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福光俊介の「週刊サイクルワールド」<167>第2週までの戦いに手ごたえの総合上位陣 勝負の行方は運命のアルプス山脈へ

by 福光俊介 / Syunsuke FUKUMITSU
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 第2週までの戦いを終えたツール・ド・フランス2016。ピレネー山脈を後にし、アルプス山脈を目指した第10~16ステージは、個人総合順位をはじめ4賞争いすべてで変動こそあったものの、勝負を決定付けるような大きな動きはなかった。つまり、残りの1週間は運命のステージが続くことを意味する。そこで、第2週の戦いから注目選手の動向を押さえ、最終週の“アルプス決戦”のポイントを見ていきたい。

ツール・ド・フランス2016第12ステージ、超級山岳シャレ・レナールを上る3選手。左からクリストファー・フルーム、リッチー・ポート、バウケ・モレマ =2016年7月14日 Photo: Yuzuru SUNADAツール・ド・フランス2016第12ステージ、超級山岳シャレ・レナールを上る3選手。左からクリストファー・フルーム、リッチー・ポート、バウケ・モレマ =2016年7月14日 Photo: Yuzuru SUNADA

隙を見せなかった“先手必勝”のフルーム

 ツール・ド・フランス2016は、総距離3519kmのうち2928kmを走破。パリ・シャンゼリゼまでは残り591kmだ。その大部分がアルプス山脈であり、7月20日の第17ステージからは山岳4連戦が待ち受ける。

 総合首位のマイヨジョーヌは、第8ステージ以降フルームがキープ。第2週はステージ優勝こそなかったが、王者をふさわしい戦いぶりだった。

ツール2016第11ステージ、クリストファー・フルームは風を利用して飛び出しステージ2位。総合でのリードを広げる =2016年7月13日 Photo: Yuzuru SUNADAツール2016第11ステージ、クリストファー・フルームは風を利用して飛び出しステージ2位。総合でのリードを広げる =2016年7月13日 Photo: Yuzuru SUNADA

 特に、ペテル・サガン(スロバキア、ティンコフ)らと風に乗って逃げを決めた第11ステージは圧巻だった。スプリント勝負と予想された中、強風を利用しての攻撃はタイムにして12秒(ステージ2位のボーナスタイム含む)稼ぎ出すことに成功。山岳ステージの展開次第で、ライバルが取り戻せるだけのタイム差と捉えることもできるが、何よりも「戦う姿勢」を見せ付けたシーンだったのではないか。

 続く第12ステージでは、超級山岳シャレ・レナールの頂上を目前に混乱に巻き込まれるアクシデントがあったが、その前にはメイン集団を崩壊させる強力なアタックを繰り出した。また、第13ステージの個人タイムトライアル(TT)ではステージ2位となり、総合争いのライバルからタイムを奪っている。

 前回のこのコーナーで、第8ステージで見せた下りでの攻撃について触れたが、第11ステージで見せた快走から、改めて「現役最強オールラウンダー」との見方が強まりそうだ。上り、TT、下り、そして平坦でもレース展開によっては攻撃に転ずる。それは、最終週にかけて強さを見せるライバルたちから、早い段階で少しでもアドバンテージを築いておきたいとの考えが働いているのかもしれない。

磐石に見えるクリストファー・フルーム(左)だが、総合2位以下とのタイム差はそう大きくはない =ツール・ド・フランス2016第12ステージ、2016年7月14日 Photo: Yuzuru SUNADA磐石に見えるクリストファー・フルーム(左)だが、総合2位以下とのタイム差はそう大きくはない =ツール・ド・フランス2016第12ステージ、2016年7月14日 Photo: Yuzuru SUNADA

 ライバルを前に、決して隙を見せない姿勢のフルーム。とはいえ、第2週を終えて総合2位につけるバウケ・モレマ(オランダ、トレック・セガフレード)とのタイム差は1分47秒と、過去2回の総合優勝時と比較してもその差は小さい。今大会の特徴として、タイム差が大きくなりやすい山頂フィニッシュが第1週、第2週と少なく、その点がここまでのタイム差に影響していることが考えられる。一方で、総合系ライダーの多くがここまで大崩れしていないあたりも関係しているのではないか。好調な有力選手が多くひしめき、レース全体の水準が上がっているとすれば、ここまで“穴”がないフルームといえど、うかうかしてはいられないだろう。

フルームを追うか、「現実路線」か 総合上位陣の判断は?

 前述したように、総合タイム差だけを見れば、モレマらにも逆転のチャンスは残されている。総合2位のモレマを筆頭に、同3位のアダム・イェーツ(イギリス、オリカ・バイクエクスチェンジ)、同4位のナイロアレクサンデル・キンタナ(コロンビア、モビスター チーム)が総合3分以内に位置する。実力や実績、タイム差を勘案するに、フルームを含むこの4人に総合優勝の行方は絞られたといえそうだ。

第2週を終えて総合2位につけるバウケ・モレマ。第13ステージでは「キャリア最高のTT」と自画自賛する好走 =2016年7月15日 Photo: Yuzuru SUNADA第2週を終えて総合2位につけるバウケ・モレマ。第13ステージでは「キャリア最高のTT」と自画自賛する好走 =2016年7月15日 Photo: Yuzuru SUNADA

 近年のツールでは総合上位で安定しているモレマだが、今年はこれまで以上に大きなチャンスがやってきた。第12ステージでは、シャレ・レナールでメイン集団から飛び出し、先行していたフルームとリッチー・ポート(オーストラリア、BMCレーシングチーム)へのブリッジを成功する強さを見せた。続く第13ステージの個人TTでは、「キャリア最高のTTだった」と自画自賛する走りでステージ6位。フルームとのタイム差の拡大を最小限にとどめた。

 それを受けて、来たる最終週の戦いをどのように進めるかに注目が集まる。フルームを追うのか、現在の総合順位のキープに努めるのか。フルームとの1分47秒というタイム差を、モレマ自身がどう捉えているのかがその走りで見えてくるだろう。自己最高位は2013年の総合6位。このときも第2週を終えて総合2位につけていたが、最終週に息切れしてしまい順位を落とした。残すステージは、これまでの経験がものを言うはずだ。

第2週を終えて総合3位につけるアダム・イェーツ。積極果敢な走りが奏功する =ツール・ド・フランス2016第16ステージ、2016年7月18日 Photo: Yuzuru SUNADA第2週を終えて総合3位につけるアダム・イェーツ。積極果敢な走りが奏功する =ツール・ド・フランス2016第16ステージ、2016年7月18日 Photo: Yuzuru SUNADA

 総合3位、新人賞のマイヨブランを着用するイェーツは、総合上位で迎える最終週は未知の領域。ここまでの走りは、山岳で粘るというよりも攻撃的な走りが印象的だ。その走りと勢いを保つことができれば、マイヨブラン獲得はもちろん、総合表彰台の可能性も膨らむ。キャリア3度目のグランツールを走る23歳は、大仕事の完遂が見えるところまでやってきた。

第3週に強さを発揮するナイロアレクサンデル・キンタナ。残りステージで真価発揮なるか =ツール・ド・フランス2016第16ステージ、2016年7月18日 Photo: Yuzuru SUNADA第3週に強さを発揮するナイロアレクサンデル・キンタナ。残りステージで真価発揮なるか =ツール・ド・フランス2016第16ステージ、2016年7月18日 Photo: Yuzuru SUNADA

 もっとも不気味な存在は、やはりキンタナだ。第2週を終えて、攻撃らしい攻撃は見せておらず、総合上位のキープに終始した。これが果たして最終週のアルプスステージを見据えてのものなのか、コンディションが関係しているのか。それはまもなく明らかとなるだろう。痛いのは、第13ステージの個人TTでフルームから約2分差をつけられる“ブレーキ”となってしまったこと。現時点での2分59秒差を取り戻すのはキンタナといえど、いまのフルームの走りからして容易とはいいがたい。力で対抗するのか、何らかの手を打つのかも見ものだ。

 その他総合上位陣では、4分4秒差の6位につけるロマン・バルデ(フランス、アージェードゥーゼール ラモンディアル)が、大崩れすることなく戦いを進めている。本人もここまでの走りに満足しているといい、残るステージでは総合トップ5入りを目指す構え。総合7位のポートは、第2ステージでの遅れを山岳ステージで挽回してきたが、第13ステージの個人TTでまさかの失速。レース後は失意の様子を見せたが、アルプスではきっと立て直してくることだろう。

安定した戦いぶりで総合6位につけるロマン・バルデ =ツール・ド・フランス2016第16ステージ、2016年7月18日 Photo: Yuzuru SUNADA安定した戦いぶりで総合6位につけるロマン・バルデ =ツール・ド・フランス2016第16ステージ、2016年7月18日 Photo: Yuzuru SUNADA
ツール2016第13ステージの個人TTで失速したリッチー・ポートだが、アルプスで巻き返しを誓う =ツール・ド・フランス2016第12ステージ、2016年7月14日 Photo: Yuzuru SUNADAツール2016第13ステージの個人TTで失速したリッチー・ポートだが、アルプスで巻き返しを誓う =ツール・ド・フランス2016第12ステージ、2016年7月14日 Photo: Yuzuru SUNADA

トラック向けのトレーニングが生きるカヴェンディッシュ

 第2週終了時点で、16ステージ中5ステージを制しているディメンションデータ。今年のツールを席巻する南アフリカ発のチームを牽引するのは、第1ステージを筆頭にここまで4勝を挙げているマーク・カヴェンディッシュ(イギリス)だ。

ツール2016第14ステージを制し、今大会4勝目を挙げたマーク・カヴェンディッシュ。好調ディメンションデータを牽引する =2016年7月16日 Photo: Yuzuru SUNADAツール2016第14ステージを制し、今大会4勝目を挙げたマーク・カヴェンディッシュ。好調ディメンションデータを牽引する =2016年7月16日 Photo: Yuzuru SUNADA

 2008年第5ステージでの初勝利以来、ツールで重ねた勝ち星は30。これは歴代2位であり、もちろん現役選手最多勝だ。今大会の勢いは、6勝した2009年、5勝した2010年と2011年に匹敵する。

 近年のツールでは勝ち星に恵まれず、不運な落車リタイアもあった。31歳となり、衰えを指摘する声も増えていた。そんな苦しかった過去を払拭する今年の走り。要因として、「トラック復帰」が真っ先に挙がりそうだ。

 ここ数年トラック復帰を模索し、昨年本格的に古巣での再スタートを切ったカヴェンディッシュ。早々に結果を残し、この夏のリオデジャネイロ五輪イギリス代表入り。オムニアム(6種目の混成競技)に出場する。6種目いずれもロードより短い距離で争われ、世界的スプリンターとして鳴らすカヴェンディッシュとて勝つのは難しい。夢である五輪の金メダルに向け、自身のスピードの見直しから始まり、しかるべきトレーニングを積んだ結果がロードの走りにも現れている。

 また、チームを移籍し、自身を中心とするメンバー編成が可能となったことも大きい。2012年のスカイ プロサイクリング(現・チーム スカイ)、2013年からのエティックス・クイックステップ(加入当時はオメガファルマ・クイックステップ)では、総合系ライダーなどとの棲み分けもあり、状況を理解しつつも自身にとってベストなアシストがそろわなかったことが、苦しい戦いを招く結果となった。

ベルンハルト・アイゼル(右)ら、HTC・ハイロード時代のメンバーが再結集したこともマーク・カヴェンディッシュのモチベーションに火をつけた =ツール・ド・フランス2016第6ステージ、2016年7月7日 Photo: Yuzuru SUNADAベルンハルト・アイゼル(右)ら、HTC・ハイロード時代のメンバーが再結集したこともマーク・カヴェンディッシュのモチベーションに火をつけた =ツール・ド・フランス2016第6ステージ、2016年7月7日 Photo: Yuzuru SUNADA

 現チームでは、発射台を務めるマーク・レンショー(オーストラリア)や、ベルンハルト・アイゼル(オーストリア)、エドヴァルド・ボアッソンハーゲン(ノルウェー)といった、HTC・ハイロード(2011年に解散)時代のリードアウトマンが再結集。このツールでメンバー外となった選手の中にも、カヴェンディッシュのアシストを志願する声が出ており、スプリントにおける技術面やモチベーションといった面でも充実する。

 ポイント賞のマイヨヴェール争いでは、サガンから114点差と逆転が難しい状況にあるが、大会の最後を飾るパリ・シャンゼリゼ通りでのスプリント勝負へは、しっかりと集中して臨むことだろう。そのために、アルプスの山々をグルペットでこなすなど、彼なりの巧みさでクリアする必要がある。

今週の爆走ライダー-ハルリンソン・パンタノ(コロンビア、イアム サイクリング)

「爆走ライダー」とは…

1週間のレースの中から、印象的な走りを見せた選手を「爆走ライダー」として大々的に紹介! 優勝した選手以外にも、アシスト や逃げなどでインパクトを残した選手を積極的に選んでいきたい。

 このツールで再三にわたり、山岳逃げにトライしていたパンタノ。その挑戦が報われたのが、第15ステージでの勝利。前哨戦のツール・ド・スイスでもステージ1勝し、総合でも4位に食い込んでおり、このところの好調さを自信につなげている。

ツール2016第15ステージを制したハルリンソン・パンタノ。難関山岳ステージでの勝利に喜びを爆発させた =2016年7月17日 Photo: Yuzuru SUNADAツール2016第15ステージを制したハルリンソン・パンタノ。難関山岳ステージでの勝利に喜びを爆発させた =2016年7月17日 Photo: Yuzuru SUNADA

 思いは2010年、若手の登竜門といわれるフランスのステージレース「ツール・ド・ラヴニール」にさかのぼる。圧倒的な強さで総合優勝したキンタナをアシストし、自らも総合3位。現在のプロトンでトップを行くバルデや、ミケル・ランダ(スペイン、チーム スカイ)よりも上位でフィニッシュした。着実に階段を上ってきた自負があるから、当時のライバルから差をつけられたとは感じていない。だが、ワールドツアーチームで走ることで、キャリアに大きな変化が生じていると実感する。

ツール2016第15ステージ、下りを攻めるハルリンソン・パンタノ =2016年7月17日 Photo: Yuzuru SUNADAツール2016第15ステージ、下りを攻めるハルリンソン・パンタノ =2016年7月17日 Photo: Yuzuru SUNADA

 「ワールドツアーで走るきっかけを与えてくれた」と感謝する現チームは、今シーズン限りで解散を予定する。それでも、「(チームの)終わりを次への始まりにしないといけない」と前向きな姿勢を崩さない。

 むしろ、そのポジティブさがこのところの成功を呼び込んでいるのかもしれない。ツールで名を馳せるコロンビア人クライマーは、強い意志で自らの次なる道を切り拓こうとしている。

福光俊介福光俊介(ふくみつ・しゅんすけ)

サイクルジャーナリスト。自転車ロードレース界の“トップスター”を追い続けて十数年、気がつけばテレビやインターネットを介して観戦できるロード、トラック、シクロクロス、MTBをすべてチェックするレースマニアに。現在は国内外のレース取材、データ分析を行う。自転車情報のFacebookページ「suke’scycling world」も充実。UCIコンチネンタルチーム「キナンサイクリングチーム」メディアオフィサー。

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