イベントレポート「2016サイクリング屋久島」で世界自然遺産の舞台を快走 “太古”の風情と絶景を満喫
世界自然遺産に登録されている“太古の島”を走る「2016サイクリング屋久島」(主催・サンケイスポーツなど)が2月21日、鹿児島県屋久島町で開催され、11歳から82歳までのサイクリストが大自然の中でロングライドに挑んだ。お笑いトリオ「安田大サーカス」の団長安田さんもゲスト出場し、島一周100kmの厳しいコースを完走。島の美しい景観を堪能した。

島民の方々から大声援
大会では屋久島一周100キロの部に加え、ショートコース50キロの部、ファミリー20キロの部も設けられ、計383人のサイクリストが、走力に合わせて思い思いのコースにエントリーした。

日本列島の西部に位置するため日の出が遅い屋久島では、太陽が昇るのに合わせて午前6時50分から、メーン会場の町営ゲートボール場で開会式が行われ、団長安田さんの掛け声で一緒に準備体操をして厳しいサイクリングに備えた。
そして100キロの部に挑む選手たちは午前7時30分から、安全のため10~15人ずつに分かれて順次スタート。海沿いの会場から短い急坂を駆け上り、島内を一周するメーンストリートへと繰り出していった。



コースの序盤は、島内でもにぎわいのある集落を結ぶルート。参加者たちは沿道の島民の方々から大声援を受けて一路、ゴールを目指した。
島内一周道路は、急傾斜こそ少ないが、緩やかな上りと下りが絶え間なく続き、初心者にとってもベテランにとっても走り応えのあるコースだ。
豪華な昼食に舌鼓

大会のエイドステーションは100キロの部で計4カ所。ほかにも、水やお菓子を提供する給水ポイントや、島民が自発的に設置した“私設”エイドが数カ所設けられ、疲れた参加者を迎え入れた。
ゲストの団長安田さんは一番最初にスタートし、エイドステーションに到着して休憩するたびに、参加者と記念撮影をしたり、自転車談義に花を咲かせたりして交流を楽しんだ。

そろいのチームジャージを着て走った日高武範さん(37)と高橋美絵さん(34)は、屋久島のお隣の種子島から参加。自転車歴約5年という日高さんは、「種子島は平地がほとんど。屋久島には大きな山があるので、島が隣といっても景色が全然違う」と興味深そうに語った。高橋さんは「みんな速いなぁ」と驚きながら「(山の)上りを楽しみたい」と屋久島ならではのコースを楽しんでいた。

100キロの部で3番目のエイドとなる永田エイドステーションは、50キロの部のスタート地点にもなった。100キロの部は本州などから訪れた自転車愛好者が中心だが、50キロの部は地元の住民や中高生も多く、なかには小学生の姿も。レンタサイクルを利用して初めての本格的サイクリングに挑む人たちが、次々にコースへ出ていった。
また、100キロの参加者にとって、永田エイドステーションは昼食をとるポイント。ここまで50km余りを走ってきた参加者を、大勢のボランティアの方々が待ち受け、島の特産であるトビウオや、柑橘類のタンカンをはじめ、さまざまな地元の幸が惜しみなく提供された。




永田エイドステーションでボランティアに参加した屋久島町の渡辺貴子さんは、昼食をとる行列に並ぶ選手たちに、笑顔を絶やさず食事を提供。「皆さんが声をかけてくれるので、楽しんでくれているんだなと思うと、私も嬉しくなります」と、サイクリストとの交流にやりがいを感じている様子だった。
コース後半は絶景の連続

この日、屋久島の気温は10度を上回ったものの、コースの中盤では強い向かい風が吹きすさび、選手たちの体力と体温を奪う厳しいコンディションとなった。
しかし、道路はよく整備され、クルマも少なく、遠望する山々や、時折現れる海や河口の景色は美しく、参加者たちは離島の穏やかな雰囲気を全身で感じながらペダルをこいだ。

例年のように、サイクルパーツブランド「マヴィック」のメカニックが参加者をサポートした。50キロの部に参加した屋久島町の豊田春香さん(30)は、自転車のタイヤの空気が抜けて途方にくれていたところへマヴィックのスタッフが登場。スムーズにパンクを修理し、その場でブレーキの不調も調整した。豊田さんは「誰か助けに来て!と思っていたところへ来てくれてうれしかった。今年、50kmを完走すれば来年は100kmに出たい」と話していた。大会前日にフェリーが欠航したため、黄色い「マヴィックカー」は当日に屋久島へ上陸し、午後からの出動となった。
コース上の西部林道は世界遺産登録地域に指定されているエリア。ここはコース内で最も標高の高い難所でもあり、参加者たちは懸命にペダルをこいで坂道を上り、天然の木々に覆われた「緑のトンネル」を走り抜けた。野生のヤクザルやヤクシカがコース脇に姿を見せ、参加者が写真を撮る一幕も。


西部林道を抜けると、東シナ海への視界が開け、水平線や海岸線を一望できる爽快なエリアへと突入する。コース脇には展望スポットや、落差88mの観光名所「大川の滝」が現れ、多くの参加者が足を止めて絶景に見入っていた。
後夜祭までおもてなし
コースの終盤は、再びにぎやかな集落が連なるエリアとなり、アップダウンも緩やかになる。参加者は最後の力を振り絞ってゴールを目指した。

ゴール地点はスタートと同じく町営ゲートボール場。昼過ぎから夕方にかけて参加者が次々にゴールしてくると、会場ではMCが完走者一人ひとりの名前を読み上げて歓迎し、その場で完走証が手渡された。
また、町の婦人会がぜんざいの炊き出しやお菓子、温かいお茶などを振る舞い、険しい道のりを走り切った参加者の体と心を癒した。
さらに、サイクリング屋久島ならではの特典として、夕方5時から後夜祭が催され、おでんやおにぎりをはじめさまざまな手料理が無料で提供された。ともにロングライドに臨んだ多くのサイクリストたちが、後夜祭に再び集って完走をたたえ合い、喜びを分かち合った。大抽選会も行われ、地元のグルメや銘酒を中心に豪華賞品を用意。団長安田さんの司会で次々に当選者がステージに呼び出され、夜7時まで大いに盛り上がった。


屋久島町在住者を中心とする女子サークル「YGG」のメンバー8人が50キロの部と20キロの部に出場し、全員が完走を果たした。塩月紗貴子さんは「坂はきつかったけど、景色がすべて良かったので楽しかった」と満足そう。田上純子さんは「ふだん見ている景色でも、自転車で走ると違ったように見えて新鮮だった」と語った。
サイクリング屋久島では、同じ鹿児島県にある鹿屋体育大学(鹿屋市)の自転車競技部のメンバーがボランティアでコースの安全確認や選手たちの応援、サポートを行っている。鹿屋の選手たちも前日のフェリー欠航により屋久島上陸が大会当日となったが、訪れた4人は勢いよく島内一周道路へと飛び出し、コース内を巡って参加者たちを激励した。


サポートライダーとして走った馬渡伸也さん(3年)は「前日はフェリーが出航せず、もうたどり着けないかと思ったが、何とか走ることができてよかった」と、役目を果たせてホッとした様子で、「屋久島はすごく気持ちのよいところなので、また走りたい」。江藤里佳子さん(3年)はコース上で、変速ギアの操作方法がわからない若者に教えてあげたといい、屋久島については「どこを走っても景色が最高。沿道の人たちの温かさも印象的だった。またこの大会に参加できれば」と語った。
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今大会では前日、強風を伴う悪天候のため鹿児島から屋久島へのフェリーが全便欠航し、出場できなかった人もいた。大会を振り返って、大会名誉会長の荒木耕治・屋久島町長は「離島では天気が一番の心配事。(前日に)フェリーが運航せず、島に来られない人もいたことは残念だったが、何よりも大会当日の天気に恵まれてよかった」と語った。
さらに、「今回はとくに子供や女性が頑張っている姿が目についた。リピーターも増えている印象。島ぐるみのイベントとして10年後、20年後と継続し、より良く育てていきたい」と来年以降の大会開催に意欲を見せた。