未来を担う高校生たちが躍動的確な読みと戦術でつかんだ金・銅・銅 アジア選手権ロードレース・男女ジュニア詳報

by 福光俊介 / Syunsuke FUKUMITSU
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 大会3日目の1月22日、いよいよ花形種目のロードレースが始まったアジア選手権。男女のジュニアで日本勢が金・銅・銅と3つのメダルを獲得し、大会の舞台・伊豆大島(東京都大島町)は歓喜に沸いた。女子ジュニアでは下山美寿々(大阪教育大付属高校天王寺校舎)が優勝、細谷夢菜(浦和工業高校)が3位に、男子ジュニアでは花田聖誠(昭和第一学園高校)が3位に食い込んだ。将来を嘱望される高校生たちが期待に応える活躍をみせた背景には、レース展開の的確な読みと、選手同士が意思疎通して組み立てた戦術があった。

日本人2人が登壇したアジア選手権ロードレースの女子ジュニアの表彰式。(左から)チャン・ティンティン(台湾)、優勝した下山美寿々、3位の細谷夢菜 Photo: Sonoko TANAKA日本人2人が登壇したアジア選手権ロードレースの女子ジュニアの表彰式。(左から)チャン・ティンティン(台湾)、優勝した下山美寿々、3位の細谷夢菜 Photo: Sonoko TANAKA

序盤で飛び出した下山

 今大会のロードレースが行われる11.9kmの周回コースは、前半が上り、後半はおおむね下り基調で、ラスト約1kmは再び上りとなるレイアウトだ。

女子ジュニアのレースがスタート Photo: Sonoko TANAKA女子ジュニアのレースがスタート Photo: Sonoko TANAKA

 女子ジュニアは6周・71.4kmで争われ、下山、細谷を含め7カ国・15人が出場した。午前9時にスタート後、しばらく一団となって進んだが、1周目の終盤に、前日の個人タイムトライアル(TT)を制したチャン・ティンティン(台湾)がアタック。すかさず反応したのが下山だった。以降、2人が先頭交代のローテーションを行いながら快調にレースをリードした。

女子ジュニアは1周目の終盤から下山美寿々(前)と台湾のチャン・ティンティンが先行した Photo: Sonoko TANAKA女子ジュニアは1周目の終盤から下山美寿々(前)と台湾のチャン・ティンティンが先行した Photo: Sonoko TANAKA

 一方、細谷はメーン集団に待機。中盤に差し掛かり、リ・インイン(香港)とチャニポーン・バトリヤ(タイ)の2人が追走を図るが、細谷はこれには反応せず、香港勢がコントロールする集団でレースを進めた。

 先頭の下山、チャンと後続との差は開く一方。ラスト1周の鐘を聞く頃には、その差は4分以上に広がり、マッチレースの様相となった。最終周回では、一瞬の隙を突いて下山がアタックするも、チャンがしっかりと対応。決定的な差が生まれないまま、勝負はスプリントに委ねられた。

 まず先に仕掛けたのはチャン。個人TTとの2冠をかけて猛然とスピードを上げた。しかし、下山もスピードを合わせ、ラスト100mを切ったところで先頭に立つ。そのままトップでフィニッシュラインを通過すると、左手で顔を覆い驚きの表情を浮かべた。

チャン・ティンティンを下して女子ジュニアのトップでゴールへ飛び込んだ下山美寿々。喜びと驚きで顔を覆った Photo: Sonoko TANAKAチャン・ティンティンを下して女子ジュニアのトップでゴールへ飛び込んだ下山美寿々。喜びと驚きで顔を覆った Photo: Sonoko TANAKA

 下山らから6分46秒後、追走の2人をキャッチしたグループが3位争いのフィニッシュへ。スプリント力に勝る細谷が香港勢の包囲網をかいくぐって先頭でゴールし、銅メダルを確保した。

 下山と細谷の快走に、スタート・フィニッシュ地点が設けられた大島支庁前は歓声に包まれた。日本ナショナルチームの関係者も2人の走りを称え、ねぎらった。

アジアレベルでの初優勝に「信じられない!」

 フィニッシュ後、開口一番「信じられない!」と声を上げた下山。序盤に飛び出した場面については、「前日の個人TTで勝った選手(チャン)がアタックしたのを見て、これにはついていかないといけないと思った」と振り返った。読みの鋭さが金メダルを引き寄せたと言えそうだ。

スラリと背の高い下山美寿々(左)とひときわ小柄な細谷夢菜。女子ジュニアのスタート前、リラックスした表情で写真に収まった Photo: Sonoko TANAKAスラリと背の高い下山美寿々(左)とひときわ小柄な細谷夢菜。女子ジュニアのスタート前、リラックスした表情で写真に収まった Photo: Sonoko TANAKA

 初の国際大会で見事に頂点に立ってみせた新鋭は、昨年12月末に16歳になったばかり。体躯を生かしたスケールの大きな走りは、バックボーンでもあるトライアスロンで身につけた。自転車競技に転向後は、昨年8月の全国都道府県対抗自転車競技大会・ロードレースに大阪代表として出場。それを機に、コラッジョ川西の栂尾大知代表による指導を受け始め、短期間でみるみる力を伸ばしてきた。

 この冬も、今アジア大会に向けた強化合宿を2度実施。男子選手に交じってトレーニングを重ね、苦手としていた下りはマウンテンバイクでのトレーニングによってテクニックを向上させてきた。

女子ジュニアで先行する下山美寿々(前)と台湾のチャン・ティンティン。スプリントが課題の下山は、相手の動きを読み切って金メダルをつかんだ Photo: Sonoko TANAKA女子ジュニアで先行する下山美寿々(前)と台湾のチャン・ティンティン。スプリントが課題の下山は、相手の動きを読み切って金メダルをつかんだ Photo: Sonoko TANAKA

 課題はスプリント。その不得手な分野で勝利を収めたのは、ライバルの動きを的確に読んでいた点にありそうだ。この日、男女ジュニアの監督を務めた日本ナショナルチームの柿木孝之コーチは、「下山がスプリントを苦手としている分、チャンが早めに仕掛けてくるだろうと思っていた。早掛けをしてくるようなら、しっかりと後ろについて、ラスト100mで前へ出るよう下山に指示していた」と述べた。

 次世代を担うライダーとして躍り出た下山について、柿木コーチは「彼女はロード向きの選手。ジュニアの間は学ぶべきことは多いので、今後はエリート選手とともに練習を行っていくなどの経験を積ませていきたい」といっそうの成長を期待する。下山本人も、「できることを一つひとつこなして、もっと強くなりたい」と意欲的で、大舞台での勝利にも浮かれた様子は見せなかった。

 前日の個人TTで5位に終わった細谷は、その鬱憤を晴らす銅メダル獲得。「(1位、3位でのフィニッシュは)チームとして大成功。個人TTから上りの感覚が悪かったが、レース終盤は上りで集団の先頭に立って、自分の展開に持っていくことを心掛けた。ゴール勝負では自信があった」と振り返った。

 1月26日から伊豆ベロドローム(静岡県伊豆市)で実施されるトラック競技では、細谷は6種目に出場予定。「ロードで3位だったので、トラックはすべてでアジアチャンピオンになりたい」と力強く語った。

伊豆大島「椿の女王」に祝福される女子ジュニア金メダルの下山美寿々(右)と銅メダルの細谷夢菜 Photo: Sonoko TANAKA伊豆大島「椿の女王」に祝福される女子ジュニア金メダルの下山美寿々(右)と銅メダルの細谷夢菜 Photo: Sonoko TANAKA

絶好調・花田が殊勲の銅メダル

男子ジュニアのレースのメーン集団 Photo: Sonoko TANAKA男子ジュニアのレースのメーン集団 Photo: Sonoko TANAKA

 男子ジュニアは9周・107.1kmで争われ、13カ国・40人が正午にスタート。日本勢は花田、渡邉歩(学法石川高校)、小野寛斗(横浜高校)、吉岡衛(奈良北高校)の4人が出走した。序盤から数人によるアタックが散発したものの、いずれも決まらず。メーン集団は徐々に人数を減らしながら距離を重ね、7周回を終えた時点で優勝争いは15人に絞られた。

男子ジュニアの日本ナショナルチームは一丸となってレースを進めた Photo: Sonoko TANAKA男子ジュニアの日本ナショナルチームは一丸となってレースを進めた Photo: Sonoko TANAKA
男子ジュニアでイランチームと共に集団を牽引する日本ナショナルチーム Photo: Sonoko TANAKA男子ジュニアでイランチームと共に集団を牽引する日本ナショナルチーム Photo: Sonoko TANAKA
男子ジュニアで中盤にアタックを仕掛け、一時先行した小野寛斗 Photo: Sonoko TANAKA男子ジュニアで中盤にアタックを仕掛け、一時先行した小野寛斗 Photo: Sonoko TANAKA

 レースが大きく動いたのは8周目。ディンムハメド・ウルズバエフ(カザフスタン)が上りを利用してアタックすると、対応できたのはパン・ホアン・タイ(ベトナム)ただ1人だった。日本勢は4人全員が集団に残っていたが、ウルズバエフの動きに合わせられず、渡邉を中心に追走態勢へと移った。しかし、さらに2選手が先頭グループめがけて飛び出すと、メーン集団は一気に絞られ、日本勢は花田と吉岡だけが残った。

 先行する2選手と後続との差は少しずつ広がり、最終周回を迎える時点で45秒に。ラスト3kmでは1分以上に広がり、優勝争いは2人に絞られた。

男子ジュニアの終盤、優勝を争ったカザフスタンのディンムハメド・ウルズバエフ(右)とベトナムのパン・ホアン・タイ Photo: Sonoko TANAKA男子ジュニアの終盤、優勝を争ったカザフスタンのディンムハメド・ウルズバエフ(右)とベトナムのパン・ホアン・タイ Photo: Sonoko TANAKA

 ラスト1kmを切ると牽制状態になったが、フィニッシュのアーチが近づくとウルズバエフがスプリントを開始。パンが追ったものの、ウルズバエフのスピードが勝り、フィニッシュラインで両手を広げて勝利をアピールした。この年代では群を抜く戦力と前評判が高かったカザフスタン勢が、その強さを見せつけた格好だ。

男子ジュニアを制したディンムハメド・ウルズバエフ(カザフスタン)と2位のパン・ホアン・タイ(ベトナム) Photo: Sonoko TANAKA男子ジュニアを制したディンムハメド・ウルズバエフ(カザフスタン)と2位のパン・ホアン・タイ(ベトナム) Photo: Sonoko TANAKA

 後続では熾烈な銅メダル争いが繰り広げられた。吉岡が懸命の引きで追走を試みていた2選手をキャッチ。そしてラストは吉岡が発射台となり花田がスプリント。ライバルたちの追随を許さず、3位でフィニッシュに飛び込んだ。

男子ジュニアで後続集団のスプリントを制し、銅メダルを獲得した花田聖誠 Photo: Sonoko TANAKA男子ジュニアで後続集団のスプリントを制し、銅メダルを獲得した花田聖誠 Photo: Sonoko TANAKA

◇         ◇

選手たちのクレバーさがもたらしたメダル

 ゴール後、倒れ込むように抱き合って銅メダル獲得を喜んだ花田と吉岡。2人の目からは涙がこぼれた。

男子ジュニアのゴール後、倒れ込みながら銅メダル獲得を喜んだ花田聖誠と吉岡衛 Photo: Sonoko TANAKA男子ジュニアのゴール後、倒れ込みながら銅メダル獲得を喜んだ花田聖誠と吉岡衛 Photo: Sonoko TANAKA

 先頭とのタイム差が1分に広がった時点で3位狙いに切り替えたといい、「ラスト1kmまで吉岡と僕とどちらで勝負するか相談し合っていた」と花田。最終局面については、「本来のスプリント力であれば吉岡で勝負するところだったが、脚にきていたので僕が勝負することに決めた。ラスト200mで仕掛けた時に、吉岡が上手く他国選手の追い上げを防いでくれた」と振り返った。

男子ジュニアの厳しい登坂区間で前に食らいつく花田聖誠 Photo: Sonoko TANAKA男子ジュニアの厳しい登坂区間で前に食らいつく花田聖誠 Photo: Sonoko TANAKA
男子ジュニアで登坂区間を走る吉岡衛 Photo: Sonoko TANAKA男子ジュニアで登坂区間を走る吉岡衛 Photo: Sonoko TANAKA

 喜びとともに、金メダルを獲れなかった悔しさも少しずつ募った。花田は「渡邉さんと小野が平坦区間でペースを作ってくれて、僕が上りで勝負できるよう動いてくれたのに、カザフスタンやベトナムの選手の強さに敗れてしまったことは残念だった」と話した。10位でフィニッシュした渡邉に、優勝できなかったと詫びるシーンも見られ、地国開催の今大会に並々ならぬ思いがあったことをうかがわせた。

男子ジュニアで前方の選手を下りで追う渡邉歩 Photo: Sonoko TANAKA男子ジュニアで前方の選手を下りで追う渡邉歩 Photo: Sonoko TANAKA

 メンバー唯一の高校3年生で、これまでも国際経験を積んできたリーダー格の渡邉は、「3位はチームとして戦った結果」と胸を張った。戦力に勝るカザフスタン勢に対抗するためには、チーム一丸となってぶつかるほか作戦はなかった。このため、渡邉が自ら消耗覚悟で集団の先頭に立ち、仲間に勝負を託す戦術をとった。

 「レース中に何度も『調子がいい』と言っていた花田が、言葉通りの走りを見せてくれた。信頼して前へ送り出してよかった」とチームメートへの感謝も口にした。そして、「アシストとして貢献できたことは僕としても大きなこと」と、このレースの経験を将来の糧としていくつもりだ。

男子メダルの表彰台で喜ぶ(左から)2位のパン・ホアン・タイ(ベトナム)、1位のディンムハメド・ウルズバエフ(カザフスタン)、3位の花田聖誠 Photo: Sonoko TANAKA Photo: Sonoko TANAKA男子メダルの表彰台で喜ぶ(左から)2位のパン・ホアン・タイ(ベトナム)、1位のディンムハメド・ウルズバエフ(カザフスタン)、3位の花田聖誠 Photo: Sonoko TANAKA Photo: Sonoko TANAKA

◇         ◇

 23日はロードレースの男子アンダー23(U23)が午前8時、女子エリートが正午にそれぞれスタートする。特に女子エリートロードレースは、優勝選手の国・地域にリオ五輪のアジア出場枠が1つ与えられる。

 日本勢は男子U23が徳田優(鹿屋体育大学)、小橋勇利(シマノレーシングチーム)、秋田拓磨(朝日大学/シマノレーシングチーム)、雨澤毅明(宇都宮ブリッツェン)の4選手。女子エリートは萩原麻由子(ウィグル・ハイファイブ)、金子広美(イナーメ信濃山形)、與那嶺恵理(FORZA・YONEX)、坂口聖香(パナソニックレディース)の4選手が出場する。

■アジア選手権ロードレース第4日 リザルト

女子ジュニアロードレース(11.9km×6周=71.4km)
1 下山美寿々(大阪教育大付属高校天王寺校舎) 2時間13分9秒
2 チャン・ティンティン(台湾) +0秒
3 細谷夢菜(浦和工業高校) +6分46秒
4 リ・インイン(香港)
5 マ・インユ(香港) +6分47秒
6 リャン・ホイワ(香港) +6分53秒
出走15人、完走10人

男子ジュニアロードレース(11.9km×9周=107.1km)
1 ディンムハメド・ウルズバエフ(カザフスタン) 2時間50分23秒
2 パン・ホアン・タイ(ベトナム) +0秒
3 花田聖誠(昭和第一学園高校) +1分11秒
4 ヤン・ビンユー(台湾) +1分12秒
5 トラン・デュク・ティエン(ベトナム)
6 吉岡衛(奈良北高校)
10 渡邉歩(学法石川高校) +5分26秒
13 小野寛斗(横浜高校) +6分54秒
出走40人、完走15人

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