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つれづれイタリア~ノ<70>放送時間は毎日8時間超 「ジロ・ディタリア」を支えるメディアたち

by マルコ・ファヴァロ / Marco FAVARO
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 4月末になりました。「ジロ・デル・トレンティーノ」が終わり、チーム スカイの期待の星、ミケル・ランダ(スペイン)が総合優勝を飾りました。この“前夜祭”が終わると、イタリアはまもなくピンク色に染まる時期。いよいよ5月6日にジロ・ディタリア(以下、ジロ)が始まります。過酷な21日間のレースで戦う選手を見るために、イタリア中のファンが沿道を埋め尽くします。今回のコラムではジロの人気を支えるメディアの努力について紹介したいと思います。

選手たちの息遣いまでも追うメディア陣(ジロ・ディタリア2014) Photo: Yuzuru SUNADA選手たちの息遣いまでも追うメディア陣(ジロ・ディタリア2014) Photo: Yuzuru SUNADA

「おシリが痛い」レースだった初回のジロ

第1回ジロ・ディタリアを発表したガッゼッタ・デッロ・スポルト紙(1908年8月24日発行)(マルコ所有)第1回ジロ・ディタリアを発表したガッゼッタ・デッロ・スポルト紙(1908年8月24日発行)(マルコ所有)

 1909年に始まって以来、今年で開催99回目を数えるジロは、もっとも古い自転車競技大会の一つです。大会名の通り、イタリアを一周します(ジロ:一周、ディタリア:イタリアの)。初開催からイタリアのスポーツ紙「ガッゼッタ・デッロ・スポルト」が主催。総合優勝のシンボルカラーであるピンク色は、実はこの新聞が使っている紙の色に由来しているのです。

 しかし、時代は20世紀初頭。参加者がギアなしの鉄の自転車に乗り、当然ながら舗装されていない道路を疾走。参加者にプロの資格はなく、審査をクリアしたアマチュアのみ。GPSもなければ、補給ポイントもありません。パンクも自分で直さなければなりません。これでも十分な悪条件ですが、さらに問題なのはその距離でした。初回のジロは全8ステージしかありませんでしたが、今とは比較にならないほど過酷な距離でした。

第1回ジロ・ディタリアのステージ(1909年)

1. (5/13) ミラノ → ボローニャ 397km
2. (5/16) ボローニャ → キエーティ 378km
3. (5/18) キエーティ → ナポリ   242km
4. (5/20) ナポリ → ローマ   228km
5. (5/23) ローマ → フィレンツェ   346km
6. (5/25) フィレンツェ → ジェノバ  294km
7. (5/27) ジェノバ → トリノ   354km
8. (5/30) トリノ → ミラノ   206km

 当時、初の大会にして総合優勝を果たしたルイジ・ガンナ選手(イタリア)のコメントはすべてを物語っています。

 記者「ガンナ選手!総合優勝を果たした気持ちを教えてください!」

 ガンナ選手「ケツが痛い…」

 ガンナ選手はかなりフランクな方だったそうですが、彼のこの一言は名言として歴史に残っています。ちなみに、第1回目のジロの大会には、以下のような“おもしろデータ”が残っています。

第1回ジロ・ディタリアのおもしろデータ

距離:全長2448㎞
平均時速:27.26km/h
スタート:午前3時ごろ
完走者:128人中49人
賞金総額:2万5000イタリア王国リラ
総合優勝賞金:5250イタリア王国リラ(当時、7年間8人家族が養える金額に相当)

早朝から深夜までジロ一色の国営テレビ

60年代のイタリア国営テレビの報道カー(マルコ撮影)60年代のイタリア国営テレビの報道カー(マルコ撮影)

 100年の歴史を持つ大会の人気を維持するために、組織委員会の惜しみない努力があります。とくに大きな役割を果たしているのが、テレビ局との“蜜月関係”です。1968年にジロのテレビ放送が始まって以来、ほぼイタリア国営テレビRAIが放映し続けています。

 そして2010年に迎えた大きな転換期、「RAI SPORT」(国営テレビスポーツ専門チャンネル)の誕生です。「RAI 3」(国営テレビ3チャンネル)に加えて、RAI SPORTにも放映枠が広がりました。2015年に行われた第98回ジロ・ディタリアの1日あたりの放送時間を例に、国営テレビがどれだけ力を入れているかを見てみましょう。

【早朝】「Perle di Sport」(スポーツの真珠) 15分
 6時スタート。RAIアーカイブスから過去のジロ・ディタリアのベストシーンを放映。

【午前】「Giro Mattina」(ジロの朝) 90分
 9時スタート。ジロ・ヴィレッジ、トリビアなど、ノリの良い“おやじサイクリスト”2人組が送る軽いタッチの情報番組。

 内容とだいぶ異なる「Processo alla tappa(ステージ裁判) 2015」の漫画チックなタイトル  ©Raisport 内容とだいぶ異なる「Processo alla tappa(ステージ裁判) 2015」の漫画チックなタイトル ©Raisport

【午後】「Diretta」(生中継)
 14時からスタート。ステージ本編です。先行してRAI SPORTから生中継が始まります。15時からRAI 3にも同時放送。ゴール後、白熱する討論番組「Processo alla Tappa(ステージ裁判)」が始まります。 60~90分の番組ですが、ジャーナリストたちが各チームの監督や選手、またはプロ選手をステージに招き、討論します。日本では考えられない強烈な質問が飛び交います。ドーピング、不正行為、負けた理由を暴く内容で、時によって選手が怒り出すこともあります。

【夕方】「Viaggio nell’Italia del Giro」 (ジロのイタリアへの旅) 30分
 19時スタート。イタリア国営歴史専門チャンネルRAI STORIAにて放送。ジロが訪れる各地域の歴史や文化を探る番組。

【夜】「TGiro」 (ニュース) 30分
 20時スタート。元選手たちが各ステージや、各チーム戦略の分析を行います。内容の濃い専門的な番組です。

【深夜】「Giro Notte」(ジロの夜) 30分
 0時30分にスタート。面白くおかしくジロの魅力を語る、ゆるい番組です。グルメ情報、観光情報、各ステージのアピールポイントを語ります。

【深夜再放送】
 2時スタート。午後にステージを見れなかった人のために再放送を行います。

「Processo alla Tappa(ステージ裁判) 2015」のメンバーたち(左からステファノ・ガルゼッリ元選手、アナウンサーのアレッサンドラ・デ・ステファノ、ジャーナリストのベッペ・コンティ) ©Raisport「Processo alla Tappa(ステージ裁判) 2015」のメンバーたち(左からステファノ・ガルゼッリ元選手、アナウンサーのアレッサンドラ・デ・ステファノ、ジャーナリストのベッペ・コンティ) ©Raisport

 朝から深夜まで、毎日なんと8時間半を超える放映。それが21日間にわたって続きます。ちなみにジロの生中継は「RADIORAI 1」(第1ラジオチャンネル)でも放送されています。さらにもの足りない視聴者のために、RAI国営テレビのウエブサイトでは中継ヘリコプター3機から放映される音声なしの生映像を楽しむことができます。

 RAIの発表によると、2015年のジロの放映時間は通算2200時間となりました。統計会社「REPUCOM」(レピュコム)の調べによれば、イタリア国内だけで毎日750万人がジロを観戦したことになります。イタリア国営テレビは無料ではなく、年間100ユーロ(約1万2500円)の受信料がかかりますが、これぐらいのサービスがあれば国民も当然のこととして喜んで払っています。

選手によるSNSの情報発信でさらに人気上昇

 またレピュコムの調べによれば、インターネットの普及も自転車競技のイメージアップに大きく貢献しているようです。特にソーシャルネットワークの普及で選手たちが自ら声を発信することができるようになり、自転車競技はよりファンに身近な存在になっています。

 さて、次回はジロの開催にかかる「費用」の話題を紹介したいと思います。しばらくの間、付き合ってくださいね。

マルコ・ファヴァロMarco FAVARO(マルコ・ファヴァロ)

東京都在住のサイクリスト。イタリア外務省のサポートの下、イタリアの言語や文化を世界に普及するダンテ・アリギエーリ協会や一般社団法人国際自転車交流協会の理事を務め、サイクルウエアブランド「カペルミュール」のモデルや、欧州プロチームの来日時は通訳も行う。日本国内でのサイクリングイベントも企画している。ウェブサイト「チクリスタインジャッポーネ

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