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福光俊介の「週刊サイクルワールド」<150>パリ~ニース、ティレーノ~アドリアティコを総括 ミラノ~サンレモの戦いを占う

by 福光俊介 / Syunsuke FUKUMITSU
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 2016年のUCI(国際自転車競技連合)ワールドツアー第2戦「パリ~ニース」(フランス)が3月13日に、同第3戦の「ティレーノ~アドリアティコ」(イタリア)も3月15日に閉幕した。ともに現地の悪天候による山岳ステージキャンセルが総合成績の行方を大きく左右し、また3月19日に控えるクラシックレース「ミラノ~サンレモ」前哨戦の様相が色濃くなった。今回は両レースを総括し、そこからミラノ~サンレモの戦いを占う。

パリ~ニース総合優勝のゲラント・トーマス(左)、ティレーノ~アドリアティコ総合優勝のフレッヒ・ヴァンアーヴルマート Photo: Yuzuru SUNADAパリ~ニース総合優勝のゲラント・トーマス(左)、ティレーノ~アドリアティコ総合優勝のフレッヒ・ヴァンアーヴルマート Photo: Yuzuru SUNADA

トーマスはステージレーサーとしての実力を確信

 3月6~13日まで開催された“太陽へ向かうレース”パリ~ニースは、最終第7ステージまで総合争いがもつれ込む大接戦に。マイヨジョーヌのゲラント・トーマス(イギリス、チーム スカイ)に対し、総合タイム15秒差につけていたアルベルト・コンタドール(スペイン、ティンコフ)が激しい攻撃を繰り広げた。最後の山岳・エズ峠の上りでコンタドールが見せた再三のアタックと、フィニッシュへ向かう下りでのトーマスの猛追は、今大会のハイライトでもあった。

パリ~ニースで総合優勝を飾ったゲラント・トーマス(右)と、総合2位のアルベルト・コンタドール =2016年3月13日 Photo: Yuzuru SUNADAパリ~ニースで総合優勝を飾ったゲラント・トーマス(右)と、総合2位のアルベルト・コンタドール =2016年3月13日 Photo: Yuzuru SUNADA

 トーマスはコンタドールとの総合タイム差4秒という僅差で総合優勝を飾り、UCIワールドツアーではステージレース初制覇。これまで何度もリーダージャージを着用しながら、終盤のステージで逆転を許すことが多かったが、今回はセルヒオルイス・エナオ(コロンビア)の好アシストもあり、苦しみながらもまとめてみせた。

 コンタドールや、昨年までのチームメートであるリッチー・ポート(オーストラリア、BMCレーシングチーム)を破っての勝利に、「世界最高のステージレーサーと勝負できるレベルにあることが確認できた」と自身の可能性を確信した様子。定評ある平地での牽引力や独走力に加え、緩急問わず登板力が安定したことで、この後に控えるクラシックレースでも活躍が期待される。次のターゲットとなるミラノ~サンレモ、そしてツール・デ・フランドル(4月3日)では優勝候補に名乗りを挙げる。

コンタドールは敗戦にもさばさば

 トーマスとの争いに敗れたコンタドール。今年をキャリア最終シーズンに位置づけ、7月のツール・ド・フランス王座奪還に向け、過去2度総合優勝を果たしている愛称のよいパリ~ニースをシーズン序盤のヤマ場に据えた。結果として、プロローグの個人タイムトライアル(6.1km)でトーマスに対し9秒遅れたことが、後々に響いた感がある。

ゴール勝負で3位に沈んだアルベルト・コンタドール(パリ~ニース2016第6ステージ、2016年3月12日) Photo: Yuzuru SUNADAゴール勝負で3位に沈んだアルベルト・コンタドール(パリ~ニース2016第6ステージ、2016年3月12日) Photo: Yuzuru SUNADA

 ラ・マドーヌ・デュテルの頂上を目指した第6ステージでは、たびたび攻撃を仕掛けたものの、イルヌール・ザカリン(ロシア、チーム カチューシャ)とトーマスとのゴール勝負に屈し3位。続く最終の第7ステージでもアタックを見せるも、総合での逆転は成らなかった。

 かつては決定的なアタックで勝利を手繰り寄せてきたコンタドールだが、今回の一連の攻撃が実らなかった点を、年齢などからくる衰えと捉えるべきか、ツールを念頭に置いて調整途上にあると見るかは難しいところだ。今大会に関しては、総合系ライダーがポイントとしていた第3ステージが、雪によってキャンセルされたことも影響しているだろう。

 当の本人は、残り60kmからレースを動かし、エズ峠の上りで再度のアタックを見せた第7ステージについて、「完璧にプラン通りのレースだった」と振り返り、トーマス擁するスカイ勢の強さを素直に認めた。また、ラファウ・マイカ(ポーランド)、ロベルト・キセルロウスキー(クロアチア)、ユーリ・トロフィモフ(ロシア)といった力のあるアシストとのコンビネーションにも満足している様子だ。

 コンタドール自身のコンディションと戦いぶりから、次戦のボルタ・シクリスタ・ア・カタルーニャ(スペイン、3月21~27日)も注目される。そこでは、クリストファー・フルーム(イギリス)やトーマスのスカイ勢、ナイロアレクサンデル・キンタナ(コロンビア、モビスター チーム)、ファビオ・アール(イタリア、アスタナ プロチーム)といったツール覇権争いのライバルたちとのマッチアップが待ち受けている。

マシューズは「上れるスプリンター」に磨き

 ポイント賞のマイヨヴェール争いで2位コンタドールに30点もの差をつけて“圧勝”したマイケル・マシューズ(オーストラリア、オリカ・グリーンエッジ)。第4ステージを制したナセル・ブアニ(フランス、コフィディス ソリュシオンクレディ)、アレクサンドル・クリストフ(ノルウェー、チーム カチューシャ)といったスプリントのライバルが途中で大会を去ったことを差し引いても、7ステージのうち5回トップ5入りしたあたりは見事だ。

第5ステージまで全てトップ5入りしたマイケル・マシューズ(パリ~ニース2016第5ステージ、2016年3月11日) Photo: Yuzuru SUNADA第5ステージまで全てトップ5入りしたマイケル・マシューズ(パリ~ニース2016第5ステージ、2016年3月11日) Photo: Yuzuru SUNADA

 マシューズにとって、パリ~ニースは今シーズン初戦。他選手と比べゆっくりとしたシーズンインだが、しっかりとトレーニングを積み、エンジン全開のスタートを切った。プロローグで獲得した総合首位のマイヨジョーヌを第5ステージまで守り続けた背景には、厳しいカテゴリー山岳もしっかりとクリアしたことが挙げられる。「上れるスプリンター」としての走りに磨きがかかり、いよいよ狙うはミラノ~サンレモのタイトルとなる。

 2012年の覇者であるサイモン・ゲランス(オーストラリア)がミラノ~サンレモを回避する予定で、チームはマシューズでの勝負に賭ける。パリ~ニースのマイヨヴェール獲得が大きな弾みとなるか。

ティレーノで“仮想”ミラノ~サンレモが展開

 フレッヒ・ヴァンアーヴルマート(ベルギー、BMCレーシングチーム)が総合優勝したティレーノ~アドリアティコ。第6ステージでは、ミラノ~サンレモでも主役候補と目される4選手が、逃げ切りに成功し活躍を見せた。その顔ぶれは、ステージ優勝のヴァンアーヴルマート、同2位ペテル・サガン(スロバキア、ティンコフ)、同3位ミハウ・クフィアトコフスキー(ポーランド、チーム スカイ)、同4位ズデニェック・シュティバル(チェコ、エティックス・クイックステップ)だ。

 ティンコフ、エティックス・クイックステップはアシスト陣も終盤まで機能するなど、戦力の厚みを十分にアピールした。総合リーダージャージがかかっていたことも関係しているが、レース展開や、エースを前方に送り込む各チームの思惑などは、さながら“仮想”ミラノ~サンレモといえるものだった。

ミラノ~サンレモ“前哨戦”のようなスプリントを繰り広げたフレッヒ・ヴァンアーヴルマート(左)とペテル・サガン(ティレーノ~アドリアティコ2016第6ステージ、2016年3月14日) Photo: Yuzuru SUNADAミラノ~サンレモ“前哨戦”のようなスプリントを繰り広げたフレッヒ・ヴァンアーヴルマート(左)とペテル・サガン(ティレーノ~アドリアティコ2016第6ステージ、2016年3月14日) Photo: Yuzuru SUNADA

 ヴァンアーヴルマートは2月27日に開催された石畳系セミクラシック「オムループ・ヘット・ニュースブラッド」(ベルギー、UCI1.HC)を制するなど今シーズン序盤から好調で、ミラノ~サンレモ優勝候補筆頭と見る向きが増えている。昨年のツール第13ステージ以降、サガンとのマッチアップをたびたび制し、“サガンキラー”の異名も獲得しつつある。

“ラ・プリマヴェーラ”はスプリントか逃げ切りか

 今回で第107回目となるミラノ~サンレモ。春のクラシックシーズンのトップを飾り、“ラ・プリマヴェーラ(春)”の愛称で親しまれる。

勝負どころになるポッジオの上り(ミラノ~サンレモ=2015年3月22日) Photo: Yuzuru SUNADA勝負どころになるポッジオの上り(ミラノ~サンレモ=2015年3月22日) Photo: Yuzuru SUNADA

 数あるワンデーレースの中でもひときわレース距離が長く、今年は291kmで争われる。おおむね前回と同じコースが設定されるが、勝負の行方を左右するのがラスト30kmを切ってから迎える「チプレッサ」(登坂距離5.6km、平均勾配4.1%、最大勾配9%)と、ラスト10kmを切って迎える「ポッジオ」(登坂距離3.7km、平均勾配3.7%、最大勾配8%)という2つの丘だ。

 近年は、チプレッサで各チームの準エースクラスがアタック合戦を展開してメーン集団を絞り込み、続くポッジオで本命ライダーたちが勝負のアタックを繰り出している。ポッジオ頂上からフィニッシュまでは約5.5kmで、そのうち約3kmはテクニカルなダウンヒル。ダウンヒルではクラッシュのリスクをいとわずに攻め、最終局面に備える。

 最後は、サンレモ・ローマ通りのフィニッシュラインへと飛び込む。最終ストレートは約750m。スプリンターか数人の逃げが先着するかは、毎年大きな焦点となる。レース距離が長く上りも厳しいため、スプリンターが最終局面まで残っても爆発力を生かせず終わるケースや、決まりかけた逃げが残り数kmからの牽制状態により大集団に飲み込まれてしまう展開も多い。思わぬ伏兵がジャイアントキリング(大番狂わせ)を演じる可能性もある。

 戦力が豊富なチームは、スプリントと逃げ、双方に対応すべくWエース体制を敷いて臨むことが考えられる。

ボアッソンハーゲンやカンチェッラーラらが有力

 ミラノ~サンレモの有力選手は、ヴァンアーヴルマートらのほか、ティレーノ組ではクラシックシーズンに向けて調子を上げるエドヴァルド・ボアッソンハーゲン(ノルウェー、ディメンションデータ)の前評判が高い。2009年に優勝しているマーク・カヴェンディッシュ(イギリス)とともにチームの軸になる。

 今シーズン限りでの引退を宣言し、最後のミラノ~サンレモとなるファビアン・カンチェッラーラ(スイス、トレック・セガフレード)は、目標とする「パーフェクトな1年」を構築すべくモチベーションが高い。また、ティレーノ第3ステージでUCIワールドツアー初勝利を挙げたフェルナンド・ガヴィリア(コロンビア、エティックス・クイックステップ)も、「スプリント勝負になれば僕の出番」と意気込む。

 パリ~ニースからは、トーマスやマシューズを筆頭に、クリストフ、トム・デュムラン(オランダ、チーム ジャイアント・アルペシン)、トニー・ガロパン(フランス、ロット・ソウダル)らが参戦予定。ブアニやアルノー・デマール(エフデジ)のフレンチスプリンターもエントリーしており、優勝争いは熾烈を極めること必至だ。

今週の爆走ライダー-アレクセイ・ルツェンコ(カザフスタン、アスタナ プロチーム)

「爆走ライダー」とは…

1週間のレースの中から、印象的な走りを見せた選手を「爆走ライダー」として大々的に紹介! 優勝した選手以外にも、アシストや逃げなどでインパクトを残した選手を積極的に選んでいきたい。

 3月11日のパリ~ニース第5ステージ。鮮やかな逃げ切り勝利を力強いガッツポーズでアピール。「昨年のツール・ド・スイス第7ステージで勝利しているけれど、それよりも美しい勝ち方だったんじゃないかな」と自画自賛してみせた。

鮮やかな逃げ切り勝利を飾ったアレクセイ・ルツェンコ(パリ~ニース2016第5ステージ、3月11日) Photo: Yuzuru SUNADA鮮やかな逃げ切り勝利を飾ったアレクセイ・ルツェンコ(パリ~ニース2016第5ステージ、3月11日) Photo: Yuzuru SUNADA

 このステージでは残り17kmでトップに立ったが、メーン集団から飛び出して追走を試みた分を含むと、実に25km独走していたことになる。そのシーンを振り返り、「正直どうなるか分からなかった。1人で走り続けた時間は本当に苦しかった」と難産の末の勝利だったことを強調した。最後の上りを終えてメーン集団に対し30秒以上リードしていると知ったとき、自らのチャンスが大きいことを悟った。

 タレントぞろいのチームゆえ、グランツールの出場機会こそ多くはないが、1週間程度のステージレースでは堅実な走りを見せる。ジュニア時代からカザフスタンの国家プロジェクトの下で走り続け、2012年には世界選手権アンダー23ロードレースでマイヨアルカンシエルを獲得。そのときはスプリントで制したが、翌年のプロデビュー以降は逃げや個人TTで結果を残し続けている。今後もそのスタンスは変えないつもりだ。

 ステージ優勝の勢いそのままにミラノ~サンレモへと臨む。これまで見せてきたアタックは、ビッグクラシックで快走するための布石なのかもしれない。世界を驚かせるだけの大きな可能性が、23歳の走りに宿っている。

福光俊介福光俊介(ふくみつ・しゅんすけ)

自転車ロードレース界の“トップスター”を追い続けて十数年、気がつけばテレビやインターネットを介して観戦できるロード、トラック、シクロクロス、MTBをすべてチェックするレースマニアに。2011年、ツール・ド・フランス観戦へ実際に赴いた際の興奮が忘れられず、自身もロードバイク乗りになる。自転車情報のFacebookページ「suke’s cycling world」も充実。本業は「ワイヤーママ徳島版」編集長。

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