産経新聞【ニッポンの議論】より自転車保険加入の義務化「罰則なし」条例では効果ない? 専門家2人に直撃

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 西日本の自治体を中心に、自転車利用者に対して事故の損害を賠償する保険加入を条例で義務化する動きが進んでいる。兵庫県が昨年実施したのを皮切りに、大阪府が今年7月からスタート。10月には滋賀県も導入するなど拡大傾向にある。ただ、罰則規定がないことで効果を疑問視する向きもある。保険加入の義務化は自転車事故の減少につながるのか、全国に先駆けて開始した兵庫県交通安全室長の塚本直氏と、岩手県立大名誉教授の元田良孝氏に聞いた。

経済的負担軽減狙い

兵庫県交通安全室長の塚本直氏(藤原由梨撮影)兵庫県交通安全室長の塚本直氏(藤原由梨撮影)

■兵庫県交通安全室長、塚本直氏

――全国に先駆け、平成27年10月に条例で自転車保険の加入を義務化したきっかけは

 塚本直氏「検討を始めたのが26年。歩行者と自転車が関わった事故が10年前の16年と比べて倍増したのを深刻に捉えていた。25年には小学生が自転車で女性をはね、被害者が意識不明となった事故の裁判で、神戸地裁が保護者に約9500万円の賠償を命じる判決を出した。自転車の安全な利用について、有識者会議からの提言を踏まえ、それまでの啓発よりもワンステップ進んだものが必要だとの結論になった」

――狙いはどこにあったのか

 「条例の規定のうち、保険加入の義務化については、事故の被害者と加害者双方の経済的負担を和らげようというのが最大の狙い。自転車は身近な乗り物だが、事故で死傷者を出せば加害者は高額な賠償を求められる。実際に自転車事故で多額の賠償を受けるような重傷を負う人も出ている。われわれも、保険加入の義務化が事故の減少に直接結びつくとは思っていない。ただ、自転車に乗る人が保険に入っているということで、ハンドルを握るときに『自転車は危ない乗り物なんだ』との意識を高めてもらえればという気持ちがある」

――どのような成果が出ているか

 「兵庫県内で歩行者と自転車の事故は、27年は6月末時点で90件、今年同期も90件。増加傾向に歯止めがかかりつつある。条例作成時に全国的な普及を狙っていたわけではないが、結果的に大阪府などにも広がった。兵庫県は国に対し、自転車保険への加入を義務付ける制度の創設を25年から提案している。今後もわれわれと同じ気持ちで条例をつくる自治体があれば望ましい」

――罰則なしの義務化に異論もある

 「罰則なしで義務化することに疑問を感じる人もいると思うが、これには理由がある。自動車の自賠責保険とは異なり、自転車保険にはさまざまな種類があるために管理が困難で、簡単に加入の有無を確認できない。こうした理由で取り締まりが難しいことから罰則を設けなかった」

――罰則なしで効力は期待できるか

 「罰則の有無にかかわらず、『努力義務』と『義務』では行政や関係機関の取り組む姿勢が明らかに違う。県民も深刻に受け止めてくれると考えた」

――ほかにも事故を減らす対策があるのでは

 「自転車レーンの整備などが求められる。兵庫県条例ではこうしたことについても規定している。交通安全対策には、取り締まりや教育、環境などさまざまな手段があり、どれか一つだけを有効策としているわけではない。条例の制定をきっかけに、自転車保険の浸透に向け、さらなる取り組みが必要だと考えている」(藤原由梨)

【プロフィール】塚本直

 つかもと・ただし 昭和36年、兵庫県生まれ。54歳。関西学院大卒。60年、兵庫県警採用。警備部門が長く、外務省や警察庁への出向、県警訟務官、災害対策課長を経て、平成28年3月から県に出向し、現職。

早急に道交法改正を

岩手県立大学の元田良孝・名誉教授 =東京都千代田区(伴龍二撮影)岩手県立大学の元田良孝・名誉教授 =東京都千代田区(伴龍二撮影)

■岩手県立大名誉教授、元田良孝氏

――自治体が条例で保険加入を義務づけたことについてどう考えるか

 元田良孝氏「条例で義務化したところで罰則規定がないため、どこまで効果が得られるか分からない。条例は交通ルールの周知にはある程度貢献するかもしれないが、交通違反者や自転車事故が減るかは疑問が残る。自転車は危険な乗り物だという認識が欠けている。利用者が保険に加入するのは当たり前だ」

――問題の根底はどこにあるのか

 「自治体が条例を作る背景には、取り締まる警察や国の動きが遅いことへの不満の表れがあるのだろう。自転車交通をつかさどるのは国であり、放置してきた国の不作為だ。戦後、先進国入りを目指して自動車中心の道路整備を進めた結果、自転車専用の走行空間は無視された。交通戦争と呼ばれ、自転車の交通事故も増え、昭和45年に自転車は歩道を走るよう指導したことが、それ以後、常識と化してしまった。これは歩行者保護もできない間違った政策だ。車から見えにくいことから、出合い頭の事故が増えており、安全効果もない。障害者など交通弱者は歩道上の自転車におびえており、自転車を車道へ戻すことが最優先だ」

――解決策はあるのか

 「歩道通行の制限とルール違反者に対する実質的な罰則の2つだ。自転車の歩道通行は道交法で許されているというが、その条件は厳しく実施は不可能である。道交法に書かれている通りに自転車が歩道を走れるか、考えてもらいたい。自転車は①歩道の中央から車道寄りの部分を走る②徐行する③歩行者を妨害してはならない―が歩道通行の条件。走行スペースにはたいてい樹木があり、自転車は徐行したらふらつく。歩行を妨げないよう自転車は停止せざるを得ない。矛盾だらけの道交法は早急に改正すべきだ」

――自転車の交通違反者を罰しないと解決できないか

 「現在の道交法では、自転車の違反にはいきなり刑事処分となる赤切符しかない。このため、警察も検察も罰を与えることに躊躇(ちゅうちょ)している。昨年の道交法改正で3年以内に2度赤切符を切られた違反者に一定の条件で講習を課すようにしたが、対象者は少なく効果は期待できない。反則金を納める自動車の青切符制度のような罰則規定を作るか、自治体にも罰則を持たせて取り締まれるようにすべきだ」

――海外ではどうなのか

 「自転車利用の多い欧州でも全ての車道に自転車の走行レーンはない。狭い車道で走行空間が用意されていなくとも自転車は車道を走る。これは世界の常識。欧米では、いかに車道で安全に自転車を通行させることができるか対策を講じている。他国でできることを日本でできないはずがない」(森口忠)

【プロフィール】元田良孝

 もとだ・よしたか 昭和26年、東京都生まれ、65歳。東京工業大卒。工学博士。建設省(現国土交通省)入省、同省大阪国道工事事務所長などを経て、岩手県立大教授。現在は同大名誉教授。専門は交通工学。

産経新聞より)

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