、イギリスの前には打つ手がない状態でした。唯一、男子オムニアムでイタリアのヴィヴィアーニが優勝しましたが、皮肉なことに、彼も普段はイギリスのプロチーム「スカイ」で走っています。

 近年のツール・ド・フランスの優勝者がウィギンスやフルームですし、現役選手としては最多区間優勝者がカヴェンディッシュですから、自転車界の勢力図はイギリスに変わってきています。

 ただし、これはあくまでもトップスポーツの話であって、自転車界の根本となる文化、伝統、それから忘れてはならない子供に対する指導までを含めると、まだまだイタリアやフランスに見習うことは少なくないはずです。

メダルラッシュに沸くイギリス Photo: Yuzuru SUNADAメダルラッシュに沸くイギリス Photo: Yuzuru SUNADA

 一方、日本はどうかというと、世界選手権や五輪というのは、その国の競技力を高めるための絶好の機会となります。

 現在、国際大会の現場に出てきているスタッフは年齢的にも僕と同じくらいで、昔からの知り合いも多いし、いつも応援しています。そして彼らは上を目指して一生懸命やっていると思います。

 しかし、自転車競技連盟が事実上、競輪の外郭団体となっている以上、体制としての発展は限界に来ています。競技力の強化はまずこの体制を整えることが大前提となるわけで、それがないところに進歩はありません。

 外から見ている限り、基本的な構造は昔からまったく変わっていませんし、1990年の宇都宮と前橋での世界選手権で日本が強くなったかというと疑問です。ヨーロッパで走るプロ選手があれから何人出たのか、トラックの国際大会でどれだけの記録や成績を出したかを振り返ると、少なくとも世界選手権開催国としては非常に小さな数字であることは間違いありません。

 僕は普段、プロレースの世界に身を置いています。それはレースで勝つためにみんなが与えられた仕事をこなすプロが集まっているところです。そうした世界が好きだからこそ、自分も長くこの世界にいるのだと思います。

 だけど、その土台となるチーム、体制、連盟といったものがしっかりあってこそ、そうしたチームワークが発揮できるのです。

泣いても笑っても4年後に東京

 それから、トラックレースでの伊豆での開催は、非常に多くの困難が予想されます。あるジャーナリストが「日本のトラックがもう完成している。すごい」と言っていましたが、「すでにできているものを使う」と教えてあげました。

 そして都心から150km離れていることを教えると、絶句していました。これはちょっとこれまでなかったことではないかと思います。実際、決定までかなりの議論が展開されました。

リオのベロドローム。伊豆でのトラック競技は立地上、いろんな困難が予想される Photo: Yuzuru SUNADAリオのベロドローム。伊豆でのトラック競技は立地上、いろんな困難が予想される Photo: Yuzuru SUNADA

 とにかく、決まった以上、開催は確実なのですが、東京から連日通うことはおそらく無理なので、周辺での宿泊が別に必要となるわけです。選手はもちろん、スタッフや報道、さらに観客のことも考えると、かなりの数になります。これも解決しなければならない大きな問題だと感じました。

 とにかく、泣いても笑っても4年後に東京五輪がやってきます。

砂田弓弦
砂田弓弦(すなだ・ゆづる)

1961年9月7日、富山市生まれ。大学卒業後にイタリアに渡り、1989年から自転車競技の取材・撮影に携わる。世界のメジャーレースで、オートバイに乗っての撮影を許されている数少ないフォトグラファーの一人。多くの国のメディアに写真を提供しており、ヨーロッパの2大スポーツ新聞であるフランスのレキップ紙やイタリアのガゼッタ・デッロ・スポルト紙にも写真が掲載されている。

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