過酷なリハビリを乗り越えてBMXライダー朝比奈綾香が再始動 「全日本は東京五輪へのスタートライン」

by 後藤恭子 / Kyoko GOTO
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 2015年7月、交通事故であわや両脚切断という大けがを負ったBMXライダー、朝比奈綾香さん(関西BMX競技連盟)。「全日本選手権で復活する」という宣言通り、ちょうど事故から1年後の7月3日、大阪で開催された全日本BMX選手権大会で復活を果たした。ただ、実はいまもなお膝は満足に曲がらない。移動時も松葉杖が手放せない。そんな無理を押してまでレースに出場した理由について、朝比奈さんは「ここがこれからの私のスタートライン。ここに立てなかったら、4年後の東京五輪は無理だと思った」と語る。

BMX選手の朝比奈綾香さん Photo: Kyoko GOTOBMX選手の朝比奈綾香さん Photo: Kyoko GOTO

前に進むための全日本出場

第33回全日本BMX選手権女子エリートの部で出走する朝比奈綾香さん ©AkabaneVisionFILMWeb第33回全日本BMX選手権女子エリートの部で出走する朝比奈綾香さん ©AkabaneVisionFILMWeb

 大阪府堺市の大泉緑地公園で開催された全日本BMX選手権大会。新しいバイクウェアとバイクでコースを駆け抜ける朝比奈さんの姿があった。結果は女子エリートの部で3人中3位だった。

 8カ月前、事故による大けがで動かなくなった両脚を見つめながら、「7月の全日本選手権で復活する」と誓った言葉を、そのまま実行した。

女子エリートで2位の飯端美樹さん(左)とともに表彰台に上がる朝比奈綾香さん(右)。二人ともうれし涙で少し顔が赤い©AkabaneVisionFILMWeb女子エリートで2位の飯端美樹さん(左)とともに表彰台に上がる朝比奈綾香さん(右)。二人ともうれし涙で少し顔が赤い©AkabaneVisionFILMWeb

 「タイムは現役のときと比べて5秒ほど遅くなっていました」と結果に少し悔しさをにじませるも、5月に練習を再開して以来のベストタイム。「ちゃんと全力を出し切れた。いまの自分の力を知ることができた」と目線を前に向ける。

 この復活は、多くの人が予想していなかった。医師からも「出場できる確率は五分五分」と告げられていた。しかし朝比奈さんはできると確信していた。むしろ、意地でも出場しなければと思っていた。

 「こんな大きなケガなので、最初に定めた全日本出場という目標を達成できなかったら、その先頑張っていけないと思っていました」

 2020年の東京五輪出場を目標とする上で、身体はもちろん精神的にも、まずは全日本選手権出場がスタートラインだと自分に言い聞かせていた。

「治すためなら何でもする」

癒着した筋肉を剥がす手術を行った直後、すぐにCPMという機械に脚を乗せ、膝を動かすリハビリを開始した (提供写真)癒着した筋肉を剥がす手術を行った直後、すぐにCPMという機械に脚を乗せ、膝を動かすリハビリを開始した (提供写真)

 2016年1月、担当医に「7月には自転車に乗れるようになりたい」と伝えた時、いわゆる「ママチャリ」に乗りたいのだと勘違いされた。それがBMXであると知った医師は「無理だ」と否定したが、「言われた治療はなんでもやる」と頼み込んだ。そこから過酷なリハビリの日々が始まった。

 最大の課題は左脚の膝を曲げることだった。自転車を漕ぐ動作には最低でも120度曲げる必要があったが、朝比奈さんの膝は筋肉が癒着し、80度しか曲がらない。癒着した筋肉を剥がす再手術を4月に受けた。

 手術を終えた直後から、筋肉が再び固まるのを防ぐために「CPM」(持続的関節他動訓練器)に左脚を乗せ、膝を動かす運動を開始した。痛みを和らげるため脚の付け根から麻酔を打ちながら、就寝時と1日3回のリハビリ時以外、常に膝を動かし続ける日々が1カ月間続いた。

「これでもだいぶきれいになったんですよ」と左脚の傷跡を見せてくれた朝比奈さん Photo: Kyoko GOTO「これでもだいぶきれいになったんですよ」と左脚の傷跡を見せてくれた朝比奈さん Photo: Kyoko GOTO

 努力の甲斐もあって、自力で100度ぐらいまで曲げれられるほどに回復した。

 医師からは「一般の患者さんには行わない治療法」といわれている。残り3カ月間で全日本選手権出場までこぎつけたいという朝比奈さんの思いを実現するために、担当医が考案したリハビリメニューだった。

手に残る傷跡。事故の壮絶さを物語る Photo: Kyoko GOTO手に残る傷跡。事故の壮絶さを物語る Photo: Kyoko GOTO
「脚の傷は女の子としては気になるところだけど、これも自分が頑張ってきた証」と微笑む Photo: Kyoko GOTO「脚の傷は女の子としては気になるところだけど、これも自分が頑張ってきた証」と微笑む Photo: Kyoko GOTO

 「リハビリメニューは厳しいですが、お陰で道は見えてきます。緩くやってたら絶対無理なので」と、過酷な状況でも笑顔を絶やさない。「これからもっと厳しくなるのかな。でも、それを耐えられるのも良い先生、療法士さん、看護師さんに出会えたからだと思っています」と、周囲への感謝の気持ちも忘れない。

「リハビリ、きついけどまだまだ頑張りますよ」と笑う朝比奈さん Photo: Kyoko GOTO「リハビリ、きついけどまだまだ頑張りますよ」と笑う朝比奈さん Photo: Kyoko GOTO

驚異の回復力で5月から練習再開

新しいパートナー「supercross」。全日本選手権もこれで出走 Photo: Kyoko GOTO新しいパートナー「supercross」。全日本選手権もこれで出走 Photo: Kyoko GOTO

 そんな努力の末の5月、再びBMXに乗れる日が訪れた。

 「病院内のリハビリ室で、乗れるかわからないけどっていうノリでまたがってみたんです。そしたら立ち漕ぎだけど漕げたんですよ。まさか! 乗れるんや!って、私より先生たちが驚いていました」

 その後、徐々に練習の難易度を上げていき、6月には実際のコースで練習を再開。7月の全日本に“ぎりぎりで”間に合った。

島田病院のスタッフと。「合間の時間でケアをしてもらったおかげで万全の状態で挑むことができました」 (提供写真)島田病院のスタッフと。「合間の時間でケアをしてもらったおかげで万全の状態で挑むことができました」 (提供写真)
事故当時、現場で助けてくれた3人。「またコースで4人揃えて本当によかった」 (提供写真)事故当時、現場で助けてくれた3人。「またコースで4人揃えて本当によかった」 (提供写真)

 「とにかく、レースに戻ってこれたことが何よりうれしかった。応援してくれていた皆が『おかえり』と言ってくれた。またみんなにレースをしている姿を見せられて、良かった」と、復帰の喜びをかみしめる。

 何よりもケガをして以来、ずっと支えてきてくれた先輩のプロBMXライダー、飯端美樹さん(SEレーシング)と一緒に走れたことがうれしかった。

 「走り終えたあと美樹ちゃんの顔みたら涙が出てきちゃって。美樹ちゃんも私と一緒に泣いちゃって『ばっちり化粧したのに表彰式前に泣かせんな!』っていわれました(笑)。ほんまに楽しかった。出られてよかったと心の底から思いました」

「来年の全日本選手権は勝つために出る」

「1年後の全日本選手権では優勝を目指します」と朝比奈さん Photo: Kyoko GOTO「1年後の全日本選手権では優勝を目指します」と朝比奈さん Photo: Kyoko GOTO

 自転車には乗れたが、しゃがむことも長距離を歩くこともできず、生活面では不自由なことが多い。レース時も医療スタッフが同行し、レースの合間にリハビリを受けながら臨んだ。折れた大腿骨は2つに割れたまま骨を固定している状態で、全日本が終わった今後はその治療にも専念する。

 「120度曲げるという目標には届いていないけれど、絶対に届いてみせる。リハビリ時には痛みもあり、不安になることもあるけれど、いまは耐え抜くしかない。目標をもつことで、身体も応えてくれる」と、常に前向きを貫く。

 気の持ちようも変わった。「これまで自分に自信がなかったけれど、ケガを乗り越えたいま、自分はここまでできるんだと思える。今は何でもできるような気がします」

 次の目標は1年後の全日本選手権。今度のレースは「勝つために出る」。本当の完全復活に向け、新たなスタートを切った。

朝比奈綾香(あさひな・あやか)

1996年、大阪府堺市出身。10才から地元・堺市の「大泉緑地内どろんこ広場」でBMXを始める。11才から日本全国へ遠征し実力を付け、2011年より海外でのレースに挑戦。2013年度、公益財団法人日本自転車競技連盟により、アジア選手権への代表(ジュニア)の強化指定選手に選ばれ、今後は日本でのレースに加え、世界選手権を目指す。

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