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つれづれイタリア~ノ<64>「同じ釜の飯」で家族のように NIPPO・ヴィーニファンティーニのイタリア合宿に潜入<前編>

by マルコ・ファヴァロ / Marco FAVARO
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 1月にイタリアで行われたUCI(国際自転車連盟)プロコンチネンタルチーム「NIPPO・ヴィーニファンティーニ」の合宿に参加してきました。このチームは日本とイタリアのスポンサーからサポートを受けている初のプロチームです。スタッフ、選手ともに日本人とイタリア人で構成されており、以前からイタリアと日本の両方の精神を持つこのチームに強い関心を持っていました。今回の合宿取材を通じ、このチームの魅力、そしてまったく違って見えるイタリアと日本の文化をどう調和させ、チームを作り上げているのかを2回に分けてお伝えしていきます。同チームのファンだけでなく、自転車スポーツのファンも増えてくれれば嬉しいです。

今年初ライドの選手たち Photo: Marco FAVARO今年初ライドの選手たち Photo: Marco FAVARO

2年連続でジロ出場へ

 ロードレースチームにはUCIがチームの財政面、倫理面、そして獲得UCIポイントを基準に決めている所属カテゴリーがあります。新城幸也が所属しているランプレ・メリダやファビアン・カンチェッラーラが所属しているトレック・セガフレードは、ファーストカテゴリーである「ワールドチーム」に属します。経済的に恵まれ、強い選手を持ち、結果として自動的にトップレベルのレースに参加できます。これは全世界で18チームしかありません。

新しいロゴに日本語が光る Photo: Marco FAVARO新しいロゴに日本語が光る Photo: Marco FAVARO

 NIPPO・ヴィーニファンティーニは、その下のカテゴリーに属します。「Professional Continental Team」といい、日本では「プロコンチネンタルチーム」、イタリアでは「プロフェッショナル」と呼ばれています。「コンチネンタル」とは大陸のこと。アフリカ、アメリカ、アジア、オセアニア、ヨーロッパの5つの大陸にそれぞれの強いチームが存在しますが、ワールドチームと同様に数が少なく、世界でなんと23チームのみ。ほとんどがヨーロッパに集中し(19チーム)、アジアでは、まだゼロです。

 そして最後に「コンチネンタルチーム」というカテゴリー。チーム数は一気に多くなり、今シーズンは世界で160チームほどが登録されています。日本では、愛三工業レーシングチーム、ブリヂストンアンカーサイクリングチーム、宇都宮ブリッツェンなど、現在9チームあります。予算規模は劣るとはいえ、ワールドチームと同様に国際的な監査法人「アーンスト・アンド・ヤング」からUCIルールに適合した年間予算管理の厳正な審査が必要になります。

 ワールドツアー上位チームの平均予算は、日本円にして約20億円。プロコンチネンタルチームは3~6億円弱(昨年のヨーロッパカー)。コンチネンタルチームは国によって千差万別ですが、基本的に選手の最低給与の規定がないので1000万円規模のチームも少なくありません。

ジロ・デ・イタリア2015 チームNIPPO第1ステージ チームタイムトライアルのスタート台に立った石橋学(左) ©NIPPO Vini Fantiniジロ・デ・イタリア2015 チームNIPPO第1ステージ チームタイムトライアルのスタート台に立った石橋学(左) ©NIPPO Vini Fantini

 プロコンチネンタルチームの最大の特徴は、グランツールに参加するチャンスがあることです。オーガナイザーからの招待があれば、ジロ・デ・イタリアやツール・ド・フランスなどに参加できるのです。NIPPO・ヴィーニファンティーニ・デローサは、昨年に続き今年もジロ・デ・イタリアへの切符を手に入れました。つまり、非常に期待されているチームといえるでしょう。

深夜便出発で時差ボケ対策

 さて、合宿の話をします。まず東京・羽田空港から深夜便に乗って、ドバイ経由でイタリアに向かうことになりました。同便で何人かの選手たちに会いました。羽田―ドバイ(12時間)、ドバイ―ローマ(7時間)。かなり長時間のフライトで、選手たちにとって大きな負担のでは?と心配になりましたが、自分でこのフライトを体験してからその利便性がわかりました。深夜便のメリットは、機内で比較的すぐに寝られることです。体を休めることができるため、ローマに到着した時点で時差ボケの影響が思ったより少なかったのです。世界中を飛び回るチームならでの知恵ですよね。

 今回の合宿の本拠地は、アブルッツォ州ペスカーラ近郊のビジネスホテルです。ローマから高速バスで2時間半。ホテルにはほぼ選手全員、メカニック、スタッフを始め、スポンサー、イタリア国内外のメディア関係者が多く集まり、まるでジロ・デ・イタリアのステージに来ているような賑わいで、活気にあふれていました。今シーズン、同チームにはレース現場の運営スタッフが3グループの体制で臨んでおり、スタッフだけで30人近くが働いています。

生活のすべてがプログラム

 1月上旬、イタリアも暖冬でした。強い海風と極寒で有名なアブルッツォ州ですが、例年になく朝から春を思わせる暖かさで、雪不足でゲレンデは営業停止でした。日本と違うのは日の出、日没の時間です。1月のイタリアは朝7時にならないと太陽が昇りません。その代わりに夕方は遅く、トレーニングには好条件といえます。

雪の少ないイタリアの冬 Photo: Marco FAVARO雪の少ないイタリアの冬 Photo: Marco FAVARO
選手たちの朝ごはん Photo: Marco FAVARO選手たちの朝ごはん Photo: Marco FAVARO

 朝ごはんから、選手たちとその他のメンバーとは大きな違いがありました。選手たちには特別のテーブルが用意され、その上にサプリメント、ビタミン、プロテインの入れ物が置いてありました。そして欠かせないのが「ブレザオラ」です。ブレザオラとは、イタリアで注目されている生ハムの一種。原料は牛肉、ワインとスパイス。高タンパク質かつ低脂肪で、プロアスリートにぴったりのフードです。

大きなプロテインが置かれています Photo: Marco FAVARO大きなプロテイン Photo: Marco FAVARO
中央がブレザオラ Photo: Marco FAVARO中央がブレザオラ Photo: Marco FAVARO
乳糖なしの生牛乳と豆乳 Photo: Marco FAVARO乳糖なしの生牛乳と豆乳 Photo: Marco FAVARO

 朝食が終わったら、メディカルチェックと自転車のポジショニングチェックに臨みました。

整体師のチェックを受ける石橋選手 Photo: Marco FAVARO整体師のチェックを受ける石橋選手 Photo: Marco FAVARO

 メディカルチェックでは、筋肉の成長具合、体の歪み、柔軟性、自転車に乗った時の姿勢を徹底的に解析し、調べます。チーム所属のドクターとトレーナーは1人当たり30分以上をかけて検査。問題があった場合のみ、整体師も体に触りながら歪みの原因を探っていきます。

ドクターチェックを受ける石橋学 Photo: Marco FAVAROドクターチェックを受ける石橋学 Photo: Marco FAVARO
ポジションをチェックしてもらう石橋学 Photo: Marco FAVAROポジションをチェックしてもらう石橋学 Photo: Marco FAVARO

 午後は各選手のバイクチェックと試走が行われ、いよいよ本格的にチーム練習が始動します。

今年初ライドの選手たち Photo: Marco FAVARO今年初ライドの選手たち Photo: Marco FAVARO

 夕食は20時ぐらいからと意外に遅いです。そして食事が終わると、チームトレーナーのジャンニ・テンドラ氏とのミーティングが続きます。各選手のトレーニングメニューを決める上で、必要なデータ管理やウォーミングアップの仕方など細かい指導が行われ、さらに代表的な選手のデータを見ながら、トレーニングにおけるパワーの変化について説明されます。生のデータだけあって、選手達は真剣な眼差しで映像を見つめていました。

 初日の合宿は23時に終了。内容が濃厚で、あっという間に終わりました。

チームの信頼形成に欠かせない合宿

 チームはライダーを含め、多くのスタッフに支えられています。チームマネージャー、監督、ドクター、メカニック、マッサー、メディア担当などがいます。

メカニックも初仕事です Photo: Marco FAVAROメカニックも初仕事です Photo: Marco FAVARO

 このチームは、イタリア人のほかに多くの日本人が活躍しています。監督(2人)、選手(4人)、メカニック(3人)、マッサー(1人)、広報担当(1人)。人間としてそれぞれ性格が違う上に、さらに言語、文化の壁がコミュニケーションを難しくしています。しかし、ここでステファノ・ジュリアニ監督が、選手としての経験に基づいた巧みな指導力を発揮し、チームの一体感を生み出しています。

メカニックの宝箱1(入れ物は25年前の戦友) Photo: Marco FAVAROメカニックの宝箱1(入れ物は25年前の戦友) Photo: Marco FAVARO

 全員が親交を深めるチャンスともいえる合宿を、ジュリアノ氏はレース同様、あるいはそれ以上に重視しています。合宿でしか互いの顔や性格を知る機会がなく、ここで信頼関係を育まなければダメだと選手やスタッフたちに伝えていました。

 ジュリアニ監督は言葉の壁を非常に気にしていました。食卓ではなるべく携帯電話を使わずに、皆が互いの顔を見て話すことに注意を払い、イタリア語があまり得意ではない日本人選手に対して外国語の大好きなイタリア人選手を一緒に組ませたり。バーで一緒にアペリティーボ(食前酒)を飲んだり、時には皆でクラブに遊びに行ったりすることもありました。

選手用のパニーニ作り。エネルギーバーとの併用が好まれます Photo: Marco FAVARO選手用のパニーニ作り。エネルギーバーとの併用が好まれます Photo: Marco FAVARO

 確かに日本人選手にとって、不慣れなイタリア語での会話は大変です。しかしイタリア人選手はその大変さを次第に理解し、支えあう姿勢が見えてきました。

 実は、メカニックの西勉さん、福井響さんと大西恵太さんは驚くほどイタリア語が達者で、イタリア人も黙ってしまうほど会話できます。そのような日本人スタッフが選手を支えることで、選手たちも安心して活動できます。

 ジュリアニ監督は、意思疎通を図るためにはどんな手段も有効だと言っています。チームは家族であり、同じ釜の飯を食べることで信頼関係が生まれ、互いに支えあえるようになっていきます。

<後編へ続く>

マルコ・ファヴァロMarco FAVARO(マルコ・ファヴァロ)

イタリア語講師。イタリア外務省のサポートの下、イタリアの言語や文化を世界に普及するダンテ・アリギエーリ協会で、自転車にまつわるイタリア語講座「In Bici」(インビーチ)を担当する。サイクルジャージブランド「カペルミュール」のモデルや、Jスポーツへ「ジロ・デ・イタリア」の情報提供なども行なう。東京都在住。ブログ「チクリスタ・イン・ジャッポーネ

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