title banner

福光俊介の「週刊サイクルワールド」<151>激戦のミラノ~サンレモを総括 “上れるスプリンター”はトレンドから絶対条件へ

by 福光俊介 / Syunsuke FUKUMITSU
  • 一覧

 春のクラシックシーズンの幕開けを告げるミラノ~サンレモが3月19日にイタリアで開催され、約40人がなだれ込むスプリントフィニッシュをアルノー・デマール(フランス、エフデジ)が制した。レース後半に落車トラブルに見舞われながらも見事に持ち直したデマール。今回は、デマールの勝利に表れたレースの傾向を振り返ると同時に、各地で開催されるUCIワールドツアーレースをピックアップし、展望をお届けする。

ミラノ~サンレモ2016表彰式。(左から)ベン・スイフト、アルノー・デマール、ユルヘン・ルーランツ Photo: Yuzuru SUNADAミラノ~サンレモ2016表彰式。(左から)ベン・スイフト、アルノー・デマール、ユルヘン・ルーランツ Photo: Yuzuru SUNADA

3年連続の集団スプリントで決着

 今年の“ラ・プリマヴェーラ(春)”ミラノ~サンレモは、途中で土砂崩落によるコース変更こそあったものの、295km(コース迂回に伴い当初の291kmから延長)というサイクルロードレース界随一のレース距離を誇る同大会らしさは、しっかりと守られた。後半に入りいくつかのアタックは見られたが、各チームがゴールスプリントを意識し、勝負どころとされる2つの丘「チプレッサ」(登坂距離5.6km、平均勾配4.1%、最大勾配9%)、「ポッジオ」(登坂距離3.7km、平均勾配3.7%、最大勾配8%)も落ち着いてクリアした印象だった。

 長丁場の展開を経てのスプリントは、最終局面でのポジショニング、加速のタイミング、フレッシュな脚、勝負強さ、そして運がかみ合ってこそであり、百戦錬磨のトップライダーでも勝敗を分ける差は紙一重だ。今大会は、優勝したデマールがすべてを持ち合わせていたということだろう。もちろん、アンダー23時代に世界王者を経験し、プロ入り後も数多くの勝利を手にしてきた実績と実力があってこそではある。

集団スプリントになったミラノ~サンレモ2016 Photo: Yuzuru SUNADA集団スプリントになったミラノ~サンレモ2016 Photo: Yuzuru SUNADA

 この結果により、ミラノ~サンレモは3年連続で集団スプリントで勝者が決まったことになる。例年、大会前に「レースが決まるのはスプリントか逃げか」が話題となるが、ときに悪天候に見舞われたり、コース変更が行われたりしながらも、スプリンターズクラシックとしての側面が強まっている印象だ。

 その背景として、有力スプリンターの登坂力が年々高まっている点を挙げたい。チプレッサ、ポッジオといった丘をクリアできることはもとより、グランツールを含むステージレースにおいても、平坦ステージでカテゴリー山岳が設定されたり、厳しい丘越えが盛り込まれたりするケースが増えてきた。スプリンターが勝利をつかみ取るためには、難しい上りをメーン集団内でクリアすることが求められる。さらには、スプリンターを支えるアシスト陣も、集団内のポジショニングやペースメークで慎重さが必要となる。

ポッジオを上るアレクサンドル・クリストフ(左)とアルノー・デマール Photo: Yuzuru SUNADAポッジオを上るアレクサンドル・クリストフ(左)とアルノー・デマール Photo: Yuzuru SUNADA

 2014年以降の覇者を見ると、アレクサンドル・クリストフ(ノルウェー、チーム カチューシャ)、ジョン・デゲンコルプ(ドイツ、チーム ジャイアント・アルペシン)、そしてデマールと、いずれも上りに強いスプリンターたちだ。一方で、シーズン当初はミラノ~サンレモへの出場が予定されながらも、3月に入りメンバーから外れることが決まったマルセル・キッテル(ドイツ、エティックス・クイックステップ)のように、爆発的なスプリント力を持ちながらも上りを苦手とするタイプの選手にとっては、コースレイアウトのみならず、ライバルとの勝負という観点でも難しくなりつつあるのが現状だ。

 近年、“上れるスプリンター”とのフレーズがサイクルロードレースシーンを語るうえでのトレンドでもあった。しかし、戦術が多様化し、多くの選手がチャンスをつかむべく攻撃的な走りを見せる最近のレースにあっては、スプリンターの登坂力はトップシーンで勝利を量産するための絶対条件になっている。

王者デマールは“魔法のじゅうたん”も味方にした?

 スプリンターはもちろん、一瞬のアタックを武器とするパンチャーやアタッカーも勝利を夢見るミラノ~サンレモ。毎年多くのドラマが生まれ、主役となった選手たち一人ひとりにまつわるレース後の話題には事欠かない。その中から、王者となったデマールに関する大きな話題をピックアップしたい。

チームメートと勝利を喜び合うアルノー・デマール(奥) Photo: Yuzuru SUNADAチームメートと勝利を喜び合うアルノー・デマール(奥) Photo: Yuzuru SUNADA

 レース後の記者会見で「クラッシュ直後はリタイアするつもりだった」と振り返った、チプレッサ手前での集団落車。多くの有力選手が巻き込まれ、デマールもその1人だった。ウィリアム・ボネ、マチュー・ラダニュス、ケヴィン・レザ(いずれもフランス)が決死のアシストでデマールを集団復帰させ、優勝へのお膳立てをしてみせた。

 一方で、デマールはメーン集団への復帰にあたり、“魔法のじゅうたん”を使っていたと、ライバルチームから指摘されている。“魔法のじゅうたん”とは、チームカーにつかまり、前を行く集団へのブリッジを図るもの。昨年のブエルタ・ア・エスパーニャ第2ステージで、大規模クラッシュに巻き込まれたヴィンチェンツォ・ニバリ(イタリア、アスタナ プロチーム)がメーン集団に戻るために決行し、レース後に失格が言い渡された一件、といえばお分かりの方も多いだろう。

 マッテーオ・トザット(イタリア、ティンコフ)によれば、「デマールはチームカーにつかまり、チプレッサを時速80kmで上っていた」と証言。トザットとともに走っていたエロス・カペッキ(イタリア、アスタナ プロチーム)も同様の証言をしており、沿道で観戦していたファンが撮影したスマートフォン動画にもそのシーンが収められている。

 UCI規定にのっとれば、レース関係車両による直接的な助力は失格の対象となるが、コミッセール(レース審判)の目が届かないところで起きていたケースのため、証拠がないとの判断からデマールはお咎めなしとなっている。

報道陣に優勝トロフィーをアピールするアルノー・デマール Photo: Yuzuru SUNADA報道陣に優勝トロフィーをアピールするアルノー・デマール Photo: Yuzuru SUNADA

 当のデマールは、「ルール違反を犯していれば失格になるはずだ。私は問題を起こしていないし、失格になるはずがない」とコメント。また、チームカーを運転していたスポーツディレクターのフレドリック・ゲドン氏も「そこまで言われるなら、デマールのレース時パワーデータを公開しても構わない」と強気の姿勢を見せる。

 ちなみに、ライドデータをオンライン上で保存、共有できるウェブサービス「Strava(ストラヴァ)」に公開された記録によれば、チプレッサをトップタイムで上ったのはデマールだったとか・・・。

カタルーニャ一周、北のクラシック前半戦展望

 ここからはスペインで開幕したステージレースと、ベルギー、フランドル地方で開催される北のクラシック前半戦に目を向けていきたい。

■ボルタ・シクリスタ・ア・カタルーニャ/カタルーニャ一周(スペイン、3月21~27日、UCIワールドツアー)

 3月上旬から中旬にかけてのパリ~ニース(フランス)、ティレーノ~アドリアティコ(イタリア)に続き、スペインでもUCIワールドツアーのレースがスタート。すでに3月21日に開幕しており、第1ステージ(175.8km)ではナセル・ブアニ(フランス、コフィディス ソリュシオンクレディ)が優勝。リーダージャージに袖を通している。

 総合争いは、標高1725mの1級山岳ラ・モリーナを上る第3ステージ(172.1km)、超級山岳ポルト・アイネの頂上フィニッシュとなる第4ステージ(172.2km)が大きなウエイトを占める。ただし、大雪の影響が指摘され、コースの短縮やレースキャンセルの可能性も取り沙汰されている。

 今大会は、“仮想ツール・ド・フランス”とばかりにビッグネームが大挙して参戦。クリストファー・フルーム(イギリス、チーム スカイ)、ナイロアレクサンデル・キンタナ(コロンビア、モビスター チーム)、アルベルト・コンタドール(スペイン、ティンコフ)、ファビオ・アール(イタリア、アスタナ プロチーム)、リッチー・ポート(オーストラリア、BMCレーシングチーム)らが、早くも真剣勝負を繰り広げることだろう。

■ドワーズ・ドアー・フラーンデレン(ベルギー、3月23日、UCI1.HC、199.7km)

 ベルギーの首都・ブリュッセルの空港と地下鉄で3月22日に発生した爆発により、大会の中止が懸念されたなか、「事件には屈しない」との姿勢を明確にし、開催を決定した。

 大会名は、ベルギー北部・フランドル地方の公用語であるフラマン語で「フランドル横断」を意味し、コースはおおむね同地方を東西に走る。UCIワールドツアーではないものの、ツール・デ・フランドルなどと主催者が同じで、その後のビッグレースに向けた調整として臨む選手が多い。今回はパヴェ(石畳)、急坂合わせて15のセクションが待ち受ける。

 日本人選手では、別府史之(トレック・セガフレード)の出場が発表されている。

■E3 ハーレルベーク(ベルギー、3月25日、UCIワールドツアー、206km)

E3 ハーレルベークの難所オウデ・クワレモントを上る前回優勝者のゲラント・トーマス(2015年3月27日) Photo: Yuzuru SUNADAE3 ハーレルベークの難所オウデ・クワレモントを上る前回優勝者のゲラント・トーマス(2015年3月27日) Photo: Yuzuru SUNADA

 古くから「仮想フランドル」と呼ばれるほど、ツール・デ・フランドルと関係が深い大会。実際に同レースをダブル優勝した選手も多い。石畳を含む15の急坂セクションが設定されており、フィニッシュまで残り約46kmからのカぺルベルグ(登坂距離900m、平均勾配4%)、パテルベルグ(700m、12%)、オウデ・クワレモント(2200m、4.2%)、カルネメルクベーク(1530m、4.9%)でのメーン集団の動きに注目。そして、ラスト20kmで迎えるティエゲンベルグ(1000m、6.5km)で決定的なアタックが生まれる可能性が高い。

 優勝候補には、ファビアン・カンチェッラーラ(スイス、トレック・セガフレード)、フレッヒ・ヴァンアーヴルマート(ベルギー、BMCレーシングチーム)、ペテル・サガン(スロバキア、ティンコフ)らが挙げられている。

■ヘント~ウェヴェルヘム(ベルギー、3月27日、UCIワールドツアー、242.8km)

強風と雨に見舞われた2015年のヘント~ウェヴェルヘム(2015年3月29日) Photo: Yuzuru SUNADA強風と雨に見舞われた2015年のヘント~ウェヴェルヘム(2015年3月29日) Photo: Yuzuru SUNADA

 主催はドワーズ・ドアー・フラーンデレンと同じ。北のクラシックの1つに数えられるが、「スプリンターズクラシック」の側面も大きく、多くのスプリンターがシーズン前半の目標に据える。最大勾配24%、続く下りもテクニカルなケンメルベルグを2回通過。同じく難所のモンテベルグは前回までの2回から1回通過に減るが、有力選手・チームにとっては重要なポイントになる。終盤は強風に見舞われる可能性が高く、それを利用した集団分断を図るチームが現れることだろう。

 優勝争いはデマールやサガン、クリストフのほか、初出場のフェルナンド・ガヴィリア(コロンビア、エティックス・クイックステップ)らが中心。昨年のように数人が逃げ切るケースも考えられ、各チームの思惑がどう働くかも見ものだ。

今週の爆走ライダー-ユルヘン・ルーランツ(ベルギー、ロット・ソウダル)

「爆走ライダー」とは…

1週間のレースの中から、印象的な走りを見せた選手を「爆走ライダー」として大々的に紹介! 優勝した選手以外にも、アシストや逃げなどでインパクトを残した選手を積極的に選んでいきたい。

 ラスト50mで一度は優勝を確信した。スプリント勝負となったミラノ~サンレモの最終局面。他選手の落車で混乱したプロトンから真っ先に飛び出すと、後続との差を一気に広げた。勝利の可能性が大きくなり、どんなポーズでフィニッシュラインを駆け抜けようかと考え始めていた。

 だが、最後の最後に優勝したデマールと2位のベン・スイフト(イギリス、チーム スカイ)にかわされてしまった。「残念ながら、僕より強い選手が2人いたということだね」。

ミラノ~サンレモの表彰台を喜んだユルヘン・ルーランツ Photo: Yuzuru SUNADAミラノ~サンレモの表彰台を喜んだユルヘン・ルーランツ Photo: Yuzuru SUNADA

 それでも、2013年のツール・デ・フランドル3位に続くビッグクラシックの表彰台を素直に喜ぶ。表彰式直後には「失望と満足感の間で揺れ動いている」と打ち明けたが、すぐに「きっと夜にはうれしい気持ちになっていると思うよ」と笑った。何より、スプリントの発射台を務めたイェンス・デビュッシュール(ベルギー)との連携が上手くいき、内容の濃いレースができたことに収穫を見出した。

 得意の北のクラシックが始まろうとしている。いまやトップ10入りは当たり前。レース展開次第では優勝だって夢ではないところまでやってきた。サンレモでかすかに抱いた失望を晴らすべく、地元ベルギーで“本番”に臨む。

福光俊介福光俊介(ふくみつ・しゅんすけ)

自転車ロードレース界の“トップスター”を追い続けて十数年、気がつけばテレビやインターネットを介して観戦できるロード、トラック、シクロクロス、MTBをすべてチェックするレースマニアに。2011年、ツール・ド・フランス観戦へ実際に赴いた際の興奮が忘れられず、自身もロードバイク乗りになる。自転車情報のFacebookページ「suke’s cycling world」も充実。本業は「ワイヤーママ徳島版」編集長。

関連記事

この記事のタグ

UCIワールドツアー 週刊サイクルワールド

  • 一覧

新着ニュース

もっと見る

ピックアップ

e-BIKE最新特集

スペシャル

自転車協会バナー

ソーシャルランキング

インプレッション

インプレッション一覧へ

連載