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福光俊介の「週刊サイクルワールド」<170>レースを決めた「魔の下り」と最後の平坦区間 リオ五輪ロードレースを振り返る

by 福光俊介 / Syunsuke FUKUMITSU
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 8月5日に開幕したスポーツの祭典、リオデジャネイロ五輪は翌6日から自転車競技がスタート。ここまでロード種目が進行中だ。ロードレースでは、かねてからハードな上りと石畳が話題となっていた難コースに選手たちが挑み、男子ではフレッヒ・ヴァンアーヴルマート(ベルギー、BMCレーシングチーム)、女子ではアンナ・ファンデルブレッヘン(オランダ、ラボ・リヴ ウィメンズサイクリングチーム)が金メダルに輝いた。今回は、熱き戦いの余韻をそのままに、勝負を分けたポイントについて分析をしてみたい。

リオ五輪・男子ロードレースのメダリスト3選手。左から、3位ラファウ・マイカ、1位フレッヒ・ヴァンアーヴルマート、2位ヤコブ・フルサング =2016年8月6日、Photo: Yuzuru SUNADAリオ五輪・男子ロードレースのメダリスト3選手。左から、3位ラファウ・マイカ、1位フレッヒ・ヴァンアーヴルマート、2位ヤコブ・フルサング =2016年8月6日、Photo: Yuzuru SUNADA

レースを彩った五輪ならではの雰囲気

 現地時間8月6日に行われた男子ロードレース、同7日の女子ロードレース。それぞれ観ていて感じたのは、普段のレースとは違う、五輪ならではの雰囲気と緊張感があったことだ。当然といえば当然なのかもしれないが、4年に1度の大舞台であること、男子であればツール・ド・フランスを終えたばかりの選手たちが、もう一度ギアを入れてハイレベルの戦いへと臨む姿勢が、その表情や走りから見てとれた。

五輪ならではの雰囲気が、レースをより熱いものとした =リオデジャネイロ五輪・男子ロードレース、2016年8月6日 Photo: Yuzuru SUNADA五輪ならではの雰囲気が、レースをより熱いものとした =リオデジャネイロ五輪・男子ロードレース、2016年8月6日 Photo: Yuzuru SUNADA

 それは、昨シーズンを終えた段階から「2016年はリオ五輪をターゲットにする」と公言した選手が多かったことからもうかがえる。その年の世界王者を決めるUCI(国際自転車競技連合)ロード世界選手権や五輪よりもグランツールに偏重しがちな、サイクルロードレース独特の格式めいた見方が少しずつ変化している印象を受けた。

 今大会は、コースの特性からクライマー有利とされ、スプリンターの多くが回避する格好となったが、ポジティブにとらえるならば、上りに強い選手は五輪へ、スプリンターは今年10月にカタールで開催されるロード世界選手権へと狙いが分散するだろう。例年2月に行われるツアー・オブ・カタールをご存知の方ならお分かりだろうが、カタールのコースは完全なスプリンター向けのレイアウトだ。

会心のレースで金メダルを獲得したフレッヒ・ヴァンアーヴルマート。クライマーやオールラウンダーを凌駕する快走を見せた =リオデジャネイロ五輪・男子ロードレース、2016年8月6日 Photo: Yuzuru SUNADA会心のレースで金メダルを獲得したフレッヒ・ヴァンアーヴルマート。クライマーやオールラウンダーを凌駕する快走を見せた =リオデジャネイロ五輪・男子ロードレース、2016年8月6日 Photo: Yuzuru SUNADA

 そんなクライマー向けのコースを制したのは、決して山岳系の選手とはいえず、どちらかといえばスピードマンタイプのヴァンアーヴルマート。レース中盤にメイン集団から数選手とともに飛び出し、山岳区間で一度は遅れたものの、最後の平坦区間でトップに合流。得意の少人数のスプリントを制するという、会心のレースを演じた。

 ヴァンアーヴルマートだけを見るならば、やはり山岳への対応力の向上が大きな勝因といえるだろう。結果的に、この金メダルの伏線は7月のツールでの活躍にあったとも捉えられる。山岳逃げに成功し、ステージ優勝とマイヨジョーヌを手に入れた第5ステージ。ジャージを守るべく再度の山岳逃げに挑んだ第7ステージと、北のクラシックを中心に活躍しているイメージとは違った一面を見せていた。

 このレースの上位選手は、いずれもグランツールを主戦場に戦うクライマーやオールラウンダーばかり。序盤からUCIワールドチームに所属する実力者が逃げ、中盤以降はアタックの応酬となった出入りの激しい展開を制したヴァンアーヴルマートの勝利は、特筆に値する快進撃である。

男女ともに終盤の平坦区間でトップに追いついた選手が金メダルに輝いた =リオデジャネイロ五輪・女子ロードレース、2016年8月7日 Photo: Yuzuru SUNADA男女ともに終盤の平坦区間でトップに追いついた選手が金メダルに輝いた =リオデジャネイロ五輪・女子ロードレース、2016年8月7日 Photo: Yuzuru SUNADA

 中盤に有力選手がメイン集団から飛び出し、後半セクションのヴィスタ・チネサの上りで優勝候補たちが動きを見せた点。さらに、下りで優位に立っていた選手が落車に見舞われたとはいえ、終盤の平坦区間を単独で逃げる選手に対し数人が追走、そしてフィニッシュを目前に追いつく点と、男女ともにおおむねレース展開が共通した。

 多くの選手が落車し戦線離脱を余儀なくされた「魔の下り」と、約8kmにわたるフィニッシュへ続く平坦区間が、勝負のポイントだったといえよう。いわば、ヴィスタ・チネサの上りと、その後の下りでは決定的な差には至らず、その分平坦区間では数人が協調体制を組んだ分、追走グループが有利になったというところか。

「魔の下り」にUCIが問題ないと主張

 レース展開を左右したヴィスタ・チネサのダウンヒル。約6kmで、大会前からテクニカルであることは指摘されていた。男女ともにトップを走っていた選手がクラッシュし、ここを3周回した男子ではメイン集団で走行していた選手や、最終周回で追撃体制に入っていた選手が落車しコース外へと投げ出されるなど、目を覆いたくなるシーンが国際映像に映し出された。

優位な展開に持ち込んだヴィンチェンツォ・ニバリだったが、「魔の下り」で落車。両鎖骨を骨折した =リオデジャネイロ五輪・男子ロードレース、2016年8月6日 Photo: Yuzuru SUNADA優位な展開に持ち込んだヴィンチェンツォ・ニバリだったが、「魔の下り」で落車。両鎖骨を骨折した =リオデジャネイロ五輪・男子ロードレース、2016年8月6日 Photo: Yuzuru SUNADA

 海外のサイクルメディアが報じたところによると、男子ロードレースでトップを走りながら落車したヴィンチェンツォ・ニバリ(イタリア、アスタナ プロチーム)が左右両方の鎖骨骨折、ニバリとともに地面に叩きつけられたセルジオルイス・エナオ(コロンビア、チーム スカイ)が腸骨(骨盤最大の骨)の骨折と胸部外傷、リッチー・ポート(オーストラリア、BMCレーシングチーム)が右肩甲骨骨折と数カ所の打撲と診断されている。女子ロードレースでトップに立ちながら激しい落車に見舞われたアンネミーク・ファンフレウテン(オランダ、オリカ・AIS)は、顔面から地面に落ちたことによる脳震盪と腰椎3カ所に小さな骨折が認められた。

 ニバリはすでに手術を終え、エナオは手術をせずに約4週間戦線を離脱し回復具合を見ていくことに。そのほか、男子で11位フィニッシュのゲラント・トーマス(イギリス、チーム スカイ)、落車をきっかけにリタイアしたネルソン・オリヴェイラ(ポルトガル、モビスター チーム)とヴァウテル・プールス(オランダ、チーム スカイ)は、大事には至らず。オリヴェイラとプールスは10日の個人タイムトライアルに予定通り出場する。

トップを走りながら「魔の下り」で落車したアンネミーク・ファンフレウテンは、脳震盪と腰椎を3カ所骨折する負傷 =リオデジャネイロ五輪・女子ロードレース、2016年8月7日 Photo: Yuzuru SUNADAトップを走りながら「魔の下り」で落車したアンネミーク・ファンフレウテンは、脳震盪と腰椎を3カ所骨折する負傷 =リオデジャネイロ五輪・女子ロードレース、2016年8月7日 Photo: Yuzuru SUNADA

 これを受けてUCIはイギリス大手新聞のガーディアン紙に声明を出し、今回のレースコースの安全性は確保されていたことを強調。「リオ五輪のロードレースコースは慎重に設計を重ね、テストイベント(2015年8月のプレ五輪レースなど)やトレーニングライドを通じて確認をしてきた」とし、「安全なコース設計を最優先してきたが、クラッシュについては、その時々であらゆる要素が交じり合って起きてしまったものだ」との見解を述べた。

 一方で、下りを含め、コース内の数カ所に舗装が不十分な場所があったとの指摘もあり、レース開催にあたって完璧なコースコンディションではなかったといわざると得ないとの見方もある。とはいえ、UCIの見解からするならば、下りで起きた複数のクラッシュについては、選手たちがリスクをいとわず勝負に出た結果だったととらえるほかないということだろう。

リオ五輪・個人タイムトライアル展望

 リオ五輪・男女個人タイムトライアル(TT)については、前回お届けしたが、このほど出場選手が出揃ったこともあり、いま一度レース展望といきたい。

 男女ともに10日に行われ、ロードレースの前半セクションに使われたグルマリの周回コースが舞台となる。男子は2周回する54.6km、女子は1周回の29.9kmで争われる。

 ロードレースでもグルマリの上りに苦しむ選手がいたこともあり、個人TTに関しては独走力と登板力とが試されることとなる。

ロードレースを早めにリタイアし、個人TTに備えるトム・デュムラン =ツール・ド・フランス2016第13ステージ、2016年7月15日 Photo: Yuzuru SUNADAロードレースを早めにリタイアし、個人TTに備えるトム・デュムラン =ツール・ド・フランス2016第13ステージ、2016年7月15日 Photo: Yuzuru SUNADA

 29カ国から37人が出走する男子は、今シーズンの活躍から優勝候補筆頭に挙げられるトム・デュムラン(オランダ、チーム ジャイアント・アルペシン)の動向に注目が集まる。デュムランはツールで落車し、左前腕部を骨折。涙ながらに途中リタイアした。一時は五輪出場を諦める発言をしていたが、早々にトレーニングを再開できたこともあり、予定通りリオ入り。ロードレースでは大事をとって、スタートから13kmでバイクを降りた。完全に個人TTに照準を定めていると見てよいだろう。

 前回の銀メダリスト、トニー・マルティン(ドイツ、エティックス・クイックステップ)、銅メダリストのクリストファー・フルーム(イギリス、チーム スカイ)も金メダル獲得に意欲的。現・世界王者のヴァシル・キリエンカ(ベラルーシ、チーム スカイ)は、1日決着の個人TTにめっぽう強い。

 ファビアン・カンチェッラーラ(スイス、トレック セガフレード)は、2008年北京五輪以来の金メダルなるか。ロードレースではアシストを務めたホナタン・カストロビエホ(スペイン、モビスター チーム)、シーズン後半に入り調子を上げてきたテイラー・フィニー(アメリカ、BMCレーシングチーム)の走りも楽しみだ。

現・世界女王のリンダ・ヴィルムッセン。昨年のロード世界選手権に続く金メダルを狙う =UCIロード世界選手権・女子エリート個人タイムトライアル、2015年9月22日 Photo: Yuzuru SUNADA現・世界女王のリンダ・ヴィルムッセン。昨年のロード世界選手権に続く金メダルを狙う =UCIロード世界選手権・女子エリート個人タイムトライアル、2015年9月22日 Photo: Yuzuru SUNADA

 16カ国・22人が出場の女子は、現・世界女王のリンダ・ヴィルムッセン(ニュージーランド、ユナイテッドヘルスケア プロフェッショナルサイクリングチーム)と、2008年北京と2012年ロンドン両五輪を制覇しているクリスティン・アームストロング(アメリカ、トゥエンティ16・ライドバイカー)が一歩リード。リサ・ブレナウアー(ドイツ、キャニオン・スラムレーシング)、エレン・ファンダイク(オランダ、ボエルス・ドルマンス サイクリングチーム)、エヴェリン・スティーヴンス(アメリカ、ボエルス・ドルマンス サイクリングチーム)もTT巧者だ。

 そして、男女を通じ日本勢唯一の出場となるのが、與那嶺恵理(ハーゲンスベルマン・スーパーミント サイクリングチーム)。ロードレースでは17位と健闘し、個人TTでは再び上位進出を狙う。顔ぶれ的にも、8位入賞が現実的な目標となりそうだ。

男女を通じて日本勢唯一の個人TTに出場する與那嶺恵理。8位入賞なるか =リオデジャネイロ五輪・女子ロードレース、2016年8月7日 Photo: Yuzuru SUNADA男女を通じて日本勢唯一の個人TTに出場する與那嶺恵理。8位入賞なるか =リオデジャネイロ五輪・女子ロードレース、2016年8月7日 Photo: Yuzuru SUNADA

 スタートは、女子が午前8時30分(日本時間午後8時30分)。男子の第1ウェーブが午前10時(同午後10時)、第2ウェーブが午前11時19分(同午後11時19分)を予定している。

今週の爆走ライダー-ダミアーノ・カルーゾ(イタリア、BMCレーシングチーム)

「爆走ライダー」とは…

1週間のレースの中から、印象的な走りを見せた選手を「爆走ライダー」として大々的に紹介! 優勝した選手以外にも、アシスト や逃げなどでインパクトを残した選手を積極的に選んでいきたい。

 リオ五輪男子ロードレースの金メダルをかけて、コースに合った脚質の選手をそろえたイタリア。ベストメンバーといえる面々には、カルーゾの姿もあった。

中盤にメーン集団から飛び出したダミアーノ・カルーゾ(右)。レースが動くきっかけを作った殊勲の走り リオデジャネイロ五輪・男子ロードレース、2016年8月6日 Photo: Yuzuru SUNADA中盤にメーン集団から飛び出したダミアーノ・カルーゾ(右)。レースが動くきっかけを作った殊勲の走り リオデジャネイロ五輪・男子ロードレース、2016年8月6日 Photo: Yuzuru SUNADA

 中盤以降、活性化したレースのきっかけを作ったのは彼のアタックにある。追走グループを形成し逃げる選手たちを目指すと、逃げ合流後はメイン集団に待機していたエースたちの合流を待った。下りを利用してニバリとファビオ・アール(アスタナ プロチーム)が加わると、最大のミッションであった集団牽引を開始。この走りが、メイン集団に残った選手たちの金メダル獲得の可能性を見事に摘み取った。

 ニバリが下りで落車しチャンスを逸したこともあり、チームの最高成績はアールの6位に終わったが、アクシデントが起きるまでは完璧なレース展開だった。その立役者は、間違いなくカルーゾであろう。

チームではグランツールレーサーとしての地位を築くダミアーノ・カルーゾ =ツール・ド・フランス2016第17ステージ、2016年7月20日 Photo: Yuzuru SUNADAチームではグランツールレーサーとしての地位を築くダミアーノ・カルーゾ =ツール・ド・フランス2016第17ステージ、2016年7月20日 Photo: Yuzuru SUNADA

 8年間のプロ生活で自身の実績は十分に積んできた。2014年のブエルタ・ア・エスパーニャでは総合9位、翌年のジロ・デ・イタリアでは総合8位と、グランツールレーサーとしての地位も着実に築いている。そんな実力に裏打ちされた走りを、五輪の舞台でもしっかりと発揮してみせた。

 ニバリの負傷もあり、代役として個人TTにも臨むことが決まった。得意とはいえないが、うまくまとめて終えたいところ。ロードレースに続く好走に期待をしてもよさそうだ。

福光俊介福光俊介(ふくみつ・しゅんすけ)

サイクルジャーナリスト。自転車ロードレース界の“トップスター”を追い続けて十数年、気がつけばテレビやインターネットを介して観戦できるロード、トラック、シクロクロス、MTBをすべてチェックするレースマニアに。現在は国内外のレース取材、データ分析を行う。自転車情報のFacebookページ「suke’scycling world」も充実。UCIコンチネンタルチーム「キナンサイクリングチーム」メディアオフィサー。

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