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福光俊介の「週刊サイクルワールド」<161>ジロ・デ・イタリアを総括 ニバリの復権と次世代のグランツールライダーの台頭

by 福光俊介 / Syunsuke FUKUMITSU
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 今年1つ目のグランツール、ジロ・デ・イタリアが5月29日に閉幕した。オランダで開幕し、イタリア入国後は南部から北上、そしてドロミテ、アルプスをめぐった3週間の戦いは、最後の最後まで熾烈を極めた。ジロ2度目の王座に輝いたのはヴィンチェンツォ・ニバリ(イタリア、アスタナ プロチーム)。今回は、ジロ総括として、王者復活のニバリや今後確実にグランツールの主役となるであろう次世代ライダーの戦いを振り返ってみたい。

トリノの総合表彰台に立った総合上位3人。左から2位ヨアンエステバン・チャベス、優勝ヴィンチェンツォ・ニバリ、3位アレハンドロ・バルベルデ=ジロ・デ・イタリア2016第21ステージ、2016年5月29日 Photo: Yuzuru SUNADAトリノの総合表彰台に立った総合上位3人。(左から)2位ヨアンエステバン・チャベス、優勝ヴィンチェンツォ・ニバリ、3位アレハンドロ・バルベルデ =ジロ・デ・イタリア2016第21ステージ、2016年5月29日 Photo: Yuzuru SUNADA

逆境をはねのけジロの頂点に

 昨シーズン中から今年のジロ出場を明言し、今シーズンに入ってからも順調に調整を進めたうえでスタートラインについたニバリ。しかし、その戦いぶりは決して順風満帆とはいえなかった。

第14ステージ、ライバルのアタックに続けず苦しんだニバリ。後に胃の不調があったことを打ち明けた =ジロ・デ・イタリア2016第14ステージ、2016年5月21日 Photo: Yuzuru SUNADA第14ステージ、ライバルのアタックに続けず苦しんだニバリ。後に胃の不調があったことを打ち明けた =ジロ・デ・イタリア2016第14ステージ、2016年5月21日 Photo: Yuzuru SUNADA

 第2週後半の山岳3連戦の中日にあたる第14ステージでは、自らアタックを仕掛けながら、ヨアンエステバン・チャベス(コロンビア、オリカ・グリーンエッジ)、スティーフェン・クルイシュウィック(オランダ、チーム ロットNL・ユンボ)のカウンターアタックに屈し、続く第15ステージの山岳個人タイムトライアルではバイクトラブルで大きく遅れた。どこか彼らしさに欠ける脆い面は、総合4位に終わった昨年のツール・ド・フランスでの走りを思い起こさせるものがあった。

 これまで、絶対的な強さで3度グランツールの頂点に立ってきたニバリだったが、今大会はこれまでと違った戦いぶりを見せることとなる。最終決戦地・アルプスに突入すると、リゾル峠を目指した第19ステージで勝利。ここで流れをグッと引き寄せると、翌日の第20ステージでも総合上位陣に対しては“圧勝”。一度は諦めかけた総合優勝を見事に手繰り寄せた。

 戦いを終えるにあたり、開幕時から胃の不調に苦しみ、それが大会中盤までの走りに影響していたことを打ち明けた。そんな逆境をカバーしたのは、彼の持ち味でもある抜群の集中力だった。

最終週に入り復調。第19ステージの勝利で流れを手繰り寄せた =ジロ・デ・イタリア2016第19ステージ、2016年5月27日 Photo: Yuzuru SUNADA最終週に入り復調。第19ステージの勝利で流れを手繰り寄せた =ジロ・デ・イタリア2016第19ステージ、2016年5月27日 Photo: Yuzuru SUNADA

 第2週を終えて、クルイシュウィックとは総合タイムで2分51秒のビハインドがあったが、その後に控えていたフレンチアルプスでの挽回ができると考えていたという。その読みの通り、フランスに入国した第19ステージで戦いの行方に変局が訪れた。アニェル峠の下りでマリアローザのクルイシュウィックが落車する波乱が起こったが、体調が回復し、快調に上りをこなしていたニバリにとっては、「落車前から呼吸が荒かった」というクルイシュウィックに対して、アタックなど何らかのアクションを起こす必要性を感じていたことを後に明かしている。

 グランツールはその過酷さゆえ、一度体調を崩すとレースを走りながら回復させることが困難であり、必ずと言ってよいほど胃腸の不調によりリタイアする選手が現れる。しかし、ニバリは日を追うごとに胃の問題を克服し、最終週に調子のピークを持ってくるという“離れ業”を演じてみせた。クルイシュウィックやチャベスといった、今大会のライバルたちから目を離さず、彼らを“獲物”として最後の最後に捕らえた姿は「シャーク(サメ)」の愛称にピッタリの戦いぶりだった。

このジロではアスタナ プロチームのチーム力も光った =ジロ・デ・イタリア2016第21ステージ、2016年5月29日 Photo: Yuzuru SUNADAこのジロではアスタナ プロチームのチーム力も光った =ジロ・デ・イタリア2016第21ステージ、2016年5月29日 Photo: Yuzuru SUNADA

 そして、アスタナ プロチームのチーム力を見過ごすわけにもいかない。今大会の山岳ステージで、最も組織的にレースをコントロールし、要所ではアシストを逃げグループに送り込み、レース後半でのニバリの上がりを待つ「前待ち」をことごとく成功させた。ミケーレ・スカルポーニ(イタリア)、ヤコブ・フルサング(デンマーク)、タネル・カンゲルト(エストニア)といった、本来であれば総合エースクラスの実力を持つ豪華布陣がしっかりと与えられた仕事をこなした点も、ニバリの総合優勝における大きなポイントとなっている。

次の世代を担うオールラウンダーたち

 ビッグネームが覇権争いを演じるグランツールにあって、若い選手や伏兵、新鋭の活躍が戦いにさらなる彩りを加える。このジロも、将来を嘱望されてきた選手たちが期待に違わぬ快走を披露した。

山岳ステージでの攻撃的な走りが光ったヨアンエステバン・チャベス =ジロ・デ・イタリア2016第14ステージ、2016年5月21日 Photo: Yuzuru SUNADA山岳ステージでの攻撃的な走りが光ったヨアンエステバン・チャベス =ジロ・デ・イタリア2016第14ステージ、2016年5月21日 Photo: Yuzuru SUNADA

 総合優勝まであと一歩に迫った26歳のチャベス。第14ステージの優勝を含め、山岳ステージでの攻撃的な走りが光った。大会終盤の第19、第20ステージで失速気味となり、ニバリに逆転を許す格好となったが、そのあたりは実績と経験の差なのかもしれない。そうした“息切れ”は、ビッグレースを戦うごとにクリアしていける課題だろう。加えて、タイムトライアルでの遅れを最小限にとどめることができれば、より3週間の戦いをバリエーション豊かなものとなるはずだ。

勝負どころのアタックでライバルを脅かしたスティーフェン・クルイシュウィック =ジロ・デ・イタリア2016第11ステージ、2016年5月18日  Photo: Yuzuru SUNADA勝負どころのアタックでライバルを脅かしたスティーフェン・クルイシュウィック =ジロ・デ・イタリア2016第11ステージ、2016年5月18日 Photo: Yuzuru SUNADA

 今大会、総合優勝に最も近い位置を走り続けたクルイシュウィックも、結果的に総合4位とトリノの総合表彰台は逃したが、キャリア最高の結果をマーク。本人はやはり、第19ステージのアニョル峠下りでの落車を悔やむ。

 クライマーとしての強さは昨年までのジロで見せてきたが、自他のアタックによるペース変化にも対応できるところを証明し、一段階上のレベルに達していると見てもよさそうだ。さらには、個人TTでも上手くまとめられる走力があり、今回のような落車トラブルや突発的なアクシデントを回避できれば、再びビッグチャンスは訪れることだろう。

マリアビアンカを獲得したボブ・ユンゲルス。山岳、TTともに力を発揮した =ジロ・デ・イタリア2016第16ステージ、2016年5月24日 Photo: Yuzuru SUNADAマリアビアンカを獲得したボブ・ユンゲルス。山岳、TTともに力を発揮した =ジロ・デ・イタリア2016第16ステージ、2016年5月24日 Photo: Yuzuru SUNADA

 プロトンのゴールデンエイジとして注目を集め続ける、1990年生まれのライダーたちがヤングライダー賞(新人賞)対象を終え、このジロは新たなヤングパワーの台頭が期待された大会でもあった。ヤングライダー賞のマリアビアンカは、ボブ・ユンゲルス(ルクセンブルク、エティックス・クイックステップ)が2位以下に大差をつけて獲得。

 1992年生まれの23歳は、キャリア3度目のグランツールで総合でも6位に入る大躍進。3日間のマリアローザ着用など、十分なインパクトを与えた。山岳個人TTを含む、3つのタイムトライアルはすべてトップ10フィニッシュ。同時に、山岳ステージでも大崩れせず総合上位をキープした走りは、タイプ的に2012年ツールを制したときのブラッドリー・ウィギンス(イギリス、当時チーム スカイ、現ウィギンス)がロールモデルになるのではないか、との声も上がっている。

 元々は個人TTやレース後半での単独の逃げなど、独走力や巡航力に定評があるだけに、当面はルーラー要素でステージレースの総合成績を狙っていくことになりそうだ。

ジロで活躍した選手たちの動向や去就

 ジロ閉幕後も大きなレースが控えていることもあり、活躍した選手たちが今後どのレースをターゲットにするのかが注目される。さらには、チームとの契約最終年の選手に至っては去就も話題となり、早くも彼らの動きから目が離せなくなってきている。

 また、今年は8月にリオ五輪を控えており、これがレーススケジュールに大きな影響を及ぼしていることも事実のようだ。ニバリはジロ制覇に続く目標としてリオ五輪ロードレースを挙げ、その調整の一環としてツールへの出場が濃厚となっている。チームを指揮するジュゼッペ・マルティネッリ氏は、「リオ五輪で戦うためには、ツールに出場する必要がある。ヴィンチェンツォとしては、五輪がなければツール出場は考えなかっただろう」と説明。ツールでは初出場初優勝を目指すファビオ・アール(イタリア)のアシストに回る公算だ。

アレハンドロ・バルベルデの次なるターゲットはリオ五輪となりそうだ =ジロ・デ・イタリア2016第20ステージ、2016年5月28日 Photo: Yuzuru SUNADAアレハンドロ・バルベルデの次なるターゲットはリオ五輪となりそうだ =ジロ・デ・イタリア2016第20ステージ、2016年5月28日 Photo: Yuzuru SUNADA

 同様にリオ五輪を見据えるのは、チャベスと総合3位となったアレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター チーム)。コロンビア、スペインともにロードレースへの出場枠を5つ獲得しており、金メダル獲得を目指すうえで優位な立場にある。クライマーやクラシックハンター向きと言われるコースで、両者は優勝候補に名を連ねることだろう。

 股ずれにより大事をとって第11ステージでリタイアしたトム・デュムラン(オランダ、チーム ジャイアント・アルペシン)は、リオ五輪個人タイムトライアルの金メダルを目指す。こちらも調整を兼ねてのツール出場を予定。先ごろチームが発表したロングリスト(出場候補選手)にも名を連ねている。同じく、ユンゲルスもツールのメンバー入りが有力。今度は総合狙いではなく、マルセル・キッテル(ドイツ)のスプリントトレイン牽引役が有力だ。

 ブエルタ出場を予定しているのは、クルイシュウィック。ジロの活躍から、総合優勝候補に目されるのは必至だろう。また、チャベスもリオ五輪を終えて参戦する意思を示している。

ニバリ(右から5人目)の引き留めに自身を見せるゼネラルマネージャーのヴィノクロフ氏(右から3人目)だが果たして… =ジロ・デ・イタリア2016第21ステージ、2016年5月29日 Photo: Yuzuru SUNADAニバリ(右から5人目)の引き留めに自身を見せるゼネラルマネージャーのヴィノクロフ氏(右から3人目)だが果たして… =ジロ・デ・イタリア2016第21ステージ、2016年5月29日 Photo: Yuzuru SUNADA

 そして、早くも飛び交うストーブリーグの話題。特にニバリは、中東・バーレーンに来シーズン発足見込みの新チームに目玉として加入するとの見方が強く、現チームを離れる可能性が高まっている。一方で、アスタナ プロチームのゼネラルマネージャーであるアレクサンドル・ヴィノクロフ氏は、ニバリとの契約更新に自信を見せており、近日中にも交渉の席を設けるとしている。

 また、ここへきてクルイシュウィックの株も急上昇。こちらも今シーズンがチームとの契約最終年であり、来年どんなジャージに袖を通しているかに注目が集まる。

今週の爆走ライダー-レイン・タラマエ(エストニア、チーム カチューシャ)

「爆走ライダー」とは…

1週間のレースの中から、印象的な走りを見せた選手を「爆走ライダー」として大々的に紹介! 優勝した選手以外にも、アシスト や逃げなどでインパクトを残した選手を積極的に選んでいきたい。

 ジロ第19ステージ、最高標高点の「チーマ・コッピ」に設定されたアニェル峠の下りは、高く積もる雪と濃霧が選手たちの行く手を阻んだ。マリアローザのクルイシュウィックが道路脇の雪に突っ込み、総合上位フィニッシュが目前に迫っていたイルヌール・ザカリン(ロシア、チーム カチューシャ)はコースアウトし激しく落車した。

エース・ザカリンの離脱を乗り越え勝利を収めたレイン・タラマエ =ジロ・デ・イタリア2016第20ステージ、2016年5月28日 Photo: Yuzuru SUNADAエース・ザカリンの離脱を乗り越え勝利を収めたレイン・タラマエ =ジロ・デ・イタリア2016第20ステージ、2016年5月28日 Photo: Yuzuru SUNADA

 エースのザカリンを鎖骨骨折により失ったチーム カチューシャの選手たちは、自らの強さを証明すべく、ザカリンの離脱をモチベーションに変えた。チャンスは残り2ステージ。わずかな可能性にかけて、第20ステージではタラマエが逃げグループに飛び込んだ。

 「イルヌールがどれだけのモチベーションで走っていたかを知っているし、チームも彼のために働き続けてきた。それが突然、たった1秒の出来事で終わってしまった。その悲しみを力にしないわけにはいかなかった」と、次々と訪れる上りを攻めに攻めた。ともに逃げたライバルが再三のアタックを繰り出したが、自らの実力を信じ、勝負どころを見極めた。

自信のある山岳での走りでエースをアシストするタラマエ =ジロ・デ・イタリア2016第19ステージ、2016年5月27日 Photo: Yuzuru SUNADA自信のある山岳での走りでエースをアシストするタラマエ =ジロ・デ・イタリア2016第19ステージ、2016年5月27日 Photo: Yuzuru SUNADA

 独走でのジロ初勝利。「私にとって最高の勝利だ。ブエルタで勝ったこともあるけれど、ジロのステージ優勝は長年の夢だった」と感激に浸る。それでも、「イルヌールがクラッシュしたと聞いたときは本当に恐ろしい気持ちだった。きっと時速70~80km出ていたのだろうし、彼は死を覚悟したのではないか。彼が生きていることが何よりもうれしい」と、自らの勝利以上にエースへの思いを強調した。

 かつてはツールで総合優勝を目指せる逸材として期待された彼も、今年で29歳。「プレッシャーにさらされるエースよりも、私はアシストとして走る方が向いていると思う」と口にし、ここ数年はエースを支える山岳アシストとして機能する。ザカリンのリタイアを誰よりも悲しみ、少ないチャンスをモノにした姿を見ると、その言葉通りアシストが彼の性には合っているのかもしれない。

福光俊介福光俊介(ふくみつ・しゅんすけ)

自転車ロードレース界の“トップスター”を追い続けて十数年、気がつけばテレビやインターネットを介して観戦できるロード、トラック、シクロクロス、MTBをすべてチェックするレースマニアに。2011年、ツール・ド・フランス観戦へ実際に赴いた際の興奮が忘れられず、 自身もロードバイク乗りになる。自転車情報のFacebookページ「suke’scycling world」も充実。本業は「ワイヤーママ徳島版」編集長。

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