ヨーロッパ“自転車王国”をゆく<2>自転車にやさしいオランダのまちづくり ゴッホの“原点”を巡るサイクリングも

by 山口和幸 / Kazuyuki YAMAGUCHI
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 オランダは1人あたりの自転車所有台数が世界一の国だ。平均すると1人1台以上の自転車を保有しているという。国策として約3万kmにおよぶ自転車道路を整備して、自転車利用者に快適環境を提供している。そんな自転車王国をサイクリングしてみた。

アムステルダム郊外、アイセル湖畔のザーンセスカンス。観光客が歩く道と二輪車専用道路が分かれている Photo: Kazuyuki YAMAGUCHIアムステルダム郊外、アイセル湖畔のザーンセスカンス。観光客が歩く道と二輪車専用道路が分かれている Photo: Kazuyuki YAMAGUCHI

<1>縦横無尽のサイクリングコースを堪能

自転車でクルマ社会を脱却

アムステルダムのアムス川にかかるマヘレの跳ね橋 Photo: Kazuyuki YAMAGUCHIアムステルダムのアムス川にかかるマヘレの跳ね橋 Photo: Kazuyuki YAMAGUCHI

 地理の教科書にもあるように、オランダは国土の4分の1が海抜ゼロメートル以下。フランス語でオランダは「ペイバ=低い国」というくらいだ。海面下の土地が多いことから地球温暖化がこれ以上加速すると国土が水没することが懸念される。そのためクルマに依存する社会を脱却し、移動手段としての自転車利用を推奨している。

 まずはアイントホーフェンを訪問した。一時期に開催されていたチームタイムトライアル世界選手権の開催地であり、家電メーカーのフィリップス創業地だ。現在の本社はアムステルダムに移転したが、同社がこの町に残した巨大遺産はいまも多々あり、旧工場施設はモダンなレストランやデザイナー事務所などに改装されて現在でも存在感を示す。

 それと同時に自転車にもやさしいまちづくりがされ、郊外からアプローチする自転車専用レーンも十分に整備され、多くの市民が移動手段として自転車を利用している。

アムステルダムのスキポール空港への直行便があるKLMオランダ航空。オンデマンドTVでは2015ツール・ド・フランスのダイジェスト特番も見られた(KLMオランダ航空提供)アムステルダムのスキポール空港への直行便があるKLMオランダ航空。オンデマンドTVでは2015ツール・ド・フランスのダイジェスト特番も見られた(KLMオランダ航空提供)

 「オランダにはポートと呼ばれる要衝がある。アムステルダムはエアポート(空港)、ロッテルダムはシーポート(港)。それならアイントホーフェンはブレインポート(頭脳の港)だ」とこの町を愛する人たちは口にする。

 フィリップスは現パナソニックと結びつきが強く、パナソニック本社がある大阪府門真市とは姉妹都市。「日本のシマノの拠点もここなのよ」と自慢げに話す町の人もいる。

クルイシュウィックが育った村

オランダ南部のズンデルト。画家フィンセント・ファン・ゴッホが生まれた村だ Photo: Kazuyuki YAMAGUCHIオランダ南部のズンデルト。画家フィンセント・ファン・ゴッホが生まれた村だ Photo: Kazuyuki YAMAGUCHI

 このアイントホーフェンからロードバイクなら40分ほどでたどり着くヌエネンという村がある。画家のフィンセント・ファン・ゴッホ(1853-1890)が家族とともに暮らした村で、作品の多くがこの村で描かれたという。

 たいていの観光客はゴッホの生涯を紹介した博物館を訪ねるくらいだが、レンタルサイクルを借りて名画を実際に描いた場所を次々と訪問。

「じゃがいもを食べる人々」のオブジェや残存する「水車小屋」があり、サイクリングコースや林道を通って点在する名画の原点を訪れることができるのはうれしい。

アムステルダムにはゴッホの作品を中心に展示した国立ゴッホ美術館がある Photo: Kazuyuki YAMAGUCHIアムステルダムにはゴッホの作品を中心に展示した国立ゴッホ美術館がある Photo: Kazuyuki YAMAGUCHI
ゴッホの名画「水車小屋」はオランダ南部のヌエネンという村に現存する Photo: Kazuyuki YAMAGUCHIゴッホの名画「水車小屋」はオランダ南部のヌエネンという村に現存する Photo: Kazuyuki YAMAGUCHI

 このヌエネンではのんびりとしたサイクリングだけでなく、自転車ロードレースも盛んだ。なんとチーム ロットNL・ユンボのスティーフェン・クルイシュウィックの地元だという。2016年のジロ・デ・イタリアでは終盤の5日間にわたって総合1位のマリアローザを着用。しかし第19ステージ、フランス国境のアニェッロ峠からの下り坂で落車して首位を陥落したオランダ選手だ。

 サイクリングが終わってカフェでお茶を飲んでいたら、「その席にはよくスティーフェンが座っているよ」とビックリするようなことを言われた。

ジロ・デ・イタリアで5日間マリアローザを着用したスティーフェン・クルイシュウィック ©ANSA – PERI / DI MEO / ZENNAROジロ・デ・イタリアで5日間マリアローザを着用したスティーフェン・クルイシュウィック ©ANSA – PERI / DI MEO / ZENNARO
ヌエネンはジロ・デ・イタリアで大活躍したスティーフェン・クルイシュウィックの故郷。このカフェにもよくいるらしい Photo: Kazuyuki YAMAGUCHIヌエネンはジロ・デ・イタリアで大活躍したスティーフェン・クルイシュウィックの故郷。このカフェにもよくいるらしい Photo: Kazuyuki YAMAGUCHI

 サッカー欧州選手権のまっただ中なのに、予選敗退しているオランダでサッカーの話題が盛り上がることはなかったが、クルイシュウィックの名前を持ち出すと、「そうなんだよ! 期待の選手さ。やっぱり自転車だね」とだれもが大喜びしていた。移動手段としてだけでなく、スポーツとしての自転車も注目されているのである。

主流はコースターブレーキ

 その夜にはアイントホーフェンにあるサイクリングロードへ。夏至にも近いこの時期、あたりが暗くなるのは23時くらいだが、わざわざ夜中に訪れたのはここでしか見られないものがあったからだ。路面に蓄電機能のある素材を埋め込んであり、日中の太陽光を吸収したそれらが暗くなるとまるで天の川のようにサイクリングコースで輝くのである。ゴッホの「星月夜」をイメージしたものだという。

ゴッホの森と言われるデホーヘフェルウェ国立公園は無料の自転車で園内を散策できる Photo: Kazuyuki YAMAGUCHIゴッホの森と言われるデホーヘフェルウェ国立公園は無料の自転車で園内を散策できる Photo: Kazuyuki YAMAGUCHI

 翌日は「ゴッホの森」とも呼ばれるオランダ最大の森林地帯へ。ゴッホの名画をコレクションする実業家が開設したクレラー・ミュラー美術館がある。道路をはさんで建物の反対側には無料のレンタルサイクルがあるので、訪問者はだれでも広大な公園内を散策できる。

 そして最後は市民が日常の交通手段として自転車を愛用するアムステルダムへ。ホテルカーサ400でレンタルサイクルを借りて周囲を散策してみた。

オランダの自転車はペダルを逆回転させて制動するコースターブレーキ仕様が多い Photo: Kazuyuki YAMAGUCHIオランダの自転車はペダルを逆回転させて制動するコースターブレーキ仕様が多い Photo: Kazuyuki YAMAGUCHI

 オランダではペダルを逆回転させて制動するコースターブレーキ仕様の自転車を使う人が多く、ゴッホの森で乗った自転車もこの仕様だったが、乗るときは多少の慣れが必要。構造そのものが金属の塊なので重量は重くなるが、雨がちな気候でも寿命が長くメンテナンスがそれほど必要ないというのがオランダで使われている理由かなと思った。

 どれも大ぶりなので小柄な日本人は手こずると思うが、最近はオランダでも駅前レンタルサイクルなどでコンパクトなサイズも用意されつつあるというので挑戦してほしい。

アムステルダムのホテルカーサ400でレンタルサイクルを借りて公園の多い東側エリアを走る Photo: Kazuyuki YAMAGUCHIアムステルダムのホテルカーサ400でレンタルサイクルを借りて公園の多い東側エリアを走る Photo: Kazuyuki YAMAGUCHI
毎日の足なので雨でも当然乗る。もちろん傘を差して片手運転する人なんていない Photo: Kazuyuki YAMAGUCHI毎日の足なので雨でも当然乗る。もちろん傘を差して片手運転する人なんていない Photo: Kazuyuki YAMAGUCHI
ベルギーとオランダを自転車でめぐる5日間なのでサイクルウエアはウエイブワンのカペルミュールで Photo: Kazuyuki YAMAGUCHIベルギーとオランダを自転車でめぐる5日間なのでサイクルウエアはウエイブワンのカペルミュールで Photo: Kazuyuki YAMAGUCHI

 オランダという国は自転車王国であるのだが、各地をちょっと自転車で回ると歴史的な芸術やその足跡に出会えるのがまた別の魅力だと感じた。

 自転車王国オランダとベルギーをめぐる5日間のサイクリング紀行。3回連載の最終回はそこで目撃したさまざまな自転車事情を日本の現状と照らし合わせてまとめてみたい。

<3>大スケールの自転車用設備に驚き

山口和幸山口和幸(やまぐち・かずゆき)

ツール・ド・フランスをはじめ、卓球・陸上・ボート競技などを追い続け、日刊スポーツ、東京中日スポーツ、ナンバー、ターザン、YAHOO!などで執筆。国内で行われる自転車の国際大会では広報を担当。著書に「ツール・ド・フランス」(講談社現代新書)、「もっと知りたいツール・ド・フランス」(八重洲出版)など。

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