方程式では作れないスチールフレームの魅力「スピードヴァーゲン」ホワイト氏×「ケルビム」今野氏 日米のカリスマビルダーが対談

by 後藤恭子 / Kyoko GOTO
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 米国のハンドメードバイクブランド「Speedvagen」(スピードヴァーゲン)を創設したサッシャ・ホワイト氏と、日本のハンドメードブランド「CHERUBIM」(ケルビム) の今野真一代表によるトークイベントが3月18日、東京・千駄ヶ谷のラファ サイクルクラブ東京で開かれ、日米を代表するカリスマフレームビルダーが、その設計思想や、スチールにこだわる理由を語り合った。

左からケルビムの今野真一代表、ラファ・ジャパンの矢野大介代表、サッシャ・ホワイト氏 =東京・千駄ヶ谷のラファ・サイクルクラブ東京 Photo: Kyoko GOTO左からケルビムの今野真一代表、ラファ・ジャパンの矢野大介代表、サッシャ・ホワイト氏 =東京・千駄ヶ谷のラファ・サイクルクラブ東京 Photo: Kyoko GOTO

オーダーを簡易化した「スピードヴァーゲン」

サッシャ・ホワイト氏 Photo: Kyoko GOTOサッシャ・ホワイト氏 Photo: Kyoko GOTO

 トークイベントは、ホワイト氏が来日し、カスタマーと対話してオーダーを受け付ける「スピードヴァーゲン フィッティングツアー」のオープニングパーティーとして催された。

 ホワイト氏は1999年に米国オレゴン州ポートランドを本拠地とするフレーム工房「Vanilla Workshop」(ヴァニラ ワークショップ)を創業した。自転車が文化やライフスタイルとして浸透しているポートランドで、ハンドメードビルダーとしてのホワイト氏の評判は瞬く間に広がり、数年のうちに注文が殺到。外国からも問い合わせが寄せられ、納期は1年、3年と延び、現在では6年に達するほどの人気を博している。

サッシャ・ホワイト氏が手がけるスピードヴァーゲンのバイク Photo: Kyoko GOTOサッシャ・ホワイト氏が手がけるスピードヴァーゲンのバイク Photo: Kyoko GOTO

 しかし、一方で希少価値が高まり、中にはコレクターアイテムとして“飾られる自転車”となってしまっているバイクが存在することに「心が痛むようになった」というホワイト氏。工場での大量生産の道も考えたが、「生産量を上げるためだけなら、ヴァニラのハンドメイドのクオリティを犠牲にするほどの価値はない」と判断し、ヴァニラの別ブランドとして、ハンドビルドはそのままにオーダーシステムを簡易化した「スピードヴァーゲン」を2006年に立ち上げた。

異形チューブを柔軟に取り入れる最新のスピードヴァーゲン。加工のしやすさもスチールの進化 Photo: Kyoko GOTO異形チューブを柔軟に取り入れる最新のスピードヴァーゲン。加工のしやすさもスチールの進化 Photo: Kyoko GOTO
ヤグラが上下するシートポスト。トータルデザインを大事にするスピードヴァーゲンのこだわり Photo: Kyoko GOTOヤグラが上下するシートポスト。トータルデザインを大事にするスピードヴァーゲンのこだわり Photo: Kyoko GOTO
ブレーキ取り付け時に発生する傷からフレームの塗装を保護するステンレスワッシャー Photo: Kyoko GOTOブレーキ取り付け時に発生する傷からフレームの塗装を保護するステンレスワッシャー Photo: Kyoko GOTO

 そのオーダーを店外で行えるフィッティングツアーを、2015年にロサンゼルス、サンフランシスコ、オーストラリアで展開し、最近では台湾でも開催。そして今回来日し、ラファ サイクルクラブ東京を拠点に3月24日までフィッティングを実施している。

フィッティングの方法について実演を交えながら説明するホワイト氏 Photo: Kyoko GOTOフィッティングの方法について実演を交えながら説明するホワイト氏 Photo: Kyoko GOTO

 ホワイト氏は、「スピードヴァーゲンには各サイズのストックフレームがあり、(現物を用いて)物理的なフィッティングができる。ポートランド在住の人は工房を訪れることもできるが、多くの人は直接フィッティングができないので、このようなフィッティングツアーで最大限の体験ができる機会を提供したい」と語り、「興味がある人は話を聞きに来てほしい」と呼びかけた。

日本でも広まってきたハンドメード

今野真一氏 Photo: Kyoko GOTO今野真一氏 Photo: Kyoko GOTO

 ゲストとして招かれたケルビムの今野代表は、1965年の創業から50年以上にわたってオーダーメード自転車を手掛けてきた今野製作所の二代目。北米で開催されるハンドメードバイクショー「NAHBS」(ナーブス)にも2009年に日本からいち早く出展し、初出場で2つの賞を獲得するなど、世界的に評価の高いフレームビルダーだ。

 7年前のNAHBS出展当時を振り返り、「日本と違い米国では自分でバイクを作ってる人も多いと聞き、そんなはずはないと思っていたが、それが事実だったので、かなり衝撃を受けた」と語る今野氏。会場では自転車を作る治具や材料なども販売され、日本では考えられない状況だったが、「近い将来、日本もそうなると思っていた」という。

 ハンドメードバイクをめぐる近年の国内の変化について、「日本には競輪の文化もあり、米国とは逆にフレームビルドの歴史は古いが、若いカルチャーとして遅れていた部分が米国に追いついてきたと思っている」との見方を示した。

ケルビムの「スーパーレッジェーラ」。ステンレスのフレームにカーボンのフォーク、シートステイにはクロモリを使用 Photo: Kyoko GOTOケルビムの「スーパーレッジェーラ」。ステンレスのフレームにカーボンのフォーク、シートステイにはクロモリを使用 Photo: Kyoko GOTO

スチールに注ぎ込まれる職人技

 ハンドメードフレームの人気が高まる一方、今野氏は自身がホワイト氏と「同じ悩みにぶちあたっている」という印象を受けたという。それは生産性の問題だ。

 今野氏によると、カーボンやアルミのバイクフレームは工場で量産しており、熟練工でなくても一定の水準の製品ができる。一方でスチールフレームは、材質の違い、形状の違いによって乗り味が大きく変わることから、フレームのジオメトリーやチューブの組み合わせで乗り手が求める乗り味を実現できる。それらを1つ1つ作り出していく仕事がフレームビルダーには求められるという。

目立たずに主張するケルビムのデカール。今野氏が海外で気づいた「日本的なデザイン」 Photo: Kyoko GOTO目立たずに主張するケルビムのデカール。今野氏が海外で気づいた「日本的なデザイン」 Photo: Kyoko GOTO
英レイノルズ社と共同開発したステンレスチューブ「953」 Photo: Kyoko GOTO英レイノルズ社と共同開発したステンレスチューブ「953」 Photo: Kyoko GOTO

 「本当に身体にフィットする自転車を作るため、乗り手の自転車に対する価値観まで加味する」というホワイト氏に対し、今野氏も「フレームは方程式では作れない」と持論を展開。「ダウンチューブひとつ変えただけでも乗り味が変わる。ビルダーの目と経験と知識、そして乗り手とのコミュニケーションがあって初めてバイクが完成する」と強調し、「カーボンフレームもアルミも良いと思うが、やはりわれわれにとっては“スチール自転車が最高の自転車”。そこにこだわると、それなりの職人でなければ納得のいく精度ものは作れない」と、ビルダーの技量の重要性を訴えた。

 また、そうした実情を踏まえた上で「ヴァニラ」と「スピードヴァーゲン」という2つのブランドですみわけをしているホワイト氏の手法について、「ユーザーにわかりやすい提案をしている点は見習うべきこと」と評価した。

ハンドメードバイクを新たな選択肢に

会場には多くのファンが詰め掛け、3人のトークに熱心に耳を傾けた Photo: Kyoko GOTO会場には多くのファンが詰め掛け、3人のトークに熱心に耳を傾けた Photo: Kyoko GOTO

 ホワイト氏と今野氏が初めて出会ったのも、やはりNAHBSだ。ホワイト氏は当時、今野氏が作った自転車を見て、「すごく情熱をもって1台ずつ作っていると感じた」という。

 「今野さんのような高い技術力をもっている人に会えると、それが新たなモチベーションになり、もっと良いものを作りたいという気持ちになる」とホワイト氏。「もちろん生産数も重要だが、何よりも自転車が乗る人にとってどれほど大事なものかをわかって作っている、そして同じ考え方を共有できる人と時間をシェアできるのはすごく幸せなこと」とトークイベントの開催に感謝を述べた。

サッシャ・ホワイト氏と今野真一氏 Photo: Kyoko GOTOサッシャ・ホワイト氏と今野真一氏 Photo: Kyoko GOTO

 今回のトークイベントを企画し、2人の通訳を担ったラファ・ジャパンの矢野大介代表は、「世界のハンドメードバイクに関するトークイベントを開催したいとずっと思っていた。このような機会は本当に貴重だと思う。これを機に、また一つ自転車の世界が広がったと感じてくれたらうれしい」としめくくった。

■スピードヴァーゲン フィッティングツアー in Japan
開催日時:2016年3月19日~24日
予約方法:Eメールで申し込む eventsjapan@rapha.cc
場所:ラファ サイクルクラブ東京
 〒151-0051 東京都渋谷区千駄ヶ谷3-1-6 コモンガーデン原宿北参道 1F
※店舗ウェブページ:http://pages.rapha.cc/ja/clubs-ja/tokyo

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