工具はともだち<87>鉄のかたまりに魂吹き込む「熱処理」 工具の作り方<その3>

by 重田和麻 / Kazuma SHIGETA
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 新たなテーマとして取り上げている「工具の作り方」。前回は大きく4つある工程の内、製品の精度や出来栄えを決める「機械加工」をご紹介しました。今回は次の工程である「熱処理」をご紹介します。

KTCで使用される連続焼き入れ焼き戻し炉(KTC)KTCで使用される連続焼き入れ焼き戻し炉(KTC)

 前回ご紹介した「機械加工」によって、工具はほぼ最終形に仕上がりますが、そのままでは使用することはできません。何故なら金属はそのままの状態だと意外と柔らかく変形しやすいためです。もっとも、手で曲がるような事はありませんが、ボルトに掛けて力を入れると口径部がなめたり、スパナなら口が広がったりと本来の機能が果たせません。

    熱処理をした後のスパナ(KTC)熱処理をした後のスパナ(KTC)

 そこで、行うのが「熱処理」という工程で工具に必要な硬さや粘りを与えます。「熱処理」は工具にとって一番重要な工程と言っても過言ではなく、そのままでは単なる「鉄の塊」に過ぎない物に「魂」を吹き込む工程なのです。

目的によって2つの方法

 工具に施される「熱処理」は、加工をし易くする「焼きなまし」や前工程で発生した金属への影響をリセットする「焼きならし」など、加工のために施すものと、金属に硬さや粘りを与える「焼き入れ」「焼き戻し」のように機能や性能のために施す、といったように目的によって大きく二つに分かれます。
 
工具の工程の大まかな流れとして「塑性加工」「機械加工」「熱処理」「表面処理」と説明してきましたが、実のところ熱処理については様々な工程の前や後処理にも使われています。ただ、今回ご紹介する「熱処理」は「焼き入れ」と「焼き戻し」という工程についてご説明します。

製品を硬くする「焼き入れ」

 最初に行われる熱処理は「焼き入れ」で、高温で工具を熱し、その後「急冷」します。この「急冷」が重要で、刀鍛冶が水に「じゅっ」とつけて冷ますあれです。工具の場合「油冷」つまり油で冷やす事が多く、油の槽にドボンとつけて冷やします。高温で加熱して急冷する事で、金属の組織構造が変化して硬くなります。その他、熱処理には味噌をつけたり塩につけたりするものもあります。なんだか料理のようですが、日本では伝統的に味噌を使い、味噌のない欧州などでは塩が使われてきました。

KTCで使用される真空熱処理炉(KTC)KTCで使用される真空熱処理炉(KTC)
熱処理のイメージイラスト熱処理のイメージイラスト

焼き戻しで柔らかく粘りの状態に

 このように高温で加熱した後、急冷することで金属は硬くなりますが、このままだと工具は脆く割れたり折れたりしやすい状態になります。そこで施される熱処理が「焼き戻し」となります。「焼き戻し」は「焼き入れ」よりだいぶ低い温度で加熱し、今度はゆっくり冷まします。そうすると金属は少し柔らかく粘りのある状態に仕上がります。硬すぎると脆くなってしまうので、柔軟さも必要という点では人間と同じですね。

 さて、話は変わって熱処理は非常に重要な工程であると言いましたが、それは硬さや粘りといった面だけではありません。精度にも大きく影響する厄介な事ももたらします。それは、「熱による変形」です。工具の硬さや粘りを出すためには、必要不可欠な工程なのですが、「熱による変形」は避けて通る事ができない問題として工具メーカーの前に立ちはだかります。例えば急冷する際の油冷槽へ入る向きや時間などちょっとした事で製品に歪みがでたりします。ですから、熱処理における変形を想定して前工程の寸法を決めるなど、ノウハウが詰まった工程でもあります。

 このように熱処理は工具に必要な機能を与えるだけでなく、製造上のノウハウとしても重要な工程で、工具の工程の要とも言えるので、「鉄の塊に魂を吹き込む」と言った表現がぴったりだと思います。

 工具の作り方3回目「熱処理」は以上です。次回は最終工程である「表面処理」の工程をご紹介したいと思います。

Cyclistロゴ入りエプロン付き「デジラチェ工具セット」発売

Cyclist × KTC オリジナルデジラチェ工具セット Photo: SANKEI netShopCyclist × KTC オリジナルデジラチェ工具セット Photo: SANKEI netShop

 CyclistとKTCとのコラボレーションによる自転車メンテナンス向け「オリジナルデジラチェ工具セット」ができました!

 デジタル式トルクレンチに、収納用ブローケースや、自転車整備に活躍する5つの付替え用ビットソケット、ソケットホルダー、さらにCyclistとKTCのロゴが入ったオリジナルショートエプロンが付属しています。価格は4万3869円(税込)で、セット内容を別々に購入するよりもグッとお得な設定になっています。
(産経デジタル)
→「オリジナルデジラチェ工具セット」商品販売ページ(産経netShop)

重田和麻(しげた・かずま)

KTC(京都機械工具)入社後、同社の最高級ツール「nepros」(ネプロス)の立ち上げに携わった後、販売から企画、商品開発とさまざまな立場で同商品と歩みを共にしてきた。スポーツ自転車は初心者だが、工具についてはプロフェッショナル。これまでの経験を生かして、色々な角度からサイクリストに役立つ工具の情報を提供する。

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