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福光俊介の「週刊サイクルワールド」<158>ジロ2016オランダステージを終えて キッテルの完全復活と総合優勝候補の走りに着目

by 福光俊介 / Syunsuke FUKUMITSU
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 2016年最初のグランツールであるジロ・デ・イタリアが5月6日に開幕。今年はオランダ・アペルドールンで戦いの火蓋が切られ、そして早くも期待に違わぬ熱きレースが展開されている。今回はオランダでの3ステージを振り返り、印象に残ったポイントや今後の展望について触れていきたい。

ジロ・デ・イタリア2016第3ステージを終え、マリアローザを獲得したマルセル・キッテル =2016年5月8日 Photo: Yuzuru SUNADAジロ・デ・イタリア2016第3ステージを終え、マリアローザを獲得したマルセル・キッテル =2016年5月8日 Photo: Yuzuru SUNADA

完全復活を印象付けたキッテル

 オランダでの3日間は、主役になるべき男たちがしっかりと結果を残した。第1ステージでは、オランダきってのタイムトライアルスペシャリスト、トム・デュムラン(チーム ジャイアント・アルペシン)が胃の不調を抱えながらもステージ優勝。マリアローザの着用に地元ファンが沸いた。

 そして第2ステージからは、マルセル・キッテル(ドイツ、エティックス・クイックステップ)がステージ2連勝。昨年までチーム ジャイアント・アルペシンで走り、オランダにもゆかりのある(前身のチーム ジャイアント・シマノは2014年までオランダ登録)ライダーが勝利を収めた。

圧倒的なスピードでステージ2連勝を飾ったマルセル・キッテル =ジロ・デ・イタリア2016第3ステージ、2016年5月8日 Photo: Yuzuru SUNADA圧倒的なスピードでステージ2連勝を飾ったマルセル・キッテル =ジロ・デ・イタリア2016第3ステージ、2016年5月8日 Photo: Yuzuru SUNADA

 自転車の国・オランダのファンを熱狂させた選手たちの中でも、やはりキッテルに触れないわけにはいかないだろう。ライバルを凌駕した第2・第3ステージの圧勝劇は、“完全復活”を印象付けるには十分すぎる強さだった。

 昨年のキッテルは、シーズン序盤に体調不良に陥り、回復に時間を要した。ベストコンディションを取り戻すことができないままビッグレースの時期を迎えてしまい、結果的にツール・ド・フランス、さらにはブエルタ・ア・エスパーニャへの出場を逃した。

 体調が戻れば爆発的なスピードで勝利を量産することは、日頃からレースシーンを追っている方であれば誰もが分かっていたこと。冬場のトレーニングで調子を取り戻し、グランツールで結果を残せるよう調整を成功させたことはさすがだ。

アシスト陣がキッテルのスプリントを支える =ジロ・デ・イタリア2016第2ステージ、2016年5月7日 Photo: Yuzuru SUNADAアシスト陣がキッテルのスプリントを支える =ジロ・デ・イタリア2016第2ステージ、2016年5月7日 Photo: Yuzuru SUNADA

 加えて、新たな環境に順応している点も好調の要因といえそうだ。その裏づけとして、シーズン初戦として臨んだ2月のドバイ・ツアー(UAE、UCI2.HC)から優勝を積み重ねていることを挙げておきたい。もっとも、このジロでキッテルを支えるスプリントトレインによるお膳立ても見逃してはならない。ピーテル・スライ(ベルギー)、ボブ・ユンゲルス(ルクセンブルク)、マッテーオ・トレンティン、ファビオ・サバティーニ(ともにイタリア)が主にキッテルとホットラインを形成する。トレインそのもののスピードはライバルチームと互角だが、好位置でキッテルを放ちさえすれば勝てるという自信が彼らにはみなぎっている。

 第4ステージからはイタリアへと入国する。大会主催者が難易度を低めに設定しているステージでも細かなアップダウンがあり、キッテルのようなピュアスプリンターがどう攻略するか。同時に、第3ステージで狙い通りのゲットとなった総合首位の証・マリアローザをどこまで守り続けられるかにも注目が集まる。そして、急峻な山々をクリアし、最終目的地のトリノを目指すのかどうかも気になるところだ。

個人TTが総合争いにもたらす影響は?

 3日間のオランダステージでは、初日の個人TTで誰が最初のマリアローザ着用者になるのか、続く2ステージでは誰がスプリントを制するのかに多くの視線が注がれた。それらの影に隠れていた印象こそあるが、総合争いの有力選手たちがこの3日間をどのようにまとめるのかも、先々の戦いを占ううえでは外すことのできないポイントであった。

 特に、第1ステージの個人TTは9.8kmと短い距離ながらも、そこでの順位やタイム差が今後の駆け引きの材料となり得た。ふたを開けてみると、有力どころはいずれも及第点の走りをしたと見ることができる。その後の2ステージでも大きな変動はなく、イタリアでの戦いに勝負は委ねられる。

第3ステージまでを終えて、総合優勝候補で最上位につけるヴィンチェンツォ・ニバリ =ジロ・デ・イタリア2016第1ステージ、2016年5月6日 Photo: Yuzuru SUNADA第3ステージまでを終えて、総合優勝候補で最上位につけるヴィンチェンツォ・ニバリ =ジロ・デ・イタリア2016第1ステージ、2016年5月6日 Photo: Yuzuru SUNADA

 第3ステージまでを終えて、総合優勝候補最上位はトップから28秒差につける、ヴィンチェンツォ・ニバリ(イタリア、アスタナ プロチーム)の総合11位。アレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター チーム)がニバリから5秒差の総合16位、ヨアンエステバン・チャベス(コロンビア、オリカ・グリーンエッジ)が同11秒差の総合22位、イルヌール・ザカリン(ロシア、チーム カチューシャ)が同13秒差の総合26位、リゴベルト・ウラン(コロンビア、キャノンデール プロサイクリングチーム)が同14秒差の総合30位、ラファウ・マイカ(ポーランド、ティンコフ)が同19秒差の総合39位。いま最も勢いのあるクライマーの1人、ミケル・ランダ(スペイン、チーム スカイ)はニバリから21秒差の総合43位につける。

 彼らはいずれも第1ステージの走りを満足できるものと捉えており、一様に今後のステージに自信を見せている。20秒前後のタイム差は山岳ステージで十分に広げられる、または挽回できるものであり、いまのところは横一線といったところ。

 そうなってくると、40.5kmの個人TTが待つ第9ステージがカギを握ることになるかもしれない。アップダウンに富み、オールラウンダーやクライマーでも勝負に絡むことのできるレイアウトは、取りこぼしが許されない1日となりそうだ。

 10.85kmの山岳個人TTで争われる第15ステージを含む、3ステージ計61.15kmの孤独な戦いを制した選手が、マリアローザ争いで優位に立つ可能性は大いにある。個人TTの比重がこのジロにおいていかなるものになるのかも、戦いを見るうえで押さえておかねばならない。

ジロ・デ・イタリア 第4~9ステージ展望

●5月10日(火) 第4ステージ カタンザーロ~プラーイア・ア・マーレ 200km 難易度★★★

 舞台はいよいよイタリアへ。まずは南部をプロトンが進む。スタートから約120kmはイージー。中盤以降は2カ所の3級山岳をはじめ、細かなアップダウンが待ち受ける。特にラスト10km地点のフォルティーノは、山岳にカテゴライズされていないものの最大勾配18%と、選手たちを苦しめるポイントとなりそうだ。

●5月11日(水) 第5ステージ プラーイア・ア・マーレ~ベネヴェント 233km ★★

 35km地点で3級山岳ポイントを通過。その後も中盤にかけて細かなアップダウンが控える。最終盤はベネヴェント市内を走る7.6kmの周回コースを1周。鋭角コーナーが続き、ラスト1kmは勾配3.4%の石畳の上りが待ち受ける。平坦ステージではあるが、登板力のあるスプリンターが有利か。

●5月12日(木) 第6ステージ ポンテ~ロッカラーゾ(アレモニャ) 157km ★★★

ジロ・デ・イタリア2016第6ステージ コースプロフィール  ©RCS SPORTジロ・デ・イタリア2016第6ステージ コースプロフィール  ©RCS SPORT

 今大会最初の頂上フィニッシュは、2カ所の2級山岳を上る。ロッカラーゾのフィニッシュを目指す上りは、距離18.85km、最大勾配12%。総合優勝候補同士のぶつかり合いがあるのか、はたまた様子見となるのか。いずれにせよ、このステージを制した選手にマリアローザが移る可能性が高い。

●5月13日(金) 第7ステージ スルモーナ~フォリーニョ 211km ★★

 前日の中級山岳をクリアしたスプリンターにとっては、再度のチャンスとなる1日。注意したいのは残り約40km地点で通過する4級山岳。ここで絞り込みが発生すると、チャンスを失うスプリンターが出るかもしれない。また、ラスト1kmを切って左、右と続くコーナーはフィニッシュ直前の混乱を誘発しかねない。

●5月14日(土) 第8ステージ フィリーニョ~アレッツォ 186km ★★★

 残り約18kmで迎える2級山岳アルペ・ディ・ポティは最大勾配14%。集団がハイスピードで突っ込む可能性が高く、位置取りが大きな要素となるほか、その後の下りもテクニカルで落車には注意が必要。フィニッシュ手前にも急坂が登場。ラスト900mで現れる11%の勾配は有力選手間でもタイム差が発生することが考えられる。

●5月15日(日) 第9ステージ キャンティ・クラシコ・ステージ(ラッダ・イン・キャンティ~グレーヴェ・イン・キャンティ) 40.5km個人TT ★★★★

ジロ・デ・イタリア2016第9ステージ コースプロフィール  ©RCS SPORTジロ・デ・イタリア2016第9ステージ コースプロフィール  ©RCS SPORT

 大会前半のヤマ場となるであろう1日。ワインで知られるキャンティでの個人TTは、アップダウンの連続。TTスペシャリストよりも、オールラウンダーやクライマーに有利となるかもしれない。総合優勝候補たちにとっては、ここでの結果が大会後半の戦い方に大きな影響を及ぼすこととなるのは間違いない。

今週の爆走ライダー-マールテン・チャリンギ(オランダ、チーム ロットNL・ユンボ)

「爆走ライダー」とは…

1週間のレースの中から、印象的な走りを見せた選手を「爆走ライダー」として大々的に紹介! 優勝した選手以外にも、アシスト や逃げなどでインパクトを残した選手を積極的に選んでいきたい。

 どうしても逃げグループに入らなければいけない理由があった。

 現在開催中のジロ。第2ステージのスタート、第3ステージのフィニッシュ地となったアーネムは、チャリンギが家族と日々暮らす街。第3ステージのフィニッシュ地点に至っては、自宅までの距離わずか250m。なんとしても栄光をホームタウンに持ち帰る必要があった。

 2日連続の逃げの甲斐あって、山岳賞のマリアアッズーラを獲得。2人の子どもと一緒にポディウムに上がる、夢のような時間をすごした。

マリアアッズーラを獲得したマールテン・チャリンギ。わが子とのポティウムに喜びが弾ける =ジロ・デ・イタリア2016第3ステージ、2016年5月8日 Photo: Yuzuru SUNADAマリアアッズーラを獲得したマールテン・チャリンギ。わが子とのポティウムに喜びが弾ける =ジロ・デ・イタリア2016第3ステージ、2016年5月8日 Photo: Yuzuru SUNADA

 38歳のベテランは、6月に引退することを決めている。最後のレースは、自国で開催されるステルZLMツール(6月15~19日、UCI2.1)。その前に大切なミッションを見事にこなしてみせた。「わが町で子どもたちとジロのポディウムに上がることは、キャリアにおけるユニークな瞬間だね。それも引退間際にやってくるんだからね」。導かれた運命に大きな感動を覚える。

 逃げやアシストでチームに貢献してきた現役生活。イタリアへ移動し迎える今後のステージは、本来の役割に戻ることとなる。長かったキャリアの集大成は光り輝くものでありたい。引退までのカウントダウンは、将来性豊かな若い選手たちにバトンタッチをする日々でもある。

福光俊介福光俊介(ふくみつ・しゅんすけ)

自転車ロードレース界の“トップスター”を追い続けて十数年、気がつけばテレビやインターネットを介して観戦できるロード、トラック、シクロクロス、MTBをすべてチェックするレースマニアに。2011年、ツール・ド・フランス観戦へ実際に赴いた際の興奮が忘れられず、 自身もロードバイク乗りになる。自転車情報のFacebookページ「suke’scycling world」も充実。本業は「ワイヤーママ徳島版」編集長。

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