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福光俊介の「週刊サイクルワールド」<152>レース中の事故と心臓発作で若手が相次ぐ死 選手から安全確保を求める声

by 福光俊介 / Syunsuke FUKUMITSU
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 クラシックシーズンの盛り上がりが一変、サイクルロードレース界は大きな悲しみに包まれている。3月27日のヘント~ウェヴェルヘム(ベルギー、UCIワールドツアー)でアントワーヌ・ドゥモワティエ(ベルギー、ワンティ・グループゴベール)が死去。また、26日に行われたクリテリウム・アンテルナシオナル(フランス、UCI2.HC)第1ステージ後に心臓発作に見舞われたダーン・ミングヘール(ベルギー、ルーベ リール・メトロポール)が、28日に亡くなった。相次いで起きた若手ベルギー人ライダーの悲劇。今回は、2選手の死に関する詳細をお伝えしたい。

ワンティ・グループゴベールは直近3レースを欠場

 ヘント~ウェヴェルヘムでのドゥモワティエの死亡に際し、所属チームのワンティ・グループゴベールは3月28日にプレスカンファレンスを実施。スポーツディレクターのヒレール・ヴァンデルシューレン氏が涙ながらに、記者からの質問に応じた。

レース中の事故で死去したアントワーヌ・ドゥモワティエ(ベルギー、ワンティ・グループゴベール) Photo: Wanty - Groupe Gobertレース中の事故で死去したアントワーヌ・ドゥモワティエ(ベルギー、ワンティ・グループゴベール) Photo: Wanty - Groupe Gobert

 ドゥモワティエはレースで約115kmを残したサント・マリー・カペル(フランス領内)を走行中、他の3選手と絡み落車。立ち上がろうと態勢を整えかけていたところにモーターバイクが誤って追突した。

 このときの状況をヴァンデルシューレン氏は、「一目見て状況が深刻だと分かった。最初は彼が死んだと思った」と打ち明ける。ただ、この段階では医師による迅速な対応があり、かすかな希望を見出してもいたという。

 事故の直前、ドゥモワティエはチーム無線を通じ「ボトルをいくつか用意してほしい」と告げており、「これが彼の最後の言葉だった」とヴァンデルシューレン氏は語る。

 レース終了後、ヴァンデルシューレン氏はドゥモワティエが搬送されたリール大学病院へ向かい、そこでドゥモワティエの家族と面会。非常に深刻な状態であることを確認している。そして、未明にドゥモワティエは息を引き取った。

2016年3月13日のドルフェンオムループ・ルクフェン(オランダ、UCI1.2)で2位に入ったドゥモワティエ(先頭右) Photo: Wanty - Groupe Gobert2016年3月13日のドルフェンオムループ・ルクフェン(オランダ、UCI1.2)で2位に入ったドゥモワティエ(先頭右) Photo: Wanty - Groupe Gobert

 今後のレース出場については、チームスタッフ・選手ともに慎重な姿勢を見せる一方、ドゥモワティエの遺族からは「レース出場を継続してほしい」との要望があったことをヴァンデルシューレン氏は明かしている。しかし、所属選手を代表しプレスカンファレンスに同席したロイ・ヤンス(ベルギー)によれば、「多くの選手がショックで打ちひしがれ、レースに集中などすることができない」とし、選手たちの意思で直近3レースを欠場することを決めた。

 欠場するレースは、3月29~31日のドリーダーフセ・デパンネ~コクサイデ(ベルギー、UCI2.HC)、4月1日のルート・アデリー・ド・ヴィトレ(フランス、UCI1.1)、4月3日のパリ~カマンベール(フランス、UCI1.1)。4月3日開催のツール・デ・フランドル(ベルギー、UCIワールドツアー)には出走する見通しだ。

 また、チームメートであったゲイタン・ビーユ(ベルギー)は、ドゥモワティエの臓器が3人に提供されたことをツイッターで公表している。

接触問題にコンタドール、キッテルらが持論

 状況はそれぞれ異なるとはいえ、昨今のレースにおいてたびたび発生している走行中の選手と大会関係車両との接触。

 昨シーズンでは、ブエルタ・ア・エスパーニャでのペテル・サガン(スロバキア、ティンコフ)、クラシカ・サン・セバスティアンでのフレッヒ・ヴァンアーヴルマート(ベルギー、BMCレーシングチーム)、ヘント~ウェヴェルヘムでのジェス・サージェント(ニュージーランド、当時トレック ファクトリーレーシング、現・アージェードゥーゼール ラモンディアル)などの例が挙げられる。今シーズンも、スティグ・ブルークス(ベルギー、ロット・ソウダル)が、2月28日のクールネ~ブリュッセル~クールネでモーターバイクに接触され落車。鎖骨を骨折する事態に見舞われている

レース中にモーターバイクが転倒することがしばしばある(ツール・ド・フランス2013第19ステージ、2013年7月19日) Photo: Yuzuru SUNADAレース中にモーターバイクが転倒することがしばしばある(ツール・ド・フランス2013第19ステージ、2013年7月19日) Photo: Yuzuru SUNADA

 こうした状況に、アルベルト・コンタドール(スペイン、ティンコフ)が「今こそレース内のモーターバイク台数の規制をすべきだ」とツイッターに投稿。ダニエル・マーティン(アイルランド、エティックス・クイックステップ)、ワレン・バルギル(フランス、チーム ジャイアント・アルペシン)らは、コース内を走行する関係車両の速度を制限するべきだと持論を展開した。

 「(レースの安全性について)より高く、よりよい基準を設定することが必要だ」と述べるのはマルセル・キッテル(ドイツ、エティックス・クイックステップ)。プロサイクリスト協会(CPA: Professional Cyclists Association)のジャンニ・ブーニョ氏も「ライダーの安全性を最優先しなければならない。早急にレース中のセキュリティ向上を図る必要がある」とコメントした。

 ワンティ・グループゴベールの欠場が決定したドリーダーフセ・デパンネ~コクサイデでは、安全確保のためコースを走行するモーターバイクの台数を約25台に制限。カメラバイクが5~6台、警察から1台、大会主催者から2台、コース内の障害物の存在を選手たちに伝えるための安全確保要員を15台と設定。安全規則の遵守を求め、ドライバーには数回にわたるミーティング出席を厳命している。

 レース中の安全性を求める声が加熱する一方で、ワンティ・グループゴベールのプレスオフィサー(広報担当)、ヨセ・ベーン氏は、「あくまでも事故であり、モーターバイクのドライバーを責めるわけにはいかない」と話す。今後、レース関係車両に関して何らかの規則が定められる可能性はあるが、まずはドゥモワティエの死を悼むことを望んでいる。

チーム公式サイトでミングヘールの死去を発表

ダーン・ミングヘール(ベルギー、ルーベ リール・メトロポール) Photo: Roubaix Lille Métropoleダーン・ミングヘール(ベルギー、ルーベ リール・メトロポール) Photo: Roubaix Lille Métropole

 フランスのUCIコンチネンタルチーム「ルーベ リール・メトロポール」は、ミングヘールが3月28日にフランス・コルシカ島に位置するアジャクシオの病院で亡くなったことを発表した。

 ミングヘールは、3月26~27日に同島で開催されたクリテリウム・アンテルナシオナルに出場。第1ステージ途中で変調をきたし、残り25km地点でリタイア。救急搬送される途中で心臓発作を起こした。

 一度ポルト・ヴェッキオの病院に搬送された後、設備の整ったアジャクシオの病院へドクターヘリで移送。集中治療室で人工昏睡状態に置かれ、生命維持装置が装着されていたが、倒れた2日後の28日午後7時8分に妹が見守る中で息を引き取った。

レース後の心臓発作で死去したダーン・ミングヘール(ベルギー、ルーベ リール・メトロポール) Photo: Roubaix Lille Mètropoleレース後の心臓発作で死去したダーン・ミングヘール(ベルギー、ルーベ リール・メトロポール) Photo: Roubaix Lille Mètropole

 ミングヘールはオメガファルマ・クイックステップ傘下の育成チームに所属していたことがあり、昨年は世界選手権アンダー23ロードレースのベルギー代表にも選出(レースでは64位)。同国期待の若手ライダーだった。

 また、ミングヘールの遺志に基づいて、臓器が他者に提供されたこともチームによって明かされている。

 ドゥモワティエは25歳、ミングヘールは22歳だった。若きライダーの死に、家族、友人、チームメートへ心から哀悼の意を表します。

ツール・デ・フランドル展望

 クラシックレースの中でも、とりわけ歴史と伝統を誇る「モニュメント」に位置づけられるツール・デ・フランドルが4月3日に開催される。開催地であるベルギー・フランドル地方では“ロンド・ファン・フラーンデレン”といわれ、サイクルロードレースにおいて最も権威ある大会として選手・ファンのみならず、国民全体が注目するレースだ。

 今年は記念すべき第100回大会となる。ブルッヘからアウデナールデまでの255kmには、急坂18、パヴェ(石畳)7のセクションが設けられているが、急坂セクションの中には路面が石畳となっている箇所も多く、難所が数多く待ち受ける。

 なかでも注目は、コッペンベルグ(210km地点、登坂距離600m、平均勾配11.6%、最大勾配22%)、3回通過するオウデ・クワレモント(103km・200km・238km地点、登坂距離2200m、平均勾配4%、最大勾配11.6%)、2回通過するパテルベルグ(204km・242km地点、登坂距離360m、平均勾配12%、最大勾配20%)の3カ所。

ツール・デ・フランドル2015の終盤、パテルベルグで激しい争いを繰り広げたアレクサンドル・クリストフ(右)とニキ・テルプストラ Photo: Yuzuru SUNADAツール・デ・フランドル2015の終盤、パテルベルグで激しい争いを繰り広げたアレクサンドル・クリストフ(右)とニキ・テルプストラ Photo: Yuzuru SUNADA

 例年、コッペンベルグでメーン集団の絞り込みが本格化する。3回目のオウデ・クワレモント、さらに2回目のパテルベルグで生き残った選手の中から優勝者が出るはずだ。

 2回目のパテルベルグからフィニッシュまでの17kmはおおむねフラットであることから、独走力のある選手が単独で逃げ切るか、あるいは数人の先頭集団によるゴールスプリントで勝負が決まる可能性が高い。今年の北のクラシックの傾向として、力のある選手のアタックをきっかけに、それをチェックできた選手や、カウンターアタックを繰り出した選手たちがそのまま抜け出し、終盤は数人による優勝争いとなる傾向にある。

 レースは、27日のヘント~ウェヴェルヘムを制したペテル・サガン(スロバキア、ティンコフ)を筆頭に、キャリア最後のフランドルとなる見込みのファビアン・カンチェッラーラ(スイス、トレック・セガフレード)、そしてセップ・ヴァンマルク(ベルギー、チーム ロットNL・ユンボ)、フレッヒ・ヴァンアーヴルマート(ベルギー、BMCレーシングチーム)あたりを軸に展開しそうだ。

 25日に行われた“仮想フランドル”E3ハーレルベーケを制したミハウ・クフィアトコフスキー(ポーランド、チーム スカイ)や、エドヴァルド・ボアッソンハーゲン(ノルウェー、ディメンションデータ)といったスピードマンも侮れない。前回覇者アレクサンドル・クリストフ(ノルウェー、チーム カチューシャ)は体調不良でヘント~ウェヴェルヘムを欠場したが、すでに回復しコンディションを整えており、2連覇に挑む。

今週の爆走ライダー-ティシュ・ブノート(ベルギー、ロット・ソウダル)

「爆走ライダー」とは…

1週間のレースの中から、印象的な走りを見せた選手を「爆走ライダー」として大々的に紹介! 優勝した選手以外にも、アシストや逃げなどでインパクトを残した選手を積極的に選んでいきたい。

 昨年のツール・デ・フランドルでは、初出場ながら優勝争いに加わり5位入賞。プロ1年目の快走に“ポスト・トム・ボーネン”と関係者は沸いた。2002年のパリ~ルーベで彗星のごとく現れ、当時最強を誇ったヨハン・ムセウ(ベルギー)と優勝争いを演じたトム・ボーネン(ベルギー、現・エティックス・クイックステップ)同様、21歳での表舞台への登場は、自転車王国ベルギーの英雄となる資質を十分に持ち合わせているというわけだ。

ツール・デ・フランドル2015で5位に入ったティシュ・ブノート Photo: Yuzuru SUNADAツール・デ・フランドル2015で5位に入ったティシュ・ブノート Photo: Yuzuru SUNADA

 ジュニア時代から、狙ったレースは外さない選手と評価されてきた。2013年のリエージュ~バストーニュ~リエージュU23(23歳未満)8位、2014年の世界選手権アンダー23ロード4位。サバイバルレースを生き残るだけでなく、上位を確保できるスプリント力が武器だ。

 いま問われているのは、「勝てる選手であるのかどうか」。確実に好リザルトを得る一方で、勝利にあと一歩手が届かないとの評もあるのが実情だ。昨シーズンは、GPモントリオール5位、パリ~ツール4位。今年は、2月27日のオムループ・ヘット・ニュースブラッド(ベルギー、UCI1.HC)3位、E3ハーレルベーケは7位。プロ2年目で多くを求められるのは酷ではあるが、大きな期待の表れでもある。

 来たるフランドル、パリ~ルーベ、そして今年初挑戦を予定しているアルデンヌクラシックが、今後のキャリアを占う指針となる。

 自転車を離れれば、ベルギー最高学府のゲント大学で経済学を専攻する学生でもある。大学生活は4年目を迎えるが、「自転車も研究もおろそかにしない」が身上。自らを飾らず、何事にも真面目に取り組む姿勢が彼の魅力でもあるのだ。

福光俊介福光俊介(ふくみつ・しゅんすけ)

自転車ロードレース界の“トップスター”を追い続けて十数年、気がつけばテレビやインターネットを介して観戦できるロード、トラック、シクロクロス、MTBをすべてチェックするレースマニアに。2011年、ツール・ド・フランス観戦へ実際に赴いた際の興奮が忘れられず、自身もロードバイク乗りになる。自転車情報のFacebookページ「suke’s cycling world」も充実。本業は「ワイヤーママ徳島版」編集長。

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