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つれづれイタリア~ノ<72>なぜ増加? 多発する落車の原因にNIPPO ヴィーニ・ファンティーニのジュリアーニ監督が迫る

by マルコ・ファヴァロ / Marco FAVARO
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 ジロ・ディタリア2016が終了し、イタリア国内でもツール・ド・フランスに関するニュースが急に増えてきました。ジロで総合優勝を果たしたイタリアナショナルチャンピオン、ヴィンチェンツォ・ニバリ(アスタナ プロチーム)の「グランツールダブル総合優勝」を夢見る人は少なくないからです。成し遂げれば、故マルコ・パンターニ以来の偉業となります。しかし、ツール情報に移行する前にジロ・ディタリア関連情報を、“反省”の思いを込めてもう少しお伝えしたいと思います。ニバリの総合優勝にもつながった、「落車」についてです。

ジロ・ディタリア2016で19ステージ、21ステージと2度の落車に見舞われたスティーフェン・クルイシュウィック(オランダ、チーム ロットNL・ユンボ) Photo : Yuzuru SUNADAジロ・ディタリア2016で19ステージ、21ステージと2度の落車に見舞われたスティーフェン・クルイシュウィック(オランダ、チーム ロットNL・ユンボ) Photo : Yuzuru SUNADA

第19ステージの大逆転劇 勝敗を分けた落車

ジロ・ディタリア2016第19ステージ。先頭を行くニバリを追う、マリア・ローザのクルイシュウィック Photo : Yuzuru SUNADAジロ・ディタリア2016第19ステージ。先頭を行くニバリを追う、マリア・ローザのクルイシュウィック Photo : Yuzuru SUNADA

 5月27日(金)ピネローロを後にしたグルッポ(集団)はフランス側にある冬のリゾート、リスル地区を目指しました。この第19ステージでは、ジロの最高峰と呼ばれるチマ・コッピ、標高2744mのコッレ・デッラニエッロ峠が選手たちの前で立ちはだかっていました。マリアローザをキープしていたのは期待の星、若手オランダ人選手のスティーフェン・クルイシュウィック(チーム ロットNL・ユンボ)。不調だったニバリは4分43秒で追う展開に。表彰台外の絶望的ともいえる状況でした。

チマコッピにいるマルコ(左、禿げた人)とニバリ Photo: イタリアTV Rai3チマコッピにいるマルコ(左、禿げた人)とニバリ Photo: イタリアTV Rai3

 しかし、雪に覆われたコッレ・デッラニエッロ峠の下りでクルイシュウィックは落車し、失速。2位のヨアンエステバン・チャベス(コロンビア、オリカ・グリーンエッジ)と3位アレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター チーム)も力尽き、ニバリが一気に総合2位に浮上。総合優勝に王手をかけた歴史に残る激動のステージとなりました。当然ながらイタリア中は歓喜に沸きました。まさに自転車版の「メイク・ドリーム」。私もチマ・コッピにいたので選手の通過を待ち、峠を下る途中でクルイシュウィックの落車の知らせを聞いて驚きました。

 しかし、なぜクルイシュウィックはこの大事な場面で落車をしたのでしょうか。NIPPO ヴィーニ・ファンティーニのステファノ・ジュリアーニ監督にその原因について尋ねてみました。

自転車をめぐる環境の変化も影響

─最近、落車が増えているように思いますが、原因はどこにあるのでしょうか?

 落車は誰にでも起こり得るので、あまり驚くことではありませんが、確かに多くなりました。原因は2つあると思います。一つは、子どもの時の経験が影響していると思います。子どもたちはロードレースより、マウンテンバイク、シクロクロス、BMXから自転車を体験した方が良いと思いますね。

ジロ・ディタリア2016 第21ステージで発生した集団落車 Photo : Yuzuru SUNADAジロ・ディタリア2016 第21ステージで発生した集団落車 Photo : Yuzuru SUNADA

 もう一つは自転車の進化です。自転車は高いパフォーマンスを求めて進化しています。そのため、ジオメトリーがずいぶん変わりました。乗る位置は前方に移動し、重心が高くなった影響でミスは許されなくなりました。私が走っていた1980年代は、サドルの位置はもっと後ろだったので下りでの軌道修正に余裕がありました。それがスピードが上がり、位置が高くなったのでミスにつながりやすくなったのです。

 昔の自転車はブレーキはそれほど利かなかったし、自転車同士の距離感、速度、コーナリングの角度全てがいまと違っていました。自動車のアンチロック・ブレーキシステムのように、カーブの前に少しずつブレーキを作動させないとだめでした。今の自転車はブレーキを触っただけでホイールがロックされることもあり、それがカーボンホイールの特徴でもあります。

─クルイシュウィックの落車の原因は自転車によるものですか?

 スピードが原因だと思います。クルイシュウィックはニバリのすぐ後ろを追っていたので、攻めすぎた結果、カーブを曲がりきれなくなりました。自転車の特性をもっと理解していれば、安全に下れたと思います。

「自分の自転車のメカトラは言い訳でしかない」

─選手たちはどうすれば落車を防げるでしょうか

 今の選手たちはフェイスブック、ツィッターなどに夢中で、練習やレース以外はみんな携帯電話を握っています。子どももみんなタブレット端末を手にしています。昔の子どもたちはとにかく外に出て、ブレーキの壊れた自転車やタイヤのない自転車に乗って遊んだりしました。自転車のハンドルに乗ってみたり、両手を離したり、BMXでアクロバティックをしたり、川の土手を下ったり、とにかく自転車を使って子どもたちみんなが遊んでいました。そういった日常的な遊びを通して、テクニックやバランス感覚を養っていたんです。

ステファノ・ジュリアーニ(イタリア、58歳)。1983年~1991年までプロ選手として活躍。1988年と1989年にジロ・ディタリアでステージ優勝。ジロ・ディタリア参加7回。ツール・ド・フランス参加2回。ヴエルタ・ア・エスパーニャ参加2回。2014年からNIPPOヴィーニ・ファンティーニ監督に主任。ダウンヒールが得意で、パンターニの独特なダウンヒールのフォーム「卵型」は彼が編み出した Photo: Marco FAVAROステファノ・ジュリアーニ(イタリア、58歳)。1983年~1991年までプロ選手として活躍。1988年と1989年にジロ・ディタリアでステージ優勝。ジロ・ディタリア参加7回。ツール・ド・フランス参加2回。ヴエルタ・ア・エスパーニャ参加2回。2014年からNIPPOヴィーニ・ファンティーニ監督に主任。ダウンヒールが得意で、パンターニの独特なダウンヒールのフォーム「卵型」は彼が編み出した Photo: Marco FAVARO

 現在、多くの人はテレビや動画サイトを見てわかった気になるだけです。その結果、今の選手たちは苦手とする種目が増えました。下りが苦手だったり、パリ・ルーベの石畳で転んだり、カーブで滑ったり、集団でよそ見をして落車したりね。

 そしてもう一つ重要な問題は、選手自身がメカニックの技術を身に着けていないことです。現在、多くの選手たちはメカニックに自転車の整備をすべて任せていますが、自転車に乗る前は自分でもう一度ブレーキのテンションやタイヤの空気圧をチェックする必要があります。

 人間の思い込みは激しいもので、前に乗った自転車の記憶で違う設定をしている自転車に乗ってしまうと、いざとなったらブレーキの利きの違い1つで大事故につながりかねません。故マルコ・パンターニやニバリのすごさは自分で自転車を分解したり、組み立てることができる点にあります。彼らは自転車に非常に詳しいのです。

中にはサポートカーが来ないと何もできない選手もいますね

 その通りです。選手が自分で自転車を整備できる文化を取り戻さないと、落車や接触事故は増える一方です。メカニックが整備した自転車を自分で最終調整できない選手は事故を起こす可能性が高いです。なので、NIPPOヴィーニ・ファンティーニでは、選手全員に対して自分で最終チェックを行うように促しています。

ブレーキを入念にチャックするマリニ選手(2016年1月チーム合宿で撮影) Photo:Marco FAVAROブレーキを入念にチャックするマリニ選手(2016年1月チーム合宿で撮影) Photo:Marco FAVARO

 メカニックの研修コースを受け、タイヤの構造、ブレーキや変速の仕組み、ブレーキパットの減りなどをきちんと勉強すれば無理な運転はしなくなりますし、いざメカトラブルが発生したら冷静に対応できる選手が増えると思います。1秒の世界を争う選手ほどメカニックを勉強した方が良いと思います。自転車のメカニックトラブルは言い訳でしかないからです──。

 ジュリアーニ監督の貴重な意見はこれから開かれるツール・ド・スイスやツール・ド・フランスにも生かしてほしいです。ツール・ド・フランス名物、集団落車は減ると思います。

 最後にジュリアーニ監督による「自転車乗り方術」の動画をご紹介します。

 それでは、次回の「つれづれイタリア~ノ」もお楽しみに!

マルコ・ファヴァロMarco FAVARO(マルコ・ファヴァロ)

東京都在住のサイクリスト。イタリア外務省のサポートの下、イタリアの言語や文化を世界に普及するダンテ・アリギエーリ協会や一般社団法人国際自転車交流協会の理事を務め、サイクルウエアブランド「カペルミュール」のモデルや、欧州プロチームの来日時は通訳も行う。日本国内でのサイクリングイベントも企画している。ウェブサイト「チクリスタインジャッポーネ

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