東京五輪の個人TTメダルを目標に「私は私のスタイルで」 與那嶺恵理が振り返るリオ五輪と世界への距離

by 米山一輝 / Ikki YONEYAMA
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 リオデジャネイロ・オリンピック自転車女子ロードレース日本代表の與那嶺恵理は、ロードレース17位、個人タイムトライアル15位という結果で、初出場だった五輪のレースを終えた。目標としていた入賞にはあと一歩届かなかったが、2レースを大きなアクシデントなく完走し、まずは「無事これ名馬で戻ってこれたことにはホッとしています」と率直な気持ちを述べた。五輪を振り返り、また今後に向けての課題を聞いた。

日本人女子ロードレースの史上最高順位となる17位でゴールした與那嶺恵理 Photo: Yuzuru SUNADA日本人女子ロードレースの史上最高順位となる17位でゴールした與那嶺恵理 Photo: Yuzuru SUNADA

「誤算」の直前合宿 不安の現地入り

 與那嶺は五輪のレースに向けて3週間前から、リオと時差のない米国コロラド州で高地合宿を行った。7月にUCI女子ワールドツアー「ジロローザ」を10日間走り、コロラドの合宿で身体をさらに仕上げる目論見だった。

 しかしここで誤算が起きた。標高2700~3000mという高地で、乾いた薄い空気が強敵となった。「高地順応が思ったように進まず、身体が思ったように動かなくて、ぜんそくの発作や軽い肺炎の症状も起きて」と予定通りのトレーニングができない。2週間の合宿で、ようやく本格的な練習ができるようになったのは、リオ入りのわずか3日前だったという。

 「リオに入れば回復する」というコーチの言葉も信じられないまま、「全く走れない」と追い詰められて不安だったというが、実際にリオ入りすると湿度が上がったこともあって体調は回復し、ようやく「レースができそう」という気持ちになれたという。

五輪ロードレースのコースには、石畳区間も組み込まれていた Photo: Yuzuru SUNADA五輪ロードレースのコースには、石畳区間も組み込まれていた Photo: Yuzuru SUNADA

 現地入りして実際に走ったコースは、上りの斜度や、道の狭さ、下りの危険度、石畳など、「経験してきたワンデーレースの中では一番厳しいコース」という難コースだった。特に下りは路面が常に濡れた状態で、さらに道路中央部がカマボコ状に盛り上がり、どこを走っても逆バンクで、タイヤが滑る状態だったという。

 レース当日まではコーチとマンツーマンで、ロードレースで勝負所になる最後の上りを中心に試走を重ね、フィーリングやライン取り、バイクポジションの調整を入念に行った。難所の石畳では、シクロクロスのように重いギアを使って、全身でバイクを進ませるイメージを作ったという。

勝負所で大きく遅れたロードレース

 コースを見た上で、レース本番では第2集団に残り、その先頭を取るという目標で臨んだ。参加選手は60人と少ないが、世界選手権でのトップ60がそのままスタートに並ぶため、集団は最初から緊張した状態でスタートを切った。

落車で外れたチェーンを掛け直す與那嶺。変速機が不調となったため、結局スペアバイクに交換した Photo: Yuzuru SUNADA落車で外れたチェーンを掛け直す與那嶺。変速機が不調となったため、結局スペアバイクに交換した Photo: Yuzuru SUNADA

 レースは風が強い中、序盤からそれほど遅くないペースを刻んだ。與那嶺は序盤を安全にこなしたが、中盤、石畳の後の厳しい上りで、蛇行した前の選手に接触して数人で落車してしまう。変速機側に倒れた與那嶺のバイクは変速不能に。「バイクを持ってまずは進めるとこまで進んでおこう」とバイクを押して小走りしながらチームカーを待ち、素早くバイクを交換したあとは、チームカーの協力を得て集団に復帰した。

 いよいよ終盤の勝負所となる標高差600mの上りが近づく。位置取りに集中する與那嶺だが、この直前の斜度のきつい短い上りで、早くも苦しくなってしまったという。回復しないまま下り、勝負所の上りに入ったが、早々に集団から千切れてしまった。予定では上りの中盤まで先頭集団で粘って、徐々に遅れる予定だったというが、「身体が少し重く、自分の予想より上れなかった」と上りの前半で大きく遅れてしまった。

レース後半をスペアバイクで走った Photo: Yuzuru SUNADAレース後半をスペアバイクで走った Photo: Yuzuru SUNADA

 その後は諦めずに20位前後の小集団に合流。ゴールに向けて抜け出すタイミングを計った。終盤のレース展開を想定して、事前に抜け出すポイントはコーチと相談して決めていた。残り3kmでアタック。今季は海外のトップレースも多く経験し「おおよそのタイミングや、自分の武器も徐々に理解してきた」と、最後は少しでも前の順位でゴールしようと飛び出した。粘ってゴールまで逃げ切り、17位でレースを終えた。

 五輪ロードレースでは、日本人女子として史上最高順位だったが、実力を出し切ったという感覚はあまりなく、ゴール後は「もう少しやれたかな」という感覚だったという。

号泣…悔いを残した個人タイムトライアル

 ロードレースの3日後に行われた個人タイムトライアルは、ロードレース中盤で使用した周回コースを1周するレース。石畳に激坂が組み合わさる高い難易度のコースで、後ろギアは11-32Tを選択したという。トレーニングでは動画を撮影してイメージを作り上げた。幸い石畳区間では、ロードレースで設けられていた柵がなくなり、通常の舗装路面を走れるようになった。

 レース当日は暴風雨となった。悪天候も気にせず準備したというが、用意していたシューズカバーが使えないというハプニングに見舞われた。JCF(日本自転車競技連盟)から支給されていたシューズカバーのサイズが合わなかったため、自ら用意して事前に連盟にも申請済みのものを使用するはずだったが、現場で監督から直前に使用を却下されたのだという。

雨の個人タイムトライアル。大半の選手が使用していたレインシューズカバーが使えないままの出走となった Photo: Yuzuru SUNADA雨の個人タイムトライアル。大半の選手が使用していたレインシューズカバーが使えないままの出走となった Photo: Yuzuru SUNADA

 結局シューズカバーは着けずに出走。完全な状態で走れなかったものの、レースでは集中力は切らさず、「この時のベストパフォーマンスは出せた」実感があったという。ゴールでは暫定1位になり、4人後の選手が記録を更新するまで、しばらく暫定1位としてホットシートに座った。

 最終的な順位はトップと2分16秒差の15位。10位以内を目標に走り、イメージどおりの走りはできたものの、機材面のマイナス要素が響き、「喪失感はとても大きかった」と話す。悔いなく全てを出し切れたとは言い切れない。レース後は悔しさと無念さで号泣したという。

日本チームは「改善すべき点がたくさんある」

 與那嶺は東京五輪の個人タイムトライアルでのメダル獲得を長期的な目標としており、リオ五輪が終わってすぐ、東京五輪への戦いが始まる。與那嶺は「足りている部分と、足りていない所が明確になってきた。確実にメダルを狙えるようにしたい」と語る。本命は個人タイムトライアルで、ロードレースについては「コースの難易度が高くなさそうなので、私が狙うならば、エスケープしかない」と分析する。

 自らの課題とともに、日本チームへの物足りなさを口にする。「どのチームも事前の準備で、順位がほぼ決まります」とチームの準備不足を指摘。有力国や有力選手はコースサイドにホテルを取り、選手とパーソナルコーチがほぼペアで動いていたのに対し、日本は「チームでの行動」が重視され、選手村からコースへのアクセスも数十分を要していたという。

Photo: Kyosuke TAKEIPhoto: Kyosuke TAKEI

 「全ては選手の結果のために、身体を休ませる時間を最大限確保して、最高の食事を準備して、何もかもが選手の結果のために動いているんですね。そのような情報を得ている側からすると、ジャパンチームとしては…。改善すべき点がたくさんあり、改善すれば間違いなく選手のパフォーマンスはアップすると感じました」と指摘する。

 今季は海外を拠点に走り、選手が何か意見をしても「それイイね!」となる現場を見てきた。日本ではほぼそれが逆に動いて「これをしちゃダメ、あれをしちゃダメ」となってしまうことが多いのだという。

 一方で実際に五輪のレースを走ったことで、「観客の熱狂度ではやはり世界選手権に勝るものはない。私は世界選手権で結果を出したい」と強く感じたという。目標とする世界選手権に向けて、五輪後のシーズン後半は欧州に拠点を移す大きな決断を下した。

 日本のファンに向けてはまず、「リオ五輪を無事に終えることができました。SNSでの沢山の応援、フォロー。本当にありがとうございます」と感謝の言葉を述べた。そして「私は私のスタイルで、世界選手権でのメダル獲得を目指し進んでいます。これからも、応援のほど、よろしくお願いいたします」と改めて決意を語った。

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