熊谷賢輔の「世界をつなぐ道」<10 >災い転じて新聞デビュー? ハートを強くする自転車旅

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 サンフランシスコはゴールデンゲートブリッジや、アルカトラズ島など、観光地が目白押し。世界有数のIT企業が集まるシリコンバレーも近いエリアだ。いままで通ってきた町と比べても期待度が高い。どんな出会いが待っているかと思うと、行く前から僕のテンションは上がっていた。ところが、そんな僕の期待を裏切るかのような事件が勃発したのだった。

サンフランシスコの名所、ゴールデンゲートブリッジ Photo: Kensuke KUMAGAIサンフランシスコの名所、ゴールデンゲートブリッジ Photo: Kensuke KUMAGAI

転倒、そして相次ぐパンク

豪快にズッコけた橋。雨の時はグレーチングを走るべきではない Photo: Kensuke KUMAGAI豪快にズッコけた橋。雨の時はグレーチングを走るべきではない Photo: Kensuke KUMAGAI

 まずはサンフランシスコに到着する直前、橋の上で転倒するというアクシデントが発生。グレーチングがあり、転倒しないよう慎重に走っていたが、橋を工事中のオッちゃん達の目の前で豪快にズッコケてしまった。フロントバックのフック部分が大破し、腕には青あざができてしまった。

 そして次のアクシデント。目的地まで残り30kmのところでパンクが相次いだ。替えのタイヤも、パッチも使い果たしてしまう。持っていたビニールテープで応急処置をするも、1kmも走れずに空気が抜けてしまう。

フロントバックのフックが破損。宙ぶらりんになるので危険 Photo: Kensuke KUMAGAIフロントバックのフックが破損。宙ぶらりんになるので危険 Photo: Kensuke KUMAGAI
チューブの穴が空いた部分にビニールテープを巻く応急処置 Photo: Kensuke KUMAGAIチューブの穴が空いた部分にビニールテープを巻く応急処置 Photo: Kensuke KUMAGAI

 最終的には重い自転車を押しながら、なんとか大型スーパーマーケットに到着して、タイヤとチューブを入手。サンフランシスコの到着を目前に、思いっきり出鼻を挫かれた。

 しかし、サンフランシスコの悪夢は、これだけではなかった。

消えた自転車

駐輪場から忽然と消えた自転車 Photo: Kensuke KUMAGAI駐輪場から忽然と消えた自転車 Photo: Kensuke KUMAGAI

 サンフランシスコに到着して数日が経った頃だった。メールチェックをするために入ったカフェの近くに自転車を駐輪する。コーヒーを飲みながらパソコン作業をこなし、20分ぐらい経った後に外に出てみると…あれ? 自転車が無い?

 右、左と見回した後に、改めて自転車を駐車した場所を見る。やっぱり自転車は無い。

 駐輪していた場所の近くに寄ってみると、鍵のケーブルがカットされていた。この時点で初めて、自転車が盗難にあったことに気付いた。

相棒のラストショット。どこへ行ったんだろうなぁ… Photo: Kensuke KUMAGAI相棒のラストショット。どこへ行ったんだろうなぁ… Photo: Kensuke KUMAGAI

 「マジか!?」

 自転車を盗まれるということを全く想定していなかったので、この時点では現実を受け入れられない状況だった。自転車を探しているわけではないのに、お店の周辺をウロウロする。自転車をとめていた場所を何度も見返した。

 盗まれたという気持ちが次第に強まるにつれて、恐怖が身体の中から膨れ上がってくる。心臓の鼓動が速くなり、変な汗が吹き出してくる。

 「落ち着け、落ち着け、深呼吸…」

 完全に自覚するまでに少し時間がかかった。冷静さを保ちながら、まずは何が無くなったのかを思い出す。不幸中の幸いか、大事なパスポート、現金、クレジットカードはお世話になっている家に置いてある。無くなったのは、自転車本体と片方のフロントバックだけだ。

 サンフランシスコは自転車の盗難が多いと周囲から聞いていたので、面倒でも毎回頑丈な鍵とナンバーロックの簡単な鍵を2重でかけていた。しかし、今回は短い時間の滞在だからと簡単な鍵しかかけていなかった。不覚だった。

 こういうときは、何はさておきポリスレポート(盗難届)の取得だ。気持ちを落ち着かせながら、エリアを管轄している近くのバークレー警察署へと向かった。

何はさておきポリスレポート!

お世話になったバークレー警察署 Photo: Kensuke KUMAGAIお世話になったバークレー警察署 Photo: Kensuke KUMAGAI

 盗まれた時間、場所、状況、自転車の車種など、苦手な英語を使い必死に説明をする。対応してくれた警察官から、ポリスレポート作成には約1週間かかると告げられた。海外保険に入っていたので、後々の請求時にポリスレポートは必要になる。後から分かったことだが、急ぎの場合はインターネットからポリスレポートを作成することもできる。

 まずは、最低限の対応ができた。警察署を出ると次第に気持ちが落ち着いてくる。それと同時に、今まで一緒に走ってきた相棒を失った喪失感が押し寄せてきた。

 とは言え、新しい“相棒”を探さなければいけない。失ったものを数えてばかりいられない。数日後、新しい相棒を見つけるために、意気消沈しながらもいくつかのサイクリングショップを訪れていた。

サイクリングショップ「BLUE HOREN BIKES」 Photo: Kensuke KUMAGAIサイクリングショップ「BLUE HOREN BIKES」 Photo: Kensuke KUMAGAI

 僕が乗っていたのはパナソニックのツーリストバイク。気の利いた旅仕様ということもあり、同じようなスペックのものはなかなか見当たらない。

 クロスバイクの格安のものにしようかと思いながらフラフラ歩いていると、ショーウィンドウにツーリストバイクを置いてある店を発見。店名は「BLUE HOREN BIKES」。さっそく中に入り、事情を説明すると、対応してくれたスタッフのロブはとても親身になって聞いてくれた。

親身に対応してくれたロブ(右)他スタッフ達 Photo: Kensuke KUMAGAI親身に対応してくれたロブ(右)他スタッフ達 Photo: Kensuke KUMAGAI

 スタッフと一緒に決めた新しい相棒は「SURLY」の「Long Haul Trucker」(3×10の30段ギア)。1台目のPanasonicは3×8の24段ギアだったので、本体のスペックはアップした。

 これを機に、車体の荷物を少なくするためにキャリアは後ろのみに。フロント分の荷物はリュックサックで背負うことにした。

2台目の相棒。SURLYのLong Haul Trucker Photo: Kensuke KUMAGAI2台目の相棒。SURLYのLong Haul Trucker Photo: Kensuke KUMAGAI

乗り越えればトラブルさえも経験に

地元紙バークレー新聞に掲載。記事は右下 Photo: Kensuke KUMAGAI地元紙バークレー新聞に掲載。記事は右下 Photo: Kensuke KUMAGAI

 やるべきことはやった。あとは新しい自転車の納車と、ポリスレポートが作成されるのを待つだけとなった。アクシデント続きで気持ちが全く追いついていなかったが、悪いことばかりでもなかった。

 新しい自転車を購入した時に、たまたま店に来ていた地元の新聞記者から自分の自転車旅について取材を受けたのである。初めての新聞デビューが海外。自転車を盗まれたおかげで(?)、貴重な経験ができた。良くも悪くも、新しい経験はさらに新しい経験を誘発する。それが人を成長させてくれる。

 悪い状況になっても、過去を悔いるのではなく、そのときできることを1mmでもやること。必要なのは、まずは歩くことだ。この旅で何度も教えられた。

ポリスレポート(盗難届) Photo: Kensuke KUMAGAIポリスレポート(盗難届) Photo: Kensuke KUMAGAI
最終的には、こんな形になった。フロントバックが無いのでシンプル Photo: Kensuke KUMAGAI最終的には、こんな形になった。フロントバックが無いのでシンプル Photo: Kensuke KUMAGAI

 その後、自転車とポリスレポートを無事に入手。新しい”相棒”のペダルを漕ぎ進めた時は、スッキリした清々しい気持ちになっていた。

熊谷 賢輔(くまがい・けんすけ)熊谷 賢輔(くまがい・けんすけ)

1984年、横浜生まれ。法政大学文学部英文学科を卒業後、東京3年+札幌3年間=6年間の商社勤務を経て、「自転車で世界一周」を成し遂げるために退社。世界へ行く前に、まずは日本全国にいる仲間達に会うべく「自転車日本一周」をやり遂げる。現在はフリーライターの仕事をする傍ら、3年をかけて自転車世界一周中。
オフィシャルサイト「るてん」 http://ru-te-n.com/

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