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栗村修の“輪”生相談<67>30代男性「自転車競技はとてもお金がかかり、底辺拡大のハードルになっている気がします」

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自転車の普及に日々尽力されている栗村さんに質問です。

 自転車競技を始めたり続けたりする一つのハードルとして、とてもお金がかかるということがあると思います。

 本格的なレースに出ようと思うとそれなりの機材を揃えて少なくも数十万円は必要だと思いますし、補給食やドリンクなども普段の練習から必ず必要になってきます。部活動などになればある程度支給されるのかもしれませんが、例えば幼少の頃からしようと思えば親の負担も大きくなるでしょうし、高校や大学から始めるにしても初期投資はどうしてもそれなりの額になってしまうと思います。

 といった具合に、底辺の拡大を阻害してしまう要因の一つが金銭面になっている気がするのですが、栗村さんはその辺りについてどのようにお考えですか?

(30代男性)

 非常に重要、そしてずっしりと受け止めざるを得ないご質問です。

 自転車界の中にいると感覚がマヒしがちですが、競技をはじめるために最低でも20万円前後、レース活動を継続するならば交通費などで年間数十万円という出費を強いるスポーツは、たしかに特殊な部類に入るかもしれません。

 しかもロードレースは機材スポーツです。だから機材が大なり小なり、成績に影響します。ということはつまり、経済力が成績を左右するということです。

 もっとも他にも機材スポーツはあって、たとえばモータースポーツがそうですよね。機材による格差が生まれてしまう。もちろん機材の性能を競い合うのも競技の一要素なんですが、純粋に人間の能力を競うために同一機材で競い合う「ワンメイクレース」が、モータースポーツの世界にはあります。

お金を出せばトッププロと同じ機材を揃えられることは、自転車競技の魅力のひとつだが… Photo: Yuzuru SUNADAお金を出せばトッププロと同じ機材を揃えられることは、自転車競技の魅力のひとつだが… Photo: Yuzuru SUNADA

 僕は自転車の世界にもワンメイクレースがあっていいと思うんです。冒頭に書いたように、そしてご質問にあるように、ロードレースは大変にお金が掛かるスポーツです。すると、才能はあるのにお金がない若者を「取りこぼす」恐れがあるからです。

 ボールひとつと原っぱさえあれば、裸足の子供が才能だけでのし上がれるサッカーとは違うんです。初期投資と活動費を準備できないご家庭の子供は、極端に言えば、どれだけ才能があってもなかなか入口に立てません。機材制限、たとえば高校生まで使用する機材に一定の制限をかけるルールがあってもいいんじゃないかという声は昔からあるんですが、そうなってはいません(ギヤ比の制限はありますが)。

 むしろ逆ですよね。インターハイを見ると最高級フレームにデュラエースを付けたモデルが普通に走っています。全体としてはJプロツアーよりも機材グレードは高いんじゃないでしょうか。一時期の宇都宮ブリッツェンのように、中級グレードのフレームにアルテグラで戦うプロは珍しくありません。海外でも、そうです。

 まずは、自転車界全体でお金がなくても競技をはじめられる文化を作ることですよね。僕が実行委員を務めるジェイ・ライド・プロジェクトでも、ロードバイクを持っていない若者のフィジカルテストをできるような仕組みを作りたいと思っています。

栗村さんも携わるジェイ・ライド・プロジェクトはポータルサイトで、自転車を始めたい若者に必要な情報を発信している Photo: Kenta SAWANO栗村さんも携わるジェイ・ライド・プロジェクトはポータルサイトで、自転車を始めたい若者に必要な情報を発信している Photo: Kenta SAWANO

 とはいえ、仮に機材格差が消滅して、誰もがロードバイクに乗れるようになっても問題は残ります。今の日本の道路環境で中学生、高校生がわっと公道に繰り出したら、当然事故も増えるでしょう。実際、公道でのトレーニングを禁止している県もあります。

 だから、結局は日本全体としていかに「自転車文化」を作り上げるかという問題に行きつくと思うんです。機材格差はその一つですが、他にも障壁はたくさんありますよね。

 ぶっちゃけると、新城幸也選手レベルの、いや、クリス・フルームやアルベルト・コンタドールレベルの才能を持った子供は日本のどこかに必ずいるはずなんです。でも、彼らがロードバイクに乗りはじめるまでの障害が多すぎる。それらをひとつひとつ取り除かなければいけません。

 レースひとつ開催するだけでもとんでもない量の作業が発生するのに、気が遠くなるような遠い道のりです。でも、がんばります。才能ある若者たちが待っているんですから。

(編集 佐藤喬)

回答者 栗村修(くりむら おさむ)

 一般財団法人日本自転車普及協会 主幹調査役、ツアー・オブ・ジャパン 大会ディレクター、スポーツ専門TV局 J SPORTS サイクルロードレース解説者。選手時代はポーランドのチームと契約するなど国内外で活躍。引退後はTV解説者として、ユニークな語り口でサイクルロードレースの魅力を多くの人に伝え続けている。著書に『栗村修のかなり本気のロードバイクトレーニング』『栗村修の100倍楽しむ! サイクルロードレース観戦術』(いずれも洋泉社)など。

※栗村さんにあなたの自転車に関する悩みを相談してみませんか?
ml.sd-cyclist-info@sankei.co.jpまでお寄せください。

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