工具はともだち<88>耐久性を高める「表面処理」 工具の作り方<その4>

by 重田和麻 / Kazuma SHIGETA
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 新たなテーマとして取り上げている「工具の作り方」ですが、これまで4つある工程の内、製品の形をつくる「塑性加工」、製品の精度や出来栄えを決める「機械加工」、製品の硬さや粘りを出す「熱処理」までをご紹介しました。今回は最後の工程である「表面処理」をご紹介します。

 前回ご紹介した「熱処理」によって、工具は使用可能なレベルにまで完成しますが、金属である以上そのまま使用したのではすぐにサビが発生してしまいます。また、工具は常にボルトやナットなど他の金属と接しますので摩耗という劣化も生じます。そうした事象から工具を守るために施す加工が「表面処理」です。

機能を高める「めっき」と多用途な「化成処理」

 工具に施される「表面処理」にも様々な種類があり、代表的なものとして、金属の被膜で覆う「めっき」と化学的な処理で表面に被膜を形成させる「化成処理」があります。「めっき」も様々な種類がありますが、耐食性を高める、つまりサビにくくすることと耐摩耗性を高める点において優れています。また、光沢が出て見た目も美しくなります。

通常のソケット(左、中)とインパクト用のソケット(右)(KTC提供)通常のソケット(左、中)とインパクト用のソケット(右)(KTC提供)

 一方「化成処理」は黒っぽい仕上がりになり、耐食性は高まるのですが、「めっき」ほどサビに強くはなく、耐摩耗性や見た目の面でも「めっき」に及びません。しかし、しなるものや衝撃が加わるものなど「めっき」がしにくい工具に対して施されるだけでなく、加工や塗装の前処理としても使われます。

 ソケットを例に挙げると、ソケットに「めっき」が施されたものと黒色の「化成処理」が施されたものがあるのをご存じでしょうか。光沢のある「めっき」が施されたものが、手で回す時に使うもので、黒色の「化成処理」が施されたソケットがインパクトレンチで回す時に使うものです。

 なぜ同じソケットなのに「表面処理」に違いがあるかというと、インパクトレンチはエアや電気を動力にして衝撃を与えてソケットを回します。「めっき」は非常に硬く耐摩耗性には優れているのですが、衝撃には弱いという弱点があります。そのため、インパクトレンチ用のソケットに「めっき」を施すとめっきの被膜が割れてしまい危険なため、「化成処理」が使われています。

光沢のきれいなネプロスのめがねレンチ(KTC提供)光沢のきれいなネプロスのめがねレンチ(KTC提供)
通常のめがねレンチ(KTC提供)通常のめがねレンチ(KTC提供)

「ピカピカ」「つや消し」2種類のめっき

 さて、同じように「めっき」をした製品でもピカピカのモノとつや消しのモノの2種類がありますが、実は「めっき」そのものは同じなんです。例えばKTCでは通常の商品とネプロスでは仕上がりに大きな違いがあります。でも、「表面処理」に使っている設備にはなんら違いはありません。この仕上がりの違いは実は「表面処理」を施す前の磨きにポイントがあります。

 「めっき」をする前の磨きの工程を「バレル研磨」と言い、研磨用の石と研磨剤で熱処理によって生じた酸化被膜などを取り除き磨きをかけます。この時の磨き方、磨く時間に普通のものとネプロスでは大きな差があるため、仕上がりが全然違うのです。
 

バレル研磨のイメージイラストバレル研磨のイメージイラスト
めっきのイメージイラストめっきのイメージイラスト

 バレル研磨で磨かれた工具は「表面処理」を施すために「めっき」の工程に移ります。

 KTCの工具に使われている「めっき」は主に電気めっきで、工具をマイナス極、めっきする金属をプラス極とし、電解液の中に入れ電流を流し、工具の表面に金属皮膜をつくります。この「めっき」に使われる金属はニッケルとクロムで、KTCではニッケルストライクという下地処理をした後、「半光沢ニッケル」「光沢ニッケル」「クロム」の順番で表面処理を行います。

 クロムは美しい光沢があり硬いという特長がありますが、その硬さゆえ、いきなり素地にクロムで「めっき」を施すとはがれやすくなってしまいます。

上から、バレル研磨後のレンチ、ニッケル研磨後のレンチ、クロムめっき後のレンチ(KTC提供)上から、バレル研磨後のレンチ、ニッケル研磨後のレンチ、クロムめっき後のレンチ(KTC提供)

 そのため、ニッケルなどの比較的やわらかいモノから「めっき」をすることで耐剥離性、つまりはがれにくくしているのです。このように、三層構造のめっきをすることで、より高い耐食性や耐摩耗性、耐剥離性とともに美しい仕上がりを実現しています。

 「めっき」という言葉は「めっきが剥がれる」など、あまりいい意味で使われない事が多いのですが、工具の「めっき」はそう簡単にはがれる事はなく、工具を末永く使っていただくための重要な工程なのです。

 いかがでしたでしょうか。これまでお届けしてきた「工具の作り方」は、この「表面処理」で最終回です。次回からは、また新たなお話しをしたいと思います。

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重田和麻(しげた・かずま)

KTC(京都機械工具)入社後、同社の最高級ツール「nepros」(ネプロス)の立ち上げに携わった後、販売から企画、商品開発とさまざまな立場で同商品と歩みを共にしてきた。スポーツ自転車は初心者だが、工具についてはプロフェッショナル。これまでの経験を生かして、色々な角度からサイクリストに役立つ工具の情報を提供する。

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