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山口和幸の「ツールに乾杯! 2016」<2>初めて訪れたシェルブール 西洋史の足跡に思いをはせる

by 山口和幸 / Kazuyuki YAMAGUCHI
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 コタンタン半島の先端にあるシェルブールは映画『シェルブールの雨傘』で有名な町だ。黎明期のツール・ド・フランスではよくコースとなったが、近年はツール・ド・フランスがこの地を訪問することがなくなった。それにはちょっとしたわけがあるのだと考えている。

ショーウインドウが歓迎ムードでいっぱい。久しぶりのツール・ド・フランス訪問だ Photo: Kazuyuki YAMAGUCHIショーウインドウが歓迎ムードでいっぱい。久しぶりのツール・ド・フランス訪問だ Photo: Kazuyuki YAMAGUCHI

古くからの要衝

第2ステージが行われた7月3日はUEFA欧州選手権の準々決勝、フランス対アイスランド戦があり町中が盛り上がっていた Photo: Kazuyuki YAMAGUCHI第2ステージが行われた7月3日はUEFA欧州選手権の準々決勝、フランス対アイスランド戦があり町中が盛り上がっていた Photo: Kazuyuki YAMAGUCHI

 コタンタン半島は世界地図を見てもフランスの輪郭を形成するのに欠かせない大きな突出部だ。そのため古くから争奪戦が繰り広げられ、戦場となってきたという歴史的な背景が見られる。かつてはバイキングがこの地を支配した。英仏海峡を行き交う船をねらった海賊も拠点とした。後述するがドイツに占領されたこともある。

 現在のシェルブールは隣町のオクトビルと合併し、シェルブール・アン・コタンタンという町の名前になっている。今回のツール・ド・フランスでもこの名称が第2ステージのゴール地点として採用されている。

 落ち着いた港町であり、中心街に近いところには大小さまざまな帆船が係留されている。それを臨む道沿いにはムール貝などの魚介類を売り物にしたレストランが点在する。そんな町なのだが、ここから西にちょっと行ったところにラ・アーグ岬があって、ここに世界有数の核燃料再処理工場がある。東日本大震災のときの除染でニュースにもなったあのアレバ社だ。

ツールから遠ざかった“原子力の町”

チームプレゼンテーションでは米陸軍の車両に乗って選手団が行進した Photo: ASO/A.Brodwayチームプレゼンテーションでは米陸軍の車両に乗って選手団が行進した Photo: ASO/A.Brodway

 プルサーマル、いわゆる使用済み核燃料の再処理をして再び使える原子力燃料にしようという工場がラ・アーグにはあるのだ。こんな突出部に作られたのはテロ対策だろう。日本の原子力発電所で出た燃えかすは船でここに運び込まれ、再処理後に燃料とゴミを送り返される。日本でも青森県の六ヶ所村に再処理工場が建設されていて、ボク自身も取材で訪れたことがあるが、六ヶ所村にはこのラ・アーグから送り込まれたフランス人技術者たちが多かったのを記憶している。

 ツール・ド・フランスを四半世紀も追いかけているので、フランスでは800泊はしている。ほとんどの町を訪問したことがあるが、じつはシェルブールだけはこれまで訪れたことがなかった。コースから外されていたからである。これは1980年代にラ・アーグの再処理工場で電源喪失事故が発生し、その後に原発反対運動が頻繁に起こり、ツール・ド・フランスもそのデモに巻き込まれることが多くなったのが理由のような気がする。

第1ステージ終了後にウタビーチで献花する選手代表 Photo: ASO/A.Brodway第1ステージ終了後にウタビーチで献花する選手代表 Photo: ASO/A.Brodway

カマンベールにはシードル

土井雪広(マトリックスパワータグ)がモン・サン・ミシェルに新城幸也の応援にやって来た。左は当コラム筆者 Photo: Kazuyuki YAMAGUCHI土井雪広(マトリックスパワータグ)がモン・サン・ミシェルに新城幸也の応援にやって来た。左は当コラム筆者 Photo: Kazuyuki YAMAGUCHI

 この地方の産業はもちろん原子力が主になるが、昔ながらの第一次産業もしっかりと続けられている。気象条件としてぶどうの育成に不向きなため、リンゴを醸造したシードル、蒸留したカルバドスが名産だ。カマンベールに代表される白カビチーズもおいしい。知り合いの料理研究家によるとカマンベールはシードルと一緒に口にするのがいいようだ。海に近いエリアでは牛が食べる牧草に海水が混じっているので、チーズがしょっぱかったりもするらしい。

 第1ステージのゴールはノルマンディー上陸作戦のウタビーチだった。ドイツ占領下にあったこの場所に、英国を支援する米国が軍事侵攻したという第二次世界大戦時の戦闘の舞台だ。そんな地で英国のマーク・カヴェンディッシュがドイツのマルセル・キッテルを撃破するのだからツール・ド・フランスは面白い。というか、ツール・ド・フランスのコース設計は常に西洋史と表裏一体のものなので、歴史を知っておくとますます興味がわくのである。

コタンタン半島のシードル。それぞれの町に異なる銘柄がある Photo: Kazuyuki YAMAGUCHIコタンタン半島のシードル。それぞれの町に異なる銘柄がある Photo: Kazuyuki YAMAGUCHI
公式時計ティソのツール・ド・フランスバージョンだって。いいなあ Photo: Kazuyuki YAMAGUCHI公式時計ティソのツール・ド・フランスバージョンだって。いいなあ Photo: Kazuyuki YAMAGUCHI
山口和幸山口和幸(やまぐち・かずゆき)

ツール・ド・フランスをはじめ、卓球・陸上・ボート競技などを追い続け、日刊スポーツ、東京中日スポーツ、ナンバー、ターザン、YAHOO!などで執筆。国内で行われる自転車の国際大会では広報を担当。著書に「ツール・ド・フランス」(講談社現代新書)、「もっと知りたいツール・ド・フランス」(八重洲出版)など。

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