はらぺこサイクルキッチン<58>コースの特性や運動強度によって変わる補給食 “燃費がいい身体”を作るポイント
桜の開花宣言とともに、各地でレースが開催され始めました。先日、夫の池田祐樹(トピークエルゴンレーシングチームUSA)も今シーズンの開幕を迎え、レースに参戦してきました。
夫に帯同する際、どんな補給食を用意するか、レース内容・コースの特性・環境などを考慮しながらその都度、打ち合わせを設けて決めています。今季の初戦は「4時間エンデューロ」というマラソン系に分類されるレース。そこで口にした補給は、事前の計画とも、一般的なセオリーとも少し異なる内容でした。ポイントは、距離ではなく「強度」と「燃費」。オフシーズンに積み上げたトレーニングによって「身体の進化」を感じる一戦となりました。今回は様々なシーンで役立つ『補給食』についてお伝えします。
6段階のゾーンに分けられる運動強度
そもそも補給の目的は、水分補給、エネルギー補給、運動によって体から失われる栄養素の補給等を行うことで、フィニッシュするまで力を出し続けること。食べることでリフレッシュしたり、集中力を高めたりする効果もありますね。水分の他に、主にエネルギー源となる「糖質」を補給します。
そして「何を摂るか」を決める目安として、運動強度の高いクロスカントリーレースでは液体物を、マラソンやロングライドでは途中で固形物を食べるというイメージはありませんか? 通常は、強度が高いレースでは消化や摂取のしやすさ、ロングライドでは途中でお腹が空くため、といったことがプランニングのポイントになるかと思います。
走行の強度(ペース)は以下のイラストのように6段階のゾーンに分けられ、補給内容も異なります。
今季初戦で選手全員をラップ
今レースは京都深林公園内、トピークMTBランドで行われた「京都ゆぶね 春よ恋ひTOPEAK4時間エンデューロ」。本来はエンデューロに位置付けられる長時間レースですが、フタを開けてみればなんと無酸素域での追い込みの量・回数がクロカンレースとほぼ変わらない、いやそれ以上?!のハードな内容となりました。ソロで出場し、レース結果は総合1位。コースプロフィールが厳しく、そして目標としていた「選手全員をラップ」を実行するなどかなり追い込んだ結果が「無酸素域中心」につながりました。
それを裏付けるデータがあります。中田尚志コーチ(PCGジャパン)が昨年のモンゴリアバイクチャレンジの第5ステージ(6.4時間)と比較してデータ解析をしてくれました。

グラフを見ると、モンゴルでは主に<エンデュランス>と<テンポ>が中心で、安定したパワーでレース運びをしていたことが伺えます。<無酸素域>で過ごした時間は全体のわずか3%でした。一方、今回の4時間レースの中で過ごした<無酸素域>の割合は14%もありました。<回復域>での時間も多かったことから、強弱がいかに激しかったかがわかります。つまり、通常は1時間半程度のクロスカントリーレースのような展開を4時間続けたようなものです。


336回無酸素運動…固形物は食べず
結果からお伝えすると、補給は固形物ではなく、クロスカントリーと同じように液体で摂取することになったのです。たとえエンデュランスレースであっても、補給食はそのコースの特性や強度によって変えるべきであることが分かりました。(今大会は周回レースで、1周約2.0km。最終的に池田祐樹は4時間で24周回しました)
走行距離は約50kmながら、獲得標高は約2800m。これはSDA in 王滝の100kmレースの獲得標高とほぼ同じです。さらに、1周毎に14回の無酸素域のダッシュを繰り返しているので、24周を掛け算すると合計336回も無酸素ダッシュをした計算になります。


レース当日の夫の食事プランと補給内容、ポイントを時系列でご紹介します。前日は会場近くのホテル(キッチン無し)に宿泊しました。
■朝食の内容
ハード系ブレッド(1.5斤)、バナナ(大1本)、ココナッツオイル、ナチュラル植物性由来のプロテインドリンク(プロテイン含有量30g)
■池田祐樹流・朝食のポイント
・しっかり食べること
・スタートの3時間前までに食べ終えることが理想(消化を終えて、糖質がグリコーゲンとして筋中に蓄えられるまで2〜3時間かかると言われているため)
・食物繊維は少なめに(内臓に負担がかかる、ガスが溜まるため)
・エネルギー源となる糖質をしっかり摂取し(今回はパンが該当)、良質な脂質であるココナッツオイルとプロテインで腹持ちを良くする(レース中にお腹が空かないための対策)。プロテインは肉などの固形物よりもドリンクで摂取した方が、消化にかかる内臓の負担が軽減される。
・レース前の食事は、栄養バランスよりも消化のしやすさ、レース時間と強度に合わせた糖質摂取を重視する。栄養のバランスは、レースが終わってからの食事でOK。
6:30:起床、ホテルの部屋で朝食開始
7:00:朝食終了
8:00:レース会場へ移動
9:30:アミノ酸(BCAA配合)ゼリー1袋を摂取
10:00:レーススタート
■スタート時に持っていた補給食
・ドリンク1本(スポーツ飲料にBCAAを混ぜたもの約350ml)
・ジェルフラスコ1個(ジェル3袋分/123gを一つに)
■レース中の補給
・おおよそ3周(約6km)毎にドリンク(350ml)をフィード
12:00 ジェルフラスコ(3袋分)をフィード
14:00 レース終了
■フィニッシュ直後
リカバリードリンク 400 (ex:160kcal、プロテイン30g…etc)
■レース中に摂取した全補給物
・スポーツ飲料(前半BCAA40g+後半クエン酸10gを混ぜて)/1.5L
・ジェル/6袋(246g)
■用意しておいて摂取しなかったもの
・バー
■レース後30分以内
プロテインドリンク、おこわ、和菓子、バーなど糖質メインで摂取。
■カロリーの収支
朝食〜レース前までの摂取カロリー:約1300kcal
レース中の摂取カロリー :約1200kcal
摂取カロリー合計:約2500kcal
レースで消費したカロリー:約3000〜3200kcal
■重要ポイント
◇筋中のグリコーゲンや脂肪もエネルギー源として活用されます。脂肪をエネルギー源として利用するためには糖質が必要になります。
◇糖質の摂取量が少なくなると、筋肉を分解することでエネルギー作り出します。これが疲労に繋がり、レース後の回復も遅くなります。必要な量はきちんと摂取することが大切です。
その補給は本当に必要?
いかがですか? 「レース中に摂取した全補給物」を見ると、少ないという印象ではないでしょうか。ドリンクは、気温が低かったこともあって、普段よりも少ない量でした。レースは昼食の時間帯をまたいでいましたが、「液体だけでもお腹は空かなかった」とのこと。本人は「コースの特性上、食べられるポイントが限られていた」と説明していますが、“燃費がいい身体”とも言えると思います。

池田祐樹曰く、海外でもマラソンのトップ選手の補給の量は想像以上に少ないそうです。それは「日々の訓練により燃費の良い身体が出来てくる」とのこと。その訓練とは、普段から補給を摂らないということではありません。ポイントは、朝食で練習内容に合った量をしっかり食べること。そして頭で「食べなければ」といった概念をなくし、その補給は本当に必要かどうかを見極めて口にする―ということの繰り返しにあります。



やがて、口にする補給食が徐々に減ってくる=燃費が良くなってくるのだそうです。水分に関しても、多くのライダーが「必要以上に摂取している傾向にある」というのです。以前は「喉の乾きを感じた時にはすでに脱水に近い状態である」ということをよく耳にし、私自身も気を配っていましたが、「乾きを感じてからでも遅くない、むしろそれが飲むべきサインだ」という説も出ています。
無理に補給を減らさずに、本当に必要かどうか、タイミングはベストか、日々のライドで試してみるといいかもしれません。
ご紹介した内容はケーススタディーとして、ライド、エンデュランスレース、そしてクロカンレースに出場する折などに、ご参考になれば幸いです。

アスリートフード研究家。モデル事務所でのマネジャー経験を生かして2013年夏よりトピーク・エルゴンレーシングチームUSA所属ライダー、池田祐樹選手のマネージメントを始め、同年秋に結婚。並行して「アスリートフードマイスター」の資格を取得。アスリートのパフォーマンス向上や減量など、目的に合わせたメニューを日々研究している。ブログ「Sayako’s kitchen」でも情報を発信中。