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福光俊介の「週刊サイクルワールド」<165>集団内の“2つのレース”に募る危機感 ツール・ド・フランス序盤戦のアクシデント

by 福光俊介 / Syunsuke FUKUMITSU
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 ツール・ド・フランス2016が開幕し、マーク・カヴェンディッシュ(イギリス、ディメンションデータ)、ペテル・サガン(スロバキア、ティンコフ)といったスター選手の活躍もあり、今後の激闘を予感させる序盤戦となった。一方で、長い戦いを前に暗雲が立ち込めている選手、懸念される話題など、必ずしも明るい話題ばかりではないのも事実だ。そこで、好勝負と表裏一体となっている実態にも目を向け、この先のレースをよいものとするべく選手たちと一緒に考えていきたい。

ツール・ド・フランス2016は序盤から話題満載の大会となっている =ツール・ド・フランス2016第2ステージ、2016年7月3日 Photo: Yuzuru SUNADAツール・ド・フランス2016は序盤から話題満載の大会となっている =ツール・ド・フランス2016第2ステージ、2016年7月3日 Photo: Yuzuru SUNADA

コンタドールはモチベーションを失わず

 まずは戦いぶりが注目されながら、不運に見舞われた選手について触れていきたい。

第1、第2ステージ続けて落車したアルベルト・コンタドール。総合タイムを失ったが、モチベーションは高いままだ =ツール・ド・フランス2016第1ステージ、2016年7月2日 Photo: Yuzuru SUNADA第1、第2ステージ続けて落車したアルベルト・コンタドール。総合タイムを失ったが、モチベーションは高いままだ =ツール・ド・フランス2016第1ステージ、2016年7月2日 Photo: Yuzuru SUNADA

 第1、第2ステージと2日続けての落車に見舞われ、複数箇所の負傷に苦しむアルベルト・コンタドール(スペイン、ティンコフ)。これまでもシーズンを順調に送りながら、肝心のツールで落車にあい、その後の戦いを厳しいものにしてしまったケースが多かったが、今回も同様の事態となってしまった。

 第2ステージではトップから48秒遅れ、半ば総合争いからも脱落してしまった感は現状にして否めない。皮肉にも、Wエースであるサガンの勝利を目指しアシストがペースを上げた時点で、遅れを喫する形となった。

 当面は回復を図りながらレースを進めることになるが、最もダメージを受けているのは左足のようだ。第2ステージでのクラッシュ時に、巻き込まれた後続選手がコンタドールの左足に乗り上げたことで、捻挫に近い状態であるという。ペダリングにも影響する部分であるため、しばらくは慎重な走りが求められる。

けがの回復を図りながら、勝負するチャンスをうかがう姿勢のアルベルト・コンタドール =ツール・ド・フランス2016第3ステージ、2016年7月4日 Photo: Yuzuru SUNADAけがの回復を図りながら、勝負するチャンスをうかがう姿勢のアルベルト・コンタドール =ツール・ド・フランス2016第3ステージ、2016年7月4日 Photo: Yuzuru SUNADA

 総合タイムを落とした失意と、激しい体へのダメージと、心身ともに苦しい状態にあるが、それでもモチベーションは失わない。特に、終盤に2級と3級の山岳ポイントが待ち受ける第5ステージでアクションを起こしたいとし、もう一度戦いのスタートラインにつく意欲を見せている。

 総合争いへの再浮上を目指すのか、ステージ勝利に目標をシフトするのかは定かではないが、これまでも見せてきた最後まで諦めない姿勢は今回も崩すことはなさそうだ。

約2分の遅れは何も意味しない

 もう1人、第2ステージで不運に見舞われたのが、リッチー・ポート(オーストラリア、BMCレーシングチーム)。

ツール2016第2ステージ終盤、パンクに見舞われたリッチー・ポートは総合で1分59秒もの遅れとなった =2016年7月3日 Photo: Yuzuru SUNADAツール2016第2ステージ終盤、パンクに見舞われたリッチー・ポートは総合で1分59秒もの遅れとなった =2016年7月3日 Photo: Yuzuru SUNADA

 昨年までチーム スカイでクリストファー・フルーム(イギリス)の腹心として走り、今シーズンの移籍で満を持してエースとしてツールのスタートラインに立ったばかりだった。勝負どころの上り区間が目前だったラスト5km地点で、まさかの後輪パンク。ニュートラルサービスのホイールに交換したが、ここでの作業でも時間を要してしまったのが中継のテレビ画面からも伝わっていた。

 チームのゼネラルマネージャーである、ジェームズ・オショウィッツ氏は“敗因”について、「フレッヒ・ヴァンアーヴルマート(ベルギー)を前に送り出すために、アシストを多く使っていた。ポートがパンクをした時点で、アシスト陣はすでに仕事を終えて後方に下がっていたため、彼(ポート)を前へと引き上げることができなかった」と説明した。ホイール交換直後、ジャンパオロ・カルーゾ(イタリア)が懸命の引きを見せたが、その後は自力で前を追うしかなくなり、大きく遅れたばかりか自らの脚も使わざるを得ない結果となった。

ツール2016第2ステージ、終盤でパンクに見舞われたリッチー・ポート(中央)は、ジャンパオロ・カルーゾ(右)のアシストを受ける =2016年7月3日 Photo: Yuzuru SUNADAツール2016第2ステージ、終盤でパンクに見舞われたリッチー・ポート(中央)は、ジャンパオロ・カルーゾ(右)のアシストを受ける =2016年7月3日 Photo: Yuzuru SUNADA

 しかし、多くを語らないポートに代わって、もう1人の総合エースであるティージェイ・ヴァンガーデレン(アメリカ)が擁護する。「(総合で)約2分の遅れは何も意味しない可能性がある。ツールはマラソンのようなものであり、リッチーさえ強い気持ちを持っていれば戦い続けることは可能なんだ」。そして、「共同リーダーして走り続ける」とも語った。

 総合タイムを約2分失うことは、たとえ大会序盤とはいえ取り戻すのは現実的に難しい。今後のステージでは、上位から落ちてくる選手たちを1人ずつパスしていきながら、総合順位のジャンプアップを目指していく必要があるだろう。転んでもただでは起きない、そんな強いポートの姿が見られるだろうか。

サガンらが指摘する「リスペクト」の欠如

 グランツールともあれば、出場チーム・選手たちはこの日のために懸命にトレーニングし、最大限の調整を行ったうえでスタートラインに立つ。その意味で、大会序盤ともなれば多くの選手の脚が“フレッシュ”な状態にあるともいえる。それゆえ、勝負の分かれ目となるであろう局面では、集団内での主導権争いが激しさを増し、緊張感が高まる。

マイヨジョーヌで出走するペテル・サガン。表情とは裏腹に、集団内の走行に危機感を示す =ツール・ド・フランス2016第3ステージ、2016年7月4日 Photo: Yuzuru SUNADAマイヨジョーヌで出走するペテル・サガン。表情とは裏腹に、集団内の走行に危機感を示す =ツール・ド・フランス2016第3ステージ、2016年7月4日 Photo: Yuzuru SUNADA

 そんな状況を「まるで気が狂ったかのような光景だ」と表現するのは、第4ステージを終えてマイヨジョーヌを着用するサガン。プロトンにおけるリーダー格の1人であるベルンハルト・アイゼル(オーストリア、ディメンションデータ)は、「集団内で2つのレースが行われているようだ」と表現する。

 2人の言葉は、平坦ステージにおけるスプリンターチームと総合系チームの動きの違いを指したものだ。スプリンターチームがトレインを形成し、集団の前方をキープする、そんな展開はレースを熱心に追っている方であれば数多く目にしてきたものだが、このところは先々の総合争いを見据えるチーム・選手も同様にトレインを組んで主導権争いに加わるようになった。集団前方を確保することで、総合エースを落車やトラブルのリスクから守り、安全にフィニッシュまで到達できるようにするための戦術でもある。

「集団内で2つのレースが行われている」と述べるベルンハルト・アイゼル =ツール・ド・フランス2016チームプレゼンテーション、2016年6月30日 Photo: Yuzuru SUNADA「集団内で2つのレースが行われている」と述べるベルンハルト・アイゼル =ツール・ド・フランス2016チームプレゼンテーション、2016年6月30日 Photo: Yuzuru SUNADA

 アイゼルによれば、「残り50kmを切ったあたりからいくつかのチームが前へと出てきて、それによって他チームの動きがブロックされている」とのこと。さらに、「スプリンターチームとしては、ラスト5kmからエーススプリンターを導く動きが必要となる。スプリンターチームと総合系チームの戦略はまったく異なっていて、チーム間の緊張を生み出す要因となっている」と続ける。

 集団内での「リスペクト(敬意)」の欠如を指摘するのはサガン。「スプリンターチームの後ろを走っていても、安全にフィニッシュできる方法はあると思うのだけれど・・・」というのが彼の意見。さらに、ポジショニングやバイクスキルの差も相まって「ひどいクラッシュが相次いでいる」とし、「きっと明日はボクがクラッシュして家に帰る番だろうね」との皮肉も口をつく。

 リスペクトという意味では、アイゼルが第2ステージでの集団全体の動きについても指摘をする。この日、コンタドールが落車で激しく路面に叩きつけられたが、総合争いの中心人物への敬意から、集団全体が一旦ペースを落とし復帰を待った。

 コンタドールは何とか集団に戻ることができたが、その後メイン集団のペースコントロールに参加したチームがなかったことをアイゼルは嘆いた。前日のカヴェンディッシュの勝利で、リーダーチームとしての責任を果たすべく、数人で集団コントロールを行ったディメンションデータだったが、他チームへの協力を求めるもその返事は「NO」。フィニッシュ前に上りが控えていたこともあり、どのチームも終盤に備えたいとのことだったとか。

ベルンハルト・アイゼルが問題視したツール2016第2ステージのひとこま。落車した選手の集団復帰後、他チームからの追走協力が得られず、ディメンションデータだけがペースコントロールを担った =2016年7月3日 Photo: Yuzuru SUNADAベルンハルト・アイゼルが問題視したツール2016第2ステージのひとこま。落車した選手の集団復帰後、他チームからの追走協力が得られず、ディメンションデータだけがペースコントロールを担った =2016年7月3日 Photo: Yuzuru SUNADA

 時代とともに戦術やレース展開が少しずつ変化していくことは、いたって自然だとも言える。過去との違い、様変わりに戸惑いと覚えつつも、徐々に順応していく必要性もあるのかもしれない。もっとも、昨年まで総合系チームとしての色が濃いチーム スカイで走っていたアイゼルにとっては、カヴェンディッシュ中心のスプリント色の強い現チームで走る現在、さまざまな思いを抱いていても不思議ではない。

 とはいえ、サイクルロードレース界で長きに渡って守られてきた選手間の「リスペクト」は、今後も大切にすべきであることも事実。互いを称え合いつつ、フェアな戦いに期待し続けたいものである。

今週の爆走ライダー-ウィルコ・ケルデルマン(オランダ、チーム ロットNL・ユンボ)

「爆走ライダー」とは…

1週間のレースの中から、印象的な走りを見せた選手を「爆走ライダー」として大々的に紹介! 優勝した選手以外にも、アシスト や逃げなどでインパクトを残した選手を積極的に選んでいきたい。

 2度目のツール参戦のため、フランスへと乗り込んだ。ここまでは順調にステージを進行中。落ち着いて日々を送れていることが大きい。

ツール前哨戦のツール・ド・スイスで好走を見せたウィルコ・ケルデルマン =ツール・ド・スイス2016第6ステージ、2016年6月16日 Photo: Yuzuru SUNADAツール前哨戦のツール・ド・スイスで好走を見せたウィルコ・ケルデルマン =ツール・ド・スイス2016第6ステージ、2016年6月16日 Photo: Yuzuru SUNADA

 初のツールだった昨年は、自分自身にプレッシャーを与えすぎてしまった。直前に個人タイムトライアルでオランダチャンピオンになり、それまでの戦いぶりも評価されて「トップ10候補」だなんて言われたのだから、無理もない。たびたびクラッシュにも巻き込まれてしまい、総合79位とまさかの結果に終わってしまった。

 だから、あれこれと考えるのをやめることにした。今年で25歳と、新人賞のマイヨブラン対象でもあるが、「総合成績については具体的に考えていないよ。それよりも、コンディションを維持し、クラッシュに巻き込まれない。そしてチャンスがあれば動く。そうすればステージ勝利はできるかもしれない」。チームからも「オープンオプション」とのオーダーが与えられ、ある程度自由に走ることができるよう配慮された。

 6月に行われたツール前哨戦のツール・ド・スイスでリーダージャージを1日着用、総合でも8位となり自信は深まっている。元々ポテンシャルは高いと言われ続けているだけに、深く考えずともトラブルなく走ることができればきっとツールの総合上位も狙えるだろう。そうすれば、マイヨブランも舞い込んでくることだってあり得る。昨年の悲しみなど、案外簡単に払拭できるかもしれない。

ツール・ド・スイスではリーダージャージを1日着用。ツール・ド・フランスでも快走を誓う =ツール・ド・スイス2016第6ステージ、2016年6月16日 Photo: Yuzuru SUNADAツール・ド・スイスではリーダージャージを1日着用。ツール・ド・フランスでも快走を誓う =ツール・ド・スイス2016第6ステージ、2016年6月16日 Photo: Yuzuru SUNADA
福光俊介福光俊介(ふくみつ・しゅんすけ)

サイクルジャーナリスト。自転車ロードレース界の“トップスター”を追い続けて十数年、気がつけばテレビやインターネットを介して観戦できるロード、トラック、シクロクロス、MTBをすべてチェックするレースマニアに。現在は国内外のレース取材、データ分析を行う。自転車情報のFacebookページ「suke’scycling world」も充実。UCIコンチネンタルチーム「キナンサイクリングチーム」メディアオフィサー。

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