高度な技術を生かし人に優しいバイクを開発アーチェリーと自転車を結んだ意外な共通点 「ウィアウィス」技術顧問・西井匠さんに聞く

by 米山一輝 / Ikki YONEYAMA
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 韓国のスポーツブランド「WIAWIS」(ウィアウィス)のスポーツ自転車が日本に上陸する。競技アーチェリーの弓の市場では世界シェア約60%を誇るトップブランドだ。弓の製造で培った独自のカーボン技術を生かした自転車は、しなやかさが特徴という。その開発に深く関わったのが、三重県多気町の「地域資源バンクNIU」の西井匠さんだ。1月27日に都内で開かれた発表会で、西井さんに開発の経緯を聞いた。

ウィアウィスのスポーツバイク開発に技術顧問として携わった西井匠さん。日本国内での販売も手がける Photo: Kenta SAWANOウィアウィスのスポーツバイク開発に技術顧問として携わった西井匠さん。日本国内での販売も手がける Photo: Kenta SAWANO

キーワードは「振動吸収」

ウィアウィスの弓も展示会場に置かれた。ほとんどの部品がカーボン製だという Photo: Kenta SAWANOウィアウィスの弓も展示会場に置かれた。ほとんどの部品がカーボン製だという Photo: Kenta SAWANO

 西井さんは、2008年北京五輪で日本代表のマウンテンバイク(MTB)チーム監督や、2010、2014年のユースオリンピック日本代表チーム監督を歴任し、現在もMTB日本代表ヘッドコーチを務める、自転車業界では知る人ぞ知るキーパーソンだ。体育学博士の知見を生かし、さまざまな分野で活動する西井さんが、ウィアウィスの自転車プロジェクトに加わるきっかけは、運命的な偶然の積み重ねだった。

 中京大学の大学院時代、自転車競技のバックボーンを生かして、MTBと競技力に関する研究を行っていた西井さん。所属していた研究室が2002年末、静岡県アーチェリー連盟から、競技力向上のために科学的サポートを導入したいと相談を受けたことで、アーチェリーの世界と関わることになった。競技的な感覚を肌で理解して選手と話したいと考え、自身も競技アーチェリーに数年間没頭しながらサポートした結果、静岡県成年女子チームは2006〜2008年に前人未到の国体3連覇という成果を残した。

弓を構える西井さん。未経験者は弦を一杯に引くことも難しいという Photo: Kenta SAWANO弓を構える西井さん。未経験者は弦を一杯に引くことも難しいという Photo: Kenta SAWANO

 全く異なる競技に見える自転車とアーチェリーだが、トップレベルの競技の現場では、意外な共通するキーワードがあった。それが「振動吸収・しなり」だ。アーチェリー競技は、弓をしならせて70m先の的に向けて矢を放つが、的の最高得点部分は直径わずか12cm(CDとほぼ同等)。弓を射る瞬間にコンマ数ミリのずれが生じると大きな差になってしまうため、振動のコントロールは弓の開発における最も重要なテーマなのだ。

アジア選手権で金メダル獲得

 2013年冬、ウィアウィスを製造するWIN&WIN(ウィンアンドウィン)社から西井さんに、自転車の開発協力の要請が舞い込んだ。弓の製造で培ったカーボン技術を生かし、スポーツ自転車への進出を目指していた同社に、国内のアーチェリー関係者が「それなら西井さんが」と紹介したのだ。

カーボン地が印象的な「Assassin」(アサシン、フレーム&フォーク税抜31万9800円) Photo: Kenta SAWANOカーボン地が印象的な「Assassin」(アサシン、フレーム&フォーク税抜31万9800円) Photo: Kenta SAWANO

 技術顧問として開発に関わるなかで、西井さんが一つの方向性として打ち出したのが、美しい外観と快適性を最新素材で両立するバイクだ。西井さんは普遍的な細身のフレームを実現するにあたって、アーチェリーで培った異素材を複合させる技術のひとつ、「S-CORE」(エスコア)の導入を提案。「カーボンだけのバイクならどこにでもある。アーチェリーの特徴を引き出すにはどうすればいいか考えた」と、同社のバックボーンを生かした自転車を提案していった。

アジア選手権の男子ジュニア・スプリントの決勝は、韓国勢同士の戦いに。前を走る選手はウィアウィスのトラックレーサーを使用している =1月30日、静岡県伊豆市の伊豆ベロドローム Photo: Sonoko TANAKA / ACC 2016アジア選手権の男子ジュニア・スプリントの決勝は、韓国勢同士の戦いに。前を走る選手はウィアウィスのトラックレーサーを使用している =1月30日、静岡県伊豆市の伊豆ベロドローム Photo: Sonoko TANAKA / ACC 2016

 ウィアウィスの自転車は2014年に韓国国内で発売され、ユーザーの支持を集めているほか、競技面でも実績を重ねている。2016年1月に静岡県伊豆市の伊豆ベロドロームで行われたアジア選手権トラック競技では、ウィアウィスの競技用バイクに乗った選手達により複数の金メダルを獲得した。ロードフレームの軽量モデルは、フレーム単体重量で620gという驚異の軽さを誇る。

超軽量ロード「CUL6」(カルシックス、フレーム&フォーク税抜44万9800円)。ナノカーボン技術によりフレーム単体620gという超軽量を実現 Photo: Kenta SAWANO超軽量ロード「CUL6」(カルシックス、フレーム&フォーク税抜44万9800円)。ナノカーボン技術によりフレーム単体620gという超軽量を実現 Photo: Kenta SAWANO

 「しなり」を売りにする自転車フレームは少なくないが、西井さんは「われわれ(アーチェリーの分野)からすると、しなるのは当たり前。しなったところから、いかに矢をまっすぐ押し出すか、そのためにはしなったところから綺麗に戻すことが生命線」と語る。繊細な弓の製造で培った「しなり」と「戻し」の技術が、ウィアウィスのバイクには大きく生かされているという。

テクノロジーの恩恵を人間に

 西井さんが所属する「地域資源バンクNIU」は、農山村地域の未活用の資源を新しい流通で再編する取り組みを行うベンチャー企業だ。多気町の常設MTBコース「勢和の森マウンテンバイクコース」のプロデュースも行う。

 「これまで山と言えば木とか作物とか、上物しか資源でなかったけど、われわれサイクリストからすれば道も資源。これを有効活用すれば、村にも人が来るんじゃないか」と話す西井さん。コースには大会の開催もふくめ、年間約3000人の来場者を集めている

クリームとカーボンのツートンカラーが目を引く「Liberty」(リバティー、フレーム&フォーク税抜31万9800円)。日本向けのリバティーとアサシンは、本国向けとはカラーリングが微妙に異なるという Photo: Kenta SAWANOクリームとカーボンのツートンカラーが目を引く「Liberty」(リバティー、フレーム&フォーク税抜31万9800円)。日本向けのリバティーとアサシンは、本国向けとはカラーリングが微妙に異なるという Photo: Kenta SAWANO

 NIUの仕事ではコンサルタントのように様々な事業に関わるが、ウィアウィスに関しては「まさか自転車を売るとは」と西井さん自身も驚いているという。取り組みは始まったばかりで、販売戦略も白紙の部分が多いが、「でも楽しいじゃないですか。正直言ってこれ(リバティーとアサシン)は西井匠モデルですから」と声を弾ませる。素材の組み合わせなどの設計面だけでなく、デザインやカラーリングにも西井さんのこだわりを反映させているという。

 高級セダンを意識したという設計は、美しいルックスや抜群の快適性だけでなく、レースバイクに匹敵する走行性能も兼ね備えることを意味している。「最終的にテクノロジーの恩恵を受けるのは人間」と語る西井さん。ただ剛性や軽さを追及するのではなく、人に優しいトータルで良質な走りをウィアウィスに結実させた。

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