人気拡大「もはやトレンドではない」ソーシャルメディア時代にフィット シクロクロス“仕掛け人”棈木亮二氏・矢野大介氏対談<後編>

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チャンピオンシステムの棈木亮二社長(左)とラファ・ジャパンの矢野大介代表 Photo: Kenta SAWANOチャンピオンシステムの棈木亮二社長(左)とラファ・ジャパンの矢野大介代表 Photo: Kenta SAWANO

 国内シクロクロス大会で圧倒的な動員数を誇る「シクロクロス東京」の主催者、チャンピオンシステムジャパンの棈木(あべき)亮二社長と、国際自転車競技連合(UCI)登録レース「ラファ スーパークロス野辺山」を主催するラファ・ジャパンの矢野大介代表による対談。<前編>では2つの大会が創設された経緯を聞いたが、「実はお互いどう思っているの?」という率直な質問をきっかけに、話はさらなる展開へ。切磋琢磨しながら成長を続ける2人のリーダーの視点から、日本のシクロクロス界が目指すべき方向性が見えてきた。(聞き手 Cyclist編集長・上野嘉之、編集 後藤恭子)

←<前編>アメリカの盛り上がりを日本へ

刺激し合える“ライバル”

──お二人が、お互いのレースをどう見ているのか伺います。まず矢野さん、お台場でレースが立ち上がると聞いたときはどう思いましたか?

エリートのスタートシーン。ジェレミー・パワーズ(左)と竹之内悠(右)(シクロクロス東京2013)エリートのスタートシーン。ジェレミー・パワーズ(左)と竹之内悠(右)(シクロクロス東京2013)

矢野:すごく良いと思いました。ただ、最初は「お台場」のタイトルを使ってほしかったとは思いました。「東京」を使っちゃったら、「東京」を代表することになるので。いつかは東京でシリーズができたらと思っていたから、そう思うと(シクロクロス東京は)ずいぶん欲張ったなぁって(笑)。まぁでもお台場だし。都心部なんで間違ってはいないんですけど。

棈木:海外向けにね。「東京」というワードがないとわからないかなって(笑)

矢野:米国に行くと海外の選手たちから「日本のレースに行きたい」といわれるんです。でも、大体「東京」の名をあげるんです。そういうときは悔しいし、「東京」のブランド力の強さを痛感します。でも「どうしたら(野辺山が)東京に対してブランドインパクトを強く出せるか」というモチベーションにもなります。良い意味でライバルです。

──「シクロクロス東京」はショーレースという目的が明確ですね。

バイクに乗ったままシケインを越えるジェレミー・パワーズに観客から歓声があがる(シクロクロス東京2013)バイクに乗ったままシケインを越えるジェレミー・パワーズに観客から歓声があがる(シクロクロス東京2013)

矢野:野辺山では絶対に実現できないことが、東京では可能です。動員数も到底かなわない。ただ、カテゴリー1の質は同レベルだと思っています。日本で一番見ごたえのあるレースは野辺山なのか東京なのか、はたまた全日本選手権か、というレベルで拮抗していると思います。

棈木:ちなみに今年のシクロクロス東京は「Jスポーツ」がライブ中継をするんですよ。

──ええっ!!

「シクロクロス東京2015」で大会2連覇を飾ったザック・マクドナルド。ゴール後ファンとハイタッチ「シクロクロス東京2015」で大会2連覇を飾ったザック・マクドナルド。ゴール後ファンとハイタッチ

棈木:「Jスポーツオンデマンド配信」なんですが、10台のカメラで世界選手権並みに選手を追うんです。会場でレースを観ていても中継を楽しめるし、会場に来られない人にも伝えられます。

矢野:これはけっこうショックでしたよ(苦笑)。テレビを呼ぶのは野辺山でもできることだし、そこは「やられた!」と思いました。テレビ中継の有無でスポンサーの反応も違います。自転車業界の外のスポンサーを集めたかったらなおのこと。野辺山はUCIレースというステータスをもっていますが、そういう意味ではテレビ中継もステータスです。

「スターライト幕張」をUCIレース化

── 一方で東京よりも1年早く始まった“先輩”の野辺山を、棈木さんはどうご覧になっていますか?

泥だらけのコースで会心を見せるジョエーレ・ベルトリーニ(野辺山シクロクロス2014)泥だらけのコースで会心を見せるジョエーレ・ベルトリーニ(野辺山シクロクロス2014)

棈木:あまり言いたくないですけれど、カッコいいです(笑)。東京はショーレースを地で行っているので、カッコ良さというよりもお祭り的なイメージが強い。大会のブランドイメージもちゃんとしないと…とは思ってはいるんですが、まぁそこはこれからです(笑)

 背中を追うという意味では、UCIレースの登録があります。シクロクロス東京は世界規模の看板を背負っていながら、実はUCIレースではないんです。

 米国はUCIレースを数年前から始めたばかりにも関わらず現在45レースの登録があり、ベルギーの次に多い状況です。一方、日本はこんなにレースを開催しているのに、まだ、野辺山の2日間のレースと猪苗代湖(福島県)、マキノ高原(滋賀県)の4つだけ。シクロクロス界を盛り上げるためにも、シクロクロス東京や、(同じチャンピオンシステムが主催する)「スターライト幕張」がUCIレース化しなければならないことはわかっています。

お台場名物、砂のコース(シクロクロス東京2013)お台場名物、砂のコース(シクロクロス東京2013)

 ただ、東京はコースが短くて、総距離2.5km以上というUCIの基準を満たせないんです。砂のコースを伸ばすことはできますが、それではおもしろくない。コース延長は(大会運営費の)コスト的にも厳しい。一方でスターライト幕張はコース延長が可能です。UCI申請は目指していて、今回は自治体との絡みもあって見送ったんですが、来年にはUCIレースに登録できると思います。

対談はCyclist編集部のある東京サンケイビルで、和やかな雰囲気の中で進んでいった Photo: Kenta SAWANO対談はCyclist編集部のある東京サンケイビルで、和やかな雰囲気の中で進んでいった Photo: Kenta SAWANO

矢野:幕張はUCIレースとしてふさわしいと思います。米国最大の自転車見本市「インターバイク」とセットになっている「クロスベガス」のように、幕張も「サイクルモード」とセットのイベントなので、UCIレース化が実現すればメーカーも海外選手を呼びやすくなるでしょう。

競技人口をロードバイクの2分の1に

──シクロクロスの人気の広がり方は予想通り、あるいは予想以上ですか?

棈木:僕は予想以上だと思っています。米国はわれわれよりも5年以上前にシクロクロス界が活性化して、いまなお盛り上がり続けています。われわれも同じような形になるのではないでしょうか。

矢野:もはやトレンドではなく、だいぶ根付いたと思います。かつてのMTBブームのような、大きな波が来てすっと去っていくという形にはならないでしょう。

走っても観戦しても楽しいイベント作りがシクロクロスシーンのさらなる興隆のカギPhoto: Kei Tsuji / Rapha Super Cross Nobeyama2015走っても観戦しても楽しいイベント作りがシクロクロスシーンのさらなる興隆のカギ Photo: Kei Tsuji / Rapha Super Cross Nobeyama2015

棈木:あとは、競技人口をどれだけ増やせるかが課題です。ロードバイクに比べると、おそらく10分の1程度しかいません。これを2分の1にまで増やせば「廃り」はなくなるでしょうから、業界的にもいまが一番の頑張りどころです。

──人気が高まっている要因は何だと思いますか?

棈木:最大の要因は、冬がシーズンで、他の種目とかぶらないこと。そしてシクロクロスはロード・MTB双方の要素を含んでいるので、いずれかに乗っている人であれば入りやすいという点です。だからシクロクロスを知る人が増えるほど、どんどん競技人口は増加する。ポテンシャルはまだまだあります。

海外から選手が参戦するUCIレースが、国内レースのレベルアップにも寄与 Photo: Kei Tsuji / Rapha Super Cross Nobeyama2015海外から選手が参戦するUCIレースが、国内レースのレベルアップにも寄与 Photo: Kei Tsuji / Rapha Super Cross Nobeyama2015
苦しいレースの後には、なぜか笑顔が待っているのがシクロクロスの不思議 Photo: Kei Tsuji / Rapha Super Cross Nobeyama2015苦しいレースの後には、なぜか笑顔が待っているのがシクロクロスの不思議 Photo: Kei Tsuji / Rapha Super Cross Nobeyama2015

矢野:僕が思うに、シクロクロスのレースはビジュアルインパクトがすごく強い。スタートの緊張感、ゴール後、そしてコンディションが悪くなればなるほど、誰がどのクラスを撮影しても絵になります。楽しもうとしている人も多いので、会場に笑顔があふれている。応援にも、シクロクロス特有の距離感の近さがある。これはロードレースなどでは見られない光景です。

力を振り絞ったゴール後、倒れこむ選手たち 撮影: Shunsuke FUKUMITSU(シクロクロス東京2015)力を振り絞ったゴール後、倒れこむ選手たち 撮影: Shunsuke FUKUMITSU(シクロクロス東京2015)

 このおもしろさが、気軽に写真や映像を撮って発信できるソーシャルメディアの時代にとてもフィットしている。技術やインフラといった社会の変化のタイミングも、シクロクロスの人気を下支えしていると思います。

──応援の面では、会場のサイズもちょうど良いですよね。

矢野:スタジアムスポーツみたいですよね。イベントを欧州風にするのは難しいけれど、観戦スタイルが欧州的になってきたら完成形に近づいていると思います。

仲間の応援に手を挙げて応える選手の姿もシクロクロスならではの光景(シクロクロス東京2013)仲間の応援に手を挙げて応える選手の姿もシクロクロスならではの光景(シクロクロス東京2013)
観客の声援に応えるティモシー・ジョンソン選手(野辺山シクロクロス2014)観客の声援に応えるティモシー・ジョンソン選手(野辺山シクロクロス2014)

 自分でファンになれる選手を見つけて応援する、という楽しみ方をもっと広げていきたい。地元に支えられるレースになれば、そのレースは地域に必要とされる。歴史を重ね、やがて文化になる。そういうステップが今後発展する上で重要だと思います。選手を知らなくても、自転車レースというだけでおじいちゃんおばあちゃんが観に来てくれるとかね。

シクロクロス界は、いま動くとき

エリート男子で表彰台に立つ優勝者のザック・マクドナルド(中央)、2位のベン・バーデン(左)、3位の山本和弘(シクロクロス東京2015)エリート男子で表彰台に立つ優勝者のザック・マクドナルド(中央)、2位のベン・バーデン(左)、3位の山本和弘(シクロクロス東京2015)

棈木:レースに参加しやすいよう、日本シクロクロス競技主催者協会(AJOCC)がカテゴリーを増やし、レベルを明確化したことも効果を上げています。具体的には、カテゴリーのレベルを1~4まで細分化し、さらにそれを各地のJCX(日本シクロクロス)シリーズに適用することで、同じ基準で出場できるようにしました。

 次の課題は、JCXポイントを獲得する理由を明確化し、重要性を高めることです。たとえばカテゴリーの昇格や降格、全日本選手権の出場資格、世界選手権のメンバー選考などすべてがJCXポイントを基準に成り立つと、非常にクリアになるでしょう。

矢野:検討中の案件はいろいろありますが、シクロクロス界の小ささや歴史の浅さも奏功して、総じて良い方向に動いています。

チャンピオンシステムの棈木亮二社長(左)とラファジャパンの矢野大介代表 Photo: Kenta SAWANOチャンピオンシステムの棈木亮二社長(左)とラファジャパンの矢野大介代表 Photo: Kenta SAWANO

 古参・新参を問わず、関わっている人たちが皆、新しいことに対してオープンだし、目指す方向性も合っている。自分のレースや地域の利益だけを考えるのではなく、シクロクロス界全体を盛り上げようとしています。そういう意味で、シクロクロスイベントの開催に携わっている組織や個人の“化学変化”が、非常に良い状態にあると感じています。

──あとは選手が集まること、そしてスポンサーの協力ですね。

矢野:この2つはとても重要な要素です。そのためには、いま手つかずの四国をはじめ、九州、東北、北陸の各エリアで気軽に出られるレースをもっと増やす必要があります。レースが増えれば参加者が増え、自転車の需要も増えます。

MTBでの参加者の姿も目立つ(シクロクロス東京2015)MTBでの参加者の姿も目立つ(シクロクロス東京2015)

 いまやシクロクロスバイクはどのブランドのカタログにも入るようになりました。さらに訴求するには、ユーザーに現物を見せる必要があります。MTBでレースに出ている人たちは、確実にシクロクロスバイクを買う候補者です。訴求する相手が集まっているイベント会場に、企業はもっと目を向けてほしいですね。

棈木:それと、企業には選手の育成にも力を入れてほしいと思います。裾野の広がりは申し分ありませんが、層の厚さとトップレベルの高さに欠けているのが現状の大きな課題です。

 米国は競技人口も増えているし、一方でトップレベルもジュニアの選手層も厚い。日本のJCFにあたる全米自転車競技連盟(USAC)がしっかり選手の育成に取り組み、一方で企業も投資している。トップ組織、企業、そしてやりたいと思っている人たちのバランスがとても良いんです。

 一方、国内企業はというと五輪スポーツかどうかだけで選手のサポートを判断する側面が大きい。そのような一辺倒な考え方は良くない。シクロクロスの裾野の広がり方を見て、もっと柔軟性をもって選手育成への投資を考えてほしいです。

矢野:日本はいま形を作りつつある状況です。とりあえずは間口を広げて、多くの人がシクロクロスレースに参加できる環境が完成してきました。ようやくレベル分けができ、競い合うなかでこれから先のことが見えてくる。この流れを支え、加速させるためにも、いまが業界をあげて動くときです。

握手を交わすチャンピオンシステムジャパンの棈木亮二社長(左)とラファ・ジャパンの矢野大介代表 Photo: Kenta SAWANO握手を交わすチャンピオンシステムジャパンの棈木亮二社長(左)とラファ・ジャパンの矢野大介代表 Photo: Kenta SAWANO

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