熱戦の一週間を振り返る新城幸也の活躍、総合めぐる激戦…8日間“フル開催”で新たな一歩を踏み出したTOJ

by 米山一輝 / Ikki YONEYAMA
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 大阪から東京まで8日間かけてロードレースで縦断する「ツアー・オブ・ジャパン」(TOJ)が6月5日、最終の東京ステージで閉幕した。前半のスピードバトルや、後半の山岳で繰り広げられた総合優勝を巡る激しい戦い、また日本のエース新城幸也(ランプレ・メリダ)の復活勝利など、見どころの多い大会となった。

最終ステージの表彰台に上った総合4賞獲得者。(左から)ポイント賞のピエールパオロ・デネグリ(イタリア、NIPPO・ヴィーニファンティーニ)、個人総合優勝のオスカル・プジョル(スペイン、チームUKYO)、新人賞のダニエル・ホワイトハウス(イギリス、トレンガヌ サイクリングチーム)、山岳賞のミルサマ・ポルセイェディゴラコール(イラン、タブリーズ シャハルダリ チーム) Photo: Kenta SAWANO最終ステージの表彰台に上った総合4賞獲得者。(左から)ポイント賞のピエールパオロ・デネグリ(イタリア、NIPPO・ヴィーニファンティーニ)、個人総合優勝のオスカル・プジョル(スペイン、チームUKYO)、新人賞のダニエル・ホワイトハウス(イギリス、トレンガヌ サイクリングチーム)、山岳賞のミルサマ・ポルセイェディゴラコール(イラン、タブリーズ シャハルダリ チーム) Photo: Kenta SAWANO

本場で磨いた実力を示した新城

日本のエース新城幸也(ランプレ・メリダ)が、第7ステージ(伊豆)で強豪選手を振り切ってステージ優勝を挙げた Photo: Ikki YONEYAMA日本のエース新城幸也(ランプレ・メリダ)が、第7ステージ(伊豆)で強豪選手を振り切ってステージ優勝を挙げた Photo: Ikki YONEYAMA

 今大会の大きな目玉となったのが、2008年以来8年ぶりの新城の出場だ。ヨーロッパのチームに所属した2009年以降は出場の機会がなかったが、今年からTOJ常連のランプレ・メリダに移籍したことで、久々の出場が実現した。7年のブランクを置いてTOJに再び出場したことで、新城がヨーロッパチームで7年間積み重ねた経験と実力を、ファンも国内選手も、改めて感じることができたのではないだろうか。

 2月に左大腿骨を骨折してからの復帰戦だったが、「レースに出るからには体は常に100%」と大けがの影響は全く感じさせず、さらにステージ優勝も飾るという、ファンの期待を良い意味で裏切る大活躍をみせた。

 東京ステージの2日後には、ツール・ド・スイス出場に向けて日本を発つ。スイスでの役割は「チームが決めること」とプロに徹する考えだが、エースの元世界チャンピオン、ルイ・コスタ(ポルトガル)を擁しての戦いで力を発揮することになるはずだ。「ただ走るだけではなく、勝負する」と語る目は鋭く、ツール・ド・フランス、そしてリオ五輪を見据えている。

レース前からひっきりなしに報道陣やファンが新城のもとを訪れていた Photo: Ikki YONEYAMAレース前からひっきりなしに報道陣やファンが新城のもとを訪れていた Photo: Ikki YONEYAMA
ゴール後も、報道陣とファンが黒山の人だかりで新城を取り囲む Photo: Ikki YONEYAMAゴール後も、報道陣とファンが黒山の人だかりで新城を取り囲む Photo: Ikki YONEYAMA

紙一重で逃した3連覇

 総合優勝争いでは、大会3連覇を狙って乗り込んだミルサマ・ポルセイェディゴラコール(イラン、タブリーズ シャハルダリ チーム)に注目が集まった。過去2大会では強力な登坂力を武器に、富士山、伊豆ステージで一気に総合首位を奪取。今大会は、富士山ステージでは3位にとどまったものの、伊豆ステージで逆転を狙い序盤から猛攻撃を仕掛けた。

伊豆ステージで総合逆転を懸けてアタックしたポルセイェディゴラコール(中央) Photo: Ikki YONEYAMA伊豆ステージで総合逆転を懸けてアタックしたポルセイェディゴラコール(中央) Photo: Ikki YONEYAMA

 ポルセイェディゴラコールは2周目から3人での逃げに成功。一昨年の2014年大会では、同じ3人での逃げ切りで総合逆転に成功した。その再現を狙っての逃げは、同じグループの別の選手が「SFのようなスピードだった」と舌を巻く速さで、ポルセイェディゴラコールは積極的にグループを牽引してメイン集団との差を広げた。昨年、一昨年と変わらない強さを発揮したポルセイェディゴラコール。しかし最終的に逃げは吸収されることになった。

 いくつかポイントがあった。まず一点は、逃げの中で味方が得られなかったこと。一昨年は同じチームのガーデル・ミズバニが逃げに入ったが、今回は単騎奮闘。さらに同郷イランのライバルチーム、ピシュガマン サイクリングチームが逃げに選手を送り込めなかった。序盤のアタック合戦で激しくやり合うなど、強くライバル意識を燃やす相手だが、今大会は第4ステージ(いなべ)で両チームが協調して逃げ切っており、同じグループに入れば強力な同志となるはずだった。

 次に、総合リーダーのオスカル・プジョル(スペイン、チームUKYO)のチーム力が脆弱すぎた点だ。本来なら逃げが決まった時点でUKYO勢がメイン集団をコントロールするところだが、早々にアシストを失ったプジョルは戦略を白紙に戻して、前半に無駄な力を使わずに「誰か味方が現れるのを待つ」作戦をとった。

逃げが決まった直後にメイン集団の先頭で追走するラヒーム・エマミ(イラン、ピシュガマン サイクリングチーム)  Photo: Ikki YONEYAMA逃げが決まった直後にメイン集団の先頭で追走するラヒーム・エマミ(イラン、ピシュガマン サイクリングチーム)  Photo: Ikki YONEYAMA
総合首位のプジョル(中央)、総合2位のマルコス・ガルシア(右)が完全協調して逃げを追走した Photo: Ikki YONEYAMA総合首位のプジョル(中央)、総合2位のマルコス・ガルシア(右)が完全協調して逃げを追走した Photo: Ikki YONEYAMA

 総合3位のポルセイェディゴラコールの上に、プジョルともう1人、マルコス・ガルシア(スペイン、キナンサイクリングチーム)がいたことで、総合2位の座を守りたいキナンサイクリングチームとの利害が完全に一致した。ガルシアとプジョルが同じスペイン人だったことも、協調体制を作る助けになった。

 キナンはガルシアとともに、上りに強いジャイ・クロフォード(オーストラリア)も積極的に集団をペースアップした。直前のインドネシアでのレースで総合優勝している実力者。TOJでは調子を落としていたものの、勝負所でさすがのアシストをみせた。

 結果、逃げは最終周回途中で吸収。ポルセイェディゴラコールの3連覇がついえると同時に、新城のステージ優勝へとストーリーがつながった。

“フル開催”を選手は歓迎

 今年のTOJは大会史上初めて、日曜日から日曜日までの8日間全てでレースが行われた。これまでは1日ないしは2日、完全な「移動日」が存在していたのだ。“フル開催”となった今年は毎日レースをする場所が変わるため、毎日宿泊場所が変わり、毎日のレース後に長距離移動が行われることになった。

8日間フル開催でコンディションを保ち「いい走りができた」と語る内間康平(ブリヂストンアンカー サイクリングチーム) Photo: Ikki YONEYAMA8日間フル開催でコンディションを保ち「いい走りができた」と語る内間康平(ブリヂストンアンカー サイクリングチーム) Photo: Ikki YONEYAMA

 チーム関係者にとっては苦労の多い「毎日開催・毎日移動」だが、選手側にとってはメリットもあるという。ひとつは各レースの距離が若干縮められている点だ。伊豆ステージは一昨年に比べ、12周回から10周回に減っている。レースが短くなることで、ハードなコースでも大きな差が付きにくくなり、強力な海外勢と戦う日本人選手にとっては、レースを戦いやすくなったようだ。

 もうひとつは、毎日レースがあることで、選手のリズムが保たれるという点だ。内間康平(ブリヂストンアンカー サイクリングチーム)は「移動日があるとコンディションを崩すこともあった」と明かす。内間は最終日の記者会見で「全日程がレースになるよう関係者の皆さんが力を尽くしてくれたおかげで、いい走りができた」と感謝の意を表した。

変化に富んだ熱戦の舞台

アップダウンと平坦区間が組み合わされた京都ステージ Photo: Shusaku MATSUOアップダウンと平坦区間が組み合わされた京都ステージ Photo: Shusaku MATSUO

 今年新たにTOJに加わったのが、2日目の京都ステージだ。ややハードなアップダウンコースという前評判で、最終的に集団スプリントになったものの、来年以降の展開によってはタイム差を生むこともあり得る、本格ロードレース開幕にふさわしい好レースが展開された。

 3日目、4日目は美濃ステージ、いなべステージが、昨年と順序を入れ替えて行われた。スピードコースの美濃をアップダウン系コースに挟むことで、8日間のメリハリを演出したといえるだろう。5日目の南信州ステージは、長野県飯田市で貴重な年一度の国際スポーツイベントとして、今年で11回目の開催となった。

 6日目の富士山ステージは、今年も変わらず総合争いに大きなインパクトを与えた。単純に登坂力で決まるゲーム性の低いレースは、総合争いで大半の選手を最初から“蚊帳の外”に置いてしまうなど異論もあるが、主催者側は富士山でのステージを当面動かす意向はないという。だが昨年からレース前に選手や関係車両によるパレードランを行うなど、将来的にはあざみライン一本ではないレース形態を模索する動きもみせている。

富士山ステージで優勝のゴールラインを前にジャージのファスナーを閉めるプジョル Photo: Ikki YONEYAMA富士山ステージで優勝のゴールラインを前にジャージのファスナーを閉めるプジョル Photo: Ikki YONEYAMA
伊豆ステージはホームストレートに並行して自転車関連や地元物産、フードなどのブースが並び、にぎわいをみせた Photo: Ikki YONEYAMA伊豆ステージはホームストレートに並行して自転車関連や地元物産、フードなどのブースが並び、にぎわいをみせた Photo: Ikki YONEYAMA

 7日目の伊豆ステージは、日本サイクルスポーツセンターが2020年東京オリンピックの自転車競技一部種目の会場に決まったこともあり、近年盛り上がりを増している。今年は会場レイアウトを一部変更して、併催のサイクルフェスティバルとTOJのレース両方を同時に楽しみやすくなった。

高速バトルが繰り広げられた最終・東京ステージ Photo: Kenta SAWANO高速バトルが繰り広げられた最終・東京ステージ Photo: Kenta SAWANO

 初日と最終日になる堺、東京の両ステージは、ともに大都市部での日曜日開催ということもあって、多くの自転車ファンで会場はにぎわった。ともに「スピード」「風」を分かりやすく伝えるレース形態で、生観戦を体験したファンは自転車レースの魅力を十分感じたはずだ。

記念すべき第20回大会へ

手腕に期待がかかる栗村修TOJ大会ディレクター=3月30日のTOJ記者会見 Photo: Kenta SAWANO手腕に期待がかかる栗村修TOJ大会ディレクター=3月30日のTOJ記者会見 Photo: Kenta SAWANO

 1週間“フル開催”となったことで、TOJは一つの完成形になったと言えるだろう。当初は潤沢な競輪関連の補助金を背景にした大会だったが、昨年から「TOJ NEXT 10」という大会フィロソフィー(哲学)を打ち出し、地域密着・地域貢献をベースに大会の発展と継続を実現するモデルを模索している。

 昨年8月から大会ディレクターに就任した栗村修さんの前には、まだ多くの課題と問題が山積していることは想像に難くないが、新任ディレクターとして初めて終えた今大会は、目指す姿に向けて一歩進化が感じ取れたものだったと言えるだろう。

 主催者側では現在1クラスの大会ランクをHC(オークラス=超級)、さらにはワールドツアーを目指したいという高い目標もあるという。次の10年の中の、また次の1年となる来年、TOJは第20回の記念大会を迎える。

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TOJ2016・サイドレポート ツアー・オブ・ジャパン2016

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