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福光俊介の「週刊サイクルワールド」<145>苦境を乗り越えたい2チーム ジャイアント・アルペシン、カチューシャ2016年シーズン展望

by 福光俊介 / Syunsuke FUKUMITSU
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 サイクルロードレースシーズンは南半球に続き、中東や本場ヨーロッパでのレースが始まっている。シーズン序盤から熱い戦いが繰り広げられる一方で、アクシデントやトラブルのニュースが次々と舞い込んでいる。そうした苦境を乗り越え、前向きに戦う姿勢を見せる2チームを今回は展望していきたい。チーム ジャイアント・アルペシン、チーム カチューシャ、充実した戦力を有する両チームに迫る。

2015年のブエルタ・ア・エスパーニャ最終ステージで、ブエルタ通算10勝目を挙げたジョン・デゲンコルプ(ドイツ、ジャイアント・アルペシン)。完全復活のガッツポーズはいつ見られるか Photo: Yuzuru SUNADA2015年のブエルタ・ア・エスパーニャ最終ステージで、ブエルタ通算10勝目を挙げたジョン・デゲンコルプ(ドイツ、ジャイアント・アルペシン)。完全復活のガッツポーズはいつ見られるか Photo: Yuzuru SUNADA

デゲンコルプらは事故からの回復に努める

 1月23日、トレーニングキャンプ中のスペイン南部・カルペで起きた交通事故により、チーム ジャイアント・アルペシンの6選手が重傷を負った。ジョン・デゲンコルプ(ドイツ)、ワレン・バルギル(フランス)ら主力が巻き込まれた大惨事だったが、手術を必要とした選手はいずれも成功に終わり、治療が進行中だ。

 なかでも、けがの度合いが大きかったデゲンコルプは、大腿部など下肢の傷がほぼ癒えたことにより、ローラー台でのトレーニングを開始。ただ、切断寸前といわれた左手人差し指は縫合こそ成功したものの、リハビリに長期間かかることは確実。現状ではローラー台でのトレーニングもハンドルに手を置かず、患部への負担をかけないよう細心の注意を払っている。

 昨シーズン、ミラノ~サンレモとパリ~ルーベを優勝した春のクラシックだが、今年は回避することを明言。まずは治療に専念し、競争力を取り戻した段階で戦線復帰したいとの意向を表している。

 所属27選手中6人が戦列を離れる異常事態だが、ゼネラルマネジャーのイヴァン・スペークンブリンク氏は、残っている21選手で当面は戦っていきたいとしている。国際自転車競技連合(UCI)の規則では、UCIワールドチームにおいては上限30選手が所属することが可能であることから、あと3選手の追加登録ができる状況にあるが、そのような措置はとらない姿勢を見せる。あくまでも、けがをした6選手の回復を待つスタンスだ。

ツアー・オブ・カタール第1ステージで10位に入ったソーレンクラフ・アンデルセン(デンマーク)。新人賞のホワイトジャージに袖を通した Photo: Yuzuru SUNADAツアー・オブ・カタール第1ステージで10位に入ったソーレンクラフ・アンデルセン(デンマーク)。新人賞のホワイトジャージに袖を通した Photo: Yuzuru SUNADA

 厳しい台所事情ではあるが、中東で開催中のレースに出場している選手たちが奮起。2月3~6日に開催されたドバイ・ツアー(UAE、UCI2.HC)ではクーン・デコルト(オランダ)が総合17位、ロイ・クルフェルス(オランダ)が総合22位。スプリントトレインの統率を担当することの多い2選手が、総合上位にあと一歩まで迫った。

 また、2月8日に開幕したツアー・オブ・カタール(UCI2.HC)第1ステージでは、ネオプロ(新人)のソーレンクラフ・アンデルセン(デンマーク)が有力選手に交じり10位に入る健闘を見せている。

ドゥムランはリオ五輪に集中

 昨年のブエルタ・ア・エスパーニャで、最終日前日の第20ステージまで総合首位の証であるマイヨロホを着続けたトム・ドゥムラン(オランダ)。予想以上の快進撃は大きな注目を集め、多くのファンを惹きつける原動力となった。最終的に総合6位に終わったが、将来的にグランツールを制する可能性が十分にあることを示した。

 期待が高まる今シーズンだが、リオデジャネイロ五輪・個人タイムトライアル(TT)での金メダル獲得を最大のターゲットにすることを明らかにしている。アップダウンに富むTTコースは、独走力と登坂力を兼ね備えるドゥムラン向き。最大のライバルにクリストファー・フルーム(イギリス、チーム スカイ)を挙げ、現在のプロトン最強のオールラウンダー撃破を誓う。

 今年に限ってはグランツールの総合成績は視野に入っておらず、「走った結果として総合上位に食い込むことができれば幸運だ」と述べている。8月10日に控えるリオ五輪個人TT本番から逆算したレーススケジュールを設定し、ジロ・デ・イタリア(5月6~29日)への出場を予定。ツール・ド・フランス(7月2~24日)については、ジロを走ってみての感覚で決めたいとしている。

 なお、今シーズン初戦はツアー・オブ・オマーン(2月16~21日、UCI2.HC)となる見通しだ。

トム・ドゥムラン(オランダ)は2016年はリオ五輪の個人タイムトライアルにフォーカス(写真は2015世界選手権) Photo: Yuzuru SUNADAトム・ドゥムラン(オランダ)は2016年はリオ五輪の個人タイムトライアルにフォーカス(写真は2015世界選手権) Photo: Yuzuru SUNADA

■チーム ジャイアント・アルペシン 2015-2016 選手動向

【残留】
ニキアス・アルント(ドイツ)
ワレン・バルギル(フランス)
ロイ・クルフェルス(オランダ)
ベルト・デバッケル(ベルギー)
クーン・デコルト(オランダ)
ジョン・デゲンコルプ(ドイツ)
トム・ドゥムラン(オランダ)
ケレブ・フェアリー(アメリカ)
ヨハンネス・フレリンガー(ドイツ)
シモン・ゲシュケ(ドイツ)
チャド・ハガ(アメリカ)
ジ・チェン(中国)
カーター・ジョーンズ(アメリカ)
フレドリク・ルドヴィグソン(スウェーデン)
トビアス・ルドヴィグソン(スウェーデン)
ゲオルク・プライドラー(オーストリア)
ラモン・シンケルダム(オランダ)
トム・スタムスナイデル(オランダ)
アルベルト・ティッメル(オランダ)
ラルス・ファンデルハール(オランダ)
トム・フィーレルス(オランダ)
ジーコ・ワイテンス(ベルギー)
 
【加入】
ソーレンクラフ・アンデルセン(デンマーク) ←チーム トレフォー・ブルーウォーター
シンドレショースタッド・ルンケ(ノルウェー) ←チーム ヨーケル
サム・オーメン(オランダ) ←ラボバンク デベロップメントチーム
ローレンス・テンダム(オランダ) ←チーム ロットNL・ユンボ
マキシミリアン・ヴァルシャイト(ドイツ) ←チーム クオータ・ロット
 
【退団】
ローソン・クラドック(アメリカ) →キャノンデール プロサイクリングチーム
ティエーリー・ユポン(フランス) →デルコ・マルセイユ プロヴァンス・KTM
マルセル・キッテル(ドイツ) →エティックス・クイックステップ
ルカ・メズゲッツ(スロベニア) →オリカ・グリーンエッジ

ロドリゲス、クリツォフが軸となるチーム カチューシャ

昨年のツール・ド・フランスではステージ2勝を挙げたホアキン・ロドリゲス(スペイン) Photo: Yuzuru SUNADA昨年のツール・ド・フランスではステージ2勝を挙げたホアキン・ロドリゲス(スペイン) Photo: Yuzuru SUNADA

 ビッグレースでの活躍が期待されるチームとして挙げたいのが、チーム カチューシャだ。グランツールの総合成績やアルデンヌクラシックで好成績を狙うのがホアキン・ロドリゲス(スペイン)、スプリントや北のクラシックで勝利を目指すのがアレクサンドル・クリツォフ(ノルウェー)。昨シーズンから引き続いて、この2人がチームの軸となる。

 例年、シーズンオフには翌シーズンのターゲットレースを明らかにしてきたロドリゲスだが、この冬はメディア露出が控えめで、表立っては今シーズンのビジョンを明かさずに過ごした。とはいえ、グランツールや8月に行われるリオ五輪ロードレースには注力してくることだろう。今のところ、グランツールは昨年同様にツールとブエルタへの出場が予想されている。レース展開によってエースとアシストが入れ替わるなど、盟友としてともにしたダニエル・モレノ(スペイン)がモビスター チームに移籍。重要局面を支える新たな山岳アシストの確保が急務だが、ロット・ソウダルから移籍のユルヘン・ヴァンデンブロック(ベルギー)が最有力候補に挙がる。

アレクサンドル・クリツォフ(ノルウェー)は、ツアー・オブ・カタールで連日カヴェンディッシュと激闘。第2ステージでは競り勝って今季初勝利を挙げた Photo: Yuzuru SUNADAアレクサンドル・クリツォフ(ノルウェー)は、ツアー・オブ・カタールで連日カヴェンディッシュと激闘。第2ステージでは競り勝って今季初勝利を挙げた Photo: Yuzuru SUNADA

 クリツォフは昨シーズン、ツール・デ・フランドルを制覇。2014年のミラノ~サンレモ優勝に続くビッグクラシック獲得となった。狙いを定めたレースをものにする勝負強さは、年々磨きがかかっている。今シーズンは、前述のクラシックレースのほか、パリ~ルーベにも色気を見せる。さらには、スプリンターが主役となると見られる10月のロード世界選手権(カタール)でのマイヨアルカンシエル獲得も見据える。

 このエース2人は、順調にいけばツールで共闘となりそうだ。昨年はロドリゲスが総合を狙わなかったことから、クリツォフのスプリントに重きを置いた3週間だったが、今年はどのようなシフトを組むのか。ともにシーズンインを迎えており、ロドリゲスは2月3~7日のボルタ・ア・バレンシアナ(スペイン、UCI2.1)で総合22位。クリツォフはツアー・オブ・カタール第1ステージ5位、第2ステージでは優勝した。

ステージレースの総合優勝が狙える選手がそろう

 穴のない布陣を整えるチーム カチューシャ。ロドリゲスやクリツォフ以外にもタレントはそろう。

 特に、ステージレースの総合優勝が狙えるオールラウンダーが充実。昨年のツール・ド・スイス総合優勝など、1週間程度のステージレースに絶対的な自信を持つシモン・スピラク(スロベニア)、昨年のツール・ド・ロマンディ総合優勝のイルヌール・ザカリン(ロシア)は今年も総合エースを担うことになる。ザカリンはジロでリーダーを務める公算だ。

 前述のヴァンデンブロックや、さらにアスタナ プロチームからレイン・タラマエ(エストニア)を獲得。エースとしても、アシストとしても計算できる選手が加入し、戦力に厚みが増した。

ヴォルガノフがメルドニウム陽性 チームは一時資格停止を免れる

 実力者が名を連ね、今シーズンの戦いに期待が集まる一方で、気がかりなニュースもある。2月5日、UCIはエドアルド・ヴォルガノフ(ロシア)のサンプルから、禁止薬物メルドニウムの陽性反応が検出されたと発表したのだ。

 UCIによると、1月14日に行った競技外検査におけるサンプルからメルドニウムの採取が疑われる分析結果が出たとした。メルドニウムは「ホルモンと代謝調整因子」に分類される薬物で、今年1月1日付で世界アンチ・ドーピング機構(WADA)の禁止リストに追加された物質。

禁止薬物メルドニウムの陽性反応が検出されたエドアルド・ヴォルガノフ(ロシア)。2012年にはロシアチャンピオンの座についている(ブエルタ・ア・エスパーニャ2015) Photo: Yuzuru SUNADA禁止薬物メルドニウムの陽性反応が検出されたエドアルド・ヴォルガノフ(ロシア)。2012年にはロシアチャンピオンの座についている(ブエルタ・ア・エスパーニャ2015) Photo: Yuzuru SUNADA

 ヴォルガノフはBサンプルによる再分析を要求することが可能だが、チームはUCIアンチ・ドーピング規則にのっとり、ヴォルガノフを暫定的にレース出場メンバーから外す措置をとっている。

 UCIアンチ・ドーピング規則では、12カ月間に同チームから2人の薬物違反者が出た場合に、チームに対し15~45日間の一時資格停止処分をくだすとしている。カチューシャは昨年7月、ルーカ・パオリーニ(イタリア)がコカイン陽性となっており、チームはこの規定に抵触したものとみられていた。

 しかしUCIは9日、パオリーニのケースではパフォーマンス向上を目的としたものではなかったと判断。娯楽として使用していたドラッグであり、チームへの懲戒処分を与えるには不相応だとの決定をした。

 これにより、チームは一時的な資格停止を免れ、通常通りレース活動を行えることが決まった。

■チーム カチューシャ 2014-2015 選手動向

【残留】
マキシム・ベルコフ(ロシア)
スヴェンエーリク・ビストラム(ノルウェー)
セルゲイ・チェルネトスキー(ロシア)
ヤコポ・グアルニエーリ(イタリア)
マルコ・ハラー(オーストリア)
ウラジミール・イサイチェフ(ロシア)
パヴェル・コチェトコフ(ロシア)
ディミトリー・コゾンチュク(ロシア)
アレクサンドル・クリツォフ(ノルウェー)
ビアチェスラフ・クズネツォフ(ロシア)
セルゲイ・ラグティン(ロシア)
アルベルト・ロサダ(スペイン)
ティアゴジョセピント・マシャド(ポルトガル)
アレクサンドル・ポルセフ(ロシア)
ホアキン・ロドリゲス(スペイン)
エゴル・シリン(ロシア)
シモン・スピラク(スロベニア)
アレクセイ・ツァテヴィッチ(ロシア)
アンヘル・ビシオソ(スペイン)
エドアルド・ヴォルガノフ(ロシア)※一時資格停止中
アントン・ヴォロビエフ(ロシア)
イルヌール・ザカリン(ロシア)
 
【加入】
マトヴェイ・マミキン(ロシア) ←イテラ・カチューシャ
ミケル・モルコフ(デンマーク) ←ティンコフ・サクソ
ニルス・ポリット(ドイツ) ←チーム ストゥルティング
ホナタン・レストレポ(コロンビア) ←コルデポルテス・クラロ
レイン・タラマエ(エストニア) ←アスタナ プロチーム
ユルヘン・ヴァンデンブロック(ベルギー) ←ロット・ソウダル
 
【退団】
ジャンパオロ・カルーゾ(イタリア) →無所属
アレクサンドル・コロブネフ(ロシア) →ガズプロム・ルスヴェロ
ダニエル・モレノ(スペイン) →モビスター チーム
ルカ・パオリーニ(イタリア) →無所属
リュディゲル・ゼーリッヒ(ドイツ) →ボーラ・アルゴン18
ガティス・スムクリス(ラトビア) →アスタナ プロチーム
ユーリ・トロフィモフ(ロシア) →ティンコフ

今週の爆走ライダー-ミケル・モルコフ(デンマーク、チーム カチューシャ)

「爆走ライダー」とは…

1週間のレースの中から、印象的な走りを見せた選手を「爆走ライダー」として大々的に紹介! 優勝した選手以外にも、アシストや逃げなどでインパクトを残した選手を積極的に選んでいきたい。

 7年間所属したティンコフ・サクソ(加入時はチーム サクソバンク)を離れ、新天地へ。新チームでの役割は、クリツォフの発射台だ。

 移籍の決め手は、クリツォフ直々の指名だった。2013年のブエルタ第6ステージを制したほどのスプリント力と、長い時間集団を引き続けられる牽引力が買われた形だ。これまでアシストとして走ることの多かった彼にとって、現在のトップシーンで1、2を争うビッグスプリンターがお呼びとあらば、断る理由などなかった。

新天地に移籍。ツアー・オブ・カタールでエースのクリツォフのために集団を引くミケル・モルコフ(デンマーク、チーム カチューシャ) Photo: Yuzuru SUNADA新天地に移籍。ツアー・オブ・カタールでエースのクリツォフのために集団を引くミケル・モルコフ(デンマーク、チーム カチューシャ) Photo: Yuzuru SUNADA

 移籍を決めた直後の昨年8月に出場したアークティックレース・オブ・ノルウェー(UCI2.HC)では、信頼関係を築くべくコミュニケーションに時間を割いた。当時は異なるチームで参加していたにもかかわらず、レース内外で話す時間を多く設けたのだとか。その成果は早くも表れ、ツアー・オブ・カタール第2ステージでクリツォフの優勝をお膳立て。いよいよ2人のホットラインが本格稼働だ。

 バックボーンはトラック中距離種目。チームパシュートでは2008年北京五輪で銀メダルを獲得し、現在も6日間レースの第一人者として君臨。絶対エースのスプリントに火を点けるのは、トラックで培うスピードと集団内での絶妙なポジショニングとなるはずだ。

福光俊介福光俊介(ふくみつ・しゅんすけ)

自転車ロードレース界の“トップスター”を追い続けて十数年、気がつけばテレビやインターネットを介して観戦できるロード、トラック、シクロクロス、MTBをすべてチェックするレースマニアに。2011年、ツール・ド・フランス観戦へ実際に赴いた際の興奮が忘れられず、自身もロードバイク乗りになる。自転車情報のFacebookページ「suke’s cycling world」も充実。本業は「ワイヤーママ徳島版」編集長。

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