title banner

山口和幸の「ツールに乾杯! 2016」<4>過酷な峠が演出するドラマ “定番”の超級山岳トゥールマレーは名勝負の宝庫

by 山口和幸 / Kazuyuki YAMAGUCHI
  • 一覧

 1903年に始まったツール・ド・フランスが世界最高峰の自転車レースとしての地位を決定づけたのは、当時として自転車で上ることなどだれひとりとして想像できなかった過酷な峠をコースに加えたことだ。1909年に大会主催者はピレネーにある4つの峠、オービスク、トゥールマレー、アスパン、ペイルスールドを加えた。

トゥールマレー峠を通過したツール・ド・フランス第8ステージ © ASO/A.Broadwayトゥールマレー峠を通過したツール・ド・フランス第8ステージ © ASO/A.Broadway

勝負の舞台として定着

ピック・デュ・ミディ天文台の部屋からトゥールマレー峠が見下ろせた Photo: Kazuyuki YAMAGUCHIピック・デュ・ミディ天文台の部屋からトゥールマレー峠が見下ろせた Photo: Kazuyuki YAMAGUCHI

 そのなかでも最高峰が標高2115mのトゥールマレー峠(Col du Tourmalet)だ。周囲は針のように屹立した山岳が取り囲み、真夏でも天候が崩れれば降雪する。そんな過酷な条件が勝負どころとして定着し、大観衆が沿道を埋め尽くすようになった。トゥールマレーはピレネーの重要な拠点にあり、ここを通過しないと次には進めない。ボク自身は断崖絶壁をえぐるように道をつけたオービスク峠のほうが好きなのだが、ここは数年に1回しか採用されない。毎年必ず登場するトゥールマレー峠のほうが知名度は圧倒的に高いのである。

 ツール・ド・フランスが初めてピレネーを越えた100余年前、人食い熊が生息していて選手たちに襲いかかるんじゃないかと危惧されたような山奥である。現在でも普段はヒツジの鳴き声や牛の鈴が風に乗って聞こえてくるだけの美しい原野ばかりがひろがる。ここで1913年にツール・ド・フランスの伝説となるエピソードが演じられる。

石版が今も語る伝説

 1913年のツール・ド・フランスは初めて時計と逆回りのルートを取り、アルプスの前にピレネーを体験した。第6ステージ、バイヨンヌからリュションまでの326kmという、現在では考えられないような長距離区間でその伝説は生まれた。舞台となったのはピレネーのトゥールマレー峠。主役を演じたのはウジェーヌ・クリストフ。前年の総合2位、そして自転車競技の歴史の中で初めて登場した山岳スペシャリストだ。

サントマリー・ド・カンパンにあるかつての鍛冶屋 Photo: Kazuyuki YAMAGUCHIサントマリー・ド・カンパンにあるかつての鍛冶屋 Photo: Kazuyuki YAMAGUCHI

 この日、トゥールマレー峠を2番手で通過したクリストフだが、下りで彼の自転車のフロントフォークが折れるというアクシデントに見舞われた。当時、機材の故障は自分で対処しなくてはならず、絶望的な状況だった。しかしクリストフはあきらめなかった。14kmの道のりをひたすら歩いて、たどり着いたのがサントマリー・ド・カンパンという小さな集落だった。

 クリストフはわき目もふらずに鍛冶屋に飛び込んでいった。そして店の職人から溶接道具を借りると、自らの手で折れたフォークを直してしまい、逃げていた宿敵フィリップ・ティスを追いかけていったのだ。サントマリー・ド・カンパンの鍛冶屋が現存し、建物の壁にツール・ド・フランスの伝説の舞台となったことを伝える石版が埋め込まれている。

山頂の天文台でナイトツアー

ピック・デュ・ミディ天文台では赤ワインとシャンパンがつく夕食が楽しめる Photo: Kazuyuki YAMAGUCHIピック・デュ・ミディ天文台では赤ワインとシャンパンがつく夕食が楽しめる Photo: Kazuyuki YAMAGUCHI

 ツール・ド・フランスの空撮映像でいつも登場するのが130年の歴史を誇るピック・デュ・ミディ天文台だ。トゥールマレー峠を眼下にする、針のような稜線のピークに建造された石造りの研究施設だ。標高はなんと2877m。

 トゥールマレーのベースキャンプとなるラ・モンジーの集落からロープウェイを2つ乗り継いでいく。1泊2食付きで天文学者が宿泊した部屋に泊まることもできる。

 夕日が沈むころには研究員に案内されてツアーが始まり、天体ドームの中に案内されて観測用の望遠鏡で土星などを見せてくれる。宿泊者数は27人限定だが、予約すればだれでも泊まれるのでぜひ。

トゥールマレー峠を眼下にするピック・デュ・ミディ天文台。写真は冬のシーン © HPTE RESTAURANT LE VISCOSトゥールマレー峠を眼下にするピック・デュ・ミディ天文台。写真は冬のシーン © HPTE RESTAURANT LE VISCOS
山口和幸山口和幸(やまぐち・かずゆき)

ツール・ド・フランスをはじめ、卓球・陸上・ボート競技などを追い続け、日刊スポーツ、東京中日スポーツ、ナンバー、ターザン、YAHOO!などで執筆。国内で行われる自転車の国際大会では広報を担当。著書に「ツール・ド・フランス」(講談社現代新書)、「もっと知りたいツール・ド・フランス」(八重洲出版)など。

この記事のタグ

ツール・ド・フランス2016 ツール2016・コラム 山口和幸の「ツールに乾杯!」

  • 一覧

新着ニュース

もっと見る

ピックアップ

e-BIKE最新特集

スペシャル

自転車協会バナー

ソーシャルランキング

サイクリストTV

インプレッション

インプレッション一覧へ

連載