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福光俊介の「週刊サイクルワールド」<166>有力選手がほぼ横一線のツール・ド・フランス第1週 これからの勝負の行方を探る

by 福光俊介 / Syunsuke FUKUMITSU
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 ツール・ド・フランス2016は第1週が終了。世界遺産モン・サン・ミシェルでの華やかな開幕から、中央山塊、ピレネー山脈へと熱きレースは続いた。最初の休息地アンドラに到着した段階では、個人総合、ポイント賞、山岳賞の覇権争いは実質横一線と言える。そこで今回は、ここまでの戦いの傾向を振り返り、さらには第2週のポイントを探っていくこととする。

ツール・ド・フランス2016第9ステージ。超級山岳アンドラ・アルカリスを上る、マイヨジョーヌのクリストファー・フルームを含む総合上位陣。第2週の戦いにも注目が集まる =2016年7月10日 Photo: Yuzuru SUNADAツール・ド・フランス2016第9ステージ。超級山岳アンドラ・アルカリスを上る、マイヨジョーヌのクリストファー・フルームを含む総合上位陣。第2週の戦いにも注目が集まる =2016年7月10日 Photo: Yuzuru SUNADA

マイヨジョーヌ争いのカギは個人TTか

第1週でクリストファー・フルームがマイヨジョーヌを確保。チーム スカイが一丸となってジャージを守る姿勢は今回も変わらない =ツール・ド・フランス2016第9ステージ、2016年7月10日、Photo: Yuzuru SUNADA第1週でクリストファー・フルームがマイヨジョーヌを確保。チーム スカイが一丸となってジャージを守る姿勢は今回も変わらない =ツール・ド・フランス2016第9ステージ、2016年7月10日、Photo: Yuzuru SUNADA

 ツールの華、マイヨジョーヌは総合優勝候補筆頭のクリストファー・フルーム(イギリス、チーム スカイ)が順当に手に入れた。2013年、2015年と、ツール制覇時は開幕から好調を維持し、第1週のうちにはマイヨジョーヌを確保。大会序盤から実力を発揮し、優勢に持ち込んだうえでアシストと一丸となってジャージを守る、これが勝ちパターンだ。もっとも、“前エース”であるブラッドリー・ウィギンス(イギリス、現ウィギンス)が2012年にツール制覇した際も同様の戦法を用いており、これぞチーム スカイのお家芸とでも言おうか。

 ただ、今回は幾分様相が異なっている点に注目したい。第9ステージを終えた時点で、総合2位のアダム・イェーツ(イギリス、オリカ・バイクエクスチェンジ)との総合タイム差は16秒。同3位のダニエル・マーティン(アイルランド、エティックス・クイックステップ)とは19秒。1分以内に9人、2分以内に13人がひしめく激戦となっている。バイクトラブルにより第2ステージで遅れたリッチー・ポート(オーストラリア、BMCレーシングチーム)が2分10秒差。彼が好調であることはピレネーでの走りで明らかになっており、ポートまでを含めると上位14人が「僅差」となっているのだ。

16秒差で総合2位につけるアダム・イェーツ(右)など、第1週は総合上位陣が僅差にひしめく =ツール・ド・フランス2016第9ステージ、2016年7月10日 Photo: Yuzuru SUNADA16秒差で総合2位につけるアダム・イェーツ(右)など、第1週は総合上位陣が僅差にひしめく =ツール・ド・フランス2016第9ステージ、2016年7月10日 Photo: Yuzuru SUNADA

 これは、リーダーチームとして第2週を迎えるチーム スカイとしても緊張感を抱く要素となっているようで、アシストのゲラント・トーマス(イギリス)はインタビューで「タイム差2分以内に位置する選手は、誰もが危険な存在だ」と答えている。

 有力選手の多くが好調でツールのスタートラインにつき、ミスなく第1週を走りきったことは大前提として、少ないタイム差の総合争いとなっている要因しては、山頂フィニッシュの少なさを挙げたい。調子の良し悪しや登板力が明確に出やすい山頂フィニッシュは、タイム差を奪うには格好の舞台となるが、今大会はここまで上級山岳ステージにおいて山頂にフィニッシュしたのは第9ステージのみ。そのほかは頂上から一度下ってフィニッシュを目指すレイアウトが続いたこともあり、有力選手が一団のままステージを終えるケースが自然と多くなった。

 もちろん、第1週から“全開”で勝負を仕掛けるのは無謀とも言える。“本番”はこれから。確実に総合タイム差に変動が起こり、順位のシャッフルが起きるのは、第13ステージ(7月15日)。今大会最初の個人タイムトライアル(TT)ステージだ。

 37.5kmと、長距離個人TTの部類となるこの日は、個々の独走力、TT能力、そしてオールラウンドに力が発揮できるかが試される。スタート直後、終盤と難しい上りが控え、生粋のクライマーにとってもチャンスがないわけではないが、一方で平坦な区間も多いことから、やはりTT能力に長けているに越したことはないだろう。

個人タイムトライアルを得意とするクリストファー・フルーム。第13ステージでアドバンテージを得る可能性が高い。写真はツール2013第11ステージ =2013年7月10日 Photo: Yuzuru SUNADA個人タイムトライアルを得意とするクリストファー・フルーム。第13ステージでアドバンテージを得る可能性が高い。写真はツール2013第11ステージ =2013年7月10日 Photo: Yuzuru SUNADA

 TTに絶対的な強さをもつフルームは、このステージでライバルからアドバンテージを得ることをある程度計算に入れて臨んでくるはずだ。片や、イェーツやマーティンらTTをさほど得意としていない選手たちにとっては正念場となる。フルームの最大のライバルであるナイロアレクサンデル・キンタナ(コロンビア、モビスター チーム)は、アップダウンを有する個人TTは得意としており、このステージをどう走るかは大いに見もの。

 前日には、第2週唯一の山頂フィニッシュである超級山岳モン・ヴァントゥーが控えるが、フランス独立記念日(7月14日)であることから、フランス人選手を中心に逃げの展開となる可能性が高いと考える。総合勢は逃げを容認することによって、マイヨジョーヌ争いの形勢がはっきりしてしまうほどの流れにはなりにくいのではないか。そう考えると、モン・ヴァントゥーまでのタイム差を元に臨む、37.5kmの長距離個人TTが大きなカギになると見ている。

それぞれの思いを胸に第2週へ

 ここからは、注目選手たちの戦いぶりをコメントなどと合わせて見ていきたい。

ツール2016第8ステージで勝利したクリストファー・フルーム。下りにも強さを発揮した =2016年7月9日 Photo: Yuzuru SUNADAツール2016第8ステージで勝利したクリストファー・フルーム。下りにも強さを発揮した =2016年7月9日 Photo: Yuzuru SUNADA

 まずは総合首位のフルーム。今大会最初のステージ優勝となった第8ステージでは、ペイスルド峠からフィニッシュまでのダウンヒルで猛攻。上りと個人TTでの強さは誰もが知るところだが、下りでも勝負できることを証明した。昨今のグランツールでは、下りでのアタックが光るケースが増えてきているが、そんなトレンドに見合った走りは、現役最強オールラウンダーと言われる所以ともなりそうだ。

 トーマスがフルームのダウンヒルを振り返り、「元々下りの走りは上手かった」と前置きしたうえで、「あの場面で仕掛ける予定はなかった」と語っている。フルーム自身も、「当初の予定にはなく、瞬間的に動いた」との旨を述べているあたり、闘争本能に火がついたシーンだったということか。

 第2エース的存在であるセルジオルイス・エナオ(コロンビア)が好調で、ここぞという場面での働きが計算できるのが大きい。第1週ではたびたびライバルの様子を見るためのアタックを繰り出し、他チームの出足を誘発する動きが功を奏している。また、チームとしてはキンタナ擁するモビスター チームの動きを注視しているとし、第9ステージ序盤で逃げグループへの合流を試みたアレハンドロ・バルベルデ(スペイン)の走りは、キンタナのアシストとして特に注意をしているという。今後も両チームのにらみ合いとなる可能性が高い。

まずはステージ優勝を狙う構えのダニエル・マーティン(右) =ツール・ド・フランス2016第8ステージ、2016年7月9日 Photo: Yuzuru SUNADAまずはステージ優勝を狙う構えのダニエル・マーティン(右) =ツール・ド・フランス2016第8ステージ、2016年7月9日 Photo: Yuzuru SUNADA

 総合3位につけるマーティンは、これまでグランツールでは体調不良や落車トラブルでチャンスをふいにすることが多かったが、今大会は第1週までを終えて順調にきている。しかし、本人に浮き足立った様子はない。「1日1日を大切に戦う」と、これまで苦しんできた経験を生かして走る構えで、「まずはステージ優勝を狙いたい」と続けた。総合成績については、日々よい走りを続けた結果ついてくるものだというスタンスだ。

ツール2016第9ステージで強さを見せたリッチー・ポート(中央)。ティージェイ・ヴァンガーデレン(左)と共闘しながらも、自身の総合表彰台を目指す =ツール・ド・フランス2016第8ステージ、2016年7月9日 Photo: Yuzuru SUNADAツール2016第9ステージで強さを見せたリッチー・ポート(中央)。ティージェイ・ヴァンガーデレン(左)と共闘しながらも、自身の総合表彰台を目指す =ツール・ド・フランス2016第8ステージ、2016年7月9日 Photo: Yuzuru SUNADA

 第2ステージでのトラブルによる遅れが痛いポートだが、第9ステージの超級山岳アンドラ・アルカリスでは戦う意志を示した。1分1秒差の総合11位につけるティージェイ・ヴァンガーデレン(アメリカ)とのダブルエース体制は崩さないが、自身はパリ・シャンゼリゼでの総合表彰台を目指すと誓った。フルームとの差を縮めるのは容易ではないが、アンドラで見せた積極的な姿勢が保たれれば、実力的に見ても総合のジャンプアップは大いに可能。こちらも今後の戦いぶりに注目だ。

 そして、注目度ではフルームと並ぶキンタナ。第1週を終えて、表立ったコメントは出しておらず、戦いぶりを見ても不気味だ。ここまで攻撃的な姿勢は見せておらず、フルームのチェックに徹している印象だ。第8ステージではフルームの奇襲にタイムを失ったが、続く第9ステージではしっかりとフルームをマークし、走りにも力強さが見える。これまでのように第1週で大きくタイムを落とすことはなかっただけに、得意とする大会後半の走りでチャンスを見出そうというところか。

第1週をミスなく終えたナイロアレクサンデル・キンタナ。第2週以降の走りに注目が集まる =ツール・ド・フランス2016第9ステージ、2016年7月10日 Photo: Yuzuru SUNADA第1週をミスなく終えたナイロアレクサンデル・キンタナ。第2週以降の走りに注目が集まる =ツール・ド・フランス2016第9ステージ、2016年7月10日 Photo: Yuzuru SUNADA

その他賞レースの動向

 マイヨジョーヌ以外にも、各賞争いが盛り上がっている。

マイヨヴェール争いでライバルとなるマーク・カヴェンディッシュ(右)とペテル・サガン =ツール・ド・フランス2016第5ステージ、2016年7月6日 Photo: Yuzuru SUNADAマイヨヴェール争いでライバルとなるマーク・カヴェンディッシュ(右)とペテル・サガン =ツール・ド・フランス2016第5ステージ、2016年7月6日 Photo: Yuzuru SUNADA

 ポイント賞のマイヨヴェールは、第2週が稼ぎどころとなりそうだ。第10(7月12日)、第11(同13日)、第14(同16日)、第16(同18日)の4ステージにスプリントチャンスがあり、中間スプリントポイントを含めた熾烈な戦いが予想される。

 ステージ3勝を挙げ、204ポイントでトップのマーク・カヴェンディッシュ(イギリス、ディメンションデータ)に対し、2位ペテル・サガン(スロバキア、ティンコフ)が7ポイント差、3位マルセル・キッテル(ドイツ、エティックス・クイックステップ)が22ポイント差で追いかける。レース展開によっては、1ステージで形勢がガラリと変わる可能性さえ秘める。

 山岳賞のマイヨアポワ争いも面白い。現在80ポイントでトップのティボ・ピノー(フランス、エフデジ)は、総合争いからの脱落を機に山岳賞狙いにシフト。「山岳賞スペシャリスト」となりつつあるラファウ・マイカ(ポーランド、ティンコフ)が3ポイント差で追うが、ピノーの存在は大きな脅威だ。多くのクライマーを前に、ピノーのスプリント力は絶対的な武器となっており、山頂まで数百メートルからの加速でポイントの量産体制を狙う。

 新人賞のマイヨブランは、総合でも2位につけるイェーツが着用。同じく9位のルイ・メインティス(南アフリカ、ランプレ・メリダ)が39秒差で追う。実力者のワレン・バルギル(フランス、チーム ジャイアント・アルペシン)も2分35秒差につけており、このジャージの行方が総合上位進出に直結することは必至だ。

山岳賞争いは、ティボ・ピノー(左)の“参戦”で、ラファウ・マイカ(右)との争いが激化しそうだ =ツール・ド・フランス2016第8ステージ、2016年7月9日 Photo: Yuzuru SUNADA山岳賞争いは、ティボ・ピノー(左)の“参戦”で、ラファウ・マイカ(右)との争いが激化しそうだ =ツール・ド・フランス2016第8ステージ、2016年7月9日 Photo: Yuzuru SUNADA
新人賞争いで2位につけるルイ・メインティス。総合でも9位と健闘している =ツール・ド・フランス2016第9ステージ、2016年7月10日 Photo: Yuzuru SUNADA新人賞争いで2位につけるルイ・メインティス。総合でも9位と健闘している =ツール・ド・フランス2016第9ステージ、2016年7月10日 Photo: Yuzuru SUNADA

今週の爆走ライダー-フレッヒ・ヴァンアーヴルマート(ベルギー、BMCレーシングチーム)

「爆走ライダー」とは…

1週間のレースの中から、印象的な走りを見せた選手を「爆走ライダー」として大々的に紹介! 優勝した選手以外にも、アシスト や逃げなどでインパクトを残した選手を積極的に選んでいきたい。

 「思ってもみなかったことが現実になってしまった!」。7月6日のツール第5ステージ、逃げグループに潜り込んだ末、自らの勝利と同時に手繰り寄せたマイヨジョーヌ。「仕事をしている選手とまったく機能していない選手とがいたんだ」という逃げグループから、脱出すべく仕掛けたアタックが人生までをも大きく変えてしまった。

「思ってもみなかったことが現実になってしまった!」と感慨に浸った、フレッヒ・ヴァンアーヴルマートのツール2016第5ステージ勝利の瞬間 =2016年7月6日 Photo: Yuzuru SUNADA「思ってもみなかったことが現実になってしまった!」と感慨に浸った、フレッヒ・ヴァンアーヴルマートのツール2016第5ステージ勝利の瞬間 =2016年7月6日 Photo: Yuzuru SUNADA

 プロ入り前からその力は折り紙つきで、プロ2年目の2008年にはブエルタ・ア・エスパーニャでポイント賞を獲得。クラシックを走ってもよし、スプリントにトライしてもよし、器用さがウリだったが、なかなかビッグレースの勝利に手が届かない時期が長かった。「器用さゆえに…」と言われることはまだしも、同国かつチームメイトで脚質まで似ているフィリップ・ジルベールと比較されるのは、さすがに堪らなかった。しかも、一度は別の道の歩むと決めたのに、2012年からまたしてもチームメートとなったのだ。ジルベールは嫌いじゃないけれど、自分は自分。とにかく己の強さをアピールするしかなかった。

 “取りこぼし”の多かった過去を脱却し、近年は狙ったレースでしっかりと結果を残せるようになった。今年2月には、セミクラシックのオムループ・ヘット・ニュースブラッド(ベルギー、UCI1.HC)で悲願の初優勝。いつかはツール・デ・フランドルと世界選手権で勝ちたいと思い続ける。

マイヨジョーヌを着て取材に応じるフレッヒ・ヴァンアーヴルマート。笑顔が光る =ツール・ド・フランス2016第6ステージ、2016年7月7日 Photo: Yuzuru SUNADAマイヨジョーヌを着て取材に応じるフレッヒ・ヴァンアーヴルマート。笑顔が光る =ツール・ド・フランス2016第6ステージ、2016年7月7日 Photo: Yuzuru SUNADA

 それより先に舞い込んできたマイヨジョーヌ。「1日で脱ぐのはもったいない」とばかりに、手にした翌日にも逃げに加わり、自らの力でジャージを守ってみせた。さすがに次の日には力尽きたが、できる限りのことをやったと満足できる数日間だった。

 ポートとヴァンガーデレンという2人の総合エースがいるチームにあって、大会前半はしばしの自由が許された。残るステージはチームに尽くすと同時に、再度のチャンスをうかがう。激しい戦いの日々にあって、彼の勝負勘はチームの士気を高める起爆剤となる。もう少し、ツールで暴れてみてもよさそうだ。

福光俊介福光俊介(ふくみつ・しゅんすけ)

サイクルジャーナリスト。自転車ロードレース界の“トップスター”を追い続けて十数年、気がつけばテレビやインターネットを介して観戦できるロード、トラック、シクロクロス、MTBをすべてチェックするレースマニアに。現在は国内外のレース取材、データ分析を行う。自転車情報のFacebookページ「suke’scycling world」も充実。UCIコンチネンタルチーム「キナンサイクリングチーム」メディアオフィサー。

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