イベントレポート“小さな村の大きなイベント” 人口を上回るサイクリストが集った「ヒルクライム大台ヶ原」の舞台裏

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美しい日本百名山を駆け上る

 奈良県の東南地域に位置し、東に日本百名山「大台ヶ原」、西に世界遺産「大峯奥駈道」を有する吉野郡上北山村。大自然に抱かれ、総面積の97%を森林が占める村では過疎化が進み、人口は約640人にまで減少している。「このちっちゃな村を何とかしたい」と11年前に始まった自転車大会が、今年も9月8、9日に開催され、村に賑わいと活気をもたらした。村民の数を上回るサイクリストたちが集った「ヒルクライム大台ヶ原」。静かな山村は色とりどりのサイクルウェアで彩られ、「頑張って!」の歓声が飛び交った。

(レポート:ヒルクライム大台ヶ原事務局)

笑顔で走る選手たち笑顔で走る選手たち

 「ヒルクライム大台ヶ原」のコースは、距離約28km、標高差1240m。県道と林道を経て大台ヶ原に向かう傾斜のきつい難コースで、選手たちは荒い息を吐きながら腰を左右に揺らして厳しい上り坂を進む。平成13年から毎年開催され、今年は第11回目の大会が無事に終了した。
【MOCOのガールズトーク】大台ヶ原はおとぎの国 魔法の言葉に包まれたヒルクライム大会

「大台ヶ原は奈良県です!」

日本百名山「大台ヶ原」の雄大な景色を望むヒルクライムのコース日本百名山「大台ヶ原」の雄大な景色を望むヒルクライムのコース
前夜祭のトークショーにゲストとして出演した三浦恭資さん(右)とMOCOさん(中央)前夜祭のトークショーにゲストとして出演した三浦恭資さん(右)とMOCOさん(中央)

 「ここは三重県ですか、和歌山県になるんですか?」

 十数年前、大台ヶ原ビジターセンターに勤めている福嶋啓一さんは、日本百名山の大台ヶ原を訪れる観光客に何度もたずねられ、じわじわと不安を感じていた。大台ヶ原は上北山村に位置するのだが、村の存在は、世間にほとんど知られていないのだ。

 「このままでは村が危ない。何かしないといけない」。そう感じていた頃、目の前をスポーツサイクルが通った。「あっ」と思い、話しかけると、趣味でよく走っているとのこと。ちょうどその頃、プロロードレーサー・三浦恭資氏のオリンピック壮行会があった。三浦氏の夫人は、上北山村出身。無理を承知で話してみると、快く協力してくださることになり、それから自転車レース開催の企画がトントン拍子で進んでいった。

 「ヒルクライム大台ヶ原」を始めた当初は定員を300人としていたが、予想をはるかに超える応募が集まり、北は北海道、南は九州、また香港からも参加があった。韓国から、同様の大会を開催したいと視察団も来日した。その後も参加者は増大し、今年は定員の600人を超え、村の人口をも上回る691人の選手がエントリーした。大会は「小さな村の大きなイベント」として、これまで何度も新聞、テレビ、雑誌などで紹介されている。

人と村の温かさ

村は色とりどりのサイクルウェアで彩られた村は色とりどりのサイクルウェアで彩られた

 大会の主役はレースの参加者たち。そして脇役を固めるのが上北山村の人々だ。この村で暮らす住民や、この村に縁のある人たちが、ボランティアとして手弁当でレースの準備や運営にたずさわる。手づくり運営の理由は、もちろんお金がないからではあるが、それに加えて「自分たちの力で成功させよう!」という意気込みも相当なものだ。

 大会前には、ああでもない、こうでもないと連日会議を重ね、前日までコース上の小石除去やパトロールが行われ、村民が役割分担し、村がひとつになる。

 レースでは、中間地点の辻堂山林道の分岐点で、村のおじいちゃん・おばあちゃんたちが待ち構える。選手にとって一番しんどい地点だ。手づくりの横断幕を掲げ、太鼓をたたき、うちわで選手の士気を上げる。「あとちょっと!そらっ!がんばれ!」と背中を仰ぐ。遠くから太鼓の音が聞こえてくると「ああ、もう少しで半分だ。」と背中を押される選手もいるのだそうだ。

選手たちを応援する村の方たち選手たちを応援する村の方たち
手書きの文字で応援メッセージが記された横断幕手書きの文字で応援メッセージが記された横断幕

 一方で、選手の応援に訪れている家族や友人に「まあ一杯どうぞ。おにぎり食べていき」と勧めるおじいちゃんも。日常を離れた大自然の中でいただくお茶は美味しく、田舎のあたたかさを再発見できる瞬間だ。

 自転車レースのことを詳しく知らない人がイベントを切り盛りしているとはいえ、あちらこちらに気配りが行き届いている。選手たちからは「帰り道まで応援してくれたり、自転車にも毛布をかぶせてくれるようなイベントは少ない」などと感謝の声が聞かれる。

 そのような声を聴き、村のおじいちゃん・おばあちゃんは来年も応援しようと心に決める。イベントを通じて、人や地域が本来持っている力が引き出され、活性化する良い循環が生まれている。

「やってみたらええ」

前夜祭にて挨拶をする福嶋啓一さん前夜祭にて挨拶をする福嶋啓一さん

 ここ上北山村では、「年寄りの世話も子どもの世話も自分たちで手がけ、地域を盛り上げていこう」という目的で、平成12年に「ワーク21」というボランティア団体が結成された。現在、会員は48名。この団体の会長でもある福嶋啓一さんは、「やる気と思いやりがあれば何でもできる」と断言する。どんな小さな意見にも、「やってみたらええんちゃうか!」と協力的な姿勢をみせる福嶋さんの周りには、自然とたくさんの人が集まる。

 「ヒルクライム大台ヶ原」も11回目を迎えると、課題も見えてきた。大会に関わる方たちの年齢が幅広くなってきて、温度差が出る場面もしばしば。全員の気持ちを考えて動くのはとても難しい。村のリーダー役でもある福嶋さんは、「“啓一さんがやるなら、やろうか”と思ってもらえるように努めたい」と、はきはきした口調で責任感を示した。

◇            ◇

 参加者は年々増えているものの、「ヒルクライム大台ヶ原」の認知度はまだ高いとは言えない。大会の当初の目的である「この小さな村を知っていただく」ために、より多くの方たちに訪れてもらい、上北山村の魅力を感じてほしいー。村の誰もが、そう願っている。 
「ヒルクライム大台ヶ原」公式ホームページ


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