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はらぺこサイクルキッチン<63>田植えに味噌作り…農業に向かうアスリートのこころは?

by 池田清子 / Sayako IKEDA
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 「アスリートも農業を体験したほうがいい」と話すのは、アスリートのメンタルトレーナー兼フィジカルコーチとして心と体の両面から選手をサポートする、樋口幸司(KPFJAPAN代表)さん。大手自転車メーカーチーム専属コーチや以前はオリンピック出場選手のトレーナーも務めていました。そういえば夫・池田祐樹(トピーク・エルゴンレーシングチームUSA)も以前家庭菜園をしていましたが、私の周りでも畑を始めたライダーが最近増えています。農業へと向かう、アスリートのこころとは?私も田植えの儀式と味噌作りを、体験させてもらいました。

お田植え祭は衣装をお借りして、早乙女さんの格好をさせていただきました Photo: Sayako IKEDAお田植え祭は衣装をお借りして、早乙女さんの格好をさせていただきました Photo: Sayako IKEDA

苦労を知り、走りが変わる

 なぜ、アスリートも農業を体験したほうがいいのでしょう。「選手はいつも練習で汗水垂らしていますが、土に触れ、農作業で汗水垂らすことは実はそれ以上に大変なこと。その苦労を知ると、走りさえも変わりますよ。米一粒でも“他の命をもらって生きている”ということの有り難みが、一層分かるからです」という自転車コーチという枠を越えた樋口さんの観点は、育った環境から培ったものでもありました。

トーゴ臨時代理大使ボジョナ・アレワビア・デラリ・アクレソ一等書記官(後列向かって右から3番目)、シリア臨時代理大使ワリフ・ハラビ参事官(後列左から2番目)も参加され「この素晴らしい日本の伝統に誇りを持ってください」とスピーチされました  Photo: Sayako IKEDAトーゴ臨時代理大使ボジョナ・アレワビア・デラリ・アクレソ一等書記官(後列向かって右から3番目)、シリア臨時代理大使ワリフ・ハラビ参事官(後列左から2番目)も参加され「この素晴らしい日本の伝統に誇りを持ってください」とスピーチされました Photo: Sayako IKEDA

 樋口さんのお祖父様は、米、野菜、豆、果物などを育て、味噌や醤油までも手作りし、生まれた時から農業が生活の中にあったそうです。現在は日本文化や伝統の再建、再生を主たる活動としているNPO法人「地球と共に生きる会」の理事も務め、その活動の一環としても農業を行っています。

 田畑の持ち主が高齢化して休んでいる“休耕田”を再生し、出来るだけ農薬などを使わずに、機械に頼らず主に手作業で行っているのです。昔から田畑が天候に左右されることを目の当たりにし「自然には敵わない」と感じていたことが、今の仕事の中でも活きています。

「アスリートは農業を体験したほうがいい」と、話す樋口幸司さん Photo: Sayako IKEDA「アスリートは農業を体験したほうがいい」と、話す樋口幸司さん Photo: Sayako IKEDA
「戦うのは、ライバルとではない。自分が自分に勝てたかどうか」シンプルだけど、難しい Photo: Sayako IKEDA「戦うのは、ライバルとではない。自分が自分に勝てたかどうか」シンプルだけど、難しい Photo: Sayako IKEDA

「カロリー」だけに疑問

 樋口さんは「農耕民族である日本人は昔から自然の恩恵を受け、またその分だけ自然が生活を左右してきました。天候が悪くて田畑が駄目になれば、それは死を意味するほど、深刻な状況に。しかし現代に生きる多くの人は、残念ながらその苦労を忘れて来てしまったように思います。また現代人は食べ物のエネルギーをカロリー(kcal)のみで測るのには少し疑問を感じていました。カロリーはあくまでも計算式でしかありません」。

 カロリーについては、私も感じています。生命力があるものをいかに体に取り込むか、ということを最近は意識しています。同じ人参でもどんな環境で育てられたかによって変わってくる。肉も昔とは育つ環境が違うということも相まって、食べる機会が減っています。

樋口初枝さんにいただいた味噌で味噌汁を作りました Photo: Sayako IKEDA樋口初枝さんにいただいた味噌で味噌汁を作りました Photo: Sayako IKEDA

人生初の田植え体験

 「日本人は日本のことをもっと知るべきで、それほど日本には誇れるものがあると感じています。以前剣道の師範に頂いた言葉があります。打って反省、打たれて感謝。この謙虚さが日本人の本来の心だと思います。自然相手では敵わないことを知っていた先代の日本人の心は、勝っても驕らない謙虚 な心を持っていたのは自然界を知っていたからではないかと思います。自分で畑を持ってというのは中々難しいけれど、1日体験するだけでもその苦労は分かるので、ぜひ選手も来て、肌で体験してもらいたいと思っています」

 そして実際に「お田植え祭」(主催:お田植え祭実行委員会主催)という儀式の場で、人生初の田植えを体験させていただきました。今年で16回目を迎えるそうで、山梨県富士吉田市にある不二阿祖山太神宮の御神田で開催されています。早乙女と呼ばれる女性が、大地に感謝の気持ちを持って「せーの」という掛け声に合わせて一斉に苗を植えます(その後は個々のペースで)。

「せーの」「ッポン!」という掛け声で一斉に稲を植えました Photo: Sayako IKEDA「せーの」「ッポン!」という掛け声で一斉に稲を植えました Photo: Sayako IKEDA
お田植え祭は厳粛に執り行われました Photo: Sayako IKEDAお田植え祭は厳粛に執り行われました Photo: Sayako IKEDA

 田植えの姿勢は徐々に腰が痛くなり、膝まで浸かった足元が取られるので移動も一苦労。日差しも強く、かなり体力を消耗しました。分かっているつもり、でしたがやる前と後では“米一粒の重み”が違いました。地元の方と、夫がアスリートだと話していたところ「稲を植えた後は、もっとしんどい雑草抜きがずっと続くよ。稲作とアスリートは共通しているところがあるんじゃないかな。

早乙女のみなさんと、感謝の気持ちを持って稲を植えさせてもらいました Photo: Sayako IKEDA早乙女のみなさんと、感謝の気持ちを持って稲を植えさせてもらいました Photo: Sayako IKEDA

 雑草抜きは、アスリートでいうトレーニングと同じ。地味な作業だけど、収穫時に最高の状態になっているためにいかにコツコツ続けるか。収穫日は、レースの日。地味なトレーニングをコツコツ続けることで、人の注目を浴びる派手な日に最高の状態で実を結ぶんだろうね」と。こんな何気ない会話も、ここに来たからこそ。“知っている”と“体験する”ことの差、ですね。

樋口さん宅で2年前に仕込まれた味噌をお土産にいただきました。深みがあって、とっても美味しいです Photo: Sayako IKEDA樋口さん宅で2年前に仕込まれた味噌をお土産にいただきました。深みがあって、とっても美味しいです Photo: Sayako IKEDA
味噌作りの先生は、樋口初枝さん。もう何年も自宅で味噌を仕込んでいるそう。料理に目覚めたのは、意外にも40代の頃だそう!お人柄も素敵でした Photo: Sayako IKEDA味噌作りの先生は、樋口初枝さん。もう何年も自宅で味噌を仕込んでいるそう。料理に目覚めたのは、意外にも40代の頃だそう!お人柄も素敵でした Photo: Sayako IKEDA

2年仕込みで味深い味噌

夫婦で人生初の味噌作り。ミンチにする機械を回しているところ Photo: Sayako IKEDA夫婦で人生初の味噌作り。ミンチにする機械を回しているところ Photo: Sayako IKEDA

 農業体験ではありませんが、樋口さん宅で味噌作りにも参加させてもらいました。材料の一つである大豆は、ご自宅の庭で育てられたもの。材料は大豆・麹・塩の三つだけで、予想以上にシンプルな工程。熟成するのは、約8ヶ月後。時間をかけてしっかりと発酵した正真正銘の味噌は、化学調味料で味をつけた味噌よりも本来持っている発酵の力が強く栄養価が高いのではないかと思います。

 2年前に仕込まれたという味噌もいただきましたが、とっても奥深い味!8ヶ月後が待ち遠しいです。こうして待つのも、手作りの醍醐味かもしれません。材料に触れ、手を動かし、時間をかけて待つ。愛情と感謝の気持ちがおのずと湧いてきました。

味噌の作り方①圧力鍋で蒸した自家製の大豆に、麹と天然塩を混ぜます。大豆の甘い香りが漂って、豆はそのままでもとても美味しかったです Photo: Sayako IKEDA味噌の作り方①圧力鍋で蒸した自家製の大豆に、麹と天然塩を混ぜます。大豆の甘い香りが漂って、豆はそのままでもとても美味しかったです Photo: Sayako IKEDA
味噌の作り方②大豆と麹と塩を合わせた後、機械を通してミンチにします Photo: Sayako IKEDA味噌の作り方②大豆と麹と塩を合わせた後、機械を通してミンチにします Photo: Sayako IKEDA
味噌の作り方③ ミンチにした後は団子状に丸めて、瓶に詰めていきます Photo: Sayako IKEDA味噌の作り方③ ミンチにした後は団子状に丸めて、瓶に詰めていきます Photo: Sayako IKEDA
味噌の作り方④最後は雪が振ったように塩を満遍なく振る「雪塩」をし、蓋をします。出来上がるのは、8ヶ月後!楽しみです Photo: Sayako IKEDA味噌の作り方④最後は雪が振ったように塩を満遍なく振る「雪塩」をし、蓋をします。出来上がるのは、8ヶ月後!楽しみです Photo: Sayako IKEDA

 夫は大豆を丸めながら「食とトレーニングには共通する点がある。例えば腹筋でただ漠然と回数をこなすのと“下腹部に効かせる”という気持ちで意識を集中して一回一回やるのとでは、同じ回数でも筋肉の付き方が全然違ってくる。

 食べる時も同じで、ただ漠然と食べるのではなく“発酵の菌のパワー”とか“腸を綺麗にする効能がある”と思いながら食べると、消化から栄養の吸収率まで体への効果が違ってくるんだろうなぁ」と感じたそう。貴重な体験をさせていただき、ありがとうございました!

池田清子池田清子(いけだ・さやこ)

アスリートフード研究家。モデル事務所でのマネージャー経験を生かし2013年夏よりトピーク・エルゴンレーシングチームUSA所属ライダー、池田祐樹選手のマネージメントを開始、同秋結婚。平行して「アスリートフードマイスター」の資格を取得。アスリートのパフォーマンス向上や減量など、目的に合わせたメニューを日々研究している。ブログ「Sayako’s kitchen」にて情報配信中。

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