title banner

福光俊介の「週刊サイクルワールド」<163>“必勝パターン”に持ち込んだフルーム ツール前哨戦に見る有力選手のコンディション

by 福光俊介 / Syunsuke FUKUMITSU
  • 一覧

 開幕迫るツール・ド・フランス。6月に開催されるレースの多くは、“ツール前哨戦”の色が濃く、ここまで調整を続けてきたビッグネームたちが続々と脚試しに臨んでいる。前哨戦のうちの1つ、クリテリウム・ドゥ・ドーフィネが6月12日に閉幕し、ドーフィネと並ぶ注目レースのツール・ド・スイスが進行中。今回は、ツールでの活躍が期待される選手たちにスポットをあて、前哨戦での走りから調整の進行具合を探る。

クリテリウム・ドゥ・ドーフィネで3度目の総合優勝を果たし、ツール・ド・フランスに弾みをつけたクリストファー・フルーム(イギリス、チーム スカイ) =クリテリウム・ドゥ・ドーフィネ2016第7ステージ、2016年6月12日 Photo: Yuzuru SUNADAクリテリウム・ドゥ・ドーフィネで3度目の総合優勝を果たし、ツール・ド・フランスに弾みをつけたクリストファー・フルーム(イギリス、チーム スカイ) =クリテリウム・ドゥ・ドーフィネ2016第7ステージ、2016年6月12日 Photo: Yuzuru SUNADA

フルームが力を誇示

 開幕日のプロローグで4kmの山岳個人タイムトライアルを組み込み、さらに大会後半の第5~7ステージに山頂フィニッシュを連続させる、「チャレンジング」なコース設定を施したドーフィネ。ツール本番では第18ステージに山岳個人TTが設けられることもあり、それを意識したステージ構成との見方だが、そこでもやはり強さを発揮したのはフルーム。

マイヨジョーヌ獲得後は、ライバルの動きを見ながら落ち着いてレースを進めたフルーム(右) =クリテリウム・ドゥ・ドーフィネ2016第6ステージ、2016年6月11日 Photo: Yuzuru SUNADAマイヨジョーヌ獲得後は、ライバルの動きを見ながら落ち着いてレースを進めたフルーム(右) =クリテリウム・ドゥ・ドーフィネ2016第6ステージ、2016年6月11日 Photo: Yuzuru SUNADA

 今シーズンは少々静かにレースプログラムを進行させてきたが、ツールを目前にギアチェンジ。第5ステージでは、総合争いが本格化し、力のある選手たちが確実に動いてくると見るや、自らの力を誇示すべくアタックを決めてステージ優勝。ほぼこのステージだけに狙いを定めた印象で、その後は展開を見ながら余裕を持ってマイヨジョーヌをキープした。

 フルームがツール総合優勝した2013年と2015年は、いずれもドーフィネで勝利して流れを作った。今回も“必勝パターン”に持ち込んだといえそうだ。当の本人は、「大きな勝利だが、調整が順調かどうかを確認する場だった。ツールに向けては、まだまだハードワークが必要」と改めて気を引き締める。

 アシストとしてメンバー入りが濃厚なミケル・ランダ(スペイン)、セルヒオルイス・エナオ(コロンビア)も総合12位と13位でフィニッシュ。さらにはヴァウテル・プールス(オランダ)、ツール・ド・スイスに参戦中のゲラント・トーマス(イギリス)と、チームとしての層の厚さもフルームをより引き立てる。

アタックに屈したコンタドール

 フルームと並び、ツール総合優勝最有力候補の1人、アルベルト・コンタドール(スペイン、ティンコフ)は、ドーフィネ総合5位。順位的にも、走りの内容としても物足りなさは否めなかった。

ドーフィネ第5ステージでマイヨジョーヌを失ったアルベルト・コンタドール(スペイン、ティンコフ) =2016年6月10日 Photo: Yuzuru SUNADAドーフィネ第5ステージでマイヨジョーヌを失ったアルベルト・コンタドール(スペイン、ティンコフ) =2016年6月10日 Photo: Yuzuru SUNADA

 プロローグこそ圧巻の走りでマイヨジョーヌを手にしたが、第3、第4ステージのフィニッシュ直前など、ペースが急激に上がる状況で苦痛にゆがむ表情が見て取れ、いまひとつコンディションが上がっていないのではないか、とのイメージを抱かせた。

 それが確かなものとなってしまったのが、大会後半の山岳ステージ。第5ステージでフルームのアタックに屈し、続く第6、第7ステージでは攻撃に転じたものの、チーム スカイ勢の落ち着いた対応を打ち破ることができなかった。

 こちらもフルーム同様、「ドーフィネ後のトレーニングでさらにスピードを磨きたい」と調整スピードをアップしていく構え。前哨戦こそ敗れはしたものの、自らのアタックでライバルチームにプレッシャーを与えられたこと、フルームの状態を確認できたことは収穫だとしている。

ドーフィネで敗れはしたものの、ツールに向けて収穫はあったというコンタドール。今後の調整に注目だ =クリテリウム・ドゥ・ドーフィネ2016プロローグ、2016年6月5日 Photo: Yuzuru SUNADAドーフィネで敗れはしたものの、ツールに向けて収穫はあったというコンタドール。今後の調整に注目だ =クリテリウム・ドゥ・ドーフィネ2016プロローグ、2016年6月5日 Photo: Yuzuru SUNADA

 フルームの“必勝パターン”とは対照的に、コンタドールはドーフィネの総合優勝は経験していない。ツールを制した2007年、2009年、薬物違反で記録抹消となったが一度はマイヨジョーヌに袖を通した2010年も、調整途上でのドーフィネ参戦だった。その意味では、残り約3週間で一気に仕上げていくスタイルであり、今年のツールにどう結びつくかが焦点となる。

 いずれにせよ、フルームらライバルの動きを確実にチェックでき、彼らを置き去りにできるようなアタックが決まらないと、ツール本番でマイヨジョーヌには手が届かないことは明白となった。

ポートら“追走グループ”も順調

 フルーム、コンタドール、現在母国で調整中のナイロアレクサンデル・キンタナ(コロンビア、モビスター チーム)が最有力とされるツールの総合争いだが、その牙城を崩そうと息巻く選手たちもひしめく。その走り次第では、マイヨジョーヌをめぐる戦いが混沌となり、さらには彼らにも大きなチャンスが訪れる可能性さえある。

ツールで初の上位進出を狙うリッチー・ポート(オーストラリア、BMCレーシングチーム) =クリテリウム・ドゥ・ドーフィネ2016第3ステージ、2016年6月8日 Photo: Yuzuru SUNADAツールで初の上位進出を狙うリッチー・ポート(オーストラリア、BMCレーシングチーム) =クリテリウム・ドゥ・ドーフィネ2016第3ステージ、2016年6月8日 Photo: Yuzuru SUNADA

 昨年までフルームの右腕として活躍したリッチー・ポート(オーストラリア、BMCレーシングチーム)もその1人。ドーフィネでは事実上、総合争いの形成が固まった第5ステージでフルームに唯一食らいついてみせた。あわやステージ優勝かという走りは、体調を崩すことがしばしばあった近年のイメージを払拭し、改めて強さをアピールしたといえる。

 総合表彰台がかかった最終ステージで、チーム スカイ勢のポジショニングに挟まれてしまい、フィニッシュ前の動きに乗ることができなかったが、調子そのものには影響はしない。

 これまで、アシストとして走ることが多かったとはいえ、グランツールにおいて3週間を安定して走りきったケースが少なく、ツールで好成績を出すためのポイントは、おのずと「バッドデイ」が訪れたときにどのようにしてクリアするか、というところになってくる。ツール・ド・スイス参戦中のティージェイ・ヴァンガードレン(アメリカ)との共闘にも期待が膨らむ。

 ポート同様、ツールでの総合上位経験がないダニエル・マーティン(アイルランド、エティックス・クイックステップ)も、ここでの勢いをもって本番へと向かいたい。山岳で集団を粉砕する威力十分のアタックは大きな魅力。これまで落車の影響で戦線から離脱してしまうケースが目立っただけに、トラブルなく走ることができれば上位を狙うことができる。

 ヤングライダーを卒業し、新たな領域を目指すロマン・バルデ(フランス、アージェードゥーゼール ラモンディアル)。ドーフィネ第6ステージでは逃げ切りながらステージ優勝を逃したが、最終的にこの大会自己最高の総合2位。ツールに向けて手ごたえをつかんだようだ。ツールの総合トップ10フィニッシュを2回経験しており、確実に上位でまとめる走りができる。今度はその殻を破り、マイヨジョーヌをかけた覇権争いに身を投じたいところだ。

初のツール総合上位フィニッシュを目指すダニエル・マーティン(アイルランド、エティックス・クイックステップ) =クリテリウム・ドゥ・ドーフィネ第5ステージ、2016年6月10日 Photo: Yuzuru SUNADA初のツール総合上位フィニッシュを目指すダニエル・マーティン(アイルランド、エティックス・クイックステップ) =クリテリウム・ドゥ・ドーフィネ第5ステージ、2016年6月10日 Photo: Yuzuru SUNADA
ツールに向けて確かな手ごたえをつかんだロマン・バルデ(フランス、アージェードゥーゼール ラモンディアル) =クリテリウム・ドゥ・ドーフィネ第6ステージ、2016年6月11日 Photo: Yuzuru SUNADAツールに向けて確かな手ごたえをつかんだロマン・バルデ(フランス、アージェードゥーゼール ラモンディアル) =クリテリウム・ドゥ・ドーフィネ第6ステージ、2016年6月11日 Photo: Yuzuru SUNADA

 “ゴールデンエイジ”と呼ばれる1990年生まれの選手たちに代わって、ヤングライダーとして台頭しそうな存在が、ジュリアン・アラフィリップ(フランス、エティックス・クイックステップ)。昨シーズンのアルデンヌクラシックでブレイクした24歳は、ステージレースにも順応性を見せる。5月のツアー・オブ・カリフォルニアでは総合優勝、そしてドーフィネでも総合6位と、次なる勢力の筆頭格に名乗りを挙げた。初のグランツールとしてツールへの出場が濃厚となっているが、新人賞のマイヨブランをいきなり獲得することも大いに考えられる。

一躍ツールのマイヨブラン候補に名乗りを挙げたジュリアン・アラフィリップ(フランス、エティックス・クイックステップ) =クリテリウム・ドゥ・ドーフィネ第6ステージ、2016年6月11日 Photo: Yuzuru SUNADA一躍ツールのマイヨブラン候補に名乗りを挙げたジュリアン・アラフィリップ(フランス、エティックス・クイックステップ) =クリテリウム・ドゥ・ドーフィネ第6ステージ、2016年6月11日 Photo: Yuzuru SUNADA

 一方で、不安を残している選手たちも。フルーム、コンタドール、キンタナに並ぶ存在と見られていたファビオ・アール(イタリア、アスタナ プロチーム)は、第3ステージで逃げ切り勝利を決めたものの、大会終盤の山岳ステージは勝負にならず。第6、第7ステージに至ってはグルペットでフィニッシュ。この走りが何を意味しているのかは、ツールで明らかになるだろう。これまでの実績から、4強の一角との根強い見方もあるが、果たして・・・。

 同じく、ティボ・ピノー(フランス、エフデジ)も第6ステージでの勝利こそあったが、総合では16位と、全体的には悪かったことを認めている。本来は山岳でのステージ狙いに徹するような選手ではないだけに、立て直してツールでは総合争いに加わりたい。

スイスではサガンが好調

 ドーフィネと並ぶツール前哨戦レース、ツール・ド・スイスは11日に開幕し、新城幸也(ランプレ・メリダ)が参戦している。

 6.4kmの個人タイムトライアルで争われた第1ステージは、ファビアン・カンチェッラーラ(スイス、トレック・セガフレード)が勝利。キャリア最終シーズンで臨む地元レースで熱い走りを見せた。

ツール・ド・スイス第2、第3ステージを連勝したペテル・サガン(スロバキア、ティンコフ) =ツール・ド・スイス2016第2ステージ、2016年6月12日 Photo: Yuzuru SUNADAツール・ド・スイス第2、第3ステージを連勝したペテル・サガン(スロバキア、ティンコフ) =ツール・ド・スイス2016第2ステージ、2016年6月12日 Photo: Yuzuru SUNADA

 第2、第3ステージを連勝したのはペテル・サガン(スロバキア、ティンコフ)。第2ステージはスプリントで、第3ステージは終盤の上りでアタックして集団を引き離すと、先行していたミヒャエル・アルバジーニ(スイス、オリカ・グリーンエッジ)、シルヴァン・ディリエ(スイス、BMCレーシングチーム)に合流。メイン集団の追い上げをかわし、3選手でのスプリントを制した。

 あらゆる形で勝利を挙げるサガン。ポイント賞のマイヨヴェール5連覇がかかるツールはもとより、マウンテンバイクでの出場が決まったリオデジャネイロ五輪に向けても、上々の走りを見せている。特に第3ステージは、メイン集団のコントロールで他チームからの協力が得られなかったといい、終盤は自分で局面を打開すべくアタックして、勝利につなげている。

 大会は、第5ステージから山岳が登場。第8ステージには16.8kmの個人TTも控え、熾烈な総合争いとなることが予想される。優勝候補には、ヴァンガードレン、トーマス、ルイ・コスタ(ポルトガル、ランプレ・メリダ)、マティアス・フランク(スイス、イアム サイクリング)らが挙がる。

 なお、第2ステージではロベルト・ヘーシンク(オランダ、チーム ロットNL・ユンボ)が落車しリタイア。頭部を強打し、脳震盪で落車前後の記憶がない状態であることが明らかになっている。昨年総合6位からのジャンプアップを狙うツールだが、出場が危ぶまれる状況となっている。

今週の爆走ライダー-ローハン・デニス(オーストラリア、BMCレーシングチーム)

「爆走ライダー」とは…

1週間のレースの中から、印象的な走りを見せた選手を「爆走ライダー」として大々的に紹介! 優勝した選手以外にも、アシスト や逃げなどでインパクトを残した選手を積極的に選んでいきたい。

 このほど、チームがデニスとの契約延長を発表。2014年8月という、シーズン途中の移籍から約2年、チームへの貢献度を最大限評価してのものとなった。

このほどチームとの契約延長に合意したローハン・デニス(オーストラリア、BMCレーシングチーム) =UCIロード世界選手権2015個人タイムトライアル、2015年9月23日 Photo: Yuzuru SUNADAこのほどチームとの契約延長に合意したローハン・デニス(オーストラリア、BMCレーシングチーム) =UCIロード世界選手権2015個人タイムトライアル、2015年9月23日 Photo: Yuzuru SUNADA

 トラックレースをバックボーンに、ロードへとシフトしてからは、タイムトライアルやステージレースで活躍。移籍直後に臨んだ2014年UCI世界選手権チームTTで初優勝の立役者となると、翌年には2連覇。個人TTでも上位に食い込んでおり、いずれはマイヨアルカンシエルに手が届きそうだ。

 2015年2月にはアワーレコードを更新(当時)し、同年のツール第1ステージの個人TTを制するなど、独走力に目が行きがちだが、自他ともに将来的にはステージレースで活躍できると見ている。事実、2013年のドーフィネではマイヨジョーヌを1日着用し、2015年のツアー・ダウンアンダーでは総合優勝。今年もツアー・オブ・カリフォルニアで総合2位と、総合エースを任されればTTステージを軸に戦う自信を持っている。

 チームのゼネラルマネージャーであるジェームズ・オシュウィッツ氏の「ローハンはまだポテンシャルをすべて出し尽くしてはいない」との言葉が、それを物語る。

2015年のツールでは第1ステージを制し、マイヨジョーヌを着用した =ツール・ド・フランス2015第2ステージ、2015年7月5日 Photo: Yuzuru SUNADA2015年のツールでは第1ステージを制し、マイヨジョーヌを着用した =ツール・ド・フランス2015第2ステージ、2015年7月5日 Photo: Yuzuru SUNADA

 だが、当面はリオ五輪の個人TT金メダルを視野に入れる。山岳にも強いだけに、アップダウンに富んだリオのコースは自分向きだと確信している。シーズン序盤に体調を崩し、レースプログラムを変更したが、現状では大きな影響はなく、ツールでポートやヴァンガードレンのアシストをしながらコンディションを上げる心積もりだ。

 「出し尽くしてはいない」ポテンシャルの一端でも発揮されれば、オリンピックの金メダルをつかみ取れるかもしれない。その伏線がツールにあるのかどうか、じっくりと彼の走りを追ってみようではないか。

福光俊介福光俊介(ふくみつ・しゅんすけ)

自転車ロードレース界の“トップスター”を追い続けて十数年、気がつけばテレビやインターネットを介して観戦できるロード、トラック、シクロクロス、MTBをすべてチェックするレースマニアに。2011年、ツール・ド・フランス観戦へ実際に赴いた際の興奮が忘れられず、 自身もロードバイク乗りになる。自転車情報のFacebookページ「suke’scycling world」も充実。本業は「ワイヤーママ徳島版」編集長。

この記事のタグ

UCIワールドツアー クリテリウム・ドゥ・ドーフィネ2016 ツール・ド・スイス2016 ツール・ド・フランス2016 週刊サイクルワールド

  • 一覧

新着ニュース

もっと見る

ピックアップ

e-BIKE最新特集

スペシャル

自転車協会バナー

ソーシャルランキング

サイクリストTV

インプレッション

インプレッション一覧へ

連載