MTBジャパンシリーズ DH第5戦・ウイングヒルズ“現役ライダー”の意地が炸裂! 井手川直樹がウイングヒルズを制しシリーズチャンピオンを獲得!

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 国内MTBレースシーンも後半戦、今年のシリーズランキングの行方は今季2勝を挙げる井手川直樹(Devinci/SUNSPI.com)と、こちらも2勝の清水一輝(AKI FACTORY TEAM)の事実上一騎打ちとなっていた。レバノンで開催されるアジア選手権に参戦する清水は、最終戦の白山一里野大会には出走する事ができない。ここウイング大会では予選ポイントを含めて、最大限のポイントを上積みしておきたいところだ。一方の井手川は秋の富士見大会終了時点でポイントランキング首位をキープしており、清水との直接対決に勝ってシリーズチャンピオンを獲得する意気込みでこの大会に挑んだ。

 予選2位から決勝に挑んだ井手川は自身の予選タイムを5秒以上縮める気迫の走りで優勝。2位には先日の富士見大会で久しぶりの表彰台に上がった永田隼也(A&F/RockyMountain)、3位には今大会から現役復帰となった安達靖(DIRTFREAK/SARACEN)が入った。安達は前評判通りの仕上がりで予選をトップ通過し、いきなりの表彰台とインパクト十分な復帰レースとなった。

勝利が決まった直後、力強く人差し指を立てる井手川直樹。いつも以上にプレッシャーのかかる戦いだった勝利が決まった直後、力強く人差し指を立てる井手川直樹。いつも以上にプレッシャーのかかる戦いだった

最大のライバルの復帰

 今大会の大きな話題の1つは安達靖の現役復帰だろう。国内MTBレース史上初の3冠(全日本選手権優勝、Jシリーズランキング1位、ナショナルランキング1位)を達成し2010年に引退した安達は、井手川、内嶋亮(現在はダイナコの代表としてレース運営に携わる)と共に3強と言われる一時代を築いたトップライダーであり、井手川とは長年に渡って名勝負を繰り広げてきたライバルである。決勝が終わるまでに井手川の口から安達の名前が出る事は一切無く、周囲に緊張感を生む程のレース展開は、観客にとっても大きな見所となったのは間違いないだろう。

うっすらと朝日がさす中、朝の試走をする井手川直樹。すっかり秋の気候となっているウイングヒルズでは夜露が酷く、コンディションは時間によって激しく変化したうっすらと朝日がさす中、朝の試走をする井手川直樹。すっかり秋の気候となっているウイングヒルズでは夜露が酷く、コンディションは時間によって激しく変化した
今大会から現役復帰となった安達靖。以前から得意としているウイングヒルズで現役時代と何ら変わりのない強烈な走りを披露した今大会から現役復帰となった安達靖。以前から得意としているウイングヒルズで現役時代と何ら変わりのない強烈な走りを披露した
秋の富士見大会で久しぶりに表彰台に上がった永田隼也。ペダリングが重要なポイントとなったこのコースで2位。足の怪我はずいぶんと良くなっているようだ秋の富士見大会で久しぶりに表彰台に上がった永田隼也。ペダリングが重要なポイントとなったこのコースで2位。足の怪我はずいぶんと良くなっているようだ
今大会も優勝し、今季5連勝の末政実緒。試走初日はゴンドラにトラブルが発生した影響でタイムスケジュールが1時間遅れ、タイムドセッションの頃には夕日が差していた今大会も優勝し、今季5連勝の末政実緒。試走初日はゴンドラにトラブルが発生した影響でタイムスケジュールが1時間遅れ、タイムドセッションの頃には夕日が差していた

ウイングヒルズが目指すJシリーズの新しいかたち

 今大会におけるコース設定もまた多くの話題を呼んだ。レース前に発表されたコースレイアウトは、初心者コースを使うペダリング中心のもの。これには多くの関係者から疑問の声が上がった。

 国内最高峰のレースであるJ1大会で初心者コースを使うとはどういう事なのか。またウイングヒルズには過去の大会において多くのドラマを生んだ難易度の高い常設上級コースがあるのになぜ? そして難易度を下げるなら下位カテゴリーであるJ2やJ3大会でやるべきでは? といった意見だ。

 しかし一方で、レベルの最も高いエリートクラスの競技者が約60名に対して、続くエキスパート、スポーツクラスの競技者合計が約100名しかいないという現実がある。今年のスケジュールではJ2のレースは開催無し、J3は1大会のみとなり、DHのカテゴリー制は空洞化が進んでいるというのが実情だ。

 今回運営サイドは、これからレースを始めようという初心者でも走破できるコースを用意した。「Jシリーズまではちょっとまだ…」というライダー層でもエントリーしやすい大会が必要だという考えだ。

表彰式終了後、今回のコースセッターである丸山氏を囲み談笑する井手川と永田。元トップエリートである丸山氏にとって、多くのライダーから寄せられた今回のコースに対する意見は嫌という程わかっているはずで、開催期間中はライダーと会話する姿はほとんど見られなかった。しかし、レースは最終的に素晴らしい熱戦となり、歴史に残る大会となったように思う。ウイングヒルズ側の新しい試みはスタートしたばかりだ表彰式終了後、今回のコースセッターである丸山氏を囲み談笑する井手川と永田。元トップエリートである丸山氏にとって、多くのライダーから寄せられた今回のコースに対する意見は嫌という程わかっているはずで、開催期間中はライダーと会話する姿はほとんど見られなかった。しかし、レースは最終的に素晴らしい熱戦となり、歴史に残る大会となったように思う。ウイングヒルズ側の新しい試みはスタートしたばかりだ

 結果的に今回設定されたコースは、難易度の高いセクションが無い代わりにハイスピードな高速サーキットと化し、トップエリート達の白熱した戦いを見る事ができた。また、ペダリングを持続するフィジカルやフラットな高速コーナーを駆け抜ける技術など、基本的なライディングスキルを問われるコースだったと言えるだろう。

 運営側が今回示した方向性は1年、2年では結果が見えてこないかもしれないが、数年後の競技者人口増加に向けての新しい試みである。これからMTBレースを始めてみたい、もう少しステップアップしたいというライダー諸君は、来季のJシリーズにおけるウイングヒルズからのアナウンスにぜひ注目して欲しい。

このレースから新しいバイクを投入した青木卓也。フラットコーナーのインぎりぎりを攻めるこのレースから新しいバイクを投入した青木卓也。フラットコーナーのインぎりぎりを攻める
ウッドチップの深い轍を走る九島勇気。普段はフラットペダルを使用する九島だが、ペダリングを意識してSPDペダルを使っているウッドチップの深い轍を走る九島勇気。普段はフラットペダルを使用する九島だが、ペダリングを意識してSPDペダルを使っている
秋に開催されるウイングヒルズ大会の象徴とも言えるススキの中を走る中川弘佳秋に開催されるウイングヒルズ大会の象徴とも言えるススキの中を走る中川弘佳
予選4位、決勝5位と好走した小山航(BANSHEE)。重いウッドチップの中、ジャンプを織り交ぜながら走る予選4位、決勝5位と好走した小山航(BANSHEE)。重いウッドチップの中、ジャンプを織り交ぜながら走る

 コースはゴンドラ山頂駅舎から少し下ったところからスタートし、平坦なゲレンデを進み左にカーブしてジープ道へ。ゴンドラからよく見えるペダリングセクションからウッドチップゾーン、レストハウスLOOKの横を通過しゲレンデを直進、センターハウス前に設置されたゴールへと駆け下りるレイアウト。

 全クラスが同一コースで開催された事によって路面の変化が激しく、特に柔らかいウッドチップゾーンは深く掘れたラインが複数発生し、減速要素となった。シングルトラックや急斜面のセクションが無い代わりに、幅の広いコースではライン選択の自由度が高く、また全体を通してペダリングを求められるレイアウトは決勝に体力を温存する戦略も必要。各ライダーは限られた試走時間の中で、ベストなラインを見極めつつ、どこまで漕げるのかを想定しつつ予選を迎えた。

 午前中に開催された予選でトップタイムをマークしたのは安達靖。2位の井手川に2秒差をつけてのトップ通過は2年のブランクを感じさせず、「まさかこのまま勝ってしまうのでは…」という空気が会場を包んだ。予選3位には永田が入り、足の怪我からの完全復調を感じさせる結果となった。

女子若手の成長株の一人である中川綾子。今回は4位で惜しくも表彰台には届かなかった女子若手の成長株の一人である中川綾子。今回は4位で惜しくも表彰台には届かなかった
ゴンドラ乗車の列に並ぶ参加者。ウイングヒルズのゴンドラは一人乗車でバイクと共に乗り込むゴンドラ乗車の列に並ぶ参加者。ウイングヒルズのゴンドラは一人乗車でバイクと共に乗り込む
九州を代表するエリートライダーとしてJシリーズに参戦している本村貴之(DELSOL/CLEAT)。予選12位、決勝15位でレースを終えた九州を代表するエリートライダーとしてJシリーズに参戦している本村貴之(DELSOL/CLEAT)。予選12位、決勝15位でレースを終えた
スタート直後のフラット区間。奥にはゴンドラ山頂駅舎が見えるスタート直後のフラット区間。奥にはゴンドラ山頂駅舎が見える

 決勝では予選5位の青木卓也(TEAM GIANT)が、安達の予選タイムを上回る3:34.589の好タイムで暫定トップに立つ。それを永田が2秒更新しホットシートへ。しかし今度は井手川が明らかに速いタイミングで最後のゲレンデセクションに現れて永田のタイムをコンマ3秒更新、残る安達を待つ事になる。最終走者の安達も凄まじい勢いで最終セクションに姿を現したが、井手川、永田のタイムには及ばず、復帰戦は3位となった。

 井手川とのシリーズチャンピオン争いが注目された清水は転倒で29位に終わり、最終戦を待たずに井手川のチャンピオン獲得が決まった。

 女子は末政実緒(FUNFANCY/INTENSE)が他を圧倒する走りで、今季Jシリーズ全勝となる5勝目を挙げて女子シリーズチャンピオンを獲得した。2位には中川弘佳(RingoRoad.com)、3位には若手の注目株である九島あかね(KHS)が入った。

アグレッシブな走りの浦上太郎は決勝の最終コーナーで激しく転倒、ディレイラーハンガーが折れてしまったアグレッシブな走りの浦上太郎は決勝の最終コーナーで激しく転倒、ディレイラーハンガーが折れてしまった
秋の富士見大会から新型のバイクを投入した永田隼也。成績が示す通り、すでに十分な乗り込みができているようだ秋の富士見大会から新型のバイクを投入した永田隼也。成績が示す通り、すでに十分な乗り込みができているようだ
GIANT陣営も今大会から新型のGLORYを用意した。ヘッドアングルとジオメトリーに変更があり、旋回性能が向上しているというGIANT陣営も今大会から新型のGLORYを用意した。ヘッドアングルとジオメトリーに変更があり、旋回性能が向上しているという
安達靖の駆るSARACENにはKYBのフロントフォーク(プロトタイプ)が装着される安達靖の駆るSARACENにはKYBのフロントフォーク(プロトタイプ)が装着される

井手川直樹「(現役復帰した安達の事は)そりゃあ意識してましたよ。現役としていきなり負けるわけにはいかないでしょう。コースや運営サイドにもずいぶん意見してましたし、絶対に勝ちたい、勝たなければいけないレースでした。意地を見せる事ができてホッとしましたね」

永田隼也「(井手川とのコンマ3秒差に)うーん、悔しいですね! 2位は嬉しいですけど、やっぱり勝ちたかったですね」

安達靖「キツいレースでした。決勝はもう息も上がっちゃって、体力の無さを痛感しました。やっと(レースに)戻ってきたっていう実感はあります。来シーズンに向けての課題も見えてきたし、自分でもこれからが楽しみです」

表彰台に上がる井手川、永田、安達。安達の現役復帰でトップエリートの勢力図に大きな変化が生まれるのは間違いないだろう表彰台に上がる井手川、永田、安達。安達の現役復帰でトップエリートの勢力図に大きな変化が生まれるのは間違いないだろう
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世代交代の波を押し戻したベテラン勢の活躍

 昨シーズン、Jシリーズと全日本選手権の勝者は10代の若手が占め、長くシーンをリードしてきたベテラン勢に変わる次世代の勢いは明らかなものだった。

 しかし、夏の間カナダ、ウィスラーに遠征するなど海外志向を強めた井本はじめ(LOVE BIKES)や九島勇気(玄武/Ninjya TV)といった若手は今年のJシリーズでは結果を出せず、野沢温泉やウイングヒルズといった、新しいレイアウトを採用したコースへの順応に課題を残した。

 今大会で優勝しシリーズチャンプを決めた井手川や、現役復帰した安達、足の怪我からの復調をアピールした永田などの活躍によって、Jシリーズは3シーズン前の勢力図を思い出させる展開だ。このまま黙ってはいないであろう若手勢力の巻き返しはあるのか。最終戦、白山一里野大会は、またしても今年初開催の新設コースで開催される。

表彰式での「来年は1番つけて走ります!」という井手川のコメントに多くの観客が拍手を送った表彰式での「来年は1番つけて走ります!」という井手川のコメントに多くの観客が拍手を送った
ウイングヒルズには特殊な人工芝を使用したサマーゲレンデがあり、雪の無い時期でも多くのスキー、スノーボードファンが訪れる。そのすぐ右手にはダウンヒルコースがあり、ゲレンデハウスからは両方のコースが良く見渡せるウイングヒルズには特殊な人工芝を使用したサマーゲレンデがあり、雪の無い時期でも多くのスキー、スノーボードファンが訪れる。そのすぐ右手にはダウンヒルコースがあり、ゲレンデハウスからは両方のコースが良く見渡せる

男子エリート結果
1 井手川直樹(Devinci/SUNSPI.com) 3:32.246
2 永田隼也(A&F/RockyMountain) +0.343
3 安達靖(DIRTFREAK/SARACEN) +1.727
4 青木卓也(TEAM GIANT) +2.343
5 小山航(BANSHEE) +3.250
6 和田良平(RingoRoad.com) +4.237

女子エリート結果
1 末政実緒(FUNFANCY/INTENSE) 3:55.726
2 中川弘佳(RingoRoad.com) +9.121
3 九島あかね(KHS) +9.327

(文・写真 中川裕之)

中川裕之中川裕之(なかがわ ひろゆき)
’06年、大きな病気を乗り越える課程で写真を撮り始める。
’11年からは活動の場を海外に広げ、山の中を走る自転車レースを追いかけている。
MTBのコアな部分にフォーカスした雑誌SLmの発行人。
http://www.slmedia.jp/slm-mtbphotojournal/

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