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Cyclist編集部員も参加九州中の自転車有名人が集結「みんな明るくなった」 ラファの「ライド・フォー・熊本」最終日 <後編>

by 澤野健太 / Kenta SAWANO
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 熊本地震の被災地支援のため、サイクルウェアブランド「Rapha」(ラファ)が大型連休の10日間にわたって行ったチャリティーライド「Ride For Kumamoto」(ライド・フォー・熊本)。Cyclist編集部員による同行レポートの「後編」は、最終日5月8日の阿蘇・小国のルートを走りながら聞いた観光関係者や地元参加者の声をお届けする。

パワースポットの押戸石付近のグラベルを走る熊本のサイクリストたち  Photo: Kenta SAWANOパワースポットの押戸石付近のグラベルを走る熊本のサイクリストたち<br /> Photo: Kenta SAWANO

被災地気遣うルート設定

現地小国から開催に実現に尽力した松崎猛さん(左)と丹野篤史さん Photo: Kenta SAWANO現地小国から開催に実現に尽力した松崎猛さん(左)と丹野篤史さん Photo: Kenta SAWANO

 小国では2人のサイクリストを中心に綿密な計画が練られた。南小国町のサイクリストが集まる喫茶店「Tea room 茶のこ」代表の松崎猛さんが現地の情報を集め、ラファ・ジャパンの矢野大介代表に状況報告。福岡在住でラファ・アンバサダーの写真家・丹野篤史さんも同様にルートを作成した。

 初日の110kmのコースは14年の「ジェントルメンズ・レース・イン・小国」のコースとほぼ同じものだったが、被災者の心情に配慮し、できるだけ被災した場所を避けた。丹野さんは「安全かどうか、地震の影響を受けていないか、試走をして確かめた」と話す。さらにラファによるライドの未経験者も意識。「世界中で小国にしかない風景を楽しんで欲しい」と、一般道も使いながら小国・阿蘇の“おいしい”ルートをつないだ。

ブリヂストン・アンカー、西薗選手も合流

 8日の最終日には、九州の自転車人が続々集い、ライドを盛り上げた。福岡市から駆けつけた人気自転車店「正屋(まさや)」代表の岩崎正史さんは早朝からライド前の義援金受け付けを手伝い、午前8時には開店に合わせ100km以上離れた福岡にとんぼ返りした。ライドが始まると、サプライズゲストとしてブリヂストンアンカー所属で鹿児島県在住の西薗良太選手が合流。一般サイクリストとのライドを楽しんだ。

2日目のライド前、コーヒーを片手に笑顔で話すVC福岡の壇耕平選手 Photo: Kenta SAWANO2日目のライド前、コーヒーを片手に笑顔で話すVC福岡の壇耕平選手 Photo: Kenta SAWANO
義援金受付の手伝いをして福岡にトンボ返りした正屋の岩崎正史さん Photo: Kenta SAWANO義援金受付の手伝いをして福岡にトンボ返りした正屋の岩崎正史さん Photo: Kenta SAWANO

 地域密着型サイクリングチーム「VC福岡」の選手兼マネージャー、壇耕平選手は「同じ九州のチームとして参加しないわけにはいかなかった。練習でもお世話になってきた熊本に恩返ししたい」。普段は福岡市役所に勤務し、イベント前には災害支援のために熊本市で給水活動などを手伝ったばかりだった。

2日目のライドには、西薗良太選手(左端)も飛び入り参加 ©Rapha Japan / Lee Basford2日目のライドには、西薗良太選手(左端)も飛び入り参加 ©Rapha Japan / Lee Basford

閑散とした「名所」で思うこと

 最終日のライドは阿蘇のパワースポット「押戸石の丘」や外輪山の上を走る「ミルクロード」など、サイクリングの“名所”をつなぐ70km。参加者は、樹齢1000年とも言われている「下城の大銀杏」や高さ200mの「下城の滝」などのスポットで記念撮影をしながら進み、獲得標高1600mを上って押戸石を目指した。国道を走るルートは例年のゴールデンウィークなら車が連なるというが、地震のためか、追い抜いていく車は少なかった。

押戸石から阿蘇の山々を眺める。静かな時間だけが流れていた Photo: Kenta SAWANO押戸石から阿蘇の山々を眺める。静かな時間だけが流れていた Photo: Kenta SAWANO
押戸石の丘で記念撮影する参加者 Photo: Kenta SAWANO押戸石の丘で記念撮影する参加者 Photo: Kenta SAWANO

 ようやく到着した押戸石の丘は、やはり閑散としていた。筆者が昨年12月にサイクリングした際は、真冬にも関わらず多くの観光客でにぎわっていたが、この日は新緑の季節にもかかわらず、30分滞在して一般観光客は1組のカップルだけだった。
 丹野さんは「普段の休日なら家族連れがシートを敷いて、芝生が埋まってしまってしまう。とても“ラファ向き”の場所とは言えません。でも(今回のイベントのために)試走した時に、人がほとんどいなかったので、静かに景色が楽しめると思いルートに入れました」と説明した。10年前は人もあまり来ることがなかったスポットだったという。人が少ない今だからこそ、昔のような姿で美しい景色や道を独占できるのかと思うと、少し複雑な気持ちになった。

ふとしたところに震災の影響を発見する ©Rapha Japan / Lee Basfordふとしたところに震災の影響を発見する ©Rapha Japan / Lee Basford

 押戸石の丘でまったりした後は、外輪山から阿蘇市内を見渡せる北山レストランの展望所まで、さらに隊列を組んで上った。近年脚光を浴びるようになった「ラピュタ道」は一部が崩れてしまったため見ることができなかったが、ミルクロードは地割れの補修もほぼ完了し、問題なく走ることができた。

 北山レストランに到着し、空きの目立つ駐車場に30台近くのロードバイクが並んだ。ソフトクリームや地元産の肉の串焼きに舌鼓を打つサイクリストたちを前に、北山レストランの園田一義オーナーは「こんなに大勢自転車に乗って来てくれて、本当にありがたい。風評被害で困っているときにこそ来てほしかった」と感謝した。

阿蘇の北山レストランでソフトクリームを食べるサイクリストたち Photo: Kenta SAWANO阿蘇の北山レストランでソフトクリームを食べるサイクリストたち Photo: Kenta SAWANO
老舗旅館に勤める中尾公一さん(左)は阿蘇の北山レストランの園田一義オーナー Photo: Kenta SAWANO老舗旅館に勤める中尾公一さん(左)は阿蘇の北山レストランの園田一義オーナー Photo: Kenta SAWANO

最後のサプライズ

 2日目の終盤は初日同様、阿蘇のミルクロードから小国まで下った。そこに最後のサプライズが待っていた。ライドリーダーを務めた丹野さんが「大変だけど、とっても楽しい道に行きましょうか」と、サイクリストたちに質問。丹野さんの考えるルートが楽しくないわけがない。一同が「行きましょう」と声をそろえると、廃線をたどる極上のグラベルに突入した。

廃線のグラベルを走る参加者。悪路に歓声が上がった Photo: Kenta SAWANO廃線のグラベルを走る参加者。悪路に歓声が上がった Photo: Kenta SAWANO
廃線のグラベルを走る参加者。新緑がまぶしすぎた Photo: Kenta SAWANO廃線のグラベルを走る参加者。新緑がまぶしすぎた Photo: Kenta SAWANO

 湿った土に大きめの石が敷かれたグラベルは、初めて自転車に乗れた時を思い出させるような楽しさがあった。眩しすぎる新緑と杉林を走り抜け、2つのトンネルをくぐる。真っ暗闇の中、照明のスイッチをつけたり消したりと、楽しいアトラクションつきだった。

 悪路に悲鳴を上げるサイクリストもいたが、どの顔にも満面の笑みがあふれていた。最高のグラベルを抜けると、2日目の70kmがあっという間に終了した。

ライドの最後にとっておきのグラベルを走る ©Rapha Japan / Lee Basfordライドの最後にとっておきのグラベルを走る ©Rapha Japan / Lee Basford

「みんな明るい顔になった」

震災以来、久しぶりのライドを楽しんだ2015年全日本マスターズ1kmTT王者の福島雄二さん(右)と「コルナゴ部長」こと中尾公一さん Photo: Kenta SAWANO震災以来、久しぶりのライドを楽しんだ2015年全日本マスターズ1kmTT王者の福島雄二さん(右)と「コルナゴ部長」こと中尾公一さん Photo: Kenta SAWANO

 被災した熊本県からも多くのサイクリストが参加。熊本市在住で2015年全日本トラック競技のマスターズ1kmTT王者、「ツール・ド・沖縄」2回優勝の福島雄二さんも、久しぶりにロードバイクに乗ったという。不動産会社を経営し、管理する駐車場やマンションなどが被災し対応に追われる日が続くが、「こういう風に自転車に乗れる機会を作ってくれて、本当に感謝。みんな明るい顔になったよね。休みなしで働いてる人も多かったから」と「弱虫ペダル」の総北高校ジャージに身を包み、各地の参加者と交流を深めた。

 ペンネーム「コルナゴ部長」として熊本が舞台の映画版「弱虫ペダル」の監修も行った中尾公一さんは、勤務する老舗温泉旅館が被災し休業している。「こういった復興の第一歩のイベントを行ってくれて感謝です。いろんな意見があると思いますが、全国のサイクリストが訪れ、走れるところから走ってもらうことで、元の阿蘇に戻ってほしい」と願った。

 現地でイベント実現に尽力した松崎さんは、「震災後、自転車から離れてピリピリした生活でしたが、再び乗るきっかけを作ってくれた。新緑が眩しく、仲間たちと走る熊本小国は最高の舞台でした。そんなステキな日常を思い出させてくれたラファ・ジャパンの皆さまに感謝します」と話した。

阿蘇外輪山の展望所に止まる「がんばれ熊本」と書かれたヘリコプターと並んで記念撮影する「Ride For KUMAMOTO」の参加者たち ©Rapha Japan / Lee Basford阿蘇外輪山の展望所に止まる「がんばれ熊本」と書かれたヘリコプターと並んで記念撮影する「Ride For KUMAMOTO」の参加者たち ©Rapha Japan / Lee Basford

モヤモヤや不安感「完全に吹っ飛んだ」

ブリーフィングで話すラファ‥ジャパンの窪田博英さん。左は合田光宏さん。右は衣本始司さん Photo: Kenta SAWANO ブリーフィングで話すラファ‥ジャパンの窪田博英さん。左は合田光宏さん。右は衣本始司さん Photo: Kenta SAWANO<br />

 イベントを成功に導いた矢野代表は、「今回最も辛かったのは、『なぜわざわざ被災地に入ってまでイベントをやるのか?』と、批判の声が結構聞こえていたこと。チャリティーに関しては全く問題ないが、被災地に入ることは、当然非常に慎重にアプローチしました。最後は現地の方々のフィードバックによる判断で、それが最も正しい動き方だと信じて計画を調整しました」と振り返る。

 現地に入るまでは確信できずにいた。「しかし、現地に集まると多くの方が遠くから泊りがけで来てくれた。さらに驚いたのは、被災した地元のサイクリストたちが『こういう時に自転車に乗る機会や他の地元の人と話ができる機会をくれてありがとう』と、数多く集まっていたことです。小国では行く先々で地元の方が明るく対応してくれた。『ありがとう』というシンプルな言葉を直接自分たちの耳で聞くことができた瞬間、全てのモヤモヤや不安感が完全に吹っ飛んでいきました」と、手ごたえを語った。

 小国でライドリーダーやイベント補佐を担当した窪田博英さんは、小国町の隣の熊本県菊池市出身。「子供の時から訪れていた阿蘇や小国を含めた多くの熊本の街々が被災したことは大きな衝撃でした。チャリティライドというかたちで、自分が生まれ、自分を形作った熊本県のためにできる一歩としてイベントを開催できたことは、私個人としても大きな意義のあることでした」と振り返った。

 全行程をMCCで帯同した合田光宏さんは、「告知が急だったことから、正直なところ参加人数はあまり期待していませんでしたが、予想以上に多くの方に参加してもらいました。今後も様々な形で支援活動を継続していきたい」。ラファでイベントの仕事を担当し、今回サポート役を努めた衣本始司さんも、「(イベントを通じ)人と人をつなぐ仕事をしていると考えている。今回はまさに、いろいろな人の思いを熊本の人たちにつなぐことができたと思います。今後も、細く長く支援を行い、いつか熊本に普通の日々が訪れるようになればと思います」と期待した。

 ラファ・ジャパンは今後、「ツアー・オブ・ジャパン」で義援金募集を行うなど、熊本支援を続けていく。
◇         ◇
 すべてのライドが終了した5月9日には、全国の666人から集まった義援金約113万円が小国町に寄付された。

◇「Ride for KUMAMOTO」全日程と参加者の寄付
・4月29日 岐阜県海津市(庭田山頂公園)参加者64人(寄付88人・寄付金15万1100円)
・4月30日 京都府南丹市(Nantan-cityスプリングス日吉)参加者42人(寄付71人・寄付15万7767円)
・5月1日 兵庫県神戸市(六甲山記念碑台)参加者60人(寄付76人・寄付金12万990円)
・5月3日 兵庫県たつの市(道の駅みつ)参加者40人(寄付60人・寄付金8万9675円)
・5月4日 岡山県岡山市(オートパルJA岡山)参加者83人(寄付103人・寄付金16万2980円)
・5月5日 広島県尾道市(ONOMICHI U2 )参加者41人(寄付86人・寄付金人・寄付金12万6441円)
・5月7日 熊本県小国市(木魂館)参加者73人(寄付91人・寄付金15万8888円)
・5月8日 熊本県小国市(木魂館)参加者83人(寄付91人・寄付金16万7040円)

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