熊谷賢輔の「世界をつなぐ道」<8>大都市バンクーバーで“思いつき”交流作戦 路上で「フリーオイルスプレー」

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 カナダに入国してから3カ月が経ち、ついにバンクーバーに到着した。人口が200万人を越え、トロント、モントリオールに次ぐカナダ第3の都市である。カナダに入ってからはほぼ大自然の中にいたので、久しぶりのビッグシティは緊張する。しかし、どうやら街は自転車フレンドリーな気配。街の人たちとの触れ合いを求めて、僕なりの作戦に打って出た。

久しぶりに大きな街に出て、ある企画を思いついた Photo: Kensuke KUMAGAI久しぶりに大きな街に出て、ある企画を思いついた… Photo: Kensuke KUMAGAI

自転車フレンドリーな街

上半身裸って(笑)この時期のバンクーバーはそんな暖かくないぞ! Photo: Kensuke KUMAGAI上半身裸って(笑)この時期のバンクーバーはそんな暖かくないぞ! Photo: Kensuke KUMAGAI

 バンクーバーを自転車で走ってまず感じたのは、「自転車に優しい街」であることだ。道を行き交うサイクリストの多さもさることながら、街全体で自転車文化が発達しており、メーンストリートを外れたダウンタウンの道にもしっかりと自転車レーンが設けられている。

 自転車レーンも、ただ道路にペイントするだけではなく、クルマの交通量が多い場所では柵などでしっかりと区分されている。クルマがごった返す市街地だが、自転車レーンが整備されていることで、自転車は安全にラクラクと東西南北へ走り抜けることができるのだ。

裏道に設けられた自転車レーンと歩行者レーン Photo: Kensuke KUMAGAI裏道に設けられた自転車レーンと歩行者レーン Photo: Kensuke KUMAGAI
街で見かけたサイクリストのカウンター Photo: Kensuke KUMAGAI街で見かけたサイクリストのカウンター Photo: Kensuke KUMAGAI
デリバリーも自転車 Photo: Kensuke KUMAGAIデリバリーも自転車 Photo: Kensuke KUMAGAI
道に設けられた駐輪用の柵 Photo: Kensuke KUMAGAI道に設けられた駐輪用の柵 Photo: Kensuke KUMAGAI
これも駐輪用の柵。ハート型ははじめて見た Photo: Kensuke KUMAGAIこれも駐輪用の柵。ハート型ははじめて見た Photo: Kensuke KUMAGAI
「イヌクシュク」という石を積み上げたオブジェ。「道しるべ」という意味がある Photo: Kensuke KUMAGAI「イヌクシュク」という石を積み上げたオブジェ。「道しるべ」という意味がある Photo: Kensuke KUMAGAI

 ほかに気になったのは、街のあちこちに点在しているアートの存在だ。ダウンタウンにありがちなスプレーアートだけでなく、手間を加えたストリートの芸術作品も多い。自転車に関連するアートも所どころで見かけた。

工場のタンクのアート。かなり大きいので目立つ Photo: Kensuke KUMAGAI工場のタンクのアート。かなり大きいので目立つ Photo: Kensuke KUMAGAI
どうやって乗っけたんだろう Photo: Kensuke KUMAGAIどうやって乗っけたんだろう Photo: Kensuke KUMAGAI
自転車の造形美は万国共通 Photo: Kensuke KUMAGAI自転車の造形美は万国共通 Photo: Kensuke KUMAGAI
さすが世界一のグリーン都市を目指しているだけある Photo: Kensuke KUMAGAIさすが世界一のグリーン都市を目指しているだけある Photo: Kensuke KUMAGAI

 そして食事も一変。アジア人がとりわけ多いバンクーバーには、アジア系のレストランが軒を連ねている。ここまでの行程でハンバーガーばかり食べていた僕にとっては、気軽に日本食を食べられることが嬉しい。味のクオリティーは日本より若干劣るが、それでも久しぶりに食べるラーメンや牛丼は格別な味だった。

カリフォルニアロールは賛否両論だが、僕は大好きだ Photo: Kensuke KUMAGAIカリフォルニアロールは賛否両論だが、僕は大好きだ Photo: Kensuke KUMAGAI
「ジャパドック」と呼ばれる大根おろしが上にかかったホットドック。これは日本で流行りそう Photo: Kensuke KUMAGAI「ジャパドック」と呼ばれる大根おろしが上にかかったホットドック。これは日本で流行りそう Photo: Kensuke KUMAGAI

「フリーバイクチューンアップ」からヒントを得て

海沿いで見かけた「フリーバイクチューンアップ」の文字 Photo: Kensuke KUMAGAI海沿いで見かけた「フリーバイクチューンアップ」の文字 Photo: Kensuke KUMAGAI

 街の雰囲気にも慣れ、現地のサイクリストと話をしてみたいと思っていたそのときだった。バンクーバーの海沿いで、「フリーバイクチューンアップ」と書いた横断幕を掲げている1人の男性を見かけた。

 しばらく様子を見ていると、続々と自転車に乗った人たちが止まり、メンテナンスをしてもらっていた。もちろん無料。お金をもらわずにサービスを提供する姿を見て、僕も何かできないかな?と考えた。

 僕は過去に自転車ショップで働いていた経験があるが、セールスだったのでメンテナンス技術は素人に毛が生えた程度。夕陽が沈みかけた海沿いのベンチで、どうしようかと思案にふけっていたところ、チェーンが錆び付いてガチャガチャと音をたてながら走っている自転車が、目の前を走り抜けて行った。

 「いまオイルスプレーを持っていたら塗布するのになぁ…そうだ! 無料でオイルスプレーを塗布するサービスをしたら、チェーンが錆び付いている人を助けられるかもしれない!」

 思いたったが吉日。さっそく必要なものを買い揃えた。ちなみに購入したのは以下のアイテム。

・MD-40(防錆潤滑剤)2本
・簡易的なテーブルクロス(横断幕の代用)
・マジックペン
・キッチンペーパー

汎用性が高い防錆潤滑剤「WD-40」 Photo: Kensuke KUMAGAI汎用性が高い防錆潤滑剤「WD-40」 Photo: Kensuke KUMAGAI
海外にもあるいわゆる”100円ショップ”で。この旅でたくさんお世話になっている Photo: Kensuke KUMAGAI海外にもあるいわゆる”100円ショップ”で。この旅でたくさんお世話になっている Photo: Kensuke KUMAGAI

 色々と準備をし、数日後に再び海沿いのサイクリングコースに行ってみた。どの場所なら通行人の目に止まりやすいかを考えた結果、交通量が多く、T字路になっている良いポジションがあったので、そこでお客さんを待つことにした。

「それじゃダメだよ!」きっかけは看板の間違い

こんな感じで待っていると… Photo: Kensuke KUMAGAIこんな感じで待っていると… Photo: Kensuke KUMAGAI

 目の前を何十台も自転車が通り過ぎて行く。10分が過ぎ、20分、30分…と過ぎても、なかなかお客さんが捕まらない。

 「幕も黄色で目立つのになぜだろう? やっぱり受け身の姿勢がいけないのだろうか…」

 悩みながらウロウしていると、同じスポットでお酒を飲みながら喋っている集団のお兄ちゃんの1人が近づいて来た。

 兄ちゃん「それじゃダメだよ! ケミカルスプレーっていうのは、あまり良い意味じゃないんだよー」

 僕「えっ!? じゃあ、どんな文なら伝わるのさ?」

 兄ちゃん「ちょっとペン貸して。これなら伝わるはずだよ」

 僕のペンを取り、新しい横断幕になにやら新しい文言を書き始めた。

書きづらい地面で必死に書いてくれた Photo: Kensuke KUMAGAI書きづらい地面で必死に書いてくれた Photo: Kensuke KUMAGAI
修正後の看板 Photo: Kensuke KUMAGAI修正後の看板 Photo: Kensuke KUMAGAI

訂正前 「Free Chemical Spray for bicycle」
訂正後 「Free WD 40 Spray for Chain」

名前は失念してしまったが、イケイケの兄ちゃんであった Photo: Kensuke KUMAGAI名前は失念してしまったが、イケイケの兄ちゃんであった Photo: Kensuke KUMAGAI

 「これなら意味も意図も伝わるだろう。ビールでも飲みながら気軽に待とうぜ!」

 僕は彼に礼を言い、ビールを受け取った。現地の人が言うのだから間違いないだろう。再びサイクリストを待ち続ける。僕が構えていた場所はT字路なので、曲がるために減速するサイクリストは多い。

 しかし、皆こちらを見るものの、一向に足を止める気配は無い。

 「走っている人を止めてまで、こちらから声をかけるのも気が引けるしなぁ…」

 そう思っていると、先ほどお世話になった兄ちゃんがスケートボードに乗った少年に声をかけた。

 「スケートボードにオイルスプレーなんて必要ないんじゃないのか!?」

初めてのお客さんに興奮 Photo: Kensuke KUMAGAI初めてのお客さんに興奮 Photo: Kensuke KUMAGAI

 と思ったら、少年が車輪部分にスプレーをかけていた。少し話をしてみると、ちょうど車輪の動きが悪かったらしい。スプレー後に、彼はニコニコしながら近づいて来た。

 「車輪の動きが良くなったよ! ちょうど油を差したいタイミングだったんだ。ありがとう!」

 握手を交わした後、彼は地面を力強く蹴ってバンクーバーのダウンタウンへと消えていった。その姿を見送りながら、ビールを一口飲んだ。

嬉しそうな少年の顔を見て、僕も嬉しくなる Photo: Kensuke KUMAGAI嬉しそうな少年の顔を見て、僕も嬉しくなる Photo: Kensuke KUMAGAI

 スタートした時間が遅かったために、結局、今回の“客”はスケートボードの少年のみだった。それでも僕は色々な気付きを得たことに満足していた。こちら側から動かなければ相手の壁を低くすることはできない。思いつきの企画であったが、なんでもやってみるものである。ビールを飲み終え、兄ちゃんにお礼を言って自転車を押しながら帰路へついた。

 次は、空気入れを無償で貸し出す「フリーポンプ」も、ありかもしれない。

熊谷 賢輔(くまがい・けんすけ)熊谷 賢輔(くまがい・けんすけ)

1984年、横浜生まれ。法政大学文学部英文学科を卒業後、東京3年+札幌3年間=6年間の商社勤務を経て、「自転車で世界一周」を成し遂げるために退社。世界へ行く前に、まずは日本全国にいる仲間達に会うべく「自転車日本一周」をやり遂げる。現在はフリーライターの仕事をする傍ら、3年をかけて自転車世界一周中。
オフィシャルサイト「るてん」 http://ru-te-n.com/

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