トラック競技女子オムニアムで世界に挑む“パン生”からリオ五輪代表へ シエルブルー鹿屋・塚越さくら選手「すべてが今に続く道」

by 後藤恭子 / Kyoko GOTO
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 「趣味はお菓子づくりで、ムーミンが大好き」というおっとりした印象の塚越さくらさん。しかしひとたびロードバイクをこぎ出せば日本最強の女子選手に変身する。自転車競技の名門・鹿屋体育大学大学院を今春卒業。日本初のトラック専門プロチーム「シエルブルー(CIEL BLEU)鹿屋」の選手として活動し、リオデジャネイロ五輪のトラック競技で日本代表の座を射止めた。そんな彼女が自転車競技を始めたのは実は大学から。一般入試枠で合格した“パン生”ながら、自力で自転車競技部の扉を叩き、主将を任されるまでになった努力家だ。五輪に向けたトレーニング前の貴重なオフ。リラックスした笑顔にのぞく彼女の芯の強さに迫った。

いつも伊豆・修善寺での練習時に立ち寄る、お気に入りの「チェレステカフェ」(静岡県沼津市)で。名だたる選手たちに混ざってサインを残す塚越さくら(取材協力・チェレステカフェ) Photo: Kyoko GOTOいつも伊豆・修善寺での練習時に立ち寄る、お気に入りの「チェレステカフェ」(静岡県沼津市)で。名だたる選手たちに混ざってサインを残す塚越さくら(取材協力・チェレステカフェ) Photo: Kyoko GOTO

全日本で3冠 圧倒的な強さ

リオ五輪の自転車トラック競技日本代表選手団で、一番右に立つ塚越さくらさん(2016年4月6日撮影) Photo: Kyoko GOTOリオ五輪の自転車トラック競技日本代表選手団で、一番右に立つ塚越さくらさん(2016年4月6日撮影) Photo: Kyoko GOTO

 「ここまで成長させてくれた鹿屋に感謝している」──。
4月6日、東京都内で開かれたリオ五輪の自転車競技(トラック)日本代表選手の会見で、代表選手に選出された感想を聞かれ、母校への思いを語った。

 2016年はアジア選手権でオムニアム3位、チームパーシュート2位を獲得し、さらに4月16、17日に開催された全日本選手権では、500mタイムトライアル、3km個人パーシュート、チームパーシュートで3冠に輝いた。「タイムトライアル、フライングラップの2種目は世界で上位を狙えるレベル」と評されるオムニアム短距離種目での安定した強さが決め手となり、日本代表に選出された。

第36回アジア自転車競技選手権に出走する塚越さくらさん(2016.1.30撮影) Photo: Sonoko TANAKA / ACC 2016第36回アジア自転車競技選手権に出走する塚越さくらさん(2016.1.30撮影) Photo: Sonoko TANAKA / ACC 2016
第36回アジア自転車競技選手権、オムニアムで同メダルを獲得した塚越さくらさん(2016.1.30撮影) Photo: Sonoko TANAKA / ACC 2016第36回アジア自転車競技選手権、オムニアムで同メダルを獲得した塚越さくらさん(2016.1.30撮影) Photo: Sonoko TANAKA / ACC 2016

自転車競技を始めたのは6年前

 幼い頃からスポーツが好きな少女だった。埼玉県で送った小学校時代はトライアスロン、中高校では陸上競技に打ち込んだ。とくに高校時代は7種競技の選手として関東インターハイなどで活躍していた。

トライアスロンに打ち込んでいた小学生時代 (提供: 塚越さくら)トライアスロンに打ち込んでいた小学生時代 (提供: 塚越さくら)

 しかし「高校当時、陸上競技で成績の伸びが期待できずに悩んでいた」という塚越さん。一方で、トライアスロンをやめて以降も、ときどき乗っては楽しさを感じていたロードバイクに、陸上とは違う何かを感じ始めていた。そんななか、地元の埼玉県で開催されたインターハイでのロードレースの迫力を目の当たりにしたことが決め手となり、自転車競技への転向を決意した。

 自転車競技部をもつ大学への進学を希望してたどり着いたのが鹿屋体育大学。国立の体育大学で、かつ自転車競技で女子選手の強化にも力を入れていると知り、照準を定めた。陸上競技なら獲得できる推薦枠を自転車競技に転用することはできないため、一般入試枠で受験することに。試験まであと数カ月という残り少ない期間での必死の受験勉強の末、合格を勝ち取り、自力で自転車競技部の門を叩いた。

“素人”として叩いた自転車競技部の門

 入部してみると、“パン生”と呼ばれる一般入試組は自身を含め4人。かたや推薦入試組には、現在シエルブルー鹿屋で同じくプロ選手として活躍している上野みなみ選手や、今年の「ジロ・デ・イタリア」に出場が決まった山本元喜選手(NIPPO・ヴィーニファンティーニ)ら各方面で活躍する面々が並んでいた。先輩陣も錚々たる顔ぶれで、“素人”だった塚越さんにとって日々緊張の競技生活が始まった。

「入部した当初は、練習中緊張で口が利けなかった」と話す塚越さくらさん Photo: Kyoko GOTO「入部した当初は、練習中緊張で口が利けなかった」と話す塚越さくらさん Photo: Kyoko GOTO

 トレーニングは“推薦組”と“一般組”でメニューが分けられた。実力の差はもちろん、未経験者による不慣れな集団走行は事故の恐れがあるからだ。「先輩たちと練習に行く推薦組の後ろ姿を見ながら、いつかは自分も付いて行けるようになるのだろうかと思っていた」と振り返る。女子は選手数が少ないこともあり、入部2カ月目には試合に出場。1年目にして多くのレースを経験するも、納得のいく結果は出せずにいた。

「あきらめなければ道は開ける」

 そんななか、転機が訪れた。1年生の冬場の自主トレーニングで、塚越さんが強い選手に混じれず1人で練習していると、1人の先輩から「一緒に練習にいくか?」と声をかけられた。

 「強くて、当時少し怖い存在だった先輩でした。練習は厳しいものでしたが、とても充実していた。練習終了後に『本気でやる気があるなら、これからは自分から頼んでこい』と言われたのがとにかくうれしくて、その日から練習に対する意識が変わりました」。その後、自分から積極的にトレーニングに参加し、がむしゃらに練習に打ち込んだ。

 その結果は2年生の春に現れ始めた。トラックのタイムが右肩上がりに伸び、学生の全国大会「チャレンジ・ザ・オリンピック」で初優勝。さらに大学生のオリンピックといわれるユニバーシアード大会の日本代表選手の1人に選ばれることになった。

鹿屋体育大学自転車競技部の同期、上野みなみさん(右)と (提供: シエルブルー鹿屋)鹿屋体育大学自転車競技部の同期、上野みなみさん(右)と (提供: シエルブルー鹿屋)

 そして大学3年になり、先輩らが指名する次期キャプテンに選ばれた。キャプテンを務めた女性部員は同大OGの萩原真由子選手(ウィグル・ハイファイブ)などこれまでにも存在するが、“パン生”としてキャプテンに抜擢されたのは、塚越さんが部発足以来初めてだった。
最初は、“パン生”で、しかも他の同期と比べても競技実績も少ない自分がキャプテンに選ばれたことに戸惑ったが、部を率いる黒川剛監督の「リーダーは実績以上に真剣に取り組む姿勢が大切」という言葉に、意を決した。

 当初3人いた一般入試組の同期は全員退部し、塚越さん自身も自転車競技をやめようと思ったことは何度もあった。しかし、「周りで支えてくれる仲間がいたから続けることができた」という。「どんなことも努力を続けていたら導いてくれる人が現れ、道が開かれる。あきらめず続けることが大事。ここに至るまで遠回りをしたように思いますが、色々なことを一生懸命やってきて良かったと、いま心から思います。トライアスロンも陸上も直接は自転車競技に関係なくても、精神的なことだったり、全ての要素が今の自分につながっていると感じています」と語る。

リオ五輪の目標は8位入賞

 この春卒業し、発足したばかりの「シエルブルー鹿屋」に活動の場を移した。同大自転車競技部や部関係者、スポンサーなどが尽力し、塚越・上野両選手2人に東京五輪で活躍することを念頭に結成した新しい形態のトラック中長距離種目専門のプロチームだ。日本代表としてリオ五輪への出場が決まったいま、「東京五輪につながる経験を持ち帰りたい」と、使命感を燃やす。

練習の合間に訪れるお気に入りのお店「チェレステカフェ」のオーナーと(取材協力:チェレステカフェ) Photo: Kyoko GOTO練習の合間に訪れるお気に入りのお店「チェレステカフェ」のオーナーと(取材協力:チェレステカフェ) Photo: Kyoko GOTO

 リオ五輪で出場する種目はオムニアム。「メダルの獲得は厳しいと思っているが、8位に入賞できる位置にいると思っています。いまは不安でいっぱいだけど、開催まであと残り3カ月、トレーニングで不安をとりのぞき、思い残すことがない状態で本番に臨みたい」と笑顔を見せた。

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