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福光俊介の「週刊サイクルワールド」<140>キッテルらの加入でスプリント強化 エティックス・クイックステップ 2016年シーズン展望

by 福光俊介 / Syunsuke FUKUMITSU
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 シーズン開幕を目前に、新たなチームカラーに楽しみが膨らむエティックス・クイックステップ。ビッグネームが次々と移籍したが、それを補って余りあるチーム強化にも成功した。チーム ジャイアント・アルペシンから加入し完全復活を期するマルセル・キッテル(ドイツ)、落車負傷からの回復を目指すキャプテンのトム・ボーネン(ベルギー)らを軸に、プロトンの中心に立とうと目論むチームの動向を紹介する。

復活を期して加入するマルセル・キッテル(中央 Photo: Etixx - Quick-Step / Tim de Waele)、北のクラシックでの勝利を目指すトム・ボーネン(左 Photo: Yuzuru SUNADA)、リオ五輪と世界選手権個人タイムトライアルで金メダルを狙うトニー・マルティン(Photo: Yuzuru SUNADA)復活を期して加入するマルセル・キッテル(中央 Photo: Etixx - Quick-Step / Tim de Waele)、北のクラシックでの勝利を目指すトム・ボーネン(左 Photo: Yuzuru SUNADA)、リオ五輪と世界選手権個人タイムトライアルで金メダルを狙うトニー・マルティン(Photo: Yuzuru SUNADA)

キッテルはシーズンオフからエンジン全開

 チームにとって、ストーブリーグ(移籍市場)最大のトピックはキッテルの移籍加入だ。プロデビュー以来、スキル・シマノ、チーム アルゴス・シマノ、チーム ジャイアント・シマノ時代を含め5年間所属した愛するチームを離れることは、キッテルにとってこれまでのキャリア最大の決断だったといえる。

 ツール・ド・フランスでは2013、2014年にマイヨジョーヌを着用し、通算8勝という輝かしい戦歴をもつ。そんな彼にとって、2015年は試練の1年だった。

パリ・シャンゼリゼでツール通算8勝目を挙げたマルセル・キッテル(ツール・ド・フランス2014 第21ステージ) Photo: Yuzuru SUNADAパリ・シャンゼリゼでツール通算8勝目を挙げたマルセル・キッテル(ツール・ド・フランス2014 第21ステージ) Photo: Yuzuru SUNADA

 2月のツアー・オブ・カタール出場時にウイルスに感染し、約3カ月の休養を経て臨んだツール・ド・ヨークシャーでは、第1ステージでリタイア。その後、数レースに参戦したものの調子が上向かず、ツール出場を断念した。

 8月のツール・ド・ポローニュで第1ステージを制し復調をアピールしたが、完調には程遠いとのチーム判断により、ブエルタ・ア・エスパーニャも欠場。国際自転車競技連合(UCI)公認レースでの勝利は1つと、まさかの結果に終わった。

 キッテルは、ツールやブエルタの欠場に至ったチームの判断が、移籍の理由ではないと強調している。一方で「5年間同じチームで走ってきて、環境を変えて戦う必要性を感じた」とコメント。苦渋の選択だとしながらも、前向きな姿勢を見せている。

2015年12月に行われたトレーニングキャンプにはマルセル・キッテル(先頭右)が“チームの顔”として臨んだ Photo: Etixx - Quick-Step / Tim de Waele2015年12月に行われたトレーニングキャンプにはマルセル・キッテル(先頭右)が“チームの顔”として臨んだ Photo: Etixx - Quick-Step / Tim de Waele

 すでに昨年末から“チームの顔”として、新デザインのジャージ着用モデルを務め、チームが契約するスペシャライズド社のバイクをテストするなど、モチベーションは上々だ。12月にスペイン南東部・デニアで行ったトレーニングキャンプでは、早くもエンジン全開。スプリントトレイン候補の1人であるファビオ・サバティーニ(イタリア)は、「12月からあれだけ走れる選手はなかなかいない。その集中力たるや他の選手には真似ができないほどだ」と驚きを口にしている。

 ツール返り咲きをシーズン最大の目標とするが、これまでチーム事情で出場がかなわなかったミラノ~サンレモも視野に入れる。すでにレーススケジュールに入っており、初出場初優勝に期待がかかる。

 なお、キッテルの勝利量産のカギを握るアシストとして、チームはマキシミリアーノ・リケーゼ(アルゼンチン)をランプレ・メリダから獲得。実績豊富なベテランスプリンターを発射台に据えることが決まっている。

ガヴィリアのプロ1年目はトラック主体に

 キッテル以外にもタレントぞろいの新加入選手。なかでも選手・関係者の間で大きな注目を集めているのが、21歳のコロンビアンスプリンター、フェルナンド・ガヴィリアだ。

 衝撃のデビューは、昨年1月のツール・ド・サンルイス。第1ステージで、当時エティックス・クイックステップのエーススプリンターだったマーク・カヴェンディッシュ(イギリス、ディメンションデータ)らを撃破した。すると、第3ステージでも圧巻のスプリントで勝利する大活躍。第7ステージではカヴェンディッシュの後塵を拝したものの、スプリンターの頂点に君臨する男を相手に十分すぎるほどのインパクトを与えた。

圧巻のスプリントでマーク・カヴェンディッシュを置き去りにしたフェルナンド・ガヴィリア(ツール・ド・サンルイス2015 第3ステージ) Photo: Tour de San Luis圧巻のスプリントでマーク・カヴェンディッシュを置き去りにしたフェルナンド・ガヴィリア(ツール・ド・サンルイス2015 第3ステージ) Photo: Tour de San Luis

 それらの活躍が認められ、昨年8月からはトレーニー(研修生)としてチームと契約。今シーズンからの正式契約を前提としていたこともあり、早い段階からチームにフィットするための時間が与えられた。加入後は3勝を挙げてチームに貢献している。

フェルナンド・ガヴィリア Photo: Etixx - Quick-Step / Tim de Waeleフェルナンド・ガヴィリア Photo: Etixx - Quick-Step / Tim de Waele

 クライマーを多く輩出するコロンビアにあって、爆発的なスピードを持つスプリンターは貴重だ。同国は伝統的にトラック競技にバックボーンを持つ選手が多いが、ガヴィリアもその1人。2012年にはジュニアトラック世界選手権でオムニアム(6種目の混成競技)とマディソン(2人1組のポイントレース)の2冠を達成した。昨年のトラック世界選手権でもオムニアムを制しており、同種目の第一人者でもある。

 今シーズンはまずトラックをメーンに戦う。3月上旬の世界選手権、そして8月のリオ五輪ではオムニアムでの金メダル獲得を目指す。もちろん優勝候補の筆頭だ。

 スプリントのみならず、個人タイムトライアルにも自信を持っている。ロードでのシーズン初戦は、1月18~24日のツール・ド・サンルイス(UCI2.1)を予定。昨年に続く最高のシーズンインを果たせるか、注目していきたい。

充実のメンバーでクラシック勝利へ

 チームは豊富な資金力を誇り、ベルギー勢を中心に充実した戦力を有するが、昨シーズンはビッグネームの年俸高騰に苦慮した。世界チャンピオン経験者のカヴェンディッシュやミハウ・クフィアトコフスキー(ポーランド、現・チーム スカイ)らをどのように扱うかは、ゼネラルマネジャーのパトリック・ルフェヴェル氏にとって大きな悩みの種だった。

 結果的に、カヴェンディッシュとクフィアトコフスキー、グランツール総合表彰台を経験するリゴベルト・ウラン(コロンビア、現・キャノンデール プロサイクリングチーム)を放出。いずれもルフェヴェル氏との不仲が取り沙汰され、年俸の高さも移籍の理由だと指摘された。もっとも、チームにとっては、彼らが抜けた穴を埋めるだけのメンバーを揃えられる事情も大きかったことだろう。

 クラシックの勝利を大きな目標とするチームのスタンスは変わらない。なかでも北のクラシックは、チームの浮沈に関わるほど重視している。絶対エースのボーネンを筆頭に、ズデニェック・シュティバル(チェコ)、ニキ・テルプストラ(オランダ)、スティーン・ヴァンデンベルフ、イヴ・ランパールト、ギヨーム・ヴァンケールスブルク(いずれもベルギー)、マッテーオ・トレンティン(イタリア)らがひしめき、チーム内競争は年々激化している。

落車による負傷から回復しトレーニングキャンプに参加したトム・ボーネン(先頭左) Photo: Etixx - Quick-Step / Tim de Waele落車による負傷から回復しトレーニングキャンプに参加したトム・ボーネン(先頭左) Photo: Etixx - Quick-Step / Tim de Waele

 ボーネンは昨年、度重なるクラッシュに泣かされた。10月のアブダビ・ツアー第2ステージでは頭から地面に叩きつけられ、頭蓋骨を骨折。聴覚に回復不可能な後遺症が残るほどの重症で、一時はクラシックシーズンへのドクターストップがかかったが、その後は予想を超える回復ぶりを見せ、ツール・ド・サンルイスでシーズンインする見通しだ。35歳で迎える今年の目標は、北のクラシック4連勝(E3 ハーレルベーク、ヘント~ウェヴェルヘム、ツール・デ・フランドル、パリ~ルーベ)を飾った2012年以来の復権だ。

 アルデンヌクラシックでは、昨年のラ・フレーシュ・ワロンヌ、リエージュ~バストーニュ~リエージュでともに2位に食い込んだジュリアン・アラフィリップ(フランス)がエースを務める。緩急問わない上りへの対応力のほか、スプリントも魅力。前回のアルデンヌでは、仕掛けるタイミングの早さが見受けられたが、勝負強さが増せばビッグレース優勝が現実味を帯びてくる。

チーム キャノンデール・ガーミンから加入するダニエル・マーティン(ツール・ド・フランス2015 第18ステージ) Photo: Yuzuru SUNADAチーム キャノンデール・ガーミンから加入するダニエル・マーティン(ツール・ド・フランス2015 第18ステージ) Photo: Yuzuru SUNADA

 昨年までチーム キャノンデール・ガーミンに所属したダニエル・マーティン(アイルランド)の加入も大きい。昨年はクラシック、グランツールともに不本意な結果に終わったが、2013年にはリエージュを制し、登坂力と強烈なアタックは誰もが認めるところ。アルデンヌクラシックではアラフィリップとの2枚看板、グランツールでは単独エースとして総合上位進出に集中できる環境を得た。

 このチームを語るにあたって、トニー・マルティン(ドイツ)を忘れてはならない。プロトンきってのTTスペシャリストは、リオ五輪での個人TT金メダル、10月の世界選手権では同種目3年ぶりのマイヨアルカンシエルを狙う。これまで同様に、レースに出場しながら調整を進めていくだろう。ステージレースの個人TTでどれだけの走りを見せられるかが、五輪や世界選手権に向けた1つの指標となりそうだ。

プロトンきってのタイムトライアルスペシャリスト、トニー・マルティンはリオ五輪や世界選手権での金メダルを狙う(ツール・ド・フランス2015 第1ステージ) Photo: Yuzuru SUNADAプロトンきってのタイムトライアルスペシャリスト、トニー・マルティンはリオ五輪や世界選手権での金メダルを狙う(ツール・ド・フランス2015 第1ステージ) Photo: Yuzuru SUNADA

 チームはUCIワールドツアー第1戦、ツアー・ダウンアンダー(1月17・19~24日、オーストラリア)の出場選手を発表。ヴァンケールスブルクのほか、ダビ・デラクルス、カルロス・ベロナ(ともにスペイン)、ダヴィデ・マルティネッリ(イタリア)、ピーテル・スライ(ベルギー)、ペトル・ヴァコッチ(チェコ)、マルティン・ヴェリトス(スロバキア)の7選手で臨む。

■エティックス・クイックステップ 2015-2016 選手動向

【残留】
ジュリアン・アラフィリップ(フランス)
トム・ボーネン(ベルギー)
マキシム・ブエ(フランス)
ジャンルーカ・ブランビッラ(イタリア)
ダビ・デラクルス(スペイン)
イイヨ・ケイス(ベルギー)
イヴ・ランパールト(ベルギー)
ニコラス・マース(ベルギー)
トニー・マルティン(ドイツ)
ジャンニ・メールスマン(ベルギー)
ファビオ・サバティーニ(イタリア)
ピーテル・スライ(ベルギー)
ズデニェック・シュティバル(チェコ)
ニキ・テルプストラ(オランダ)
マッテーオ・トレンティン(イタリア)
ペトル・ヴァコッチ(チェコ)
ギヨーム・ヴァンケールスブルク(ベルギー)
スティーン・ヴァンデンベルフ(ベルギー)
マルティン・ヴェリトス(スロバキア)
ジュリアン・ヴェルモート(ベルギー)
カルロス・ベロナ(スペイン)
ウーカシュ・ヴィシニオウスキ(ポーランド)
 
【加入】
ロドリゴ・コントレラス(コロンビア) ←コルデポルテス・クラロ(アマチュア)
ローレンス・デプルス(ベルギー) ←ロット・ベリソルU23(アマチュア)
フェルナンド・ガヴィリア(コロンビア) ←コルデポルテス・クラロ(アマチュア)
ボブ・ユンゲルス(ルクセンブルク) ←トレック ファクトリーレーシング
マルセル・キッテル(ドイツ) ←チーム ジャイアント・アルペシン
ダニエル・マーティン(アイルランド) ←チーム キャノンデール・ガーミン
ダヴィデ・マルティネッリ(イタリア) ←チーム コルパック(アマチュア)
マキシミリアーノ・リケーゼ(アルゼンチン) ←ランプレ・メリダ
 
【退団】
マーク・カヴェンディッシュ(イギリス) →ディメンションデータ
ミハウ・ゴワシュ(ポーランド) →チーム スカイ
ミハウ・クフィアトコフスキー(ポーランド) →チーム スカイ
マーク・レンショー(オーストラリア) →ディメンションデータ
リゴベルト・ウラン(コロンビア) →キャノンデール プロサイクリングチーム

今週の爆走ライダー-ボブ・ユンゲルス(ルクセンブルク、エティックス・クイックステップ)

「爆走ライダー」とは…

1週間のレースの中から、印象的な走りを見せた選手を「爆走ライダー」として大々的に紹介! 優勝した選手以外にも、アシストや逃げなどでインパクトを残した選手を積極的に選んでいきたい。

 かねてから憧れていたチームに念願の移籍加入。昨年のルクセンブルク選手権ではロードと個人TTの2冠に輝いており、同国のチャンピオンジャージでチーム合流を果たした。

 2010年にジュニア世界選手権の個人TTで優勝。2012年にはパリ~ルーベ エスポワール(23歳以下対象)で後続を約3分引き離して圧勝するなど、独走力を武器にプロ入りした。2013年、プロデビュー直後に出場したグランプリ・ノビリ・ルビネッテリエ(イタリア)で逃げ切り勝利を飾った際には、当時チームメートだったイェンス・フォイクト氏(ドイツ)をして「彼を1人にしたら誰も手が付けられないんだ」と言わしめたほどだ。

オールラウンドな脚質をもつロードとタイムトライアルのルクセンブルクチャンピオン、ボブ・ユンゲルス(ツール・ド・フランス2015 第19ステージ) Photo: Yuzuru SUNADAオールラウンドな脚質をもつロードとタイムトライアルのルクセンブルクチャンピオン、ボブ・ユンゲルス(ツール・ド・フランス2015 第19ステージ) Photo: Yuzuru SUNADA

 そんな魅力たっぷりの23歳は、ここまでの3年間でオールラウンドに戦える力を養ってきた。プロ入り前は石畳系のレースで大成すると見られていた脚質が、アルデンヌクラシックやステージレースの総合狙いができるまでに進化。昨年は、山岳が急峻なツール・ド・スイスで総合6位と健闘を見せた。直後のツール・ド・フランスも再三の逃げでステージ上位に食い込み、総合でも27位と一定の成果を残した。

 新たな環境でも、アルデンヌやステージレースがメーンとなる予定だ。チームも即戦力として計算しており、レースによってはエースを任される公算も高い。

 ルクセンブルクは、1950年代にジロ・デ・イタリアやツールを制したシャルリー・ゴール氏、近年ではツールを沸かせたフランクとアンディのシュレク兄弟と、名選手を輩出してきた。英雄たちに追いつき、そして追い越すことができるか。オールラウンダーとして真価を問われる1年が始まる。

福光俊介福光俊介(ふくみつ・しゅんすけ)

自転車ロードレース界の“トップスター”を追い続けて十数年、気がつけばテレビやインターネットを介して観戦できるロード、トラック、シクロクロス、MTBをすべてチェックするレースマニアに。2011年、ツール・ド・フランス観戦へ実際に赴いた際の興奮が忘れられず、自身もロードバイク乗りになる。自転車情報のFacebookページ「suke’s cycling world」も充実。本業は「ワイヤーママ徳島版」編集長。

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