Cyclist的エンタメ観戦記:stage1凄まじいリアル感 『かもめ☆チャンス』が描くサラリーマン・レーサーの夢

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 たかが自転車漫画、ではない。最新刊では、プロトン(ロードレース中の集団)が接近してくる際に、観るものが目視より早く感じ取る空気感や、レース中の単独走行で全身に受ける空気抵抗など、実際にサイクリストが直面する場面をコマ割りの中に描ききった。音も動きもないコミック漫画が伝える圧倒的な迫力に、一瞬で取り込まれてしまう。作者の玉井雪雄さんに、作品へかける想いや、ご自身の自転車ライフについてうかがった。

「かもめ☆チャンス」のワンシーン ©玉井雪雄/小学館「かもめ☆チャンス」のワンシーン ©玉井雪雄/小学館

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玉井雪雄さん玉井雪雄さん

――ユニークなタイトルですね

 「『かもめのジョナサン』(リチャード・バック著)のストーリーに着想を得た。ジョナサンは、えさを求める飛行ではなくスピードを追い求める飛行を続けるが、『かもめ☆チャンス』ではその価値観をひっくり返し、えさを求めるその他大勢も、また頑張っている。それをサラリーマンの更科というキャラで表したかった。ちなみに当初、“☆”をタイトルに入れたものはほかになく、編集部から猛反対されたのは懐かしい思い出です」

――自転車にはどれくらい前から乗ってらっしゃるのですか

 「2000年頃のMTBブームの際には、アシスタントといっしょに走って楽しんでいました。自転車を始めた理由は、30代の定番である“運動不足解消”が目的でしたが、クロスバイクのアシスタントを横目に“もっと速く走りたい”という気持ちが生まれ、2005年頃にロードバイクを購入しました」
 「『かもめ☆チャンス』の執筆を始め、研究を兼ねて自転車を手に入れるうちに、現在ではロードバイク、ピストバイク、マウンテンバイク(MTB)を計8台所有しています。よく乗っているのは、(主人公の)更科が乗っていたのと同じ型のGIANT TCRやRIDLEY EXCALIBURです」

――どんな場所で乗るのが好きですか

 「毎年春、新潟県佐渡島210kmを一周する『佐渡ロングライド』に参加しています。過去には『乗鞍ヒルクライム』『富士ヒルクライム』の経験もあります。1週間のうち、2回は川(河川敷のサイクリングロード)で、1回は山で走れるのが理想ですが、最近は仕事の量に反比例してなかなか乗りに出かけられません」

「かもめ☆チャンス」のコミック本「かもめ☆チャンス」のコミック本

――作品中のリアル感が凄まじいですね

 「変身したりとか、得意技があったりとか、漫画ならではのインパクトを求められることもありますが、現実の枠からは外れないようにしています。Jプロツアーのチームを写真取材させてもらったほか、ヨーロッパのプロチームのサクソバンクで活躍する宮澤崇史さんといっしょに走らせてもらったこともあります。下り坂の乗り方を指南してもらいましたが、『走り方や考え方を根本的に変えていかなきゃ』とダメ出しをされて…。そのダメ出し自体、作品中で更科が受けるダメ出しとして生かすことができました」
 「作品に登場するコースは、実際に自転車で走行したり、バイクに同乗させてもらって回ったりしています。難しいと感じたのは、ロードレースの観戦の仕方です。ツール・ド・フランスを長年取材してこられた方に一から仕込んでもらいました」

主人公の更科二郎と娘のふくの ©玉井雪雄/小学館主人公の更科二郎と娘のふくの ©玉井雪雄/小学館

――キャラクターが“ふつうの”サラリーマンです

 「青年漫画は、少年漫画とは違って『夢』や『天才的な存在』だけでは描いてはいけない。更科は“育メン”であり、ぱっとしない銀行マン。いわば“ニュートラルなキャラ”である主人公が、自転車に出逢って特技を見出していく-。そんな等身大な挑戦を描きたいと思いました」
 「どのキャラクターにも思い入れはあって、例えば小菅の“人嫌い”が生む不器用な素行や、梶のエネルギーにあふれたやりたい放題の振る舞い、更科のジメジメした性格も、全部自分の一部です」

――今後はどのように展開しますか

 「予定では、ツール・ド・北海道、ジャパンカップと描いていきます。また、実際のイベントとしては、2012年3月に埼玉県の森林公園で「かもめ☆チャンス杯」を開催しました。天候はいまいちでしたが、楽しんでもらえたと思います。今後はレース形式のイベントなんかもできたら面白いかも知れませんね」

玉井雪雄さんと愛車「GIANT TCR」玉井雪雄さんと愛車「GIANT TCR」

 決してどこでも買うことができないパーツがある、と玉井さんはいう。それは“根性パーツ”。厳しく辛い局面であっても、自転車に乗って、挑んでしまう。“根性パーツ”は、そんな自転車大好きサイクリストの皆についているのだとか。ロードレースに欠かせない精神的な資質さえ、玉井さんにかかると魅力的なパーツに早変わりする。インタビューを終えてロードバイクで颯爽と遠ざかっていく玉井さんの姿にも、“根性パーツ”が見えた気がした。

『かもめ☆チャンス』
仕事と子育てに忙殺される、シングルファーザーの更科二郎が、1台の高価なロードバイクとの出逢いで運命を変える自転車漫画。小学館「週刊ビッグコミックスピリッツ」で連載中、単行本は14集まで発売中。

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