仲間たちとつかむ“苦痛の先にある栄光”史上最高難度の「ラファ・プレステージ」 四国山地をめぐった獲得標高4000mの冒険

by 福光俊介 / Syunsuke FUKUMITSU
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 急峻な山間部や未舗装路をロードバイクでめぐるライドイベント「Rapha Prestige Kamikatsu(ラファ・プレステージ・カミカツ)」が4月9日、徳島県上勝町で開催された。ラファ・プレステージとして6回目を迎えた今大会は、総走行距離147km、四国山地の4つの山々を越える獲得標高約4000mのコースが設定された。過去に類を見ない難易度との呼び声の高かったコースに、史上最多の33チーム、161人のライダーが挑んだ。

獲得標高約4000mという最高難易度で開かれたライドイベント「ラファ・プレステージ・カミカツ」 ©Rapha Japan獲得標高約4000mという最高難易度で開かれたライドイベント「ラファ・プレステージ・カミカツ」 ©Rapha Japan

未舗装の「剣山スーパー林道」

1チーム5人で走ることがルール ©Rapha Japan1チーム5人で走ることがルール ©Rapha Japan

 ラファ・プレステージは、サイクル用のウェアやアイテムを展開するラファが主催。これまで国内各地で開催され、中四国地域では初めての実施となった。

 このイベントの大きな特徴は、5人1組ではるか先のフィニッシュを目指す点にある。エイドなどのサポートは設けられず、コース内に立哨員が立つこともない。頼りは開催数日前に発表されるルートマップのみ。参加者は配信されたルートデータをサイクルコンピュータに取り込むなどし、本番に備える。コース内には2カ所のチェックポイントがあり、通過証明のスタンプを押してもらうことが完走の条件だ。

チェックポイントで通過証明のスタンプを押す ©Rapha Japanチェックポイントで通過証明のスタンプを押す ©Rapha Japan
道端でタイヤに空気を入れる ©Rapha Japan道端でタイヤに空気を入れる ©Rapha Japan
いくつもの峠がコースに組み込まれた ©Rapha Japanいくつもの峠がコースに組み込まれた ©Rapha Japan

 また、レースとは違いフィニッシュタイムを競うことはない。主催者が設定したスタート時間に従って、数分おきにチーム単位で出発していく。今回は午前6時に第1グループがスタート。その後2分おきに各チームが大冒険へと旅立った。

 徳島県中部・上勝町の月ヶ谷温泉を発着点としたコースは、大川原高原・土須峠・高丸山・美杉峠の、いずれも標高1000m級のヒルクライムが4カ所。さらには、土須峠と美杉峠では「剣山スーパー林道」と呼ばれるグラベル(未舗装)区間が組み込まれた。

チームでまとまって「剣山スーパー林道」を上る ©Rapha Japanチームでまとまって「剣山スーパー林道」を上る ©Rapha Japan
「剣山スーパー林道」を上る ©Rapha Japan「剣山スーパー林道」を上る ©Rapha Japan
未舗装の「剣山スーパー林道」で転倒する参加者も ©Rapha Japan未舗装の「剣山スーパー林道」で転倒する参加者も ©Rapha Japan
未舗装の上りで足をつく参加者たち ©Rapha Japan未舗装の上りで足をつく参加者たち ©Rapha Japan

 4000mに届こうかという獲得標高はもとより、いずれの峠も10%を超える勾配が待ち受け、路面が安定しないグラベル区間に苦しめられるなど、日々鍛えているライダーでも距離を追うにつれて激しい消耗との戦いとなることは必至だった。

 国内外から過去最多の33チームが出場した今大会。イベント史上もっとも過酷と呼ばれたコースを攻略したのは、半数の17チーム。途中、コース内での道路補修工事や、日没による安全確保などのため、若干のルート変更を求められたチームがあったものの、2度のチェックポイントを逃さずに通過し、チームメートを誰1人欠くことなく、朝にスタートした月ヶ谷温泉へと戻ってくることができた。そして、スタンプカードにフィニッシュ時間が記入され、晴れて完走が認められた。完走したライダーたちは、チームメートと抱き合ったり、涙を流しながら、苦しみを乗り越えて走りきった喜びに浸った。

日が沈んでもなお、ゴールを目指す ©Rapha Japan日が沈んでもなお、ゴールを目指す ©Rapha Japan
チェックポイントへたどり着きチームメート同士で抱き合う ©Rapha Japanチェックポイントへたどり着きチームメート同士で抱き合う ©Rapha Japan

路面や景色、人々に魅せられコースを設定

 ラファ・プレステージの起源は、前身の「Gentleman’s Race(ジェントルマンズ・レース)」にさかのぼる。ロードライディングのルーツにあたる自転車黎明期をリスペクトし、アメリカで発祥したものだ。「1チーム5人」「メンバー同士が協力してゴールを目指す」というスタイルや、山岳やグラベルを含む厳しいルート設定は、この頃から続いている。そして、その根底には「Glory Through Suffering(苦痛の先にある栄光)」という、ラファのブランドテーマが存在する。

標高1000m級のヒルクライムが参加者たちを苦しめる ©Rapha Japan標高1000m級のヒルクライムが参加者たちを苦しめる ©Rapha Japan

 「ジェントルマンズ・レース時代から意義は何ひとつ変わっていない」と述べるのは、今大会開催の陣頭指揮にあたったラファ・ジャパンの矢野大介代表。「みんなで力を合わせて、苦しみを乗り越える。その先に待つ喜びを分かち合ってほしい…常にそう思ってやってきた」と続け、充実した表情を浮かべた。

 今大会の実施にあたっては、2015年6月に行われた前回大会(北海道虻田郡ニセコ町)を終えた段階から次の開催地の選定を開始。関係各所からの意見を合わせ、徳島県で実施することを決めたという。

未舗装の上りに悪戦苦闘するライダーたち ©Rapha Japan未舗装の上りに悪戦苦闘するライダーたち ©Rapha Japan

 悪戦苦闘するライダーたちから漏れる「このコースは難しすぎる!」「何であんなにハードなんだ…」といった、文句とも愚痴とも受け取れる発言を笑顔で聞いていたのは、徳島市のバイクショップ「Shiokaze Store」(シオカゼストア)の古川優生代表。「苦しむライダーからの言葉は僕にとって全部褒め言葉ですよ」とニンマリ。今回のコースディレクターを務め、イベントコンセプトにマッチしたルート設計を見事に成功させた。

 コースのチョイスは、「ラファが持つイメージを崩さないことと、徳島県や上勝町の魅力を感じてもらえることを重視した」と古川代表。山・川・海と自然の宝庫である徳島の中でも、上勝町を発着地としたことについては、「ふとした瞬間に『わぁ、綺麗!』『この景色すごいね』と思えるような場所や魅力があったから」と理由を語る。

©Rapha Japan©Rapha Japan
©Rapha Japan©Rapha Japan

 昨夏に自身のショップの5周年を祝したキャンプライドを行ったのが上勝町で、その際にさまざまに切り替わる路面や景色、出会う街の人々に魅せられたことがきっかけだったという。「少しずつあのコースを掘り下げていこう」と思っている中で舞い込んできたのが、ラファ・プレステージの開催決定だった。

海外チームが地元の商店で休憩 ©Rapha Japan海外チームが地元の商店で休憩 ©Rapha Japan

 矢野代表も「通過する山々や周りの木々を確かめたり、街の人からの応援を受けたりと、この地域に溶け込みながら走ることができたのではないか」とコースを評価する。峠の頂上にある食堂で昼食を済ませるチーム、点在する集落の中にある小さな商店に入って給食を調達するライダー、たまたま通りかかった先の民家でボトルに水を入れてもらうライダーなど、日頃のライドとはまったく異なる環境で走るからこそ訪れる瞬間を参加者たちは楽しんだ。

5人のチームメートが話し合う ©Rapha Japan5人のチームメートが話し合う ©Rapha Japan
コース脇から親子が応援 ©Rapha Japanコース脇から親子が応援 ©Rapha Japan

「仲間を連れてまた来たい」

次回以降の完走を誓った「Ease Cafe Cycling Club」四海秀樹さん(左)と北野洋好さん  Photo: Syunsuke FUKUMITSU次回以降の完走を誓った「Ease Cafe Cycling Club」四海秀樹さん(左)と北野洋好さん  Photo: Syunsuke FUKUMITSU

 参加ライダーの言葉にも充実感がこもる。姫路・神戸・大阪から集まったメンバーで出場した「Ease Cafe Cycling Club」は、惜しくも完走こそならなかったものの、「厳しくも綺麗で、心からイベントを堪能させてもらった」と感慨をにじませる。

 チームリーダーの四海秀樹さんは「次回以降は完走できるよう鍛え直したい。とはいっても、ただ走って完走するだけではもったいない。ラファ・プレステージのよさを感じつつ、なおかつ自分のチームの魅力をSNSなどを通じて発信しながらフィニッシュできるようにしたい」と述べる。チームメートの北野洋好さんは、自身が暮らす兵庫県姫路市から上勝町までの距離を挙げ、「橋を渡れば数時間で足を運べる場所。景色や集落を見ながらのライドは楽しいので、仲間を連れてまた来たい」と話した。

©Rapha Japan©Rapha Japan
©Rapha Japan©Rapha Japan

 ラファ・プレステージの楽しみはライドだけにとどまらない。参加チームにはエントリーフィーと合わせ、居住地で作られる地ビールの持参が出走条件とされた。各地から持ち寄せられた地ビールは、“苦痛の先にある栄光”として夜のバーベキュータイムに振る舞われた。ビール瓶を片手に、長い戦いを振り返っての反省会を行うライダーたちや、チームの垣根を越えて交流に花を咲かせる人たちの姿がそこにはあった。

 さらに、SNSを通じて参加ライダー同士の情報共有や、参加者以外でも臨場感が得られるよう、出場者にはハッシュタグ「#raphaprestige」「#RPKamikatsu」を用いてInstagramへの写真投稿が義務付けられ、イベントの魅力や自身の走る姿をアピールすることが求められた。

4月10日には四国初上陸となった「ラファ モバイルサイクリングクラブ」が登場。エスプレッソが振る舞われ、ソーシャルライドも実施された Photo: Syunsuke FUKUMITSU4月10日には四国初上陸となった「ラファ モバイルサイクリングクラブ」が登場。エスプレッソが振る舞われ、ソーシャルライドも実施された Photo: Syunsuke FUKUMITSU

 また、翌4月10日には、日本各地を走り回る「ラファ・モバイルサイクリングクラブ(MCC)」が四国初上陸。ラファ名物でもあるエスプレッソのサービスにはじまり、起伏に富んだ上勝地域を走るソーシャルライドを開催した。特にソーシャルライドは、参加無料であることも相まって、大勢のライダーが集結。スキルや希望する強度に合わせ、5つのグループに分かれて出走した。こちらもシオカゼストアの古川代表がコース設計を行い、参加者から好評を博した。

筆者、奇跡の完走 武器は「土地勘」

 最後に、取材をかねて出走した筆者について少々レポートしたい。

チェックポイントの通過を証明するためのスタンプカード ©Rapha Japanチェックポイントの通過を証明するためのスタンプカード ©Rapha Japan

 2月、徳島に住む筆者のもとにラファから届いたオーダーが「地元メンバーをそろえて出場してほしい」というもの。SNSを通じライド仲間に募集をかけたところ、わずか数時間で出場する5人が決定。メディアチーム「Team East Shikoku」として参加することになった。改めて、徳島のライダーが持つパワーを実感すると同時に、ラファブランドへの注目度、そして同社が開催するイベントへの関心の高まりを目の当たりにした。

 この日のための特別編成のチームだったこともあり、5人が顔を合わせるのは出走当日と、まさにぶっつけ本番。とはいえ、密に連絡を取り合い、意見や情報の交換を行ってきたので、コミュニケーションには問題がない。何より問題だったのは、ここしばらくまともなトレーニングができていなかった筆者の脚である。

さまざまな美しい風景が広がる徳島で「ラファ・プレステージ」が開催された ©Rapha Japanさまざまな美しい風景が広がる徳島で「ラファ・プレステージ」が開催された ©Rapha Japan

 やはりというべきか、何と表現すべきか。上りで筆者がチームの足を引っ張る。すぐに遅れを喫し、仲間が待つ頂上で再合流を繰り返した。

日が傾き始めても、ライダーたちは走り続けた ©Rapha Japan日が傾き始めても、ライダーたちは走り続けた ©Rapha Japan

 それでも、一致団結したときのわれわれは強かった。目指すところはただ1つ、完走のみ。とにかく自分たちの力で完走することだけを考えて走り抜いた。日没のため、終盤のグラベル区間を回避し別のルートへと迂回することになったが、事故なく無事にスタート地点の月ヶ谷温泉へと戻ってきた。

 スタートからフィニッシュまでの走行時間は、12時間34分。制限時間は当初12時間とされていたが、コース難易度や路面状況が考慮され、何とか完走扱いとなった。無意識に仲間の手を握り、熱い抱擁を交わす。そして、自然とこみ上げてくるものがあった。

 何より、われわれの武器となったのは「土地勘」。ローカルチームゆえの強みは、道を把握していた点にあると考えている。あらかじめ、いくつかのポイントと通過時間を設定しておいた。結果的に設定時間通りに進むことはできなかったが、少しでも遅れないよう走ったことが、完走につながったことは間違いない。とはいっても、今回のコースは地元民でも避けるような道ばかりなのだけれども…。

 次回以降の出場を目指すライダーに知っておいてほしいこととしては、固形・ジェル系それぞれ補給食を多めに準備し、脚つり予防のサプリメントも備えておくなど、万全を期して臨む必要がある点だ。加えて、グラベル区間を見越して、最低でも25Cのタイヤを装着しておきたい。どれだけ脚力があろうとも、物理的な準備を怠っていては、完走が難しいことは確かだ。

バナナで補給する参加者 ©Rapha Japanバナナで補給する参加者 ©Rapha Japan
機材トラブルにも自分たちで対応する ©Rapha Japan機材トラブルにも自分たちで対応する ©Rapha Japan

◇         ◇

 今回、参加させてくださった大会関係者、ならびに共に走った出場チームの皆さまには心からお礼を申し上げたい。信頼できる仲間たちと、痛みや苦しみを分かち合いながら走ったからこそ味わえる感動。道は険しくとも耐えに耐え、その先にある栄光をつかんだときの達成感に勝るものは存在しない。それくらい、感動的で誇らしいライドであった。

 そんなラファ・プレステージだが、今年はあと2回の開催が決まっている。女性ライダーを対象とした「Rapha Women’s Prestige(ラファ・ウィメンズ・プレステージ)」が6月11日に石川県金沢市で、上勝町開催に続く2016年2回目のラファ・プレステージが9月10日に栃木県那須地域で開催される。出場チーム募集などはラファ・ジャパンのニュースレターで行われるとのことなので、参加したい方はぜひ登録をしておいてほしい。そして、この記事を読んで、参加意欲が駆り立てられるライダーが1人でも多く現れると、筆者としてもうれしい。

福光俊介福光俊介(ふくみつ・しゅんすけ)

サイクルジャーナリスト。Cyclistで「週刊サイクルワールド」を連載。自転車ロードレース界の“トップスター”を追い続けて十数年、気がつけばテレビやインターネットを介して観戦できるロード、トラック、シクロクロス、MTBをすべてチェックするレースマニアに。2011年、ツール・ド・フランス観戦へ実際に赴いた際の興奮が忘れられず、自身もロードバイク乗りになる。自転車情報のFacebookページ「suke’s cycling world」も充実。

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